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第5章幕間「リリンサの手記5」

「むぅ……。ホントにみんな行ってしまった……ユニクもカミナも薄情だと思う!」



 真っ白な部屋、真っ白なシーツの上で一人愚痴をこぼす少女が一人。

 リリンサは酷くご機嫌斜めだ。


 原因は単純明快なことだった。

 カミナのアドバイスに従い、ユニクルフィンを森に誘って見たものの、狙いどうりに事が進まなかったからだ。


 森に誘い出し、和気あいあいとしながらタヌキでも探す。

 そしてタヌキと和やかな雰囲気を楽しんだ後は、戦闘訓練をしてこれからに備えつつ、教えて貰った「吊り橋効果」でも試してみよう。


 そんな計画は順番こそ前後すれ、大体は順調に進んでいた。

 しかし、予期せぬ事態が起こってしまったのだ。


 突然の体調不良。

 日ごろから健康そのものといったリリンサは、有効的な対応のしかたが分からず、結果としてその場で動けなくなるまで我慢してしまった。



「大見栄切って大丈夫と言っていたのに、なんてカッコ悪い……」



 気持ちの整理を付ける為に独り言をつぶやいて、ついでにため息も一つ吐きだした。

 そして、「ユニクがカッコよかったから、まぁいい」と気持ちを切り替えようと試みる。


 みんなで森に行くなら一緒に行きたかったと頬を膨らませながらも、仕方がない事だとも思うし、自分のミスなんだから誰も攻められない。

 後でこの埋め合わせは『お願い』という形でたっぷりユニクルフィンに支払って貰おうと心に決め、乱雑に空間へ手を突っ込んだ。


 リリンサは空間から愛用の日記帳を取り出し、白紙のページになるまでめくった。

 ユニクルフィンが寝静まった後の、密かな日課を片付けてしまおうと、朝日が差し込む一人きりの病室でペンを握る。



 **********



 8の月2の日、日記番外編。暗劇部員の考察。



 カミナとの会談を経て、私達に明確に敵がいる事が分かった。

 この敵について考察し、確実な勝利を得るためにここに記す。



 考察1・敵の正体


 敵は、『私』もしくは『ユニク』を獲得しようと狙っている。

 そして、おそらくだが、狙いはユニク。

 英雄の息子にして、伝説の剣を軽々と使いこなしながらも、優しくてとてもカッコイイユニクを狙っているとするのが自然。

 それなりに強い師匠の下で修業しただけの、平凡な町娘な私を狙う理由が無い。


 敵はユニクを手に入れてどうするのか。

 推測の域を出ないけど、たぶん……私と同じ。

 ユニクの事が好きなんだと思う。


 そして……どうやらユニクは世界を旅しながら、女の子を口説いて回っていたらしい。


 すごく、すごーく大問題!


 中途半端な強さの今のユニクでさえ、時々、ドキリとするくらいにカッコイイ。

 森ドラ相手に必殺技名を叫びながら斬りかかった時など、凄く興奮した。

 重力破壊刃ガル・ブレイドというアレな名前も、逆に良いと思えてしまうほど。


 ……だからこそ、大問題。

 過去のユニクは、ランク8の”蟲”という謎の生物を一刀両断していたくらいに強かったという。

 通常ならば、カンストしていない野生動物など、それほど脅威ではない。


 だが、少し気になった事がある。

 過去のユニク曰く、その蟲は物理攻撃と魔法攻撃を無効化する術を持っていたらしい。

 そんな生物は、もれなく全員カンストに到達すると師匠に聞いた事がある。


 そういった生物は自然界では絶対的強者で、第九守護天使(セラフィム)並みの防御力がある生物が大量発生したのならば、師匠自ら出向くような大災害クラスになるらしい。

 まったく意味の分からない人間離れした動きをする師匠が、警戒しながら相手をする害獣をに襲われ、絶体絶命のピンチ。


 そんな場面に颯爽と現れ、いとも簡単に解決するユニク。


 ……うん、絶対。これは絶対に惚れると断言できる。

 特に確証が無いけれど、絶対間違いない。

 女の子どころか、同性から好意を抱かれても不思議じゃないとさえ思う。


 という事は……。

 この世界には私同様、ユニクと結ばれたいと思っている人が、少なからずいるという事。

 幸いにしてミナチルは違うらしいけど、本気で狙っている人は間違いなくいて、その筆頭が今、私達にちょっかいを掛けてきている暗劇部員だと思う。


 ……どうしてくれようか。

 相手が談話を望むのなら、それに応じてあげるくらいはしてもいい。

 だけど、それは攻撃を仕掛けてきていない人の話。


 もう既に危害を加えられている以上、話を応じる義理は無い。

 タダでさえその気が無いのに、あろうことか、カミナにまで迷惑をかけた。


 ……もう、いいや。

 酷い目に会わせると言いながらも、最後は必要最低限の温情として、レジェに預けようと思っていた。

 レジェの奴隷になるのなら、人間としての価値は保証される。

 自由が無く様々な制約に翻弄されながらも、餓える事の無い安定した生活を送って貰おうかと思っていたけど、やめよう。


 まずは予定どうりに、ボッコボコにして、心をへし折る。

 その後ワルトナの所に連れて行って、その人生を使って償いをして貰おう。


 悪辣さは、女王として一切の甘さが無いレジェよりも、ワルトナの方が上。

 有効に人生を使い潰してくれるだろう。



 考察2・ゆにクラブカード



 そしてもう一つの大問題。『ゆにクラブ』の会員証。

 神から授けられたこのカードを持つ人が他に後10人も居るらしい。


 ……非常に困った。

 敵である暗劇部員の人は武力で制圧するとして、残り9人はどうしよう……。

 私としても、ユニクと友好関係にある人とは仲良くしたい。

 でも、ユニクを差し出す気も無いので、バランスが難しいと思う。


 しかも、カードの階級にはランクがあるらしい。

 カード階級はレッド・ゴールド・ブラックの順で高くなるというのが、さらに悩みの種。


 私は神託によって、「ユニクと結ばれる運命」を授けられた。

 世界の創造神たる神が望んだ神託。


 それは何物にも代えられない絶対であるということ。

 なのに……


 私と並び立つブラックのカードを所持している人間が、あと二人いる。


 それは神託と同等の使命を帯びた者、つまりは、相手も神託を授けられている可能性が高い。

 神託を持つ者同士の争い。

 歴史を振り返ってみると、そういった事案は結構多いらしい。


 神託については、ワルトナに聞くのが一番良い。

 暗劇部員の指揮官として卓越した知識と見識を蓄えているワルトナなら、こういったケースにも対応できると思う。


 きっとその知恵を存分に使って、面白いほどにえげつない事を考えてくれるはず。



 **********



「ふぅ……後はワルトナと結託して、凄い計画を」

「……へぇ、リリンちゃんは何かを企んでいるんですね」


「え、あ。ミナチル!!なんでここに居る!?」

「そりゃいますよー。私、看護師でリリンちゃんの担当なんですから」



 わたわたと慌てながら日記帳を空間に放り込み、出来るだけ平静を装うリリンサ。

 そんな光景を、持っていたカルテで口元を隠しながら、おもしろげに眺めるミナチル。


 半分ほど顔が隠れているにもかかわらず、十分に笑顔で有る事が見て取れた。



「むぅ……恥ずかしい所をもまたしても……」

「大丈夫ですよ、患者さんのプライバシーは守ります!ゆにふぃーにも内緒ですから」



 人差し指を突き出して、約束です!と微笑むミナチル。

 リリンサも特に警戒すること無く、ちゃんと守って欲しいと当たり障りのない事を言って話題を切り替えた。



「それで、どうして私の病室に来た?朝ごはんは食べたばかりだし……おやつ?」

「朝食を食べたばかりでおやつが出てくる訳ないでしょう!といいますか、そもそも、おやつは出ません!」


「……おやつが出ない?え、え……正気?私の代わりに頭の検査をした方が良いと思う……」

「そうですね、じゃあ、このカルテの名前をミナチルに直してって、そんな事しませんし、私は正常です!」


「くっ。……やはり、検査は避けられない運命?何か回避する方法は……?」

「ありません。非常にお気の毒ですが、カミナ先生に捕まった以上、もう手遅れです」


「そんな……」



 がくりと頭を下げて同情を得ようと画策するリリンサ。

 こういった人の感情に揺さぶりをかける手法は、レジェリクエを真似をしての事だ。


 もっとも、使い方が間違っているケースも多く、有効的に使える事の方が少ない。

 ただ今回は上手くいったようで、ミナチルが「しょうがないですねー。検査は回避できませんが、ご褒美なら用意できます」と切り出した。



「ご褒美?もしかして、おやつ?」

「えぇ、そうです。実はこの病院の売店では一流のお菓子メーカーから仕入れているケーキがあるんです。もう、すっごく美味しくって、癒しを求めて、毎日買っちゃうくらいでぇ」


「……ごくり」

「なので、検査を頑張ったら、二人でこっそり食べましょう。ゆにふぃーを話のネタにしてプチ女子会とか、どうです?」


「……すごくいい提案だと思う。それならば検査も頑張れる気がする」



 二人きりしかいない病室だというのに、隠れるようにして握手を交わす二人。

 ただ純粋に、おやつ目当てに頷くリリンサと、忘れかけていた感情に整理を付けるべく提案をするミナチル。


 その日の午後は、殺伐として忙しい毎日を送っていた二人にとって、久しく感じていない朗らかな時間となった。


 変わりなく続く想いと、思い出として終わる想い。

 二人の想いに違いはあれど、心の底に存在する感情は、同じものなのだから。


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