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第26話「記憶の中の」

 リリンは今、俺の腕の中でシュン。としている。

 そして俺は、リリンを後ろから抱き締めるような格好で座っている。

 グラムから何かが放たれた反動で後ろに倒された俺たちだが、特に怪我はなく、事態が起こった成りゆきに任せていみたらこうなった。

 普通、こういうのって恋人同士でやるもんだと思うんだが、残念なことに俺達はそんな関係では無い。

 ……ただならぬ関係ではあるけどな。悪魔仲間(デヴィルパーティー)な意味で。



「リリン?」

「……」



 あれ?名前を呼んでみたけど反応が無い。

 こんな状況になったのも、全部、意味分からんグラムのせいだな。


 ついさっき、リリンの無茶振りによってグラムが暴走しかけた。

 何故か一目見て危険だと分かった俺は、無理矢理リリンの後ろから手を伸ばすようにしてグラムに触れ、溜められた魔力を俺やリリンの身体に流して暴発を防いだのだ。

 ……ちょっと漏れちゃった気がするが気のせい気のせい。


 咄嗟に出た危険回避の為の行動。

 なんでそんな事をしようと思ったのか、なんでそんな事が出来たのか、まったく分からない。

 だが確実に言えるのは、もう一度やれと言われたら絶対に断るということぐらいだ。

 ……死ぬかと思ったし。


 だがまぁ、一つだけ悪くなかった出来事もあったみたいだな。


 ………………タヌキ。ざまぁ!



「リリン、大分落ち着いてきたか?」

「……こんな状況で落ち着けるわけない。今もすごく、ドキドキしている!」


「そっか、そうだよな……。じゃ、そのままで良いから話を進めるか?」

「うん」



 リリンは今だ挙動不審にオロオロしていて、事の重大さをだんだん理解してきたらしい。


 暴走させたときは元気一杯だったのに、いつもの三割減で大人しいのだ。

 いつもこんな感じなら、さぞかし平和なことだろう。



「じゃ、何が起こったかの説明からだな……」

「うん。何故、ユニクはグラムの使い方を知っている?昔の記憶は無いはずでは?」


「どういうわけか知らないが、思い出したみたいだ」

「思い出した?このタイミングで?」


「あぁ、何分、必死だったからなぁ……」



 正直に言えば、滅茶苦茶、焦った。

 特に確証はないが、このままだとトンデモ無い事になる、そんな気配を感じたのだ。

 そう思った瞬間、考えるよりも先に体が動いた。

 そんなありのままをリリンに話し、状況の説明を話し終えた。



「そんなわけで、危険を感じたから飛び込んだ。特に確証もない賭けみたいなもんだったけどな!」

「……ユニクが私を、命がけで助けてくれた?ありがと」


「んで、まずはこの、グラムについてだが……。今は朧気だった記憶がハッキリしている」

「え、記憶が戻った!?」


「いや、全部じゃないぞ?ほんの少し……グラムの使い方だけだ」

「グラムの……それがさっきやった事?」


「あぁ、グラムは魔力を注ぐことと吸い上げる事で力のバランスを取るんだ。今はそれしか分からないけど、逆にこの仕組みについては、絶対の自信がある」

「なるほど、溢れる魔力を身体に戻す……と。そんな事聞いたことないけど、実際、さっき体験したから間違いない」


「あぁ、しかし、これで確定しちまったな」

「うん。ユニクは英雄の息子であり、並みではない力を持っていて、かつては人を助けて回っていた」


「あぁ、なんとも、信じらんねぇが……。そうらしいな」

「……そして、色んな女の子を口説き落としていた。英雄、色を好む。まさに言い伝え通り」


「いや、ちょっと待ってッ!?なんでそうなるッ!?」

「だって、ミナチルのユニクに対する眼差しは私と同じもの。本人はああ言っていたけど、切っ掛けがあればどうなってしまうか分からない!」



 いや、待て。どうなってしまうか分からないって、本当にどうなっちゃうんだ!?

 リリンと同じ眼差しってことは、英雄に憧れているって奴だよな?

 それと同じってことは………………。


 最大12人、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)が増えるってことか。

 そう言えば、ミナチルさんも急速に大悪魔に進化していったな。


 ……大悪魔、大量発生中。俺は、死ぬ。



「そんな恐ろしい未来は嫌なんだが……」

「大丈夫。ユニクに群がる悪い女は私が一人残らず駆逐する。安心して私の隣にいて欲しい」


「なぁ、話がこじれそうだから言わなかったんだが……。なにも、ユニクラブ会員証を持ってるのって女性とは限らなくないか?」

「…………あ。た、確かに、言われてみればそう……」


「だろ?だから女性ばかりじゃなく、男って可能性も考えなくちゃな?」

「…………。同姓の身でありながら、ユニクに興味を持つとは不届き千万!」


「ん?」

「見つけ次第、駆除する!ユニクの貞操は私が守る!」


「そうだなッ!!そんな奴がいたら、確実に駆除してくれよなッッ!」



 リリンの頭の中で、おかしな方向に結論が出たようだ。

 そして、まったく可能性がない訳じゃないのが恐ろしい。

 幼き俺は、ミナチルさんの村を救うために色んな人に口付けをして回ったらしいからな。


 ……自分で言うのもなんだが、可能性は十分な気がしてくる。



「ま、とりあえず、俺の中にグラムの使い方に関する記憶が眠っていることは分かった。ほんの少しでも思い出したわけだし、他にも思い出すかも知れねぇな!」

「……つまりユニクは命の危険を感じた時、記憶を思い出すかもしれないと……?」


「ん、あぁ、そうだな」

「よく分かった。覚えておく」



 …………。

 あれ?今、俺、大失敗しなかった?

 なんか、すごぉーく、嫌な予感がするんですが。


 リリンは今、俺の腕の中で正面を見ているから表情が伺えないが、どんな顔をしてるのかは大体予想がつく。

 平均的な、暗黒微笑。

 ……一番、アレな奴だ。



「ユニク。ユニクの身元が判明した今、早急に検証したい事案がある」

「ん?なんだ?」



 しばらくの沈黙のあと、リリンから話を振って来た。

 俺としても、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)な運命に恐れおののいていたし、丁度いいか。


 ……妄想の中じゃ完全形態のホロビノの上にリリンが乗っていたからな。

 確かに記憶は思い出すかもしれないが、それは間違いなく、『走馬灯』って奴だ。



「まずはこれを見て欲しい《認識空間転移(テレポスフィア)》」

「……?取り扱い説明書(トリセツ)?」



 リリンは少し離れた場所に置いてあった取り扱い説明書(トリセツ)を、手の中に転移させた。

 ふむ、これが、リリンが前に言っていた、『見える範囲でしかテレポート出来ない転移魔法』か。

 ……いや、特に文句もないんだが、わざわざ魔法で呼ばなくても。

 言ってくれれば俺が取りに行ったし。


 そんな呟きを心に残したまま俺は、リリンが開いた取り扱い説明書(トリセツ)の白紙のはずのページに視線を落とした。


 ……やっぱり、この件だよなぁ……。

 はぁ…………。



「言わなくても分かると思うけど、このページはまだ機能が公開されていない白紙のページ」

「……おう」


「にも関わらず、びっしりと文字やイラストが書かれている」

「……はい……」


「……油性のクレヨンらしきもので」

「……う、うむ……」



 あぁ。やっぱり、気になるよな。うん。だって、俺も気になったし。


 俺の視線の先、そこには超高級そうな丁重の、一冊の取り扱い説明書(トリセツ)

 本来ならばそのページは白紙でなければならないのに、びっしりと絵が描かれている。


 いや、もう、そんな気を使った表現しなくていいや。

 この取り扱い説明書の白紙のページには余すことなく、落書きが施されている。

 伝説の剣について書かれた本を落書き帳にするとか、トンデモない悪ガキもいたもんだ。



「じぃーーー。」

「うっ………なんだその視線は……」


「なんでもない。ただ、白状するなら今の内だと独り言を呟いておく。じぃーーー。」

「くっ!し、知らない!俺はやってない!!」


「でも、ほとんどのページに赤い髪の男の子らしき人物が描かれているけど?」

「ひ、ひぃ!言い訳が見つからない!!」



 ちくしょう!

 なんだこの、心から込み上げてくる危機感は!

 この落書きを見たとき、そっとページを閉じかけるほど衝撃的だったんだがッ!?


 心の内から込み上げてくる、焦りと恐怖。

 ……俺にはこんな落書きをした記憶が無い。

 まぁ、記憶をまるごと無くしているんだからあるわけないんだが、それはつまり、否定も出来ないわけで。


 ただ、なんとなく……滅茶苦茶、怒られた……ような……?



「正直、凄い価値であろうこの魔導書に落書きがされてい事にも思う事はある」

「……。ホントにな……」


「そして、この落書きがあるせいで新しい情報の取得が困難になると思う」

「あぁ、あえて他人事のように言うが……何してくれてんのッ!?って感じだな」


「だけど、それはまだいい」

「全然よくねぇけど……他にもあんのか……」


「……この、最後のページに描かれている女は、誰?」

「気にするとこ、そこッッ!?」



 え!?

 絵の内容とか今はどうでもよくないかッ!?


 だが、リリンさんにとっては全然よくないらしい。

 振り返ったリリンの表情は、いつもの平均的な……ジト目。

 広い草原や森などで獲物を探すときの目だ。



「ユニク。これは凄く重要なこと」

「ん?そうなのか?」



「そう。だって、この女は記憶をなくす前のユニクと一緒にいたということ。しかも、ユニク本人が絵に表すほど大切にしていた人物。十中八九、重要な事を知ってる」

「言われてみれば……。だけど、当然記憶に無い!つーか、有ったらこんなことになって無い!!」



 まぁ、確かにリリンの言うとおりだが……。

 そう思った俺は開かれていたページに視線を落とした。


 真ん中には俺と思しき、赤い髪の男の子。

 そしてその隣で俺と手をつないでいるスカートを履いた女の子らしき人物。

 どちらもニコニコ笑っているから楽しく遊んでいる所の絵なんだろうが……どうやら未完成らしく、女の子の方に色が塗られていない。


 うん。なんだろうこの気持ち。

 過去の俺よ……。確かに女の子の手を握って笑いあうなんてのは楽しい経験だっただろう。

 だけど、それをよりにも寄ってこんな風に未来に伝えなくてもいいんじゃないだろうか。


 ちょっとは将来の事も考えて欲しい。

 ……親父ともども。



「ミナチルは、『ゆにクラブ会員証はユニクと関わり合いのある人物にカードが送付されている』と言っていた。ならばこの女にも確実にカードが送付されているはず。言わば、重要参考人!」

「……おう、もはや犯人扱いなんだな……。でもさ、ちょっと気になる事があるんだけどいいか?」


「ん?気になる事?」

「最後のページは別としても、残りのページが殆ど俺っておかしくない?自分で自分を描かないだろ、普通」


「それは……『英雄の俺、強えええええ!』みたいな自画自賛?」

「過去の俺そんなだったの!?さすがに嫌すぎるッ!!」


「だったら……別の誰かがこの絵を描いた……?」

「あぁ……そして現状、その疑いが一番高いのが……この最後ページに出てきた女の子、だな」



 自分で言うのもなんだが、この絵を描いたの、俺じゃないような気がするんだよなぁ。

 なにせ、俺はナユタ村にいる時から一度たりとも絵を描いた事が無い。

 確かに記憶を無くしているから書き方を忘れてしまったと言えばそれまでだが、それでも無意識的に一度くらいは筆を取ってもいいはず。


 だが、俺は結局、絵を描く事は無いまま6年の月日を過ごしている。

 ついでに言うと村長じじぃに無理やりやらされた筆習字の時間などは、レラさんと筆を投げ合って遊んでいた。

 墨汁とゲンコツが飛び交っていたのを良く覚えている。



「そんなわけで、俺が描いた可能性が低いんじゃないかと……」

「なるほど……。確かに私もお絵かきをする時は自分なんてほとんど描かなかった。確かに少し変かも」


「だろ?」

「つまり、この女はユニクの近くにいて、ユルドルードが所持していたであろう、この取り扱い説明書にも容易に触れる事の出来た人物だということ。……なにそれ、ずるい」



 リリンは頬を少しだけ膨らませて、「すごく、ずるい……」ともう一度だけ呟いた。


 あぁ、確かに英雄に憧れているリリンからすれば羨ましい事この上ないだろうな。

 この女の子はどう考えても親父に会っているって事になるし、もしかしたら親父から直接何かを教わっているかもしれない。


 ……おい、こんな時まで全裸で思考の中をうろつくな、親父。完全に事案じゃねぇか。



「なぁ、リリン。ゆにクラブの会員を探す時にさ、この事も一緒に聞いた方が良いんじゃないか?」

「そうだね。そうしよう。そして、この女の正体を突き止めよう。そのあと、どんな目に合わせるかは要相談」



 なんか、表現の仕方がやけにトゲトゲしかったぞ?

 そこはどんな目に合わせるかじゃなくて、どうやって有効的に接するかじゃないのか?


 ……こうして、ゆにクラブの会員を探す時に一番重要視される事は、「謎の少女の手掛かりを見つける」になった。


 俺としては幼馴染にあたるその人物。

 出来る事なら、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)な感じではなく、心優しい少女が良いなと願うばかりだ。


皆様こんばんわ青色の鮫です!


そこそこ続けていた改稿作業、2章分が完了いたしました。

これにて、一旦改稿は停止。

詳しくどこら辺が変わったのか等は活動報告に載せておきますので、軽くコメントだけ……。


今と昔、文体違い過ぎだろッッ!帳尻合わせが難しいんですけどッッ!!

……そんなわけで、1章2章の改稿をした訳ですが、プロローグ(とは名ばかりの神の雑談)は手を加えておりません。実は、僕としてもプロローグが読者の人に必要とされているのかどうか、判断に困っているのです!

そんなわけで、もし、もし!改稿分を読んだよという心優しい人がおりましたら、そこら辺も踏まえて感想をお聞かせください!

いっぱい感想が集まったら……。嬉しすぎて、何かが起こる!かもしれません!!

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