表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/1328

第29話「惑星重力操作」

「……という訳で、ユニクは『絶対破壊付与』にも慣れてきたと思う。そろそろ次に行こう」

「あぁ、次は『惑星重力操作』だったな」



 あれから昼休憩をたっぷりと取り、そろそろ訓練に戻ろうかとリリンから提案があった。


 息も整ってきたし、腹も膨れた。命に別状も無い。

 よし、次に行くか。

 色々不安だらけだけどな!



「つーか、『惑星重力操作』ってどう考えてもヤバそうだけど、大丈夫なのか?今さらだけど」

「うん、この機能は公開されているといっても、かなり情報が絞られている。結局出来る事といえば、重量操作のみ。なので先ほどと同様、さくっと覚えてしまおう」


「リリン、ランク3のドラゴンが逃げ出す様な訓練は、少なくとも、「さくっと」じゃないぞ!どちらかといえば”過酷”だ!!」

「……私としては、ここが正念場だと思っている」


「ん?ここが正念場?」

「そう、『ユニク強化計画』は佳境に入っている。想定されたカリキュラムはほぼ終了し、今日の訓練を以て、ユニクは並みの冒険者を超えるだろうと予測されている」


「ちょっと待て!!いつの間にそんな事に!?」



 なんだその聞き覚えのない計画!?

 そんなもんがあるなんて今初めて知ったんだがッ!!



「想定されたカリキュラムって何の事だ?」

「実は、ユニクに課してきた訓練は全て、計画的犯行だった」


「ついに犯行って言っちゃったなッ!?うんそれで?」

「強化カリキュラムは三段階の工程がある。一つ、ユニク自身の実力を私が知ること。これは黒土竜や私自身との模擬戦で判断した」


「おう、確かに最初の敵としちゃまずまずだったな、黒土竜。あいつらもノリノリだったし」



 黒土竜は当初こそ乗り気じゃ無かったものの、日を追うごとに積極的になっていった。

 怪我をしたホロビノを探していた時なんて、顔を見せたら炙り肉を勧められたしな。完全に仲間だと思われている節すらある。



「次に、ユニクに戦い方を見せること。これは連鎖猪や三頭熊を使って実行した。この際の戦い方を見せるとは、私だけでなく危険な動物の戦闘方法を見せることで後学の基礎とする意味もある」

「なるほど。流石にリリンVS三頭熊は強烈だった。大決戦!て感じだな」



 大決戦!無慈悲なクマ VS 心無き大悪魔。


 結果は言うまでもない。悪魔の圧勝。

 ……三頭熊は、爆散した。



「そして、今。私はユニクに新しい力を授けようとしている。その足掛かりになるのが、最強の攻撃力を備えたグラム」

「確かに、グラムの機能は凄まじい。攻撃力なんて計り知れねぇし」



 破壊できないものもあるとはいえ、大抵の物はなんでも切れる。

 しかも、暴走させると、先っちょから何か出るのだ。

 ぶっちゃけて言えば空飛ぶ斬劇だな。


 危ない上にコントロールも出来ないので、今は使わない事にしたけど。



「さらに、グラムには『惑星重力操作』という機能が残されている。これを今から覚えれば、一通りのカリキュラムは修了。ユニクはこれで晴れて一流の冒険者になれる!」

「まぁ、こんだけ、ひど……強烈な訓練をすれば一流なのかもしれないが、一つだけ聞いていいか?」


「うん?どうぞ」

「……誰とこの計画を立てた?この計画、リリン一人で考えたもんじゃないだろ?」


「それはもちろん……」



 それはもちろん、カミナさんだろうな。

 現状、リリンが相談するタイミングがあったのはカミナさんだけだ。


 くぅぅ!清純無垢そうな顔してたけど、カミナさんってやっぱり、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)なんだよ―――



「計画を立てたのは、ワルトナ」

「……は?え?カミナさんじゃなくて、ワルトナさん?」


「そう、カミナは関係ない。そしてこういった知略戦略はワルトナの得意とする所。もしもユニクを教育するならと事前に打ち合わせした結果、「手加減などいらない、本気でやるべし!」と」

「なんだそれッ!?つーか、リリンやワルトナさんは俺が弱いって知ってたのかよ!?」


「ううん。知らなかった。ただ、ワルトナは自らの事を『戦略破綻』と名乗っているほど、知略に富んでいる。いくつかの仮定の中に『ユニクが弱かった』パターンもあったということ」

「ワルトナさん、すげぇ!そんでもって、こんな計画が何パターンもあるとか、聞きたくなかった!!」



 さすが、我らが心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の策謀担当『戦略破綻・ワルトナ・バレンシア』さん。

 英雄の息子を恐怖のどん底に陥れるとか、何それもうほんと、大悪魔(デヴィル)


 ん?ということは、リリンの無茶ぶりはワルトナさんの意見も含まれているって事か?


 ……。

 …………。

 ………………俺に何か恨みでもあるんだろうか。



 **********



「話が反れたけど、ユニク強化カリキュラムも残すところあと少し、気を引き締めていこう」

「あぁ、グラムの『惑星重力操作』だな?だけど今もグラムの重量操作は使っているぞ?まさか、重力を暴走させて相手を引きつけるとか、カッコイイ事しちゃうのか!?」


「そんなこと出来る気がしない。今回練習するのは、重力を操作し重量を減らして移動速度を上げること」

「ん?いつもと同じじゃないのか?」


「ただし、今回から対象はグラム自身だけじゃなく、ユニク本人にもこの効果を及ぼしてほしい」

「俺自身に?」


「実は、私が速く走れる理由はバッファだけじゃない。この履いているブーツも重量操作の魔道具だったりする」

「え?そうだったのか」


「うん、そして、有効的な重心移動はそれだけで速度を倍増させる。見てて、これが魔道具の機能をオフにした私の全力の走り」



 そう言ってリリンは奥に向かって駆け出して行った。


 そこそこ早いとは思うが、いつも俺が見ている『瞬速』って感じの走りじゃない。

 第一、土煙も突風の発生していない。

 この突撃なら生身で受け止められるな。かろうじてだけど。



「そしてこれが魔道具の機能をオンにした状態」

「うお!速いッ!!」


 今度は奥からリリンが走ってくる。

 そしてバッチり土煙が出たし、突風も吹いた。


 ……生身で受けたら複雑骨折ぐらいは覚悟した方が良いだろう。



「と、このくらい違う」

「だいぶ違うもんだな。んで、そのブーツの代わりをグラムでしようって事か」


「そういうこと」



 ふむ、グラムの剣速をあげるような感覚で俺自身の速度を上げる、ね。


 なるほど、確かにグラムに重力操作なんて大層なもんが付いているのなら、出来ない理屈は無い。

 俺はグラムの取り扱い説明書を開き、該当するページに目をやった。



 ~グラムの重力操作について~


 ・効果を及ぼすには、グラム自身に対象物が触れている事が条件です。

 この時、グラムに触れている物の付属品境界面まで効果を及ぼします。

 例えば人間が触れているのならば、その人の着ている服や盾、鞄なども効果の対象となり、自在に重量を変化させる事が出来ます。


『重力操作の』起動の仕方は、魔力を流しながら目指す重要を念じることにより、意識が汲み取られ効果が発露します。

 なお、グラム以外に効果を及ぼしたい場合は、その対象とグラムを魔力の流れで繋ぎ、循環させると効果が発動します。


 ※重量をゼロにして、惑星重力の拘束から外れると、宇宙空間に吹っ飛ばされます。




 最後に物騒な事が書いてある以外は、それなりにまともな解説だった。

 どうやらこの本によると、グラムと俺とで魔力を循環させればいいらしい。


 意外と簡単そうだ。というか、何となくできる気がする。



「じゃさっそくやってみるか」



 えーと、グラムを軽くするのはいつもの通り、魔力を流して、出来るだけ軽くなれと念じれば……うん、出来た。


 そんでもって、この状態から魔力を循環させればいい訳だが……確かグラムに注いだ魔力は膨張するってリリンが言ってたはず。

 じゃあ、少し多めに注いで……お?魔力が膨らんできたか?


 ふむ、意外と意識すると分かるもんだなー。じゃ増えた分だけ俺の体に戻すか。

 あ、やべ、戻しすぎた!

 もう一回注いでっと……



「……という感じで繰り返してたら、身体が軽くなってきた」

「さすがユニク。飲み込みが早い」



 このグラムの機能は特に暴走とかもなく、すんなり会得できた。

 体が凄く軽い。これならいつもの倍以上に早く走れそうだな。



「かなり具合が良いみたいだ!よし、リリン。短距離走で勝負しようぜ?もちろんバッファ無しで」

「……受けて立つ。そして、賭けもしよう。勝った方がささやかなお願いをなんでも一つ聞く。これでどう?」


「うぐ!賭け勝負か……いいぜ!ようは負けなきゃいいんだしな」



 ほんのささやかな悪ノリでトンデモナイ事になってしまった。

 俺から言い出した手前、賭けはダメだと言えないし。


 だけど、これは純粋に体の身体能力の問題だし、絶対に勝ち目がない訳じゃない。

 ぶっちゃけ小柄なリリンより俺の方が有利なはずだしな。


 お願いか……何を聞いて貰おうか。

 ……よし、パジャマを違うのに買い替えて貰おう。タヌキパジャマ(アレ)は色々と危険すぎる。



「位置について、」

「よーい……」



 さっそく短距離走をするべく、俺達は真横に並んだ。

 ゴールはおよそ100m先にある岩。その岩に先に触れた方が勝ちという非常にシンプルなルールにした。


 あぁ、体が軽い。

 今ならタヌキにだって遅れはとるまい。

 くくく、と心の中で笑いながら俺はリリンから合図がかかるのを待つ。

 どん!の声とともにスタートだ。



「……どん!」



 よし!スタートダッシュは完璧!リリンを置き去りにし、ひたすら岩を目指し走るッ!

 うぉぉぉ!いける!いけるんじゃないかッ!?


 今はちょうど真ん中ぐらいまで走って来た。

 リリンは当然俺の後ろにいる。スタート時に抜き去ってから一度も視界に入ってきていない。


 え?勝てる?こんなにあっさり、リリンに勝てちゃうのかッ!?

 なんだ、意外と拍子抜け……


 そんな事を思った瞬間、青い閃光と化したリリンが軽やかに俺を抜き去った。



「……じゃ、ゴールで待ってるから」

「は?ちょ、いきなりなんでそんなに早……」



 あ、そんな、待ってくれッッ!!

 俺が言葉を言い終る前に、リリンはさっさとゴールに辿り着き、華麗なステップで岩に登って控え目に決めポーズをとった。


 当然俺は、その後息を切らしながらリリンに遅れて岩に着く。



「はぁ……はぁ……」

「私の勝ちだね、ユニク」


「……マジか。しかし、なんでそんなに速いんだ?しかも、明らかに後半、加速したよな?」

「うん。確かに初速はユニクの方が速かった。でも結果はこの通り。ヒントは重心」


「重心?もしかして走っている途中にも重量を操作していたのか?」

「ふふ、正解。私は地面を蹴る瞬間は体を軽く、地面に着地する瞬間は体を重くするようにコントロールしていた。これによって人間の限界を超えた加速が可能となる」



 へぇ……そうなのか。

 いや、落ち着いて考えてみれば俺もグラムで似たような事やったな。

 本気でグラムを振る時は”振り子”をイメージしながらブン回したりするし。


 これはリリンに一本取られたな。

 流石は冒険者としての年期が違うってことか。



「さて、有意義な訓練だったな!これで俺も平均的な冒険者を超えたってことか!」

「そう。そんなユニクに朗報がある。今はまだ昼過ぎ。時間はたっぷりとあるということ」


「……おう?」

「ユニク、私と体で語り合おう(ボディランしよう)?」



 俺は危険回避を行った!

 しかし、心無き大悪魔には効果が無かったッ!!



「……せめて魔法無しで頼む」

「もちろんそう。私もちゃんと刀を使う《サモンウエポン=桜華》」



 ……いや、その刀も大概だから。

 壊滅竜逃げ出す奴だから。



「リリン?……お手柔らかに頼むぜ?」

「それはもしかして、前振りって奴?……分かった。全力で行く!」


「なんでそう判断したッ!?違うからッ!!」



 おい、それは本気で言ってるのか?

 誰だそんなノリツッコミみたいな事をリリンに教えた奴は!


 大体予想はつくけどな。心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)とか呼ばれてる悪の軍団だろ。

 最近ちょいちょい話に上がるから良く知ってるぜ。



 そんな現実逃避をしながらも、俺はひた走る。

 可愛らしい大悪魔が振う、切れ味抜群の刀を避けるために。


 だけどまぁ、一応、刀がぶつかっても怪我をしない安心設計にはなっているんだけどな。


 ただし、普通に怖いので、心は激しく消耗する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ