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第6話「第二次悪魔会談・手段無き者」

「ユニ!それにリリンも!!あぁ……怪我は無いようだね……」



 ものすごーく軽いノリで聞いたのに、非常に重苦しい反応が返って来た。

 ワルトは驚愕のあまり席を立ち、俺の横に来て肩に手を置く。

 そして真剣な眼差しで、「怪我が無かったのか?」「怖かっただろう?」と異常なくらいに心配してきたのだ。


 ……。

 え。なにこれ。

 ちょっと予想の範疇を超えているので、対応できないんだが。


 リリンと同格の心無き悪魔。戦略破綻・ワルトナ・バレンシア

 狡猾さと悪辣さが売りのワルトが取り乱しているとか、何それヤバイ。


 もうほんと、ヤバい。



「ワルトナが取り乱すなんて珍しい。そんなに星タヌキはすごいの?」

「おや?リリンだって見たんだろ?星タヌキを、あの、恐ろしき姿をね」


「見てない。ユニクは二度遭遇しているらしいけど、どちらも私の居ない所だった」

「え、じゃあユニは一人で二回も!?そんな……なんで……」



 おい、ワルト。前髪が長くてフードも深々とかぶった陰属性のキャラなのに、驚きに満ちた目で見てくるんじゃねえよ。

 つーか素で驚くとそんな感じになるんだな。

 今まで自然体に笑ったり驚いていたりしていたが、どうやら演技だったらしい。


 感情を操るのが得意なワルトが思わず素を出してしまうとか、ますます、危機感が増していく。

 話を聞きたくない。

 聞きたくないが……2度ある事は3度ある。

 恐るべきその日に備えるためにも、聞かなければならないだろう。



「ワルト、その星タヌキはタヌキ将軍を連れててな―――」



 始めに、俺とタヌキのオモシロハートフルなエピソードを披露する。

 思い出し油汗がにじみ出てくるので中止したいが、今は情報の共有が最優先。

 ワルトは俺の話に真剣に耳を傾け、リリンはお茶を啜っていた。



「そんなことが……良く生き残ったね、ユニ」

「……え?」


「それほどまでに、星タヌキは強大すぎるのさ。そうだな……まずは、僕がなんでタヌキに詳しいのかを話そうか。それはね……調べたからだ」

「調べた?」


「あぁ、そうだ。僕とリリンは一度タヌキに敗北しているんだけどね、僕にはその事がどうも納得できなかった」

「……?」


「だって考えてごらんよ。自然界でも弱いとされ、食用肉は10g10エドロでたたき売りされているタヌキだよ?そんなタヌキに僕らは負けた。逃亡することしかできなかったんだ」



 ふむ。そう言えばリリンもタヌキに負けた事があると言ってたっけな。

 その時のタヌキは将軍だったらしいが……現状、俺と将軍の強さは同じくらい。

 リリンと比べたら相手にならないはずだが……?



「時は経ち、この大書院ヒストリアに根を張った僕は、趣味の一環としてタヌキを調べることにしたんだ」

「タヌキを……。そいつは、悪趣味って奴だな……」


「そして一般書籍を読み尽し、不安定機構深淵(アンバランス・アビス)に貯蔵されている書物に手を出した所、真実が露見した。……そう、タヌキは、強い」

「うん、知ってる」



 タヌキが強いってのは十分に知ってる。

 幾度となく俺の前に現れては、鋭い爪と牙を振りかざし、恐怖を刻み込んできやがったからな。

 最近では、添い寝をしたり、一緒に共闘したりして若干慣れつつあるが、怖いもんは怖い。




「いや、ユニは知らないだろうね。タヌキの本当の力を」

「まぁ十分に凶悪だって知ってるが……もしかして、星タヌキはもっとヤバいのか?」


「ヤバい?ヤバいってのは危機的状況に置かれ、取れる有効な手段が乏しい事を指す言葉だ」

「あぁ……そうだな?」


「ならば答えは、否だ。その星タヌキ……タヌキ・帝王カイゼルを前にして、取れる手段なんて……天に祈りを捧げることだけさ」

「なんだと……!他にもっとあるだろ?剣で斬るとか、魔法を撃ち込むとか、逃げるとか」


「全部、無意味で、むしろ悪手だ。生き残るには、タヌキ帝王がお目こぼしをするのを期待するしかないんだからね」

「な……に?」


「かつて世界には『中心の都』と呼ばれ、世界中の技術と知識と魔法を集め繁栄を極めた『ソドムゴモラ』という都市があった。楽園や聖域とも呼べるその場所は、未来にあたる現代でも再現不可能な高度な魔法が生まれ続け、安寧の時は5000年は続くとされていたんだ……」

「まさか……」


「その都は、滅びた。たったの1年あまりの間に力ある魔導師は殺され、町は機能不全となってしまったんだよ。わずか10匹にも満たない数のタヌキ帝王が率いる、タヌキアーミーの手によって……」



 ……。

 …………。

 ………………絶句。


 え?タヌキが町を滅ぼした?

 それも、唯の村とかじゃなく、世界最高の技術を持った大都市を……だと?


 にわかには信じられない。信じられないが……何故か確信めいたものがある。

 タヌキなら、不可能では無いのかもしれない……と俺の本能が語るのだ。



「逸話はまだあるよ。それは―――」



 まだあるのかよッ!

 頭ん中がタヌキでいっぱいなんだけど!?



「僕らの希望、英雄・ユルドルードですら、タヌキ帝王に敗北したらしい」

「なんだってッッッ!?」



 親父ィィィィィィィッッッッッッッ!!!!!

 なにタヌキに負けてんだよッッッ!?

 強い事が取り柄の筈だろうが!

 タヌキなんぞに負けたら、唯の変態になり下がるぞ!!


 だからもう一度言うぞ、親父ィィィィィィィッッッッッッッ!!!!!

 タヌキなんかに負けるなよぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!



「親父が、タヌキに負けた……?それは本当なのか?」

「にわかには信じられない。英雄ユルドルードのファンとしても、認めたくない!」

「……残念だが……本当だ。これはノウィン様に直接聞いた話で、当時、駆け出しの冒険者だったユルドルード含む、3人パーティーはタヌキ帝王と接触。隙を見て手傷を負わせ、逃亡するのがやっとだったらしい」


「マジか……いや待てよ……その頃の親父はまだ弱かったんじゃないのか?駆けだし冒険者だったんだろ?」

「全然弱く無いよ。レベルはもちろん99999。正真正銘のカンストで人類最強レベルだ」



 親父……。

 人類最強がタヌキに負けるなんて、恥ずかしくないのか?

 俺の中で、親父下げが止まらない。

 全裸で戦ったりしてるから、タヌキに負けるんだよ。まったく。



「これで、タヌキ帝王の強さは証明されたね。そして……。タヌキにしてタヌキに在らぬ者。1000匹を統べるタヌキ将軍を、さらに1000匹支配するという、恐ろしき怪物」

「はぁ!?それだとえーと。タヌキが……100万匹……だと……」


「僕ら知恵あるものは、戦慄と畏敬の念をもって、こう呼ぶ……。手段なき化物『カツテナイ・タヌキ』……と」



 カツテナイ……

 かつてない……

 ……勝つ手無い……。



勝利する手段がない(カツテナイ)・タヌキ…………」



……。

…………。

………………。げふぉ。



「おや?ユニが物凄く落ち込んでしまったね。リリン慰めてあげなよ」

「ユニク、悲しむ事は無い。お父様ですら及ばないタヌキならば、勝てなくて普通。次からは餌付けする方向で考えよう」


「それもおかしいだろッ!?ちゃっかり飼おうとしてるよなッ!?」



 ちくしょう。タヌキは魔獣なんじゃないのかと思っていたが、本当にそうだったなんてな。

 これは最大限に警戒しなければならない。夜、部屋に出没するタヌキとは比べ物にならないほど危険そうだ。


 まったく。英雄の親父ですら及ばないとか……皇種かよ。って、あ。



「なぁワルト。そんなにタヌキ帝王が強いならさ、もしかしてタヌキの皇種なんじゃねぇのか?ほら、それなら親父が負けたのにも理由が付くし」

「おっと、良い質問だね。確かにタヌキ帝王は別の種族の皇種と比べても引けを取らないさ。でもね、タヌキ帝王ごときじゃタヌキの皇種は名乗れないね」


「……え?」

「いるのさ。正真正銘、タヌキの皇種は存在するんだ」


「やっぱりいるのか……?でも、タヌキ帝王だって強いんだろ?それなのに”ごとき”って……?」

「この世界には、数多の皇種がいる。一種族に一体の皇種というルールはあれど、数え切れないほどの種族が存在するんだから当然だよね」


「あぁ……そうだな」

「だけど……実はね。皇種の中にも階級が存在するんだ」


「!!」

「その中でも、最上位。神が直接力を分け与えたと伝承される、7匹の神獣。僕らは便宜上、その世界の害悪達の事を『始原の皇種』と呼んでいる」


「……まさか……うそ、だろ……」

「その内……『鳥』、『蛇』、『狐』、『魚』。下位に位置した始原の皇種は倒された。だけどね、上位の三皇種は未だこの世の何処かにいるんだ」


「やめろ……聞きたくない……」

「世界最強、無限と等しい究極の”力”『蟲』」


「世界最強が……蟲……」

「序列第二位、理解の範疇を越えた”命”『竜』。そして……」


「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……」

「序列第三位、極大なる”知識”の……」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「……『タヌキ』」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」



 タヌキッ!

 おいタヌキッ!!

 おいってばよ、タヌキッ!!!


 お前、なんなんだよ!!

 なにタヌキのくせに、なんで神獣とかになってるんだよッ!?

 お前は憎たらしい顔で冒険者をおちょくり、たまに負けて食料になるはずの生き物だろうがッ!!

 食えばそこそこうまいし、炭火であぶった肉は絶品と言ってもいいだろうがッ!?


 なのに何で世界の覇者に名前を連ねてるんだよッ!?

 伝説上の生き物がタヌキとか、どうなってやがるんだよッ!?ちくしょうめぇぇぇぇぇぇッッ!!!



「はぁ……。はぁ……。」

「ユニク、落ち着いた?」

「いやはや、すごい取り乱し様だったね。ちょっと面白いから映像記録しとこ」


「っく!とりあえず、水をくれ!水!!」

「はい。どうぞ」


「ぷはぁ!!ちくしょうめ!!何度でも言ってやるッ!ちくしょうめッ!ちくしょうめッッ!!」

「ユニクが取り乱すのも無理はない、流石に私も皇種は飼いたくない」

「そもそも皇種を飼いならすとか、どんな英雄でも出来ないだろ……ま、そんなわけで、タヌキの皇種はいるんだよ」


「ワルト、どんなやつなんだ?そのタヌキの皇種って奴はよ。そんだけ情報があるなら知ってるんだろ?」

「正確な情報は僕でも知らないんだ。だけど噂でいいなら、こんなのがあるよ」


「噂?」

「そ、この世界には僕らのいるものを含めて、大きな大陸が5つあるよね?」


「あぁ、それくらいは知ってるさ」

「その内の一つは、タヌキの皇種が化けてるって話だよ」


「トンデモねぇ規模だった!?勝ち目がねぇどころか、勝負にもなりゃしねぇ!?」

「あくまで噂だけどね……。そう言えば君のいたナユタ村、調べてみたけど面白い事実が判明したよ」


「……ナユタ村がどうしたって?」

「あの村の周りでは異常なくらい、タヌキ将軍が目撃されるらしいんだ。何らかの形でタヌキ将軍が繁殖してるのは間違いないだろうね」



 ……。

 じじぃ。レラさん。

 里帰りするの、もう少し遅くなりそうです。



「ちょっと話を整理したい。ワルトナの話では、始原の皇種の中に『蛇』と『狐』がいた。もしかしてその蛇と狐は、『幾億蛇峰いくおくじゃほう・アマタノ』と『極色万変ごくしょくばんぺん白銀比はくぎんひ様』のこと?」

「さぁ、どうだろうか。伝承では倒されたって事になってるけど、それだけ規模の大きい神獣なら生きていても不思議じゃないね。アマタノに関しちゃ、千年前から生きていることが確認されているし」


「もしそうだったら大変なこと。次のお土産は豪華なものを用意しなければならない」



 タヌキタヌキタヌキタヌキタヌキタヌキ……ん?今リリンが変な事を口走らなかったか?

 気のせいか?……タヌキタヌキタヌキタヌキタヌキ……。



「そうだなぁ。これは不安定機構の超秘匿事項なんだけど、キミらなら話してもいいか」

「タヌ……ん?」

「秘匿事項?」


「僕ら不安定機構に伝わる最大級の伝承、『始原の皇種が生まれた日』の話さ」



 ……たぬ……なんだって!?


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