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第23話「森の奥深く」

「見てユニク。あの赤い杭は、進入制限のしるし。あの杭を超えると森の深部となり、雰囲気が一変する」

「森の雰囲気が一変?どういうことだ?」


「この杭は当然、冒険者を阻む目的で立てられている。理由としては未熟な冒険者に危険を回避させるため。つまり、この杭の先には強力な野生生物がひしめき合っているという事」

「それじゃ、あれか?この杭の先には連鎖猪や三頭熊みたいのが、うじゃうじゃいるってのか?」


「うん」

「……よし、帰ろう。そんな危険な場所に行っても良い事無いしな!」


「却下。いろんな経験を積まないと強くなれないよ?ユニク」



 ちくしょう。危険回避失敗か。

 つーか、俺みたいな弱い冒険者が間違って入らないようにするための杭だよな?

 それなのに嬉々として連れて行こうとするとは……


 流石は心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。恐れというものを知らないらしい。



「しょうがないか。ま、俺としても強くはなりたいしな!でもさ、俺にはガイド役のリリンがいるからあの杭が目印だって分かるけど、普通の新人冒険者のパーティーだと知らずに通っちまうんじゃないのか?」

「それは問題ない。この杭には当然魔法が掛けられている。一つは、森の奥深くからこっちの浅い森に危険動物が入ってこないようにするための結界。もう一つは……言葉で言うより試した方が早そう。ユニク、行って!」



 ちょ!いきなり何するんだリリン!そんな風に押されたら、結界の中に入っちま……ぐぇ!


 ささやかな抵抗を試みた俺の背中に、綺麗な足で蹴りを見舞ってくるリリン。

 もちろん第九守護天使セラフィム中だから痛みは無いが、その勢いでがっつり杭の先へ踏み込んでしまった。


 リリンが危険だと表現する森の深部。

 今、俺の目の前にはなにも居ないが、いつどこから襲いかかってくるか分かったもんじゃない。


 ……この緊張感は半端じゃない。

 突然、「ヴィギルアッッ!!」とかいって出てくるかもしれないんだぜ?将軍ヤツが。



「ん?特に何も起こらない……か?タヌキも襲撃してこない……っと」

「何もない訳ではない。よく見てユニク、あの土に魔法陣が浮かび上がっているでしょ?」


「魔法陣……?あ、ホントだ。土に紛れて見にくいが、薄らと見えるな。……何だあれ?」

「あれは侵入してきた冒険者を試すための魔法陣。不用意に近づくと、すごい音と閃光で威嚇される。こんなふうに」



 リリンは足元にあった片手サイズの石を拾い上げると、魔法陣に放り込んだ。

 リリンの話じゃ、すごい音と閃光が鳴るらしい。


 だけどさ、リリン。俺はすごい音も閃光も見慣れてるんだぜ?

 一体何発、目の前で主雷撃プラズマコールが爆発したと思ってるんだよ。

 正直言って、見飽きて――――



 ズギャァァァァン!

 ズッ、ドドドドドドドドドドドドドド!!

 きゅぴぃーん!きゅぴぃーん!カッ!!ズドォォォォォン!!

 ジュバ!ジュバ!ジュゥゥゥウウウウウッッッ!!

 ゴッ!!ドドドッッ!!キラリーン!フュンフュン!

 チッ、ドドドドドドドドーォン!!



「……。」

「と、こうなる」


「ふざけんなッ!!即死だろッ!!生き残る可能性が微塵も感じられないんだけどッッ!!」

「一応死なないようにはなってる……はず。まぁ、どの道この先に進んでしまっても同じような目に会うのは確実。早いか遅いかの違いでしかない」


「そもそも、これ作ったの誰だよ!冒険者を危険から遠ざけますとかぬかしといて、トドメを刺しにいくとか斬新過ぎるだろ!」

「もちろん、不安定機構。これは人間だけでなく内部の動物にも適応される。この仕組みがあるから街が動物に脅かされることもなく、平和に暮らしていけるといってもいい」


「……なるほど、動物避けも兼ねてんのか。つーか、冒険者の扱い、動物と同じなんだな……」



 うん。これは酷い。

 俺の目の前で繰り広げられたのは、どう見たって低ランクの魔法では無い。

 それこそ、リリンの本気、雷霆戦軍インドラに匹敵する様な、派手な音と光。


 こんなもん、威嚇の為に使うとか不安定機構も大概にぶっ飛んでやがるな。

 まぁ、こんな体験をしたらもう二度と近づこうとはしないだろうから、効果的といえば効果的な気もする。

 ……が、恐怖のあまり、不安定機構にも近づかなくなりそうだと思うのは俺だけだろうか?



「何となくこの仕組みが機能している事は分った。だけどさ、この仕組みはランク3以上の冒険者には適応されないんだろ?何で判別しているんだ?」

「それはこの、冒険者カードで識別している。これを身につけていないと漏れなく魔法の餌食にされる」


「今、餌食って言ったよなッ!?というか、俺ってランク3じゃないんだけど!進んだら餌食にされるのかよ!?」

「それは大丈夫、高ランクの私に触れている限り、殲滅対象外となる」


「今、殲滅って言ったよなッ!?完全に殺しにかかってるじゃねぇか!」

「ふふ、冗談。魔法を喰らったとしても、生命に支障は無い……はず」



 なんなんだよ、この仕組み。

 すごく高度な技術を使っているように見えるんだが、使用用途に大いに問題がある気がする。


 それにしても、最近、不安定機構の怪しさが急上昇しているんだが。

 そういえば、不安定機構ってのは必ずも"善"じゃないって話だったよな。

 闇の組織なんてのもあるようだし、あまり深く関わり合いにならない方が良さそうな気がする。



「ほら、ユニク、私の手を握って。このまま危険警戒エリアを抜けてしまえばもう大丈夫だから。だいたい直線で50mくらいだと思う」

「50mか……案外、距離があるよな」


「……私としてはその100倍はあっても良いと、今は思っている」

「5kmか……。バッファを使ったとしても、生き残れる気がしねぇな!」



 俺は心の中の動揺をボケることで隠しつつ、リリンの手を握る。

 いくら危険が無いとはいえ、あんな派手な魔法の餌食になるのはごめんだ。

 ついでに言うと第九守護天使セラフィム中だから魔法なんて完全無効状態だけど、嫌なもんは、嫌なのだ。


 そうして俺はリリンに手を行かれながら、森を進んでいく。

 なぜか、クネクネと回り道ばかりしている気がするが、たぶん魔法陣を避けて回っているんだろう。

 リリンのちょっとした気遣いに感心しつつも、反対側の杭が見えてきた。


 お、ゴールか。

 最初こそ驚いたが、何て事は無かったな。

 ……タヌキの襲撃もなかったし。


 だが、俺が安堵した瞬間を狙いすましたかのように、奴の鳴き声が森に響いた。



「ヴィギュリォォォォォォン!」

「あ。」

「ちッ!出やがったな、タヌキ!どこだ、どこにいやがるッ!!」


「……ユニク」

「そこかッ!?く、いないか……」


「ユニク!」

「リリン!この近くにタヌキがいる!警戒しようぜ!」


「……ユニクが今警戒するべきなのは、タヌキなんかでは無い」

「は?」


「その、足元の、魔法陣。」

「ひっ……」



 ズギャァァァァン!

 ズッ、ドドドドドドドドドドドドドド!!

 きゅぴぃーん!きゅぴぃーん!カッ!!ズドォォォォォン!!

 ジュバ!ジュバ!ジュゥゥゥウウウウウッッッ!!

 ゴッ!!ドドドッッ!!キラリーン!フュンフュン!

 チッ、ドドドドドドドドーォン!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」



「……ヴィーギッギッギッギッギッ!ヴィギメ!!」



 **********



「チクショウ、タヌキの野郎……。完全に罠にはめられたぜ……」

「いや、自爆だと思う」


「それを言わないでくれッ!!」



 危険警戒エリアを出る直前で、見事にタヌキの狡猾な罠に引っ掛かった、俺。

 リリンの言うとおり、身体には何も影響が無かったが、俺は心に深い傷を負った気がする。


 眩い閃光で視界が塗り潰されながらも、俺の耳に届くのはタヌキの笑い声。

 あの野郎は俺の無様な姿を見て、爆笑していやがったらしい。

 ……もう、俺に慈悲は無い。今度会ったら、絶対にぶっ殺してやるッ!!

 俺は改めてタヌキに殺意を覚えつつ、危険警戒エリアを抜けて一息ついた。


 なお、タヌキは俺達の前に姿を現すことはなかった。

 完全に挑発に来ていただけのようである。……ふざけやがって!!



「とりあえず、ユニクには気を引き締めて欲しい。ここはもう森の深部。場合によってはランク5を超える動物達と連戦することもある」

「っ!……いや、待てよ……ランク5と連戦とかにはならねぇぞ?なにせ、一匹目でバットエンドだろうからな!」



 ははは!ははははは!はは……はぁ。


 ランク5とか、強さが三頭熊並みってことだろ?

 んで、今からそんな化け物じみた強さの動物と、楽しく触れ合いをするって訳だ。


 ……大丈夫かな?俺。



「なぁリリン。一応聞いておきたいんだが、第九守護天使セラフィムが突破されるなんて事は無いよな?」

「基本的にからめ手を使われない限り、第九守護天使セラフィムは効果を果たしてくれる。もちろん、魔法の耐久力が尽きて破壊されることもあるけど、定期的に第九守護天使セラフィムを掛け直していれば大丈夫!」


「そっか……それなら、一応安心なんだな」



 大丈夫だと思ってはいるけど、一応リリンに確認をしておく。

 さらに追加で、三頭熊みたいな魔法を無効化してくる奴はいないのかとも質問してみた。


 答えは、否。

 三頭熊と同じような魔法無効化の魔法紋を持っている奴なんかそうそういないらしく、戦闘においての第九守護天使セラフィムの優位性はある程度保証されているらしい。



「あぁ、良かった。第九守護天使セラフィムがあるからって余裕をかましている所に不意打ちなんて喰らったら、それこそ死んじゃうからな!」

「もちろん、防御魔法に頼りきるのではなく、攻撃を受けない様に立ち回るのが基本。そういう事も踏まえて、ユニクに覚えて貰う事は大きく二つ」


「ん?俺が覚えること?」

「そう。まずは強化された鎧を使った、有効的な戦闘の仕方を覚えて貰う」



 話の流れで、俺の訓練メニューの話になった。


 リリンが言うには鎧の使い方を知るだけで、戦闘が劇的に変わることもあるという。

 鎧の有効的な使い方……ね。

 リリンとカミナさんの悪ふざけから出来あがったこの鎧に、有効的な使い方なんて有るんだろうか?


 あぁ、なるほど。

 ……アロマの香りで癒してやるぜ!



「鎧の使い方か。色々魔法紋を刻んで貰ったし、少しは役立つようにしねぇとな!」

「うん、それともう一つ、とても重要な事を覚えて貰う必要がある」


「とても重要なこと?なんだそれ、そんなもん予定にあったか?」

「もともと、長期的な予定の中にはあったけれど、暫く先の事にしようと思っていた。だけど、事情が変わったから」


「どういうことだ?」

「カミナとの会談を経て、暗劇部員が狙っているのがユニクだと分かった。これによりユニクを脅かす危険性がとても高くなっている事も。なので、ユニクには"必殺技"を覚えて貰う」


「ひ、必殺技だと!?」



 何ッ!!必殺技だって!?

 必殺技っていうと、リリンの使う雷人王の掌ゼウスケラノスのような超ド派手な技のことか?


 マジか……。俺に必殺技が出来るのか。

 すごく個人的に燃える展開なんだけど!


 心の中でハシャぎまくりながら俺は、リリンから伝授されるという必殺技に思いを馳せた。

 どんなもんかまったく予想は出来ないが、どうせなら、今の俺に似合ったカッコイイ技が良いな!


 と、深く考えることもなくこの結論を出した俺。

 ……しかし、俺の目の前にいるのは、悪役極まる心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)だった。



「そう、必殺技。必殺技とは何もかもを殺し尽くす、純然たる破壊と殺戮の技の事。……かつて英雄ユルドルードが振ったとされるそのグラムに秘められし力を、今ここでユニクに伝授したと思う!」

「……。はい?」



 なんだその、悪魔が使うような技の説明はッ!?

 純然たる破壊と殺戮って、どう考えても悪い意味でしか聞こえないんだがッ!!

 それじゃまるで、俺まで心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)みたいじゃ……。


 ……うん。そうだった。俺って、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の一員だった……。


 なるほど、リリンは本格的に俺の教育を開始するらしい。

 あぁ……そういう事か……。


 昨日から今朝にかけて行われた悪魔会談。

 俺が席を外した時に行われたであろう話の内容は、恐らくこうだ。



『ユニクルフィンを調教して、立派な悪魔に育てよう!!』



 …………。

 今日は色んな意味で、覚悟を決める事になりそうだ。



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