第24話「グラムの力」
「必殺技……か。うん。良いよな、必殺技。だけど、あんまり殺伐としないもんで頼む」
「それは無理。必ず・殺す・技。と書いて必殺技と読む。なのでどう考えても無理」
……ですよねー。
まぁ、確かに言われてみればそうだよな。必殺技って。
そしてもう一つ懸念事項がある。
何を隠そう、俺に必殺技を授けてくれるというこの可愛らしい少女……実は……悪魔なのだ。
そうすると、当然こうなる。
心無き魔人達の統括者、直伝の必殺技。
……ほら、もう、字面がヤバい。
「リリン。一応、俺は真っ当に生きたいと思っている。いくら命を狙われたからといって、逆に殺しにかかるのは、ちょっと……」
「だとすると、ユニクは一生、タヌキに勝てないという事になる」
「……どうしてそうなったッ!?」
「タヌキ……いや、野生の動物の全てが、日常的に他者の命を奪いながら生きている。それは自分の命を守るために行っていることで、他者に対抗できる手段、すなわち必殺技を持つ事が必要不可欠となってくる」
「……おう……?」
「多くの生物が持つ技を、ユニクが持たない。これは忌々しき事態であり、一瞬の判断ミスが命に直結している野生では考えられない事」
「……うん……?」
「当然、タヌキはその隙をついてくる。将軍を始めとした強き野生動物はそんなに甘くない」
んん?リリンが言っている事も、一理ある……のか?
ちょっと想像してみよう。
俺の頭の中に将軍が現れ、そのまま戦闘開始。
グラムを手に立ち向かう俺。
何度かの激しい打ち合いの末、ついに将軍を追い詰めた。
だが、将軍は謎の呪文を唱え、手に持っていた石をパワーアップさせやがったのだ。
そして、俺はブン殴られ、……普通に死んだ。
……。
…………。
………………。
よし、覚えよう。必殺技ッ!
「あぁ、必殺技の必要性は分かった。だけど、グラムに秘められた力って何の事だ?」
「グラムは、『神をも穿つ』とされた伝説の剣。当然、その秘められし力は重量制御だけではない」
「そうなのか?……というか、それ知ってたら、タヌキに負けなかったんじゃ……?」
「……。さぁ!さっそくお勉強してみよう!」
なぁ?今、誤魔化さなかった?俺の気のせい?
**********
「グラムには秘められし力があるってのも分かった。けど、その前に質問していいか?」
「質問?」
「あぁ、『神をも穿つとされた剣、グラム』。それは良いんだが、なんでそんな大層なもんをリリンが持っているんだ?ミナチルさんの話じゃ、この剣、親父が持ってたんだろ?」
「なんでって……それは……」
「それは……?」
「オークションで買ったから」
「はぁッ!?オークションッ!?」
「私はユニクを探している旅の途中、ユニクに気に入って貰えるようなお土産を探し求めていた。その時に出会ったのが、グラム。英雄ゆかりの品だという評判で売りに出されていたので丁度いいと思って購入した」
グラム……売ってたのかよ……。伝説の剣なのに……。
そんなホイホイ売るもんじゃないだろ、普通。
つーか、売ってたって事は……。
つまり、そう言う事だ。
……伝説の剣、売り飛ばしてるんじゃねぇよ、親父ッ!!
「一応聞くが、どこで売ってたんだ?もしかして、ライコウ古道具店みたいな店が他にもあるのか?」
「ううん。私が買ったのはオークションだから違う。そしてグラムが出品されるというのも、たまたま、ワルトナが噂を聞き付けたから知ったこと。全部偶然の産物だと思う」
「偶然が重なって、親父の息子の俺の所に、グラムが来たってのか……?」
ちょっと都合が良すぎるだろ。
なんか胡散臭い陰謀めいたもんを感じるんだが?
だけど、そんな事をしそうな奴に心当たりがない。
一瞬だけ、村長の顔が浮かんだが、恐らく関係無いだろうな。
村長はナユタ村でグラムを見ている。
その際にすごく驚いていたのだ。
正直、あんな驚き方をしたのを見るのは初めてなくらいだし。
だとすると村長に関係ない、つまり、英雄ホーライの陣営が関係無いってことになるよな。
だとしたら心当たりが一気に無くなる。
……ホントに偶然だったのか?
「色々突っ込みどころが多いけど、いちいち突っ込んでたら話が進まないから置いといて」
「うん」
「グラムは伝説の剣で、その力は秘められてるって、要は隠されてるってことだろ?リリンはその力を知ってるのか?」
「それなりに知ってる。というか、取り扱い説明書があるから」
「取り扱い説明書あるのかよッ!?伝説の剣なのにッッ!?」
「うん。購入したら付属品として付いていた。とても親切だと思う」
いや、それもおかしいだろッ!?
なんで伝説の剣に取り扱い説明書なんてもんがあるんだよッ!
グラムってホントに伝説の剣なのか?
家庭用の魔道具とかじゃなくて?
「……とりあえず、見てみるか、取り扱い説明書。持ってるよな?」
「うん、ちょっと待ってて、召喚するから」
「え?」
「《取りこぼした命、誓いあった未来。それらを失う事は必然だったのだろうか。否、全ては虚偽に満ちている。あぁ、この様な筋書きがこの子にもあったなら。きっと、残った願いだけは叶うものだと、信じて。 サモンウエポン=真実開闢・グラムの説明書》」
そして召喚された一冊の荘厳な本。
魔法陣が神々しく光っているせいで、滅茶苦茶、凄そうに見える。
……取り扱い説明書なのに。
「はい、どうぞ。ユニク」
「……おう。……中を見る前に聞いても良いか?なんなんだ、あの呪文は?いつもは《サモンウエポン》ってだけで、召喚してるよな?」
「それはたぶん、この取り扱い説明書がトンデモナイ力を秘めているせい」
「取り扱い説明書なのに!?」
「グラム本体もそうなんだけど、こういった高次元の武器や魔導具は、魔法陣を書かない召喚方法だと、どうしても長い呪文が必要になるらしい。それも説明書に乗ってる」
「さすが取り扱い説明書。優しさがにじみ出てやがるぜ……」
リリンから手渡された取り扱い説明。
うん、じっくり見ても、漂うオーラが半端じゃない。
もしかしたら、この取り扱い説明書で戦えるんじゃないだろうか。
……かなり固めの表紙だし、鈍器にはなりそうだな。
「どれどれ……。ん、目次があるのか……。お?グラムの十大機能……?」
俺は表紙だけをめくり、中身を最初から見ていくことにした。
そして一番初めは、目次。
どうやらこの目次によると、グラムには10個の機能が備わっているらしい。
らしいのだが……。
グラム十大機能。
一、絶対破壊不可
二、絶対破壊付与
三、惑星重力制御
四、*******
五、*******
六、*******
七、*******
八、*******
九、*******
十、*******
俺の目には、目次がこう映っている。
「リリン、この目次さ、途中から読めなくなるんだけど?」
「……実は、その取り扱い説明書には魔法が掛っている」
「魔法?」
「そう、次のページに注意事項や免債事項などと一緒に説明されているけど、どうやら、その取り扱い説明書は選ばれし人しか読めないらしい」
リリンの説明によれば、この取り扱い説明書を全て読むには何かの資格が必要ならしい。
肝心の資格については説明が無いので分からないが、一応、何ページか読めるのでそんなに難しい物でもなさそうだという。
つーかさ。取り扱い説明書に面倒な仕掛けを仕込むとか、何考えてんの?
これ書いた奴、絶対、ひねくれた性格してるだろ。
「とりあえず、読むか……」
俺はまず、取り扱い説明書をパラパラとめくり、どのくらいのページが読めるのかを確認した。
どうやら目次に表示されていない部分は白紙になるようである。
……とても白紙とは呼べない状態だったけど、それはいったん保留。
んで、肝心の中身の方だが、そこそこの分量があって分かりずらい、が、理解できないほどじゃない。
公開されているグラムの機能は要約するとこんな感じだ。
1 絶対破壊不可
・ 何者にもグラムを破壊する事は出来ない。それと同様に、改変や、封印することも出来ない。
2 絶対破壊付与
・ 何物でもグラムで破壊出来ない物は無い。それは、全ての万物、魔法、概念であっても同様である。
3 惑星重力制御
・ この星における基礎機能「重力」に干渉し、常に最適化された状態となる。完全開放状態ならば、惑星重力の主導権を握ることも可能。
……………。
「……なぁ、リリン」
「ん?どうしたのユニク?」
「この剣……。」
「グラムが……?」
「ヤバすぎだろッッッッッッッッッ!?!?」
「うん、凄いと思う」
「凄い?凄いなんてもんじゃねぇだろ!?書いてあることがいちいち意味が分からんッ!!危ねぇってレベルじゃないんだがッッ」
「書いてある事が分からない……?それじゃ説明して―――」
「違うって!!そういう事じゃねぇぇぇぇぇ!!」
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッ!!
いくらなんでも、危険物すぎるだろ!?
なんだよ、絶対破壊付与と惑星重力操作って!
どんなもんでもぶった切れます!とか、
いざとなったら重力ひっくり返して、うやむやに出来ます!って事だろ!?
俺はこんなもん振り回してたのかよッ!?
今までグラムで殴って来た全ての生物に謝りたいんだけど!
ごめん!マジ、ごめんッ!!
……お前にだって謝ってやるよッ、タヌキッ!ごめんな!!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ユニク、落ち着いた?何か飲む?」
「いや、大丈夫だ、だいぶ落ち着いてきた……」
「ホント……?」
「あぁ、落ち着いてきたんだが……リリン。なんでこんな危険物を俺に持たせた?どう考えても危ないって分からないのか?」
「え、あ……。だって」
「だって、じゃ分からないだろ?ちゃんとした理由が無いのか?」
「いや、その……」
「理由……ないのか?」
「……喜んでもらえると思ったから……」
「……」
「きっと喜んでもらえるって、信じてた……から……」
それだけ言うとリリンは俯いて黙ってしまった。
しまった……。勢いに任せて言い過ぎた……な。
どんな物であれ、この剣はリリンが俺の為にと用意してくれたものだ。
それを"危険物"なんて言っちまうとはな。
……ははは。笑えねぇ。
「すまん、リリン。言い過ぎた」
「ううん。ユニクの言う事の方が、正しいと思う……。私は自分の事ばっかりで、全然ユニクの事、考えてなかった……ごめん」
「いや、俺も自分の事しか考えてなかった。すまない」
「ごめん……すぐに……違う剣、用意する……ね」
リリンはそういうと、ほんの少しだけ鼻を啜った。
あぁ、ちくしょう!
リリンを悲しませてどうするんだよ、俺!
タヌキなんぞに謝ってる場合じゃねぇだろうがッッ!!
「リリン、このグラムだけど、このまま使っててもいいか?」
「……え?」
「さっきは勢い余って酷い事言っちゃったけど、良く考えてみれば、このグラムはリリンから貰った初めてのプレゼントだもんな。"大切にする"以外の選択肢が始めからないんだよ!」
「そうなの……?大切にしてくれるの?」
「勿論だぜ?あ、じゃあさその代わり、俺があげた初めてのプレゼントも大切にしてくれよな?」
「そんなの……大切にするに決まっている!もう自宅に転送して、額縁に入れて飾っておくように『サチナ』にも連絡済み!」
……ん?何の話だ?
自宅に送って、額縁に入れて飾っている?
いや、ブローチ、付けてるよな?指輪の話か?
「……そうか、大切にしてくれているんだな」
「もちろんそう!あの、まな板は私の家宝と言っても良い!!」
「……。」
まな板……?
まな板……まな板……。
あの森で俺が作った、まな板かッ!!
そう言えば見かけないなと思ったら、家宝になってやがっただとッ!!
予想外すぎるだろッ!?
俺は必死になって湧きあがるツッコミを飲み込んだ。
だって、
「ユニクから貰った物は、どんなものでも家宝にする!これは神に示された神託にも匹敵する、重要なこと!!」
リリンが嬉しそうだから、それでいいんだ。
皆様こんにちわ、青色の鮫です!
GW、頑張って改稿作業を進めております……。
只今2章、蛇峰戦役まで完了いたしました!
最初期を書いたのはもう、一年くらい前……いざ改稿となると、どんどん気になる点が出てくる、出てくる。
これで読者の人が増えるといいな……。ワクワクですね!