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第31話「化物竜と魔獣将」

「ヴィギルア……」



 そのタヌキ将軍は、自分の置かれた状況を省みて、小さく鳴き声を漏らした。

 どうしてこうなってしまったのか、何が間違っていたのか。目の前の強きドラゴンを前にしても、その思考が完全に晴れない。


 確か自分は、普通のタヌキだったはずだ。

 ただ、ちょっとばかり仲間よりも魔法の扱いがうまく、何度も何度も人間(外敵)を退けてきただけ。

 だけど、いつからか自分は群れの長となり、意識しないままに『タヌキ将軍(ジェネラル)』などと呼ばれるようになっていた。


 何もかもが手探りで進む、苦労と努力の日々。

 それでも、一定水準の強さに達してからは、安寧と充足に満ち溢れた日々が続くと思っていた。


 だが、出会ってしまった。

 この世の理不尽を全て集めて鍋で煮詰めたかのような、理解できない範疇の強きタヌキ(帝王)に。


 タヌキ帝王カイゼルが一匹、『ソドム』は言った。

『俺と一緒に旅に出ろ。世界の歴史と理を教えてやる』

 今思えば、この誘いに乗ったのが、そもそもの間違いだった。


 しかし、名もなきタヌキ将軍の心はときめいた。

 今まで過ごしてきた自分の人生(タヌキ生)、思考錯誤の繰り返しであったものの、今の今まで、自分よりも上位のタヌキに出会ったことが無かった。

 それゆえに、断るという選択肢に思い至らなかったのだ。


 憧れ、恐怖。

 羨望、嫉妬。

 向上心、自尊心。


 様々な感情に突き動かされ、その道を選択したタヌキ将軍。

 そして、この決断が、思いもよらない方向へと運命を捻じ曲げた。


 ついこの間、人間のつがいに殺されかけた。


 ソドムに連れられて行った先にいた人間。

 レベルは自分よりも低く、勝てない相手じゃないとタヌキ将軍は思った。

「訓練がてら、戦って来い」そうソドムに促され、見物に来ていた手下を下がらせた後、一匹で姿を現す。


 そして、殺されかけた。


 ソドムが時々、気まぐれで使う大魔法に酷似した煌びやかな空。

 あの魔法は今の自分では受け止めきれず、自分一匹では生存する手段が見当たらない。

 何がどうして、こんなことに――。

 嘆く自分を奮い立たせ、最後の瞬間まで、恥じぬ人生(タヌキ生)だったと誇れるように、歩みを進めた。

 ……訳では無く。


 ……助けて欲しいな。頑張ってるから、助けて欲しいな……!


 唯一実現しそうな生存への道。

 あの大魔法でさえも、ソドムなら難なく切り抜ける。

 一切の揺らぎも無くその結論に至ったタヌキ将軍の必死のアピールは、奇しくも、敵である人間に届いた。



「この魔法を見ても立ち向かってくるなんて、素直に感服した」



 ……違う!そうじゃない!!

 というか、感動するなら、助けてくれ!!

 心の中で絶叫しながらも、事態は刻一刻と進んでいく。



「決着をつけるね」



 あ、全力で来るらしい。もう、オワタ……

 人間が本気を出したのを見て、心が折れそうになりながらも、タヌキ将軍は破れかぶれの特攻を繰り出し、そして……。


 生きながらえた。

 そして、あまりの奇跡に感情が高ぶり暴走して、弱そうな方を亡き者にしてやろうかと思ってしまった。


 そのせいで、ソドムから『我らが任務、忘れたのか?』とこっ酷く怒られ、今に至る。

 あれから、何度もやってくる死地。

 白いドラゴンに喧嘩を売って来いと言われた時など、ソドムの助けが無ければ死んでいた、と苦言をこぼしながら現実に向き合う。


 ……目の前には、ドラゴンがいる。

 それも、よく食料として捕っているトカゲもどき(黒土竜)では無く、本物の強き、”ドラゴン”。


「今回は助けてやらない」

 そうソドムから告げられている為に、援軍も期待できそうにない。


 さて、どうしたものかとタヌキ将軍は視線を彷徨わせる。

 とりあえず怒らせてみたものの、明確に表わされている神の保証する数字が重くのしかかっているのだ。



 ―レベル88100―



 ……。



「あのドラゴンを倒してこい。出来るか出来ないかじゃない。出来るということを証明しろ。やれるな?『アルカ』」



 タヌキ将軍は言いつけられた無理難題を思い出し、今度は声に出さずに溜め息を吐いた。。


『アルカ』

 それは、ソドムによって付けられた、このタヌキ将軍の名前だ。

 本当は『アルカディア』と名付けたくせに、「やっぱ長いから略すか」といい加減な事を言い出したソドムに対し、アルカは言いたい事が山ほどある。


 ……どれだけ言えるかな?

 このドラゴンを倒したらちょっとは強くなって、ほんの少しでも文句を言えるかもしれない。


 前向きに思考を切り替え、決意と共に、「《ヴィギュリア・ヴィギュリオ》」と魔法を唱えた。



 **********



「なんだこの状況ッ!!まったく微塵も意味が分からねぇッッ!?!?」

「タヌキ……というか、タヌキ将軍がエンシェント・森・ドラゴンに喧嘩を売っているらしい。ほら、”森ドラ”の尻尾の根元を見て欲しい」


「……綺麗な歯形だな」

「うん……。あそこはお尻に近く、とてもデリケートな部分。ドラゴンはあそこを攻撃されると、とても怒る」



 ツッコミどころがいっぱいあるんだが、どうしてくれようか。

 軽めの奴から行くか。


 ……リリン。いくら名前が長いからって、”森ドラ”は無いんじゃないか?

 そんなに可愛い響きで呼んじゃいけない奴だろ、絶対。


 俺の目の前には、真緑に輝く巨体。

 体長10m。いや、尻尾まで厳密に測れば15mは余裕で超えそう。

 全身ムッキムキのマッチョボディで四足歩行、羽は変な器のような形になっている。

 そして、その器の中には木が生い茂っている。

 というか、軽く、”森”だ。

 うん、何本も木が生えているし、蔦やら花やら木の実やらで、明らかに森だ。


 そんでもって、なぜか体が真緑に輝いている。

 緑というと自然的なイメージがあるが、アレはどう見ても……攻撃的すぎる。


 チカチカと点滅するように光を放つ鱗。

 光というより、光線といった方が近いのかもしれない。

 その光が何本も重なって、一際色を濃くして、そして……


 たまたま近くを通り掛った虫に接触。

 その虫は、ジュ。っと音を立てた後、干からびて死んだ。


 ……は?

 意味不明すぎるッ!?

 軽い気持ちでツッコミを入れて良い奴じゃなかった!



「リリン?何あのドラゴン?虫が干からびて死んだんだけど?」

「そう。それが森ドラの竜魔法(ドラゴンアーツ)。ドラゴンにして植物を操るから、エンシェント・森・ドラゴン。魔法を駆使して、植物が行うような現象を擬似的に引き起こす。今のはたぶん水分を吸い取ったのだと思う」


「やっべぇ……普通に化け物じゃないか……」

「まぁ、ランクが9に近いし、多少はね?」


「何が「多少はね?」だよッ!?全然、察することができねぇぞッッ!!」



 リリン。なんだその「え?なに当たり前のことを言っているの?」みたいな平均的な驚き顔は。

 俺にとっちゃ、そんな化け物は日常の範囲外……でもなくはないけど、それでも異常事態なんだよ。


 第一、魔法を操る竜なんて……いっぱいいるか。

 というか、俺が知っている竜は全て魔法を使うな。


 あれ?今更な気もしてきたぞ……?

 俺は湧きあがった疑惑を確認するため、リリンに話しかけた。



「なぁ、あの森ドラゴンってどのくらい強いんだ?」

人形兎バニードール破滅鹿ディアーボロス聖域蟻サンクチュアリ、どれもこれも瞬殺するレベル。というか、普通に餌」


「……おう……。」

「ちなみに、この森で、森ドラより強い生物はいないはず。ここら辺の野生動物の生態系の頂点にいるのがあのドラゴン」


「……あぁ、よく分かった。うん、アレが強いってことは良く分かったぞ……。そんだけヤバいって分かってて依頼を受けようとか良く言えたなッ!!」

「ん、レベル上げにはちょうどいいかと思った。そしてその読みは正しかった」


「読みが正しい?」

「見て、あのタヌキ将軍は間違いなく戦おうとしている。つまり、自分よりも格上な生物にも恐れる事は無く、高みを目指しているということ」


「……。」



 ……。

 あぁ、見ないようにしてたんだが、リリンに促されてしまった。


 うん、タヌキだ。

 もっと言うと、頭にカッコイイ”×マーク”があるからタヌキ将軍だな。

 レベル、64450……?


 つーかお前、この間のタヌキ将軍だろ。

 たった数日で、1万近くレベルを上げてんじゃねぇよ。



「いるな、タヌキ。というか、アイツ見覚えがあるんだが?」

「体の大きさとか見るに同じ個体な気がする。だけど、レベルの上がり方が少々おかしい。どうみても、レベル上げをしているっぽい」


「信じたくないが……そうみたいだな」

「……ユニク。これは由々しき事態」


「ん?」

「ユニクは森ドラと戦うのは嫌と言った。しかし、タヌキはそれを望んだ。この差は決して埋まるものではない」


「……。」

「あのタヌキは強くなる。そして、一見して無謀とも思える無茶をするのはたぶん、私とユニクに敗北したから」


「…………。」

「さらに力を付けたあのタヌキに、ユニクは勝つ自信がある?もしないなら……」



 リリンはそこまで言って言葉を切った。

 後は察しろということか?


 あぁ分かった。察してやろうじゃないか。

 俺は全力全開で思考を巡らせ、迫りくる未来の可能性を検証した。



 **********



「ユニク。今まで世話になった。あなたを心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)から破門したい」

「えッ!?急にどうしたリリン?いきなり破門なんて……」


「ユニクには才能があると思っている。けれど中々レベルが育たない。これでは他のメンバーと釣り合いが取れない」

「ちょっと待ってくれッ!俺、頑張るし、リリンもパートナーがいないと一人になっちゃうだろ!?」


「パートナーなら、新しいのを育てることにした。この子がそう」

「ヴィギルア!」

「…………え……?タヌキ……だと……?」


「この子はユニクよりも向上心がある。度胸も上。なのでユニクと入れ替わってこの子が今日から心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)

「は?」


「いや、心無き魔獣達の統括者(アンハートビースト)とでも言うべきか。まぁどっちでもいい」

「ひぇ……」


「さぁ、心無き魔獣達の統括者(アンハートビースト)、最初のお仕事。私達の秘密を知ったユニクを闇に葬り、力を示して欲しい!!」

「ヴィギルアー!」


 **********



「い、嫌だッッッッッッッ!!それだけは絶対に、嫌だッッ!!」

「ん、何がそんなに嫌?まぁ、嫌な事があるなら今は頑張るべき」



 嫌か?って

 嫌に決まってるだろッ!!そりゃあもう、色んな意味で嫌だよッッ!!

 何が悲しくて、リリンをタヌキなんぞに取られなきゃなんねぇんだよッ!!

 自分で妄想しといてゾッとしたんだけど!?


 心無き魔獣達の統括者(アンハートビースト)ってのも、俺にとっちゃ絶望の象徴だ!!

 怖いものと恐いものが掛け合わさって、地獄絵図で、阿鼻叫喚だろッッ!!


 これだけは何としてでも阻止しなければ!

 絶対だ。絶対にそんな大魔獣を爆誕させてはならない。


 俺の為にも、人類の為にも……!



「リリン、俺は何を頑張ればいい?今なら何でも出来る気がする。グラムの使い方も覚えたし」

「じゃ、タヌキ将軍と協力して森ドラを倒してきて」


「は?」

「先を越されるのが嫌なら、戦いに参加すればいい。今のユニクなら、タヌキ将軍と協力すれば勝つのは難しくないように思える」


「……お……う……?」

「あ、タヌキと森ドラが戦い始めた。ほら、早くしないと出遅れるよ、ユニク!」



 何だよッ!!何なんだよこの状況はよッッ!!

 何でも出来るって言ったけどな、限度ってもんがあるだろッッ!!

 タヌキと戦うどころか、タヌキと協力して化け物ドラゴンを倒せってか!?


 ジワリと噴き出す汗。

 早まる動悸。

 でも、逃げ場はなさそうだ。


 ……やるしかない。



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― 新着の感想 ―
[一言]  どうも、感想で困らせるナナシです。  も、森ドラ……。  と言うか森……。  チートすぎるだろう言いたいです。
2021/02/10 20:27 退会済み
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