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第3話「第二次悪魔会談・真相」

「カードの枚数が変わってやがるだとッ!?」

「これは……よくない事だと思う。だってライバルが増えたということ!」

「ちょっと落ち着きなよ、キミら。とゆうか、ユニは僕に「落ち着いてカードを見ろ」とか言っといて、自分が叫んでどうするんだい?」



 ……ぐ。返す言葉も無い。

 ワルトの鋭いツッコミで、ほんの少しだけ気分に落ち着きが取り戻せた。

 確かに、ワルトはこのカードの情報を始めてみるのに、俺達が取り乱していたら収拾がつかなくなるよな。


 ここは俺がしっかりしないと……。


 ちらりと右側に視線を向け、リリンの様子を確認してみる。

 やはり、リリンはカードの総数が変わった事が受け入れ難いらしく、なぜか、カードの表面を一生懸命にこすっている。

 ……そんなにこすっても、何も変化は無いと思う。


 俺はリリンを放っておいて、ワルトに話しかけた。



「ワルトの目線では分かりづらいと思うけど、このカードの総数は確かに12枚だったんだよ。カミナさんやミナチルさんと一緒に確認したし、何日か見ないうちに増えたって事だな」

「カードの情報についても、カミナから報告されてるから問題ない。んで、増えた数字は、このあからさまに怪しい『偽ゴールド』かい?」


「そうだ。こんな欄なんて、そもそも無かったしな」

「欄ごとか。当然、心当たりは無いんだよね?」


「あぁ、無い。ついでに言うと、このカード自体の存在意味も、誰が残りのカードを所持しているのかも、どんな条件で色分けされているのかも、全く不明。何もかも俺達には分からない」

「……そう。ユニクは記憶が無いので当然知る訳もなく、私にもさっぱり分からない。だけど、このカードが重要な意味を持っているというのは間違いないと思う」

「キミらには心当たりが無いけれど、重要だとは思う。か……」


「俺達が意見を求めたいのはそこなんだよ。このカードについて何らかの情報があれば大きく話が進むと思うんだ」

「たぶん、このカードを持つ11人の中に、今回私達を襲撃してきた敵が潜んでいるのだと思う」

「時期的にも、動機的にもドンピシャってことだね」


「ワルトの意見を聞かせてくれないか?」

「お願い、ワルトナ。これは私達の未来にとってすごく大事なことだから」

「……よし、分かった引き受けよう。僕の華麗なる推理で核心に迫ってやるとしようか」



 人生を弄ぶ心無き大悪魔の知能が、今、いかんなく発揮されようとしている。

 ワルトはまず、俺やリリンに一問一答形式で質問を繰り返した。


 カードを手に入れた時期。

 ミナチルさんという、第二のカード所持者のこと。

 過去の俺がしたというあり得ない話や、一見関係無い任務や日常のこと。……などなど。


 予めカミナさんから情報を貰っていると言うだけあって、凄くスムーズに会話が進んでいく。

 会話をしているうちに浮かんできた話しておきたい情報も、台本でもあるかのように、ワルトは聞き出してくれた。


 ワルトの趣味は暗躍や裏切りとかいうけれど、その実、高度な情報収集能力と運用力が無ければ行う事は難しい。

 理不尽系爆裂少女、無慈悲系脳筋女医ときて、第三の悪魔。


 暗躍系参謀書士・ワルト。

 その能力は実に優秀なようだ。……性格は度外視だけど。



「聞きたい事は聞き終わった。そしてもう、僕の中では答えが出ている。今からキミらに真実を打ち明けよう」



 ……ごくり。

 かなり大見栄切った言い回しだけど、それが正解であるのならば文句は無い。

 むしろ、自信があるという事は良い事だとすら思う。



「まず、短絡的に結論から述べてしまおう。この一連の事件の真相、犯人の目的は『ユニとリリン、二人とも』だ」

「……な!」

「私達、二人とも……?」


「そうさ。現状、これは間違いないね。状況が確信を告げているよ」

「……状況?」

「そう、なの?特に断定できる要素が見当たらないけど……」



 ワルトは、自信たっぷりに俺達二人ともが敵の狙いだと言った。


 何らかの状況を見て確信したらしいが、状況ったって、俺達が直接関わったのは盗賊の襲撃が一回だけ。

 しかも、その時だってリリンと一緒に瞬殺したし……ん?


 ……リリンと一緒に?



「なぁ、ワルトが言う状況ってのは、俺とリリンが同時に襲われたってことか?」

「……?」

「お、ユニは冴えてるね。その通りだ」


「確かに……言われてみれば不自然だな」

「えっえ?どういうこと?」

「でしょ?特に理由が無いとそんな事は起こらないよね」


「だとすると、なんでだ?」

「……。」

「ま、それは、おいおい話すとして」


「二人で分かってて、ずるい!ちゃんと私も混ぜて欲しいと思う!!」



 俺達が二人で納得していると、リリンがむくれてしまった。

 むー。と頬を膨らませて平均的なジト目を俺達に向けて抗議をしてきている。


 俺はそっとクッキーを一枚手に取って、リリンの口元に持っていく。

 サクサクと音を立ててクッキーが消えていき、さらに頬が膨らんだ。

 そこに尽かさず、ワルトがお茶をリリンに差し出す。


 ……ごくりという音と共に頬は通常サイズに戻った。……ふむ、完璧な対処方法だな。覚えておこう。



「今から説明するけど、リリンはもちろん、ユニにもちゃんと聞いて欲しい。これが真相だ」

「私にも分かるように、頼みたい」

「おう。よろしく頼む」


「そも、盗賊30人に襲われたというのが事の発端のように感じるけれど、それは違う。確かにキミらの目線ではそこが最初だけれど、敵はもっと前から行動を起こしている。そう考えると『どちらか一方が狙い』というのはおかしくなるんだ」

「どういうこと?」

「リリン。敵は俺達の前に現れる前に、準備を始めているって事だ。俺が一人で町に居た時には既に、俺達の行動は把握されていたんだろう」


「つまりね、敵は『町で独りでいるユニを狙わなかった』んだよ。その時には既に盗賊達も自分たちも町の中にいたというのに」

「……!」

「なのに、ターゲットの俺といったら、町でふらふらとゲロ鳥の聞きこみをして、怪しげな店に行っただけだ。おかしいだろ?」


「そう。ユニだけを確保したいのなら、こんなチャンスを逃すはずは無い。確実に何らかの行動は起こすはずだ」

「だけど……人目が多い街中を避けたという事は無い?」

「ん?それは……」


「それはない。その予測は破綻しているよリリン。だって敵は、カミナの病院の看護師全員に認識錯誤の魔法をかけている。つまり、一度に複数人の目をあざむけるってことさ」

「確かに、そうだね……」

「ワルトの言うとおりなら、街中とか関係なく襲撃してさっさと俺を捕まえて逃げた方がいい。それはたぶん、リリンに置き換えても同じはすだ」


「良く分かってるじゃないか、ユニ。狙いがユニにしろリリンにしろ、一人の所を狙った方がはるかに効率が良い。僕にも経験があるけれど、一石二鳥を狙うのは倍の労力では済まない事が多いからね」



 俺が狙いだというのなら、明らかに危険なレベルのリリンに近寄る必要は無い。

 明らかな危険を冒してまで俺達に挑んできたのは、相応の理由があるはず。


 ……盗賊どもが凄く馬鹿だったような気がするが、その上に立つ暗劇部員が馬鹿とは限らない。

 少なくとも、心無き大悪魔なカミナさんは出し抜いているわけだしな。



「なので、盗賊の狙いは『キミら二人』で、黒幕の思惑は『キミら二人の連携力』を知る事だろうね。これなら少しでも長い時間を観察するために、全ての盗賊を投入した事にも説明が付く」

「……だとすると、俺達が別々で戦ったのはまずかったか?『連携できません!』て言ってるようなものだろ?」


「いや、判断は間違っていない。連携はしなくて正解、結果的に相手の知りたかった情報は"未知数"のままにする事が出来たからね」

「そうか。ちょっと安心したぜ!」


「ちなみに参考までに聞くけど、キミらは連係プレーなんて出来るのかい?」

「……残念ながら俺とリリンは連係プレーをした事がほとんど無くてな……」

「でも、タヌキとはうまく連携してた。ちょっとうらやましい」


「……なんでタヌキが出てきたのか理解に苦しむけど、要はキミらは連携をした事が無いんだね?それはそれは……」



 ワルトはリリンの話を聞いて少しだけ思案顔になった。

 まさか、頭の中で俺とタヌキの共闘を想像してるんじゃないだろうな?


 タヌキはこの話に一切関係ないから、考えなくてもいいぞ。



「で、敵の狙いは俺達って事だが、それ以上の推理はないのか?」

「まさか。これで終わりなんて『戦略破綻』の名が泣くってもんさ。次はそのカードについてだ」



 え?このカードについても分かるのかよ!?

 正直、なんも情報が無いんだけどッ!?



「赤いカードの持ち主、ミナチルは8年前にユニと会った。そしてその時にユニから言われたそうだね。『"英雄"みたいな事をやってる』って。それは同様の人助けを何度もしているって事で、彼女は何ら特別では無いって事だ」

「面白い発想だな。ミナチルさんが特別じゃないとどうなるんだ?」


「命を助けて貰った。しかも一人ではなく、1万人もの命をだ。そんな大事件は簡単には起こらない。少なくとも、ここ8年は同じ規模の自然災害が起こった記録が無い。だから、矛盾する」

「……?」


「事実を捻じ曲げて隠している奴がいる。ここ10年もの間、まったく皇種の被害が報告されていないのも、英雄ユルドルードの消息が途絶えているのも不自然だ。事実として助けられた人物がいるというのに」

「誰かが暗躍している、のか?」


「そうさ。そんな事が出来るのは不安定機構に所属するの高位の人物しかいない。そして、そのカードに繋がっているんだろう。これは簡単な筋書きじゃないよ」



 ……なにがどうなってやがる?

 唯の盗賊に襲撃されたって話から、世界規模の話になっちゃってるんだけどッ!?



「ということで、ここからは楽しい考察の時間だ。まずは『ゆにクラブ』カードを持つ人物について想像してみよう」

「分かりやすく頼む」


「はいよ。カードの種類は3種類。赤・金・黒だ。そして、『1万人の命を救った事件』が赤で、一番階級が下だよね」

「だな。同じ規模の事件なんて無いんだろ?変だよな?」


「そう、つまり、助けた命の数や感情といった物は階級には関係が無いって事だ」

「……関係無いのか」


「間違いないね。だとすると何が関係しているのか。それはたぶん、”時間”じゃないかな?」

「時間?」


「ミナチルの事件は規模こそ大きいものの、時間的には5日間の出来事だったって報告書にはあった。もし、カードの階級がユニと一緒にいた時間を表すのなら、一番下の階級だったとしてもおかしく無い」



 ……時間か。

 そうすると、金以上のカードの持ち主は6日以上俺と一緒に居たって事になるのか。


 あれ?過去の俺、もしかしてハーレム属性だったのか?

 ……なんだろう、今すぐ、記憶を取り戻したくなったな。



「待って。それはおかしい。その理屈だと私のカードが黒なのが説明が付かない」

「ん?そうか。リリンは過去の俺に会ったこと無いんだもんな?」


「ユニクとは出会っていない。これは絶対だと断言できる」

「……そうか。ハーレム属性ではないのか……」

「ユニが何を考えて落胆しているのかはあえて聞かないけど、落胆するのは早いかもね」


「ん?」

「だって、リリンは神託という特別な存在からカードを授けられている。だから度外視されていてもおかしく無いと、僕は思う」



 リリンは特別扱いなのか?

 確か、リリンの授けられた神託って、『ユニクルフィンとこの世界を旅し、いずれくる世界の厄災に備えよ』だったはず。


 時間がカギだというのなら、多少無理やりだが、辻褄を合せる事は出来るな。



「もしかして、このカードは"未来の時間"も考慮されているのか?ほら、俺達は神託によって長い間旅を続ける訳だしさ」

「……そう。それはとても嬉しい。このカードを作った人は良く分かってると思う!!」

「……んっと。その可能性もあるね。ともかく、助けた命の数や事件の大きさには左右されない何かがある事は間違いない。次にカード所持者に出会ったらユニとどのくらいの期間一緒に居たかを確認して欲しい」



 なるほど、見ると怒りしか芽生えない謎のカードの正体が、ほんの少しだけ見えてきたな。

 しかも、階級が上のカード所持者は詳しい情報を持っている可能性が非常に高いらしい。


 もしも黒のカード所持者に出会えたら、一発で真相が分かるかもしれないというのは楽でいい。



「じゃあ、次はキミらを狙う人物がカードに関係あるかどうかという考察だが、キミらは関係あるって思ってるんだよね?」

「あぁ。ワルトも関係ありそうだって言っていたよな?」


「カードの関係者なのは間違いないはずだ。でも、キミらを襲った敵は直接カードは所持していないだろうね。簡単言うと”黒幕”がいるってことさ」

「……敵の正体が掴めない内から、黒幕が出てくるのかよ!」


「ん?僕はキミらが言う所の『敵の暗劇部員』の正体を掴んでいないなんて言っていないよ?」

「はぁ!?掴んでいるのなら早く言ってくれよ!!」


「くくく。僕だって闇に生きる暗劇部員の一員さ。おいそれと情報を話すわけないだろ?ということで勿体ぶってみた」

「……。うっわぁすげぇ悪い顔」

「ワルトナ!早く教えて欲しい!!もう我慢できない!!!」



 くくくとワルトナはもう一度だけ笑い、一瞬にして表情を消した。

 あまりの変貌ぶりに、背筋がぞっとする。


 そして、どこまでも冷えたワルトの視線が、俺とリリンを射抜く。



「まぁ、落ち着いて聞きたまえよ。実行部隊の暗劇部員の正体だが、……そいつは暗劇部員じゃない。名前を語っているだけの、偽者だ」

「なん……だと?」


「大前提として、僕の素性を語らないといけないね。リリンは知っていると思うけど、僕はね、そんじょそこらの暗劇部員とは一線を画している。大聖母ノウィン直轄の『指導聖母マザー』。この地区の暗劇部員を統括する、3人の指導者のうちの一人が僕さ」



 ……。

 指導聖母マザー……だと?


 白衣の天使に続き、聖母にまで擬態してやがるのか。

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)、恐るべし。


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