第27話「絶対破壊付与」
「じゃ、ゆにクラブ会員証がらみは、この謎の女の子を探しつつ、敵の出方を窺うって事でいいんだな?」
「そう、この女は恐らく重要人物。そして、敵もゆにクラブに関係している可能性がある。どちらも放っておけない」
「あぁ、やることの無いぶらり旅だった俺達に、目的が出来たな!」
「うん?心無き魔人達の統括者に会いに行くのは十分、旅の目的だと思うけど?」
「……………。おう!もちろんそうだったよな!当然忘れちゃいないぜ?」
「うん、久しぶりだしとても楽しみ!」
そう言ってリリンは屈託なく微笑んだ。
…………、誘導失敗か。
俺的には、『謎の幼馴染探し』を重要視したいところだし、心無き魔人な仲間の事は記憶の隅に追いやりたかったんだがな。
まぁ、いい。
カミナさんも警戒していたほどじゃ無かったし、他の人たちも、何だかんだ良い人っぽい雰囲気の擬態が得意な悪魔な可能性もある。
……若干一名、大陸中から恐れられている魔王さんが紛れ込んでいるらしいが、そういうのは、『騎士・ロイ』にでも任せておこう。
たぶん時間を稼いでくれるだろう。半日くらい。
「それじゃ、グラムの機能の練習に戻るとするか」
「うん、そうしよう、十分堪能したし。良い座り心地だったよ、ユニク」
リリンはしれっと、俺を背もたれにしていた事を報告しながら立ちあがった。
ちゃっかりしてやがるぜ!とか思いつつも、俺も後に続き、傍らに開いたままだった取り扱い説明書を閉じようと手を伸ばす。
そして、目に入ったのは最後のページの謎の女の子。
それを俺はなんとなく眺めて、なんとなく思った。
……この子、リリンと同じ髪型なんだな。
**********
「じゃ、始めるぞ!」
「うん」
だいぶ話が逸れてしまったが、ようやくグラムの訓練に戻った。
まずは、絶対破壊付与の使用手順からだな。
俺達は取り扱い説明書の『絶対破壊付与』のページを調べ、機能の起動方法を探した。
「リリン、何か目を引く項目があったか?」
「うーん、あ、この有爆スイッ……」
「それには触れない方が良さそうだな!お?これは……?」
意外と小難しい事が書かれている中、埋もれるようにして記載されていた起動手順と書かれたコラムの中には、超大雑把過ぎる起動手順が書かれていた。
絶対破壊付与、起動手順
・ステップ1、グラムに魔力を注ぐ。
・ステップ2、ちょっと待った後、起動名を唱える。
・ステップ3、完成。
……なんだこれ?馬鹿にしてるのか?
そんな即席麺みたいな方法で、伝説の剣の機能が使えるようになるはずが……
ん?グラムを掲げてなにしてるんだ?リリン?
グラム、滅茶苦茶光ってるんだが?
「……出来た」
「出来ちゃうのかよッ!!」
「うん。というか前から、出来たし」
「なら先に言えよッ!!」
リリンは「ごめん、素直に忘れてた。グラムで遊ぶの禁止されてたし」と普通に忘れていた様子。
まったく、意外とリリンはボケを入れてくるなと思っていたが、もしかして、天然ものだったりするのか?
意外とそんな気がする。
良い意味で言えば純粋ともいえるけど、そうなると、純粋な心が悪魔という事になるから考えないでおこう。
「で、どうやってやるんだ?」
「本のとおり。ランク6相当の魔力を流し込んで一定時間維持すれば発動される」
なるほど、魔力注いで維持すりゃいいのか。よし!
俺はグラムを地面と平行に構え、魔力を流す。
そう。グラムの機能を発動させるには、魔力を流し込んだ後のコントロールが重要。
今まではグラム自身の重さだけを変えてきたため、必要な魔力はそれほど多くなく、魔力が増えているなんて認識は一切無かった。
だが、この『絶対破壊付与』は違う。
リリンによって示されたランク6程度の魔力は今まで俺が注いできた量よりも格段に多く、それゆえにグラムの中で増幅される量も多い。
この増えていく魔力も含めた全ての魔力のコントロールこそが能力発動のカギだったのだ。
だんだんと、グラムの中で渦巻いていた魔力の波が緩やかになっていき、そして静かな清流となった。
その魔力を薄く均一にグラムの表面に纏わせ、機能の名を唱えれば発動されると言うが……?
やってみるか。そぉい!
「起動せよ!《絶対破壊付与》!」
そして、グラムの刃の全体は光に包まれた。
……あれ?出来た?え?こんな簡単に!?
そんなバカなと思いつつ、目の前にあった小岩にグラムを振り降ろしてみる。
スパァン!
「ちょ、すごッッッ!!」
いやまて、切れ味良過ぎだろ!
今までのグラム、何だったの!?ってくらい、手ごたえが感じられなかったんだけど!?
驚いちゃあいるが、発動事態は意外と簡単に出来た。
……つい30分前まで手に余る駄剣だったグラムが、名実ともに神剣へ進化したのだ。
**********
そんなこんなで絶対破壊付与の使い方を覚えた俺達。
リリンは杖を構え、目の前の1メートルくらいの岩に魔法を掛けた。
岩の強度を上げて、グラムの切れ味の試しをするという。
「《空盾!》よし、これでこの岩は通常の剣では切れなくなった」
「そもそも、通常の剣で、岩は切れんと思うんだが……」
「……。やろうと思えば出来る。メギリャッ!って変な音が鳴るけど」
「それ砕いてるだろッ!?」
「くす、ばれた?まぁ、冗談はこのくらいにして『絶対破壊付与』の性能を試したい。まずは色々な魔法を岩に掛けてそれを切ってみて欲しい」
「おう、わかったぜ!」
「凄くいい返事。さぁユニク、切ってみて!」
「おう、行くぜ!よいしょぉ!」
スパァン!
お?やっぱり簡単に行くな、こりゃすげぇ!!
岩が真っ二つ!気分上々!!
「よし、じゃあ次《幽玄の衝盾》」
「そぉい!」
スパァン!!
こっちも簡単だった。岩、現在4分の1
「じゃこれ、《物理隔離》」
「ちわっす!!!」
す、ぱぁん!!!
ん、一瞬だけひっかった様な気がするけど気のせいって事で!
「これはどうだ?《第九守護天使》」
「どっせい!!!!」
すっ、ぎぎ…ぱぁん!!!!!
う、うむ、流石に第九守護天使は引っかりそうにもなった。が、無事成功。
「うん、時間かかったけど、第九守護天使も突破と……ならこれ、《対滅精霊八式》」
「なんでもござれ!!!!!!」
カチッ!ボギャァァァァァンッッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うん。有爆系は危険……と」
うおぉぉぉぉ!!目が、目の前で、閃光がぁぁぁ爆発がぁああああああ!!
うぐぅぅぅぅぅぅ直視しちまったぁぁぁ!
リリン!なんつーことを俺にさせるんだ!
「リリン!今何をしたんだッ!?」
「最後、岩に掛けたのは、対滅精霊八式、衝撃を与えると有爆する魔法。どうやらこういう魔法は破壊するよりも先に効果が出てしまうらしい。気を付けよう」
「気を付けて欲しいんだったら先に言おうなッ!?吃驚するからッッ!!」
ダメだこれ!リリンの奴、完全に遊んでやがる!
今も一人で岩に向かって、何かの魔法を放っていやがる!!
恐ろしい。こういうのは素直に聞くに限るな。
「リリン、その岩に何の魔法をかけた?」
「これはとっておき。ワルトナが得意だった《逆行する時間と約束・歪曲する真実の虚偽》」
出やがったな心無き悪魔達の必殺技!
というかすごい凄そうな魔法だな!
どう考えても攻撃してはいけない気がするんですけど!?
「リリン。その魔法に攻撃すると通常はどうなるんだ?」
「この魔法に攻撃すると、本来起こるべき結果がランダムで捻じ曲げられる。例えば剣でこの魔法の対象物の”木板”を切りかかると、『木の板は切られ、剣は無傷』となるはずが、『剣の刀身が切られ、板は無傷』『剣は無事だが板も無事』『切れる事には切れた、トンデモない方向に』といった結果が起こる。ワルトナの奥義といっても良い」
「そんなビックリ箱みてぇなもんを攻撃しろってか!……興味あるからやるけど!」
まぁ、グラムなら最悪な事態にはなるまい。
壊れる心配がないし。
ん、どれどれ。この岩をぶった切るとどうなるって、普通は砕けるよな……と!!
「おらぁ!」
ぷにゃん!
……うわぁ!やわらかい!!そして滑って全然切れな……お?切れた。
何回かやったら切れたぞ?グラムの勝利だッ!!
「最初は全然切れなかったが、何回かやれば切れるみたいだ」
「ふむ、繰り返せば切れるようになると……」
リリンは呟き、尽かさずメモを取っている。
そして何度も何度も、魔法を岩に掛けては、グラムで切っていく。
そうして、今現在の『絶対破壊付与』の効果を検証していったのだ。




