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第28話「本気の訓練」

「グラムの検証はこれにて終了。ユニク、お疲れ様」

「はぁッ……はぁッ……はぁッ!!リリンやり過ぎだッ!!死ぬかと思ったぞ!?」


「ん。死ぬかと思った?もしかして記憶が……」

「そんな簡単に戻るかッ!?むしろ思い出したくないトラウマが増えた気がするぞ!!」



 ……あぁ、無事生還。

 あれからグラムの検証を続けた俺達だったが、基礎的な事が分かって来た後は、ホントもう酷いものがあった。


 そもそも、基礎的な内容というのが、

 ・絶対破壊付与を発動したグラムは、たいていなんでも切れる

 ・それは防御魔法も例外では無く、防御魔法の上からでも叩き切る事が出来る。

 ・その他、動きを止める魔法や拘束系の魔法も問題無く破壊可能。


 という、まさにグラムは超チートな剣だという事が分かった。


 ・だがしかし、攻撃魔法や、衝撃を与えると有爆する魔法は、グラムと接触した瞬間爆発が起こる。


 そうこれが問題だったのだ。

 リリンがこの事に気付いた後は嬉々として俺に魔法を浴びせかけ、頑張ってグラムで斬り返すという謎展開。

 成功すれば、爆発。

 なお、失敗しても爆発なので、どこで爆発するかの違いしかない。が、魔法が直撃する怖さに比べたら目の前で爆発してくれた方がいくらか心穏やか。


 そんな訳で、グラムで魔法をひたすら撃ち落としていた訳だが……。



「うん、凄くいい感じ。それじゃ、ユニク……雷霆戦軍(インドラ)、使うね?」

「ふぇ?」



 リリンの奴、ランク8の魔法を持ち出しやがった。


 三頭熊を恐怖のどん底に突き落としたランク8の魔法、雷霆戦軍インドラ

 この間は杖に直接纏って戦っていたが、どうやら射出も出来るようで、嬉しげに雷の三又槍を飛ばす、リリン。

 汗とか涙とか、悲鳴とか絶叫とかを飛ばす、俺。


 グラムで撃ち落とそうにも、魔法の射出スピードが速すぎて身体が付いてこない。

 目では追えるんだが、これじゃどうしようもねぇんだが!


 結局、たっぷりと雷霆戦軍(インドラ)を堪能することになった俺は、すっかり絶対破壊付与を発動した状態でグラムを振りまわすのに慣れてしまった。



「はふぅ……リリン。何か飲み物をくれ、冷たいのが良いな」

「はい、スカッシュレモネード。これでいい?」


「ん、さんきゅー!ぷはぁ!うめぇ!!」



 くぅぅ。疲れた身体に沁みわたるぜッ!!

 さて、大体機能も分かって来たし、一旦まとめに入って、次の『惑星重力操作』に行かないとな。



「リリン、この絶対破壊付与、ある程度のものは切れるけど、絶対になんでも切断できるってわけじゃなさそうだな?」

「うん。森羅万象、全てのものを切断できるポテンシャルを秘めているとは思うけど、現状、なんでもは破壊できない」



 そう、グラムでも破壊できなかった物があった。

 この検証の結果、破壊できなかったものは、『防御魔法五重の岩』『星丈―ルナ』『やる気(・・・)を出したホロビノ』の三つ。


 ……。

『やる気を出したホロビノ』は置いておくとして、前二つは中々に有意義な実験だった。


 まず、『防御魔法五重の岩』だが、この岩には第九守護天使(セラフィム)を含む防御系魔法を重ね掛けという手間暇かけた安心設計。

 それをグラムで真っ二つに出来るのかという実験だったのだが……。



 **********



「じゃ、いくぞ、リリン」

「うん、ドンといって」


「おりゃぁ!ぐ、んんんんッ!!堅ってぇな!ちくしょう……」



 上段の構えから真っ直ぐに岩に向かってグラムを振り降ろした。

 だが、岩に触れた瞬間、とてつもない抵抗力に襲われたのだ。


 見た所、グラムの刃は岩に届いていない。その前の魔法の層で留まっている。

 どうやら重ね掛けした魔法は一度で破壊することが難しくなるようで、一振りで三層まで破壊するが今の俺の限界らしい。

 なので、グラムを引き戻しもう一度振り降ろしたら、今度はちゃんと岩を切断する事が出来た。


 なんでだ?とリリンに質問してみた所、『切れ無いナイフ(アンカットレス)』を使って説明が始まった。



「この『切れないナイフ』は文字どおり、なんでも切る事が出来る。使用者が切りたいと望んだもの(・・・・・)はだけど」

「ん?望んだ物だけ……あ、そうか、そのナイフは切りたい物を思い浮かべながら使うんだったな」


「そう、つまりこのナイフで先ほどの『五重の魔法が掛った岩』を切断する場合、魔法を切りたいと願いながら刃を振らないと効果は無い。そして、魔法の種類が違うのだから六回目にしてやっと岩を切断できる」

「なるほど、じゃ、グラムはなんで一度に何層も切れるんだ?」


「それは恐らく、剣の性能のせい。もともと大ぶりで切れ味のよい大剣のグラム。さらに、『切れないナイフ』と違い、手動で魔力を流してコントロールしている事によって、さらに切れ味が良くなっていると推測できる。だから、熟練してくれば一撃で何層も重ね掛けされた防御魔法も切れるようになるはず」

「ふむ、ようは練習しだいって事か。浪漫があるじゃねぇか!」



 流石、英雄の親父が使ってたとかいう伝説の剣。

 ……胡散臭い店の商品とは段違いだぜ!



「じゃ次は絶対破壊付与を使った状態で私と模擬戦をして貰う」

「は?いやちょっと待ってくれ、危なすぎるだろッ!!……色んな意味で!!」


「……うん?相応に危険だと思うし、ユニクに最初からグラムの機能を教えなかったのもそのせい」

「ん?そうなのか?」


「そう。流石に私でも、剣の振り方すら知らない素人に、なんでも切れる剣を与えたりしない。正直、もう少し後にする予定だったし」

「まぁ、そりゃそうだ。でも今だって結構適当だぜ?剣の振り方なんてリリンにちょっと教えて貰って、澪さんに修正して貰った程度。大丈夫なのか?」


「大丈夫。さっきの実験の通り、複数層の魔法が掛けられた状態ならば一撃で破壊されたりしない。それに、私も本気出す」



 ひぇッッ!

 リリンが本気出すとかロクなことにならないと思うんだけど!主に俺の心が。


 だけど、正直これは必要な事だと思う。

 いきなりぶっつけ本番で、暗劇部員と対峙した時に誤ってサクッ!っと殺ってしまわないように練習が必要だと思っていたのだ。

 加減が分からず一刀両断とかになったりしたら流石に笑えないし。


 そんなわけでリリンと模擬戦をすることになったのだが……。



「ユニク!遅い!!」 めぎぃ!

「ぐぇっ!」



 本気出すと言ったリリンさんは、当然のようにバッファ全開だった。

 まさに心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。まったく容赦がない。


 つーか、グラムで打ち合えないんだったら何の意味があるんだよ!

 ……もしかして、いじめか!?いじめなのかッ!?

 ちくしょう!一応抗議をしておこう。



「リリン、これじゃグラムの性能テストにならねぇよ!せめてグラムで打ち合いさせてくれ!」

「……それもそう。ごめん、楽しくて、つい」


「ねぇ今、楽しいって言った?楽しいって言ったよなッ!?」



 おう、色んな意味で遊ばれていたぜ!

 まったく、まさに悪魔の所行。今度、角でも生えていないか確かめてみようか。



「じゃ、グラムで打ち合いをしよう。どこからでもかかってくると良い」

「あぁ、それじゃ、遠慮無くっと!」



 リリンの許可も貰った事だし、ちょっと本気で行くぜ。

 俺もバッファの魔法を活かして、高速移動。その後リリンの目の前で一回フェイントを入れつつ、横薙ぎに一閃。よし、これで行こう。


 うん、なかなか良い作戦だと思う。これはタヌキ将軍と戦った時に生み出したテクニックの一つ。

 あいつは俺に様々な物を授けてくれた。

 ……恐怖と怒りとストレスが大半だけど。



「うおぉ!そりゃ!!」

「……。えい」



 ガキィィィィィィン!

 うぉ!なんだ!?堅ってぇ!


 リリンに向けてグラムを振り抜いた俺。

 もちろん、リリンに怪我が無いように剣先がリリンに届かないギリギリの距離でだけど。

 だが、そんな俺の中途半端な一撃は、リリンにはお見通しだったらしい。


 完全に見切られ、そして、星丈―ルナで迎え撃たれた。

 しかも、絶対破壊付与を発動しているのにも関わらず、手ごたえはイマイチ。


 俺はグラムで再度切り掛らながら、リリンに質問してみた。



「なんでその杖、切れないんだ?」

「それはそう。だってこの杖自体、何重にも魔法陣を重ねて作られている。当然、そこら辺の杖なんかとは強度が比べ物にならない」


「へぇ!そうだったのか」

「まぁ、それでも岩の上に無造作に杖を置いてグラムを叩きつけたら切断出来ると思う。今、切断されないのは、上手く力を受け流しているから。あ、隙あり」


「ぐえ!」



 ぐっ!剣戟をしてるのに蹴りを見舞ってくるとは、流石、心無き悪魔(アンハートデヴィル)

 だけど、高位の魔導具ってだけで、ある程度グラムに耐性があるってことだな。


 ふむ、これは少し厄介かも。

 でも逆に、程度の低い武器なら一撃で破壊できるから、初撃である程度の見分けが出来るんだな。

 覚えておこう。




「よし、グラムでも破壊できないもんがある事はわかった。絶対破壊付与はこれくらいにして、次の―――」

「かもん!ホロビノ!!」



 え?なんだって?

 なんで今、壊滅竜を呼ぶ必要があるッ!?

 ホロビノだってどっかで遊んでいるんだから―――って、もう来やがった。

 なんでこんな時だけ早いんだよッ!

 黒土竜と昼寝でもしてろよッ!!



「きゅあらららー?」

「よし、ホロビノ、良い子良い子。今日はユニクと戦って貰う為に呼んだ。出来る?」


「キュア!ボッコボコニキュアアンヨ!」



 なぁ?今コイツ、「ボッコボコにしてやんよ!」って言わなかったか?

 気のせいか?そうだよな?



「キュアァ」

「おいホロビノ、お手やわらかに頼むぜ?」

「ホロビノ。今のユニクの剣は、『桜華』と同じ。鱗では防げないから注意して」


「きゅあ!?…………、」

「あぁ、そういう事だ。ホロビノ。だからお互いに加減しような?」


「…………《キュアラ・グローリィ―》」

「は?」



 は?ちょ?なんだそれ??

 どうしたんだ?ホロビノ。そんなに光って。

 うん、やめようかホロビノ。

 それ、バッファの魔法だろ?身体、滅茶苦茶、ゴキゴキいってるぜ?


 ……あわわわわ……。



「……。ガグラァァ!!」

「ひぃぃぃぃぃ!!こいつ、殺る気(ヤル気)だッ!逃げろッ!!」



 ホロビノの奴!本気出しやがった!!手加減しようって言ってるのに!!

 羽の近くで魔法陣ぐるぐるさせやがって、えぇ、そんなにグラムが怖いのかよッ!!


 だったらいくらでも喰らわしてやるぜ!

 うおらぁ!!



 がきぃん。



「…………。」

「……ユニク、その形態のホロビノは防御力特化。よって中々ダメージが入らないので注意されたし」


「…………先に言って欲しかったな」

「ごめん。でも、無策でホロビノを戦わせる事が無いことぐらい察して欲しかった」

「ガクラ?ガァァグラ?……シィネ」



 ひぃぃぃぃぃぃ!今、コイツ、死ねって言った!!!

 露骨に死ねって言いやがったッッ!!


 うぉぉぉ!なんだその口の中に溜めた炎の球はッッ!

 それ、俺に向かって撃ちやがるのかッ!?



「ガァァァァゥッッ!!」

「こんちきしょうがぁッ!」



 ふざけやがって!グラムで撃ち返してやるッッ!


 ホロビノから打ち出されたド級の炎弾。

 カッ!っと弾ける音と共に一瞬で俺の目の前まで迫る。


 ……だが、間に合わない速さじゃない。

 リリンのひざ蹴りのほうが、いくらか早いからな!


 俺はグラムで炎弾を叩き斬りながら、このカオスな理不尽から抜け出すべく思考を巡らせた。

 でも、炎弾は爆発した。



「ぐぁぁ!!リリン!いくらなんでもアレは無理だッ!増援求む!」

「増援?はっ!この状況はもしや、カミナが言っていた『吊り橋効果』という奴では……!?」


「吊り橋でも割り箸でもいいからッ!早くッ!うぉぉぉぉお!!なんのッ!これしきッ!!」

「どうしよう?そう言えば前にレジェが「男は、焦らした方が良いのよぉ」とか言っていたけど……」


「やっぱ無理でしたぁぁ!!ひぃ!早く!早くぅッ!!あっ。」

「まぁ、良く分からないし、とりあえずユニク助けよう。おーい、ってあれ?二人はどこ?」



 うわぁぁぁぁぁ!

 こんな空高く連れてきてどうするつもりだッ!?

 これは、もしかして……



「……なぁ、ホロビノ。俺達、友達だよな?」

「?きゅあら」



 あ。手離された。

 ははは、こりゃ、やべぇ。落ちるな。

 ……。


 ひゅぅぅぅぅぅ、、、、。



「ん?何か落ち……!!《飛翔脚フライトステップ》!」

「ぐぇ!」



 地面に向かって飛び込みをしていた俺。無事?生還。

 衝突スレスレの所でリリンに捕まり、横方向に投げ飛ばされたおかげで事無きを得た。

 一応、第九守護天使セラフィムは掛っているから大丈夫なはずだが、もしもとかあるしな。


 ……つーかホロビノの野郎。

 マジで洒落になってねえぞ。その内、仕返ししてやるからな。



「大丈夫だった?ユニク」

「あぁ、なんとか。ホロビノの野郎がマジだって事以外はいつもどおりだな」


「そう、それは良かった。じゃ、続けよう?」

「え?」


「今度は私も混ぜて、三人で、ね?」

「ひぇッ……」



 そうして、地獄の肉体訓練(ボディラン)は幕を開けた。

 当然、嬉々として参加してきた可愛らしい少女は、俺と竜を震え上がらせた。

 そのうち竜が逃げ出しやがった為に、俺と可愛らしい少女の二人だけになった。


 ……あぁ、今日もいい天気だ。

 凄まじい雷光が飛び交っている。


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