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第48話「決戦!!森ヒュドラ」

 


「ツボを刺激して血行を良くしただけであんなに動きが良くなるとか、やっぱりおかしいわ……」



 カミナは視界の先で流麗に動き、瞬く間に森ドラゴンを処理していくユニクルフィンを見つめ、ひとり呟いた。


 もしかしてと可能性を感じ、物は試しとユニクルフィンにかけた物理バッファの魔法という名目の嘘。

 医師であるカミナは、人間の思い込みの強さ、『プラシーボ効果』がユニクルフィンに悪影響を及ぼしている可能性を疑っていたのだ。


 聞けば、ユニクルフィンはレベル100になるのに5年の歳月をかけたという。

 それは通常ではありえないことで、変化のない生活を送ったとしても人間社会という名の経験は、一年間でおおよそ100レベル相当の経験値を人に与える。

 明らかに、レベルを上げさせまいとする他者の思惑がある事が伺えるのだ。


 残念なことに、今の情報では真実に辿り着けないとカミナは悟った。

 それゆえに、ミナチルによって明らかにされたもう一つの謎、ユニクルフィンの過去は『英雄見習い』だったという事実を確認することにしたのだ。


 一般的な常識を持ち合わせているカミナは、森ドラゴンの群れに一人で戦いを挑ませるなんて非常識を、普通は絶対にやらせたりしない。

 だが、どう考えても無理な難題をあえて吹っ掛けることで、ユニクルフィンに隠された実力を探ろうと考えた。


 そして、その思惑は見事に結果を出した。

 その証拠に、もう既に森ドラゴンは2匹、活動停止している。



「使い慣れない武器を使って、ミスすることも無く一発で仕留めていってる。こりゃ、模擬戦やらせたらワルトナやレジェ相手なら勝機があるかもね……あくまでルールのある模擬戦では、だけど」



 ふふ。っと声を漏らし、そんな未来があるのなら是非見てみたいと笑顔をこぼしながら、不明瞭だった現状の確認を行う。


 ・ユニクルフィンくんの実力は私達と同等。

 ただし、本人が自分が弱いと思い込んでいる為に、本来の力を引き出せていない可能性が高い。


 そう結論を出し、「なるほどこれは大変なことになった」と確定した現実を悟る。



「常識がズレていて誤解を生みやすいリリンと、思い込みが強くて勘違いしやすいユニクルフィンくんか。これは中々、難儀しそうね」



 リリンが神から授けられたという神託書を直接見せて貰っているカミナ。

 神託が達成されるのはいつの事やら……とため息を吐き、気持ちを切り替える。



「ユニクルフィンくんには5分間、足止めよろしくって言ってたんだったわね。約束を反故にするのも申し訳ないし、そろそろ倒しに行こう。残り時間は、あと三分ね」



 カミナは時計を見ること無く正確な時間を言い当てて、森ヒュドラを見据える。

 進路方向上には残った森ドラゴンが2匹と森ヒュドラ。


 おそらく、手前の森ドラゴンはユニクルフィンが始末するはず。

 ならば護衛をしているらしい奥の森ドラゴンをさっさと片付けて、メインディッシュを倒しに行こう。


 おおよそ戦略と呼べない適当な計画を立て、カミナは走り出す。


 残り時間2分50秒。

 手前の森ドラゴンの横を通り過ぎ、第一目標へ接近。

 すれ違いざまに森ドラゴンの後頭部の角にひじ打ちを喰らわせ、脳を揺らし意識を奪った。


 取り巻きだった6匹の森ドラゴンが敗北したことを知覚し、森ヒュドラが雄叫びをあげ激怒。

 5つもある頭部全てが各々に口を開け、それぞれが得意とする魔法を詠唱し始めた。



「……森ヒュドラを狩るのも久しぶりか。ストレス発散もしたいし、ちょっと手加減はしたくない気分ね」



 眼前5m。紫色に輝く巨体は、冒険者にとって『処刑台』と同意義。

 見るだけで嫌悪し常人ならば近づく事は心が許諾しない。ましてや、獲物と見定まれてしまったのならば、逃れることの出来ない死が待っている。


 そんな森ヒュドラと相対するのは、外見だけはか弱い女性のカミナ。


 カミナは、自身の"脳力"を限界まで引き出すために、まるでスイッチを押すがごとく、左手の甲を2回、叩いた。

 本気の戦闘を行う時にのみ見せる、カミナの覚醒儀式ルーティン

 精神を集中させるためだけの、ただの癖ともよべる他者から見れば意味のない行動。

 だが、それこそが終わりの合図だと、同じパーティだった心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)のみが知っている。


 残り時間2分30秒。

 短く息を吸って、小さく魔法を唱えた。



「《伝達阻害ミステイク》」



 唱えられた魔法は、群れをなす生物の意思の疎通を阻害する、アンチ・バッファ。

 通常ならば利益をもたらすバッファの魔法とは真逆の、損害を与えるためのこの魔法は、通常、一匹の生物に対し使っても何の効果もない。


 しかし、森ヒュドラに至っては例外だった。


 五つある全ての頭が脳を有し、それぞれが独立した思考を持つ森ヒュドラ。

 五匹のヘビが胴体で繋がっていると例えられ、それぞれが別系統の魔法を得意とする。


 しかし、結局、思考が五つもあれど一匹の生物。

 独立した思考ながらも高い協調性を持つ攻撃こそが、森ヒュドラ最大の武器だった。


 だからこそ、カミナは意思の疎通を妨害する。

 放たれた魔法により連携を取る事が出来なくなった森ヒュドラの頭は、各々が必殺の魔法を準備しカミナに襲いかかる。



「おっと、《閃光の敵対者(ライト・エネミー)》」



 残り時間2分3秒。

 最初に放たれたのは、光魔法を得意とする頭の、『消却の光』だった。


 目で見える程に高圧化した光の光線は空中で留まること無く直進し、地面を焦がしながらカミナに迫る。

 照射された大地の土が消滅する中、カミナは焦らず魔力を高め、呪文を唱えた。



「《収束光刀イレイザーメス》」



 魔法を唱え終わったカミナの右手には、光り輝くナイフが出現。

 それを手に走り出し、そして光を放つ森ヒュドラの口の中へと躊躇なく突っ込んだ。



「じゃあね。」



 ただでさえ高密度な光の中に、さらに高密度な光を加える。

 過剰になりすぎた光が森ヒュドラの口の強度を上回り、あえなく頭は爆散した。


 残り時間1分40秒。

 少しペースを上げるかと、カミナは最も得意とする近接系の魔法『迸る栄光の打手(グローリーハンド)』を両手に発動。


 この魔法は最もカミナが得意とし、完璧なコントロールで他者の追随を許さない。

 魔法によって強化された拳は、その存在そのものが一種の魔法と化して森ドラゴンを狙う。


 森ドラゴンはその拳の危険性に気が付き、とっさに土の壁と氷の壁を出現させた。が、時すでに遅し。

 まるで障子紙を破るように簡単に砕け散った壁は、破片を撒き散らしこそすれ、攻撃を無効化できていなかった。


 届いた拳によって歪められた森ヒュドラの頭蓋はミシリ。と一回だけ音を鳴らすと、それ以降、機能することは無かった。

 思考と命を失った2つの頭はだらりと力なく垂れ下がり、二度と起き上がることは無い。



「あと頭二つ!」



 残り時間50秒。

 後は炎の魔法を得意とする頭と風の魔法を得意とする頭が残るのみ。

 魔法で連携が取れないとはいえ、別の頭が失われた事は理解している。

 怒りに我を忘れた森ヒュドラは、甲高い叫び声を上げ、残った二つの頭を燃え上がらせた。


 そして繰り出されたのは、唸る二本の炎の鞭。

 風の魔法で速度を上乗せし、容易に音速を超えてカミナを打ち付ける。


 しかし、カミナはそれぞれを片手で受け止めていた。

 掴まれた頭はギリギリと音を立てるだけで、もう、どこにも逃げ場など存在しない。


 そして、カミナは無理やりに頭を引き合わせ、衝突させた。

 ゴキリと鈍い音と共に、カミナは勝利宣言を飛ばす。



「あら?30秒、余ったわ」



 んーもうちょっと暴れたいわね……。

 そんな事を考えながら、そういえばユニクルフィンくんはどうなったかな?と振り返った。


 そして目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景。

 まずは森ドラゴンが6匹地面に倒れている。これは予定通りでいい結果だ。

 問題なのは、その横で未だに戦闘が続いているということ。



「おい!てめぇら何しやがるッ!?この野郎、集団でこっちくんな!」

「「「ぐるぐるげっげー!(怒り×30匹)」」」


「こいつ!意外とくちばしが鋭いんだけど!?おい、やめろって!」

「「「ぐるぐるげっげーっっっ!!(怒り×30匹)」」」


「あ、ちょ、そんな所つつくなって……あ、ぐ、ぐるぐるげっげー!!」



「……森ドラを簡単に倒しておいて、鳶色鳥に苦戦とか。ホント、不思議な生物よね。ユニクルフィンくんって」



 カミナは、タヌキの代わりに研究材料にしようかしらと冗談を飛ばしつつ、ユニクルフィンの救出に向かった。




 **********



「すまん、マジで助かった。途中まではいい感じだったんだけど……」

「鳶色鳥とか苦戦する様な相手じゃないでしょ?」


「……このゲロ鳥の数だけ流れた涙があると思うと、殺す気になれなくてな」

「……確かに」



 はぁ、マジで危なかった。

 ドラゴン団子に続き、ゲロ鳥団子で窒息するかと思ったぜ!


 俺は五匹目の森ドラゴンを倒した後、走っていくカミナさんの後ろ姿に視線を合わせた。

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の中で、もっとも近接戦闘が得意というカミナさんの戦いをこの目で見るためだ。


 その結果……。

 森ヒュドラ、絶死。


 そもそも、初っ端から護衛の森ドラをひじ打ちで堕とすという人知を超えた離れ技で戦闘が始まった訳だが、ちょいちょい理解できない場面があった。

 明らかに防御の為に作った壁をぶち抜いて殴るとか、音速で迫る頭を片手で鷲掴みにしたりとか。


 なにこれ、演劇かな?と現実逃避をしそうになりながらも現実を受け入れていると、俺の背後から忍び寄る影が30匹。

 倒した森ドラゴンの背中の森から放たれた、生体兵器が近づいていたのだ。


 ぐるぐるげっげ―と鳴くコイツらは、この前見たゲロ鳥よりの色つやが良く、明らかに高品質なものを食っている様子。

 そして、馬鹿みたいに声高く鳴きながら、俺に襲いかかってきやがった。



「んで、今に至る訳だけど、これからどうするんだ?」

「勿論、研究室に持ち込んで解剖するわよ?見たい?」


「そんなグロいもん、見たくねえよ!」

「慣れると楽しいわよ? 検死解剖」


「なるほど、カミナさんは慣れるほど検死をしているんですね!」

「……あなたも、検体にしてやろうかー!」


「断る!!というか、森ドラ倒したんだし、借金はチャラってことでいいんだよな?」

「勿論そうよ。これでユニクルフィンくんは無罪放免となりました!」



 よっしゃあぁぁ!!俺は自由だ!!


 ちょっとだけ大げさに喜んで、嬉しさをアピール。

 先ほどの戦いを見て、俺は心に決めた事がある。


 カミナさんには、絶対に逆らわないようにしよう。



「さて、後は短剣を回収して帰るだけ。さっさとやって病院に戻りましょ?」



 短剣の回収?

 それもそうだよな。高級そうな魔道具の短剣を使い捨てにする訳無いし。


 そう思いながら森ドラゴンを眺めて、ふと、自分の過ちに気が付く。


 一本、口の中に刺しちゃたんだけど。

 涎とかでアレな事になってたら、どうしよう……。


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