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第47話「決戦!森ヒュドラ」

「カミナさん?本気なのか?」

「えぇ、半分くらいはね」


「本気で言っているその理由と、残りのもう半分を教えて貰っても?」

「んーたぶん、私がちょちょいと戦闘条件を整えてあげれば、ユニクルフィンくんなら倒せると思うのよね。そして、もう一つは……」


「もう一つは……?」

「……ノリかな」


「そんな軽い理由で死地に飛び込めってか!?断るッ!!」



 ふざけんな!そんな軽い気持ちで化物の住処を襲撃するとか、どう考えても納得できねぇけど!?


 第一、カミナさんなら一人でどうにかできるというし、わざわざ、俺が行って危険を冒すことも無いだろ。

 現状、俺にまったくのメリットが無いしな。



「……そういえば、ユニクルフィンくんが木端微塵にぶち壊してくれた病院の入口ね、修繕費に7億エドロくらいかかりそうなの」

「な、7億!?2億って話だっただろ!?」


「それは、入口のガラスだけだったらの話。よく点検してみたら、基礎フレームにヒビが入っちゃってて」

「基礎フレーム……。」


「第九守護天使の魔法陣を刻んであるフレームだから、そう簡単には壊れないはずなの。でも、グラムで斬っちゃったから、ね?」

「あぁ……。全力でぶった切ったからな……」


「あは。選択肢は三つよ?耳を揃えて7億エドロ払うか、森ドラ倒してお金にするか、……1ヵ月、入院するか」

「1か月の入院!?1ヶ月後、無事に退院できる気がしねぇんだけどッ!?」


「あはは、大ジョーブ大ジョーブ。全世界の医療のいしずえとなって貰うだけだから」

「それっぽい事言ってるけど、要は俺で実験したいだけだろッ!?結局、選択肢が一つしかねぇ!」


「ごめんねぇ。ほら、私、悪魔デヴィルだから優しくないの」



 ハツラツとした声で、自らの事を悪魔デヴィルと言いきったカミナさん。

 優しい笑顔を浮かべているが、完全に脅迫である。

 俺は事あるごとに悪魔デヴィルと野次を飛ばしてしまったことを物凄く後悔しつつ、残された選択肢を吟味した。


 森ドラゴンとは一度戦った。

 その時はタヌキと一緒だったけど、なんだかんだ一人でもやれそうな気はする。

 カミナさんの補助もあるらしいし、やってみてもいいんじゃないだろうか。


 俺はひっそりと決意を固め、そして、カミナさんに決意を示した。



「俺が相手をするのは、森ドラゴンでいいんだよな?……やるよ。森ドラゴンなんて、でかいトカゲ見たいなもんだろ!」

「よし良い意気込みで、ちゃんと男の子してるわね!せっかくだし、私達、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)がどんなチームプレイをしていたかを体験させてあげてもいいわよ?」



 ……。

 ……それは、ちょっと、遠慮したいかな。



 ***********



「見て、あの草原一体が森ドラゴンの繁殖地よ。今、近くにいる森ドラゴンは6体。そして、森ヒュドラが一匹ね」

「……6匹か。思ってたよりかは少ないな」



 カミナさんの申し出をやんわりと断りつつ、俺達は茂みの中に身を隠して森ドラゴン達の様子を窺う。

 視界の先には何匹かの森ドラゴンと一際大きい紫色の巨体竜がのんびり日向ぼっこをしていた。


 どうみても、朝飯を食った後のお昼寝タイム中。

 揃いも揃って背中の木々に日光を当てて、光合成をさせているようだ。



「あいつら、ずいぶん気持ちよさそうに昼寝をしているな」

「森ドラはああやって背中の植物を育てておいて、有事の際の非常食を確保するのよ」


「非常食?肉食だと思ってたが、違うんだな?」

「雑食性だけど、どちらかといえば肉食寄りね。ほら、よーく見て。森ドラの背中の森を」


「背中……?ん?……んんッ!?!?」



 カミナさんが指差した森ドラゴンの背中の森。

 その森には潤沢に果実が実り、まるで果実園のようだった。

 そして、熟れた果実を求めてやって来たのか、トンデモナイ生物が、あろう事か巣を作っていたのだ。


 人間の住む町から逃げ出してきたであろう、偉大なる女王陛下から贈られた親愛の証。

 ぐるぐるげっげ―と鳴く彼の鳥たちは知っていたのだ。

 この森ドラゴンに真っ当に近づける外敵など、殆どいないという事を。


 様々な人から親愛と侮蔑をこめて、ゲロ鳥と呼ばれ慕われている彼の鳥たち。

 ざっと数えただけで30匹以上のゲロ鳥の群れは、潤沢に実った果実をたらふく食って、どいつもこいつもブクブクに太っていた。


 ……必死こいて探しても、そりゃ見つからねぇよな。

 アホそうな顔している癖に、どうやら結構、賢いらしい。



「うわ……。この光景を冒険者連中が見たら、絶句するだろうな」

「えぇ。ホント、レジェは嫌らしいシステムを作ったわね……」



 レベル2000も無いゲロ鳥が森ドラゴンの背中に住まう。

 これは、自然界の共生という奴だろうか。


 ……いや、森ドラゴンの非常食なんだっけ?

 そう言えばホロビノにもゲロ鳥をよく食わせてたとかリリンが言ってたな。


 ぐるぐるげっげー!!



「ゲロ鳥は放置するとして、どう戦えばいいんだ?流石に全部倒すのは容易じゃなさそうだぞ?」

「えぇ、もちろん策があるわ。ユニクルフィンくんにはこの魔道具を貸してあげる」



 ……魔道具?

 俺が疑問に首をかしげていると、カミナさんは空間から7本の短剣を取り出した。

 持ち手のすぐ上に変なダイヤルが付き、刃渡りは30センチほど。


 どうやらこの短剣が今回の切り札のようである。



「さっきもしれっと、絶対切断の効果を持ったナイフとか出してたけど、どうせこれもロクでもない代物なんだろうなぁ……」

「あら?ロクでもないと言っても、リリンの魔王デモンシリーズ程じゃないわよ。この短剣は」


「……で。効果は?」

「刺した生物の意識を奪い、仮死状態にするわ」


「十分にロクでもねぇよ!一撃必殺じゃねえか!」



 ほら見ろ。やっぱりロクでも無いくらいに凄まじい効果の魔道具だ。


 刺しただけで意識を奪うとか、対策不可能じゃねえか。

 効果を知らなかったら本当にどうしようもなく、仮死状態にされた後、心無き(アンハート)な運命をたどることになるのだろう。



「ま、破滅鹿の角と同じ効果と思ってくれればいいわ。この短剣なら殺す事もなく無力化が出来るし、必要以上に生態系を壊さなくていいから、エコよね!」

「……一度やると言ったからにはやるが、一応言わせてくれ。カミナさんが刺しに行った方が速いだろ!」


「森ヒュドラは意外と淡白で薄情なの。取り巻きの森ドラが全滅したと分かれば、さっさと逃げ出すわ。空も飛ぶし、逃げられると面倒なのよね」



 どうやら、森ヒュドラは空を飛ぶらしい。

 ただでさえでかい森ドラよりの一回り大きく、サイズは20mを超えている。

 そんな大きさで空を飛ぶとか、それだけで凄まじい脅威だ。


 確かに、空に逃げられると非常に困る。

 乗り物ドラゴンのホロビノは何処かに行ってしまったし、空からアレルギー物質を撒き散らされでもしたら迷惑極まりない。


 カミナさんの言うとおり、二手に分かれてさっさと討伐した方が良いだろう。



「分かった。俺は森ドラにその短剣を刺してくればいいんだな?」

「そういうこと。狙う場所は首と顎のつなぎ目が良いわ。そこに刺せれば一瞬で意識を奪えるから」



 首のつなぎ目?そんな所を刺したら、そのまま死にそうなんだが?


 まぁ、医者であるカミナさんが言うのだ。

 特に問題ないのだろう。


 俺はカミナさんから7本の短剣を受け取り腰に刺した後、グラムを背中に背負う。

 速度重視で、さっさと終わらそう。



「じゃ、俺は先に行くぞ?」

「ちょっと待って、ユニクルフィンくんにとっておきのバッファを掛けてあげるわ」


「とっておき?へぇ、ちょっと興味あるな」

「じゃ、背筋を伸ばして背中を見せて?」


「……?こうか?」

「んーそうそう。ちょっとチクッてするわね?」



 ドスッ!



 ぐあぁぁぁぁ!!

 な、何をしやがるッ!!


 俺は抗議の声を上げようと後ろを振り向こうとして、体が全く動かない事に気が付く。

 おい、どうなってやがる!?

 バッファの魔法を使うんじゃなかったのか??


 俺は目だけで抗議の視線を送る。

 そして、想定内だったらしく、しっかりとカミナさんに伝わった。



「もーそんなに睨まないで?これはちゃんと、バッファよ?」

「ふー!ふー!!」


「え?魔法じゃないって?……やだなぁ、誰もバッファの魔法(・・)だなんて言っていないわ。針を使って体のツボを開放する、『物理的バッファ』よ」



 ふざけんな!そういうことは早く言えよ!


 再び抗議の視線を送ろうとしたその時、カミナさんは俺の背中に刺した針を引き抜いた。

 そして、俺の体の中で、ほとばしる何かが駆け巡る。



「ほぉおおおおお!?力が、みなぎるぅううう!!」

「そうでしょ?人間本来の力を完全に引き出したのが今の状態よ。さぁ、いってらっしゃい」



 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 たぎる!みなぎる!ほとばしるぅううう!!


 俺は平和そうに日向ぼっこしている森ドラゴンの群れに突撃を繰り出した。

 溢れ出る力に体を任せ、叫びながらの全力疾走。


 一歩一歩踏み出す度に、鎧とグラムの効果を調整し、人間の限界を超えた速さを引き出す。

 いきなりの闖入者に手前に居た森ドラゴン2匹が反応を見せ、ゆっくりと鎌首をもたげ上げて何事かと、頭を俺に向けた。



「遅いぜ!」



 森ドラゴンの頭の下に滑り込みながら、腰に刺していた短剣を一本抜く。

 確か、リリンは鱗のある生物は鱗を逆撫でするように刃を刺すと、容易に刃が通ると言っていた。


 目に映るのは流麗に流れている輝く鱗。

 ちょっとだけ隆起した所から察するに、ここが喉仏で、首と頭のつなぎ目だな。


 狙うべき場所を完全に目で捉え、すっと力を込めて、一撃。



 ドシュ!という機械音と堅い鱗を突き破る確かな手ごたえ。

 突き刺した勢いのまま頭の下から離脱し、森ドラゴンの状態を確認。


 ふらりを体を揺らし、白目をむいて森ドラゴンは倒れた。

 どうやら魔道具はしっかりと効果を発揮し、森ドラの意識を奪ったようだ。



「お?残りにも、気付かれたか!」



 その光景を訝しげに見ていた森ドラゴン達は、仲間が倒されたことを理解し、一様に立ち上がった。

 ギロリと俺に敵意を向け、鱗をギラギラと乱反射させている。



「ふっ!」



 俺は短く息を吐いて、鎧のバッファを全開にした。

 最軽量化と速度上昇。


 いくら絶対的な攻撃力を森ドラゴンが持っていようとも、喰らわなければ問題ない。

 爆ぜる地面を器用に回避しながら、視野の中央に位置どっている森ドラゴンに駆けよって、乱雑にナイフを突き刺す。



「残念だったな。魔法が乱射される中を走り抜けるのは、慣れてるんだ」



 心無き訓練を思い出しながら、2匹目の森ドラゴンを鎮めた。

 ……あと、4匹。



「「ドラドラドラァ!」」



 今度は2匹同時に、襲いかかって来る。

 それならばと俺も腰から2本の短剣を抜き、やったこともないけど、双剣の構え。


 ……ノリでやったけど、どうすんだこれ?

 えぇい!面倒だ!!



「そぉい!せぇい!!」



 よく考えても、双剣の使い方とか分からなかったので、力押しでなんとかすることにした。

 俺を噛みちぎろうと牙をむいた森ドラの口の中に一本、頭突きをしようとしてきた額に一本、短剣を突き刺してから戦線離脱。


 力なく倒れていく森ドラゴンを確認し、これで残るは後2体。

 一匹は目の前5m先で直ぐそこだ。

 もう一匹は森ヒュドラの近くで護衛をしているようだ。


 状況を確認し、まずは手前からと腰の短剣に手を伸ばした瞬間、俺の後方から地面が爆発するような音が聞こえ、何かが俺の横を通り過ぎて行く。

 頬をかすめた風圧でさえ、相当な衝撃。

 俺同様、何かが体をかすめた森ドラゴンは、その風圧でバランスを崩したほどだ。


 瞬く間に森ヒュドラに近づいて行く後ろ姿は、セント・オファニム博愛大医院に住まう、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。再生輪廻・カミナガンデ。


 俺は目の前の森ドラゴンの首筋に短剣を突き刺しつつ、カミナさんが護衛の森ドラゴンをブン殴る音を聞いた。



 **********



「……森ヒュドラを狩るのも久しぶりか。ストレス発散もしたいし、ちょっと手加減はしたくない気分ね」



 素手での一撃で森ドラゴンを沈めたカミナは、自分よりも10倍以上も大きい強きドラゴンを見据え、嬉しそうにつぶやいた。


 そんなカミナを見返すのは、感情の籠っていない十の瞳。

 五頭を持つ森ヒュドラのどこまでも冷めた瞳は、突然現れた生物を"外敵"と理解し、大きく開いた口が、呼気と共に魔法を吐き出す。



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