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第34話「化物竜とタヌキ将軍~ユニクと共に~」

「本当にタヌキと共闘している……ほとんど冗談だったのに……」



 森ドラゴンとタヌキ、そしてユニクルフィンを遠目に眺めながら、リリンサは呟いた。


 リリンサは少々、困惑気味だった。

 ユニクルフィンとの関係性を大きく進めるためカミナのもとを訪れたリリンサだったが、めまぐるしく新しい情報がもたらされたからだ。


 未だ情報を整理しきれていない中で、しかと心に刻み込んでいる事は二つ。

 一つはユニクルフィンと自分の関係性に仇をなす存在が、複数存在しているという事。

 そしてもう一つは、ユニクルフィンはやはり、タヌキが好きだという事。


 心理学に精通するカミナでさえ混乱させたリリンの思い込みの強さは、そうそう簡単に修正されるものでは無かった。

 今も、カミナが言った『ケモナー』という部分だけを切りとり、タヌキとの共闘を半ば冗談として提案するくらいには深刻。


 そして、それをこなしてしまうユニクルフィンの器用さも事態に拍車を掛けた。

 最早、戦闘訓練などどうでもよくなったリリンサは、ワクワクとした表情をほんの少しだけ覗かせて、ポツリと声を発した。



「ユニク……がんばって」



 **********



「いい感じに体が温まって来たな!お前もそうだろ?タヌキ」

「ヴィギー!」



 颯爽と森を駆け抜ける二つの影。

 ……俺とタヌキだ。


 気持ちよく先制攻撃を入れた事を皮切りに、俺達は一撃離脱を繰り返していた。

 でも、こんな面白状況になりつつも、意外と事態は深刻だったりする。

 レベルが88000もある森ドラゴンが怒りにまかせ暴れまわっているのだ。


 今も四本の足をバタつかせ、大地を激震させている。

 一本の脚が大地に叩きつけられるたびに、細かくなった森の残骸が撒き上がり、土煙となる。

 その爆音は通常ならば、相手として戦っている人間やタヌキを震え上がらせる事だろう。


 だがな、森ドラゴンよ。

 俺達にそんなちゃっちい威嚇は効かない。

 そりゃ、そんな足で蹴飛ばされたら痛いだろうなとは思うが、それだけだ。


 なにせ、俺は大悪魔の心無き訓練(リリンのボディラン)を受けている。

 そしてタヌキも似たようなものらしく、平然と平常心を保ってるっぽい。


 さて、森ドラゴンの動きも単調になって来たし、そろそろ別の事でも試すとするか。

 そういえば、鎧の機能で相手を興奮させるってのがあった。

 怒りまくってるコイツに使ったら面白そうだな。

 ……やってみるか!


 俺はまず使い方を知るべく、リリンに大声で訪ねた。



「リリン!アロマの香りってどうやって使うんだ?」

「どんな事をしたいのか考えて、魔力を流せば後は自動的にやってくれる」


「わかった、魔力を流せばいいんだな!」



 ふむ、なんて簡単なんだろうか。

 魔力を流すだけなんて、グラムの中を循環させることに比べたら雑作も無い。


 やりたい事を考えて……か。


 ……あいつを興奮させたい。

 興奮させて、暴走状態にして、理性を奪おう。

 そうすれば不意を突くのも簡単だしな。


 だんだんと俺の頭の中でイメージが膨らんでいく。そして、それに呼応するかのように、ほのかに鎧から甘い匂いがしてきた。

 花とも果実ともいえるような匂い。

 こんな匂いで効果があるのだろうかと思ってしまうが、リリンが間違ったことを言うとも思えない。


 今だ森ドラゴンに変化なし。

 距離があるために匂いが届いていないのか?

 せっかくだし、森ドラゴンの鼻先に体当たりでもしてみよう。


 鎧とグラムの機能のおかげで素早く動ける事が出来るようになった俺は、調子に乗ってアホな事を考えた。

 うん、本当にアホだと思う。


 ……良く周りも見ないで走り出した結果、タヌキと正面衝突することになるなんて、まったく考えてもいなかった。

 しかも……。



「あ、すまん、タヌキ!」

「ヴ…………」


「う”?」

「ヴギルギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」



 ひ、ひぃ!

 とんでもない事になったんだけどッ!!


 森ドラゴンを興奮させようと思ったのに、あろうことか、タヌキを興奮させちまった!

 今まで何処か余裕のあったタヌキの態度が一変して、激怒の表情になっちまってる!!


 これは、もしや、伝説の……

 俺の目の前には阿修羅のように仁王立ちする、一匹の魔獣。


 心無き魔獣達の統括者(アンハートビースト)


 俺の妄想の限りを尽くした最悪のエピソードの中の、人類にとっての大厄災が、今、ここに誕生してしまったのだ。


 やがて心無き魔獣達の統括者(アンハートビースト)はユラリと体を前かがみにぐらつかせた。

 そして、一瞬のうちに森ドラゴンに迫り、腕を振りあげる。



「ヴィギィィィィー……ヴッ!ヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッ ヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッ……ヴィギラァッッ!!!」

「ドゥ……ラッ……」



 タヌキ、怒りの大連撃!!


 タヌキはこぶし大の石を二つ拾い上げると両手で一個ずつ握り締め、超高速連撃を繰り出したのだ。

 その拳は森ドラゴンの目の近く、生命にとっての急所となるべき場所を穿ち、森ドラゴンに深い傷を負わせた。


 なんと森ドラゴンはタヌキの攻撃で左目を負傷してしまったのだ。

 血がだらだらと流れ、瞼は重く閉じられた。


 ……どう見ても堅そうなドラゴンの鱗を貫通してダメージと与えるタヌキとか、何それ超怖い。ドラゴンそのものよりも5倍くらい怖い。

 あんなの受けたら、第九守護天使セラフィムを突き破るんじゃないだろうか。


 俺は思わぬ力をタヌキに与えてしまった事に戦慄を覚えつつ、戦いに参加しようと、森ドラゴンに近づく。

 せっかくだし、俺も手数で勝負してみるか。



「いくぜ!うおらぁオラオラオラオラオラオラオラオラッッ!!」

「ヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴィギィッヴギィッッ!!」



 さらに響く連撃。

 グラムを最軽量化して、可能な限り速く、森ドラゴンの腹にグラムを叩きつけていく。

 俺が今使っているのは惑星重力操作だけ。

 グラムの絶対破壊付与は必殺技だからな。最後の最後まで取っておくぜ!


 苛烈に続いている俺とタヌキの連撃は確実に森ドラゴンに傷を負わせていった。

 だけど、いくら一方的とはいえ、ただ斬るだけでも結構疲れるもんだな。

 俺はそんな事を思いながら、愚直に攻撃を仕掛ける。

 ほんの少し、気を緩めながら。


 そして、気が緩んだのは俺だけじゃなかった。

 タヌキもまた気を緩め、気が付かないうちに、森ドラゴンにわずかな反撃の余地を与えてしまったのだ。



「ドッウ!《ド・ドュルグルール!》」

「ん?なん――」

「ヴィギ――」



 一瞬にして目の前が緑色の閃光に包まれた。


 これは、失敗したかもしれない。

 いきなりの閃光で目の前がチカチカしてしまっている。


 予想外の出来事に体が付いてこないでいると、グイッと真後ろに腕を引っ張られ、みるみる内に森ドラゴンから離れていく。

 リリンが俺とタヌキを回収して、戦線を離脱したのだ。



「ユニク。流石に油断し過ぎ。いくら第九守護天使セラフィムがあるとはいえ、竜魔法を近くで受けるのはオススメしない」

「おう……すまん助かったぜ!」

「ヴィァ!」


「さて、これは珍しい状況になった。森ドラゴンはついに本気を出すらしい。背中の翼を展開させて完全攻撃形態になった」

「完全攻撃形態……そんなに珍しいのか?」


「うん。普通はあまりこういう状況に出くわす事は無い。森ドラゴンと害敵の力が拮抗し、お互いの生存をかけた戦いの時にしかみる事は出来ないから」

「何かが変わるのか?」


「触手が、息つく間もなく飛んでくるようになる」

「は?」



 俺はリリンが指差した方向へ視線を向けた。

 そこには、真緑を通り越して、暗緑色となった森ドラゴンがいる。

 目に見える変化は他にもあった。


 先ほどまでは折りたたまれ器のようにっていた翼が完全に開き、天高く突き上がっているのだ。

 それに伴って、翼の中に蓄えていたであろう土がザァッとこぼれ落ち、隠れていた森ドラゴンの地肌が空気に晒された。

 そして、翼には瞳をイメージさせるような凶悪な魔法陣が無数に浮かびあがり、その一つ一つが虹色に輝き光を発している。


「来るよユニク、衝撃に備えて」

「……!なんだありゃぁぁぁぁぁ!!」


 リリンが声を発したのとほぼ同時に、森ドラゴンの翼がどこまでも暗い緑色で塗り潰され、そして……


 翼全体と同化し見えなくなった魔法陣から無数の触手が放たれ、俺とタヌキとリリンに襲いかかったのだ。


「ぐっ!?なんだこの触手!!ぶにょんぶにょんして感触が気持ち悪い!!」

「ユニク、この触手に直接触れたら即死するからあまり触らないで。見て、触手が突き刺した木の養分が吸われてミイラ化している」


「いやッちょっと待て!?そんな危険な状況だったのかよ!?さっさと脱出しねぇとヤバいじゃねぇか!」


 俺とリリンを取り巻く、圧倒的な触手の物量。

 視界一面、暗緑色の触手で覆い尽くされ、かろうじて見える木々は全て色を失い枯れ果てている。


 正真正銘、森ドラゴンの必殺技。

 自分の周囲から強制的に養分、いや、命そのものを吸い上げているのだろう。


 それでも、俺達は第九守護天使セラフィムがあるから無事だ。

 だが、俺は忘れていない。

 この場には俺と熱き戦いを繰り広げた戦友、タヌキ将軍がいるという事を。



「タヌキッッ!!」



 俺はとっさにアイツの名前を叫んでいた。

 あぁ、まさかお前との因縁が、こんな形で幕を下ろされるとは……。


 お前の事は忘れないよ、タヌキ。

 週一くらいで思い出して、うまい飯を食ってやるからな。



「ヴィーギィー!」



 ……なんか、幻聴が聞こえたんだけど。

 あれおかしいな。この状況で生存は絶望的なはず。生きてる筈が……



「ユニク、安心して欲しい。タヌキにもちゃんと第九守護天使セラフィムを掛けた」

「……おう……。」



 おう……。

 リリンってば、なんて優しいんだろう。

 たかが野生のタヌキに最高ランクの防御魔法を使うなんて。


 ……まさか俺の妄想の通りに、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に勧誘するつもりじゃないだろうな?

 絶対に嫌なんだけど。

 ここはリリンに見捨てられないように、ちょっとでもカッコイイ所を見せとかないと!


 俺は、慌てながらも、慎重にグラムの絶対破壊付与を発動させた。



「リリン、そろそろ決着を付けたい。いいよな?」

「そうだね。ユニク、ふぁいと!」



 俺は今も迫りくる触手の荒波を、横一文字に薙ぎ払った。


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