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第8話「第二次悪魔会談・始原の皇種が生まれた日・2」

「野生動物を3匹ですかい……?なんかすごーく不穏な空気を感じますが……?」

「おっと。ネタバレは無しにしてくれよ。ともかく、お前はとびきり強そうな野生動物を3匹捕まえてきてくれ。ボク()は4匹捕まえてくるからさ」


「分かりましたが……。何か決まりはありますか?足が無くちゃダメとか、空を飛んじゃダメとか」

「特には無いが、同じ生物はダメだ。ちゃんと3種類捕まえてくるんだぞ?それと……変なの捕まえてきたら、お仕置きだからな!」


「……把握しました。とびきりに強くてカッコいい奴を捕まえてきますんで、楽しみにしててください」



 神のお仕置き。

 それを知恵ある人たちの間では、『終生』とか『黙示録』と呼ぶ事を知っているノワルは、キリリと引き締まった顔でその場を後にし、森の奥へ歩を進めた。

 しかし、その心中は穏やかではない。



『人類には嫌がらせをしに来た』



 神の言っていたこの一言が、どうしても気になるのだ。


 神は、自分という一個人に対するプレゼントでさえ、世界の理を捻じ曲げ、新しい概念を創りだした。

 ならばこそ、何億という人類に対する嫌がらせとは、一体いかがなものなのか。


 しかも、どう考えてもこの『動物を捕まえてこい』というのは、『嫌がらせ』と関係がありそうなのである。

 一応、世界の平和を維持するのが仕事のはずの自分が、世界に害を成す事象に関わりを持つ。

 ノワルはその事をよーく考えて、一つの答えを出した。



「ま、神さんの言うことが正しいって事で。……問題が出たら七賢人様のせいにしちまおう」



 ノワルは、純粋な男だった。


 幼き日に神々しい神殿の頂点に立つ、七人の人物(七賢人)に憧れを抱き、己の知識と技能を磨き続け、13歳という異例の若さで見習い役人に取りたてられた。

 同期の中でも一回り小さい体と年齢に興味を引かれ、七賢人の一人『グリンド』の小間使いになったのは、勤め始めて一ヵ月も経たないうちのことだ。


 そして……純粋だった少年ノワルは、死んだ。


 純粋なノワルの目に映ったのは、目を覆いたくなるような酒池肉林。

 酒に溺れ、女に溺れ、金に溺れた、だらしないダメおやじ(七賢人)の姿。

 大衆向けには彩られた荘厳さと厳粛性を兼ね備えていた七賢人は、見事に金メッキで擬装された唯のオヤジどもの集まりだと知った時、途方もない衝撃の果てにノワルは密やかに決意を改めた。


 『俺の憧れをぶち壊したこのご恩は、必ず返す。』


 その日以降、新たな目標を携えたノワルの仕事のスピードは他の追随を許さないものとなり、異例の高速昇進。

 七賢人の孫娘の教育係にまで抜擢される事になったが、七賢人を追い落とすまでは至っていない。


 そして今現在、目の前にあるのは失敗できない重要な事柄だ。しかし、ある意味チャンスでもある。

 神が何をするにせよ、自分が関わるのなら修正する余地はあるはずだと、ノワルは思考を繰り返す。



「神さんはなるべく強い生物を見つけて来いって言ってたな……。でも、強すぎるのも問題な気がする。まずは情報収集だな」



 ノワルを含むすべての生命がレベルの使い方を把握したとはいえ、未だ情報は欠如している。

 ・野生動物がどのくらい強いのか。

 ・そしてレベル表示はどうなっているのか。

 ノワルはまず、それらを調べることにしたのだ。



「……《周囲索敵(サーチャー)》」



 ノワルは自身の周囲5kmの範囲内に索敵の魔法を掛け、生物の位置を特定した。

 その結果、今居る位置から沢に向かって下りて行くルートが一番多く生物を見る事が出来ると判断し、木々の隙間を縫いながら歩み始めた。



「木の上、絞栗鼠(シマリス)……レベル4029」

「空、盗掘鷹(バンデット・ホーク)……レベル8310」

「岩の上、お?コイツは高いな、十日とおかデス・トカゲ……レベル42104」



 ノワルは何かを記憶する際に、口に出して発音するという癖がある。

 口に出し覚えた事柄は忘れようとしない限り、いつまでも覚えていられるという特技を持っているのだ。


 記憶力の良さが物を言う役人というコミュニティでも、ノワルより記憶力が優れた者はいない。

 ……たった一人の例外を除いては。


 そういえば元気にしているだろうかと、昔懐かしい教え子の事を思い出しながら、着々と情報収集に勤しむノワル。

 やがて、出会った動物が十種類を越えたあたりで、普段からよく見かける動物に出くわした。



「おっと……お前はやっぱ、そこそこ強いよな、タヌキ」



 ノワルの目の前に居るのは、茶色い毛がふさふさの四足歩行生物。


 タヌキ。


 ノワルは、森の中でも、町でも良く見かけるコイツの事を嫌いでは無い。

 それなりに愛嬌がある上に、野生動物のくせに一夫一妻制。

 非常に清らかな夫婦愛で知られるタヌキを少しは見習えと、七賢人への当てつけに神殿で飼育していたりもする。

 しかも、何故かタヌキは役人の訓練風景を見て動きを真似るようになり、戦わせてみたら面白そうだなんて話もあって、新人が一人前になるための戦闘訓練の最終試験官に採用。


 試験の日の夜はタヌキに豪華な餌を出すようになってからは、新人の勝率が2割を切るようになったが、タヌキに勝てないようではどの道使い物にならないので良しとしている。



「レベルは39222。色んなもん食うし、経験豊富ってことだろうな」



 ノワルはなんとなく近くに生えていた果物をちぎり、タヌキに投げてやり、タヌキは見事にキャッチして何処かに消えた。

 運動神経抜群な上に、魔法を上手く使っての3段階ジャンプ。

 あれくらいの動きが出来る生物はレベル4万程度かと記憶に留めつつ、そろそろ本題に入る。



「神さんが強い奴が良いって言ってたって事は戦闘をさせる気だろうな。だとすると、人類への嫌がらせは……こりゃ、この選択は後々の人類発展に大きく関わりそうだ」



 ノワルは思考の中で、起こりそうな可能性について吟味を始めた。


 神が行おうとしている人類への嫌がらせとは、恐らく……『野生動物を使っての侵攻』


 ならば、ノワルが選ぶ生物は強すぎても、弱すぎても良くない。

 神の不興を買うこと無く、それでいて容易に対処ができるであろう生物を探すことが、人類繁栄に必要不可欠となるのだと、慎重に事を進める。


 やがてノワルは、一つの考えを胸に、川岸へ立った。



 **********



「よっしノワル、動物は3匹捕まえたようだな」

「えぇ、ご要望の通り出来るだけレベルの高い奴を捕まえてきました」


「じゃあさっそくお披露目といこうじゃないか」

「おっとその前に……。神さんが何をしたいのか教えちゃくれませんかね?さっき言ってた『嫌がらせ』に関係あるんでしょう?」



 ノワルと神は今、並べられた7つの檻の前に居た。


 その檻は不思議な事に、捕まえた生物を入れると不透明な膜で覆われ中身が見えなくなっている。

 神が選んできた生物が分からないというのがノワルの不安を掻き立てており、そんなノワルの心中を察するように、神は張りの良い声で「良いだろう教えてやる!」と宣言した。



ボク()の言った嫌がらせはな、安定して平和なこの世界に、ちょっとした刺激を加えてやろうって事だ。危機感とか絶望とかそういった感じの」

「刺激ってレベルじゃなさそうですが……」


「んで、今からこの7匹には直接ボク()の力を分け与える。そして、君臨して貰うのさ。強き者として、人間の上にね」



 やはりそうか。という感想がノワルの心中に沸く。

 そしてその感想に付随して、段々と現実感と不安感が押し寄せ、たまらずノワルは見栄を張った。



「おっと神さん。君臨して貰うと言いましたが、倒しちまってもいいんでしょ?恐らくですが、俺達人間はそういう動きをすると思いますので」

「察しがいいね。ボク()の力を持った生物を人間が協力して倒す。ボク()はそういうストーリーを見てみたいんだよ」



 ノワルはその言葉を聞いて、安堵した。

 目的が世界の覇者の交代では無く戦闘にあるのなら、未だ人間が世界の中心に居られる可能性が残っているからだ。


 容易ではない戦闘になるはずだが、ノワルは知識と技術の研鑽を続けてきた人間の強さを信じることにした。



「そんなわけで、お前はごうを背負った人間となる訳だなノワル。覚悟は良いか?」

「いざとなったら、『これは神のお導きだ』とか言って逃げるんで大丈夫です。それでも逃げられそうになかったら、……俺が責任もって倒しますよ」


「これは頼もしい!それでは紹介しよう!これが世界に害を成す、7匹の神獣だ!」



 パチンと弾けた指の音と共に、檻の幕が空気に混ざり融けて消える。

 そして、ノワルと神が選んだ7匹の神獣が姿を見せた。



「俺が選んだのは……魚、狐、竜」

ボク()が選んだのは……蛇、鳥、タヌキ、そして、虫だ」


「えぇっと、強そうなのが良いと言ってた割りには、絶妙なチョイスですね。どれもあまり強そうな感じしませんが……?」

「ん?左から順に足無し、2本脚、4本足、6本足だ。バランスが良いだろう?」



 ノワルはその言葉を聞いて、困惑した。


 足の数とか重要なのか?と思いつつ、自分が捕まえてきた生物も踏まえて、神獣候補をもう一度確認する。

 その生物を見やりながら、ノワルは一匹ずつ、心の中で感想を呟いた。



 虫……そこそこでかく体長50cmくらいあるが、何の虫だ?見たこと無いが、恐らくカミキリムシの仲間だろうか?いや、目立たないが角もあるな。なんだこれ……。


 竜……俺が捕まえてきた竜。サイズは3m弱で檻の中にギュウギュウに詰まっている。竜なんて捕まえてこないに越したことは無いかと思ったが、コイツは白天竜と呼ばれる比較的おとなしいタイプの竜だ。神さんへ俺のやる気をアピールする為に連れて来た。


 タヌキ……タヌキか。お前が神獣か。そうか。


 鳥……こいつは鳳凰ニワトリだな。焼いて食うと中々うまいが、野生のは凶暴なんで、逆に食われる奴も多い


 蛇……うわ、神さんも珍しい奴見つけてきたな。虚芒棲ウロボロスか。へぇ……この山にもいたんだな。ありがたやありがたや。


 狐……コイツはマイペースな性格と言われる天狐だ。人懐っこく子供と遊んでいる姿が度々目撃されるので、人間嫌いではなさそうだというのが選んだ理由。


 魚……虹鱒レインボーフィッシュ、ニジマスとも呼ぶ。魚なら陸に上がってこれないので危険度少なめだと思って釣り上げてきた。だが選択を誤ったらしい。桶の中で浮いてしまっている。……死にそう。



「コイツらが、神様が選んだ神獣って事になるんですよね。統一感の欠片もないですが……?」

「同じような奴ばっかりよりいいだろ?ボク()が黒といったら黒、神獣といったら神獣なんだよ!」



 なんだその暴論は。とノワルはツッコミを入れたくなったが、ぐっと飲み込む。

 常日頃から我慢をする事に慣れているノワルはこれぐらいでは取り乱すことはない。

 しかも、このラインナップはノワルにとっても都合がいい。

 基本的に倒す事が前提ならば、弱そうな方が良いに決まっていると、このまま続行することにしたのだ。



「ノワル。お前この生物たちをナメているだろ?」

「!!……ありゃ、お見通しですか。えぇそうです、正直、俺はレベルは高くとも、あまり強くなさそうな奴を選んできました。神さんが選んだ奴を見ても、なんとかなりそうというのが感想ですよ」


「くっくっく。流石のノワルも、まだレベルの扱いに不慣れだと見える。ほらよく見てみろ。ボク()が捕まえてきた虫をね」

「虫ですかい?大きいなとは思ってます、が……げ!?」



 神に促され、虫の入っている檻を覗き見るノワル。

 問題は、ガサガサと動き回る虫に視線を合わせ、レベル目視を発動させた時に起こった。



 ―レベル99999―



「神さん。どうやら俺の目はおかしくなっちまってるっぽいですよ。レベルがすごい事になってます」

「いいやノワル。それで正常だぞ?ボク()はミスなんかしないから」


「えぇ……でも……」

「周りもよく見てみろ。虫だけじゃないぞ」


「……コイツぁ……やっべぇ」



 ノワルはレベル目視を起動したまま、檻に入れられた生物を見渡した。

 その視線の先に映ったのは、信じられない光景。


 虫、  レベル99999

 竜、  レベル78910

 タヌキ、レベル99999

 鳥、  レベル90909

 蛇、  レベル88888

 狐、  レベル59010

 魚、  レベル22000


 ノワルは、驚きを隠しきれなかった。

 なにせ、神が連れてきた動物達は皆、ノワルよりもレベルが高く、虫とタヌキに関してはレベルの限界値とされるレベル99999だったからだ。


 レベルについては、神は出来るだけ最大値にならない様に調整したと言っている。事実、ノワル自身のレベルは最大値ではない。

 つまり、神の手によって集められた動物達は、経験において、ノワルを軽く凌駕しているという事になるのだ。



「神さん。前言撤回します。こんなやべぇの、良く集められましたね」

ボク()ボクだからね。それくらい雑作も無いさ」


「あの、参考までに聞かせてもらいたんですが、もし、俺とこいつらが今戦ったらどちらが勝つと思いますかね?」

「そうだなー。お前じゃ虫とタヌキには勝てないだろう。鳥はビミョ―だが、蛇なら勝てるんじゃないか?」



 ノワルはその言葉を聞いて、恐怖した。


 役人として研鑽を積んできた自分でさえ、この野生動物には勝てないと言うのか。

 簡単には受け入れられ無い事実も、神の名の下に言われたのでは信じるしかないのだ。



「さてノワル。そろそろ取りかかろうか。人類への嫌がらせ、神獣創作をさ」

「え、えぇ。そう……ですね」



 ノワルは頷きたくなかった。

 でも、頷くしかなかったのだ。

 神がにこやかな笑顔を浮かべ、微笑みかけてきたのだ、頷く以外の選択肢は無い。

 そして、逃げ場のないこの状況がノワルの心境に変化をもたらす。


 ……もういいや。なるようになるだろ。


 諦めの境地である。



「しっかし、ボク()は強い奴って言った気がするんだが?この魚、対して強く無い上に死にそうなんだけど」

「それはもうほんとスミマセン。違う奴にしますか?」


「一匹くらい水属性が居てもいいだろ。さてやるか……

 《神力下賜しんりょくかしほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》」



 再び神の手の中でクリスタルが生まれ、そして、今度は砕ける事は無く、逆に磨き抜かれた宝珠のような姿となった。

 神はその宝珠を片手に、桶の中でピクピクしている虹鱒に向かって歩き出し、その腹に宝珠を添える。


 ノワルの視線の先、輝く光の渦の中で現象が移り変わって行く。

 溢れだす光。溢れだす力、溢れだす命。


 瀕死だった虹鱒は瞬く間に命を吹き返し、そして元気に泳ぎ出した。

 日光に照らされて温くなってしまった桶の中ではなく、新鮮な水が止めどなく溢れる、空中(・・)を。



「こりゃあ、偉く神秘的だ。神さん、どうなってんですかね?」

「この魚に欲しい物はあるかと問いかけた。そうしたら自然の中を泳ぎ回ってみたいってさ。だからボク()は与えたんだよ、自然を操る能力をね」


「自然を操る力……」

ボク()の力を取りこんだ生物は違う種族に進化する。コイツはもう虹鱒レインボーフィッシュではない。魚、お前のレベルは常識を超えた『千載せんざい』となった。せっかくだし『千載水魚せんざいすいぎょ』とでも名乗ると良い」



 ―ありがたき、しあわせ―


 神の力によって新たな命を得た千載水魚は、声帯の代わりに空気を震わせ感謝の意を示した。

 そして、美しく成長し2mを超える大きさとなった麗しの尾ヒレを一振りすると、空中に新緑が芽吹き大河が生まれる。そして見惚れるほどの美しい動きで、千載水魚は天空を泳ぎ出した。


 魚類が空を飛ぶ異常な光景にノワルは、「あ、もうこれ、制御不能な奴だ」と改めて認識し、神の非常識さに涙した。



「おいおい、確かに綺麗な光景だったけど、泣くほどかよ!」

「俺に取っちゃ、常識が崩れ落ちる瞬間ですからね。泣きたくもなりますよ」


「意外と涙もろいんだなー。次いこ……

 《神力下賜・ほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》」

「え、ちょっと待ってください、まだ涙が乾いていないんですけど!!」



 最初の一匹で、魚が空を飛んだ。

 ならこれから先は何が起こるか分からない。

 もう少し心の準備をさせて欲しいとノワルは願うが、神はさっさと次の檻に向かい歩きだし、そしてその中の狐に宝珠を押しつけた。


 再び眩い閃光が走り、そして力が溢れだす。

 しかし、その溢れる力を感じてみても、その正体にノワルは心当たりがなかった。

 ただ、その力は触れてはいけない何かであることだけは、充分に理解出来たのだ。



「――神様、感謝御礼を申し上げます。この様な力あれば後、数千年は遊びに尽くせるでしょう」

「そうだな。お前の言う遊びを存分に楽しむと良い。お前はレベル『ごく』だ。いい文字だろう?」


「『ごく』。とてもいい響きです。ではこれにて!」



 え?狐が流暢に喋り出したんだけど?

 ノワルはどうにか事態を理解しようとするも、頭に全く入ってこない。


 狐が喋ったぁぁ!?で思考停止状態なのである。

 それでも、この場に居合わせた人間として情報収集に努めるべきだと思考を奮い立たせ、神に質問を投げかける。



「あの、神さん。あの狐すっごいオーラでしたが、どんな力を与えたんですか?」

「時間だよ、時間。あの狐は人間と遊ぶのが好きらしくてな、もっと遊びたかったと言っていたから時間の概念を操る力をあげたんだ」


「時間の概念……」

「そんくらいカーラレスでもできるだろ。次行くぞ

 《神力下賜・ほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》 」



 カーラレスでもできる?

 もの凄く重要そうな情報が突然出てきて、再びノワルが混乱しているうちに、次の神獣化が始まった。


 次の対象は蛇。

 それも虚芒棲ウロボロスと呼ばれる非常に珍しいこの蛇は、一部の地域では神の使いとされ祀られていたりする。

 本当はただ綺麗な鱗を持つだけの蛇なのだが、姿を隠すのが非常にうまく、”あの世”と”この世”を行き来しているのではと考えられているのが祀られる原因だ。


 やがて前の生物と同じように神の手の宝珠が蛇の胴に触れた。

 そして同様に輝きだし、光が治まったその場には……蛇の頭だけが残された。



「……。頭だな」

「……。頭ですね」



 全長2mくらいだった虚芒棲ウロボロスの姿はそこには無く、太さ3mまで肥大化した蛇の頭があるのみ。

 困惑するノワルと神の目の前には蛇の頭しかなく、あるべき胴の部分は空中に空いた謎の空間の中へと消えていた。



「神さん、何をしたらこうなるんですかね?」

「え?ただボク()は、この蛇が『静かな空間が欲しい』っていうから、空間作成能力をあげただけ……あぁ、なるほど。魔法次元の上の第六次元層に穴をあけて潜り込んだのか。やるね、キミ!」


「しゅるる。隠れないでのんびり暮したい。これで日光浴出来そう。さんきゅ」

「これからは人目を気にせずに暮らせるだろう。お前のレベルは『恒河沙ごうがしゃ』。強いんだから、自信を持てよ!」


「わかった。じゃあね」



 簡素な別れの挨拶をすると、蛇は頭を引っ込めて次元の穴を閉じた。


 隠れないとか言っときながら、別次元に隠れてやがる……。

 ノワルはその矛盾を指摘しようかと思ったが、変な突っ込みを入れて人間に害を及ぼされたらたまったものじゃないと判断。

 スル―スキルはお手の物である。



「ハイ次、鳥ー。

 《神力下賜・ほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》」



 ノワルはだんだんこの状況に慣れてきていた。

 いや、感覚がマヒしてきたと言ってもいい。

 同様のやり取りも連続四回目となれば、感動も薄れてくるのだ。



「HEY!神様!!ナイスな力ありがとう!!俺っちは今日、風になるぜ!」

「……。お前はレベル『阿僧祇あそうぎ』な。好きなだけ飛んで来い」


「いよっしゃあ!お墨付き貰ったぜ!いやほぉぉぉい!」


「神さん。今のって元ニワトリですよね?随分とチャラかったですが?」

「空飛びたいから、風を操る力をくれってさ。どうしても飛びたかったんだろうなぁ……」



 あぁ……。とため息がノワルから漏れる。

 ノワルは元気よく大空へ飛び出していくニワトリを見つめ、「頑張れよ。」と密かにエールを送った。

 あのトリ頭なら、害にはならなそうだと安心しながら。



「さて、次はタヌキの番なんだが……」

「どうしたんですかい?」


「あのタヌキ、涎を垂らしながら虫を見てるんだよ。能力を与えたえら間違いなく食うだろうな」

「ヴィア~~~」

「キチキチキチ……」



 ノワルは示されたままに檻へ視線を向け、現状を確認。

 タヌキの視線は虫にくぎ付けであり、檻が無ければ確実に飛びついているだろう。


 この光景を見て神は予定を変更した。



「ホントは弱い順に神獣化しようと思ってたけど、タヌキは後回しだな。つーかこのタヌキ、頭の中が虫を食うことで一杯で、願いを聞いてもロクな答えが返ってこないだろうし」

「弱い順……?やっぱり、さっきからレベルなんとかーと言っていたのは何かの階級だったんですね?」


ボク()の力を手に入れた後の強さの階級だよ。流石に5桁の数字では表せられないんでね。後で博識な奴にでも意味を聞くと良い。驚くぜ?」



 なるほど、これを参考にしろって事かとノワルは記憶に刻み込む。

 神が用意した世界に仇を成す害獣。その強さの手がかりとなるのが先程から神が呟いている階級で、恐らく数字的な意味を持ち、人間換算で何人分の強さなのかが分かる仕組みなのだろうと当たりを付けた。


 そして、後に分かることだが、それは正解だった。



「じゃ繰り越して竜いくか。

 《神力下賜・ほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》」



 見慣れた光景の中、ノワルはふと思う。

 この竜は俺が捕まえてきた竜だ。レベル的にもそこそこ高いが、なぜレベル99999のタヌキよりも上だったんだろうか?と


 一人で考えても答えは出ないまま、神の力は竜に与えられた。



「これは……経験のない力だ。神よ、これが命の力なのか?」

「命の力というより、命そのもの。生命に一つしか与えられないものをお前は幾らでもその身に宿せる。その能力を以て、途方もないレベル『不可思議ふかしぎ』となったんだ」


「ふむ。生命の理を我は超越したのか。面白い!《来い、イカヅチ!》」



 いつの間にか檻の外に居た竜は、自分自身に雷撃を撃ちおろし、その効果のほどを確かめた。

 一瞬で鱗が炭化するほどの熱量をその身に受け、実際に体のほとんどが炭化しボロボロと崩れ落ちる。

 しかしその瞬間、黒焦げとなった身体から孵化する様にして、新たな身体が現れたのだ。


 先ほどとは違う、竜が願ったとおりの、細長く荘厳な身体となって。



「ふはは、面白い!面白いぞ神よ!礼を言おう!!」

「そうかいそうかい。ボク()も期待しているよ」



 その力に満足した竜は、空へと駆けのぼり雲の中に消えた。



「ここまで来ると、流石に理解が追い付かないようだな。ノワル」

「えぇ、深く考えたら負けの様な気がしてますよ。そういうものだって思っときます」


「良い心構えだ。じゃ、最強の奴いってみよう

 《神力下賜・ほら、遊んで来いプレイ・オブ・ゴッテス!》」



 最強か。

 すげえんだろうな。


 ノワルは擦り切れた感情の中で、これらが人間に牙をむくという事を考えないようにしながら、慎重に記憶の中に留めていく。


……書いても書いても終わらない。皇種、手強いな。

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