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第22話「さまよう冒険者達」

「リリン。貴族連中は逃げちまったけどいいのか?」

「いい。あれでも貴族の端くれだと言うのなら、『侵略掌握軍の総指揮官』に逆らう事の意味くらいは心得ているはず。今頃、一家揃って夜逃げの準備でもしているんじゃない?」



 ……うっわぁ。

 ゲロ鳥を逃がしたばっかりに、貴族身分を捨てて夜逃げか。

 可哀そうに。さぞかし泣きたい気分だろう。

 でも、せっかくだから森にでも行って鳴くと良いと思うぜ。

 ぐるぐるげっげー。


 俺は内心の罪悪感を誤魔化しつつ、リリンに受付を済ましてしまおうと促した。



「ま、貴族は放っておくとして、受付済ましちまおうぜ?」

「そうだね。あんなのに構っている暇は無い。行こうユニク」



 リリンはまるで興味でも無かったかのように、さっさと受付に向かって歩き出した。

 ……こういうやり取り慣れているんだろうなぁ。

 さっきの紋章を見せつける様なんて、流れるようなスムーズさだったし。


 俺も気持ちを切り替えつつ、リリンの後に次いで受付の椅子に腰かけた。



「すみません!受付いいですか?」

「あ、こんにちわ。どの依頼です?」


「うん。この依頼を受けたい」

「はい。えっと……鈴令の魔導師リリンサ様とその従者様ですね」



 そう言いながら、リリンと俺が提示した冒険者カードを受け取る受付の人。

 その後キッチリと俺達のレベルを確認し、少しだけ困ったような表情を浮かべた。


 ……俺は一応、同じ立場のパーティーメンバーなんだけどなぁ。

 他人から見たんじゃ無理があるってのは重々承知しているんだけど、そんな露骨に困らなくても良いじゃないか。

 リリンも、その受付の人の表情に思う事があるらしく、「何か不都合がある?」と聞いていた。



「いえ……。この依頼なのですが、かなり危険を伴う依頼となっておりまして従者の方のレベルがいささか低すぎるのでないかと……」

「そういう事……。だけど心配は無い。私は単体で『エンシェント森ドラゴン』を狩れる。この森では脅威を感じないと思う」


「え?あの森ドラゴンをですか!?」

「イケる。奴は空を飛ばない。なので魔法を遠距離から叩き込み続ければ、いずれ落とせるから」


「……それは頼もしいですね。そういう事でしたら止めは致しませんが、十分にお気を付け下さいませ。なにぶん最近では森の生態系が変化しているようだと報告が上がってきていますので」

「生態系の変化?」


「はい。この依頼主、『聖・オファニム博愛大医院』の話によると、数多くの冒険者が森の異変を訴えていると言っています。それ以外にも、何かが戦った跡のような焼け野原が見つかって、そこから真っ白いドラゴンが逃げる様に飛び立って行ったなんて話ですよ。……中には、やたら強いタヌキの群れに出くわしたとかいう眉唾な話も混じっていますが」



 ……おい、何やってんだよ。ホロビノ。


 俺の頭の中に、ホロビノと三頭熊の戦いの跡地が思い浮かぶ。

 焼け野原って事は、少なくともホロビノは魔法攻撃をしたってことだろ?


 つまり森には三頭熊並みの野生動物がいやがるのか。

 ……ついでに将軍タヌキもいるみてぇだな。

 不安要素がてんこ盛りだ。



「いずれにせよ、依頼は受けたい。詳しい依頼内容を教えて欲しい」

「はい。分かりました。こちらをご覧ください」



 ん?何だその紙?

 受付の人はカウンターの奥から3枚の紙を取りだし、机の上に並べた。

 1枚目は、依頼の受付票。

 2枚目は、依頼内容を詳しく記したもの。

 3枚目は、依頼に関する注意事項だ。



「こちらの任務は危険度が高い為、依頼主様から安全には十分留意する事との伝言と注意事項を記した紙が配布されます」

「……なるほど、カミナらしい気遣い」

「え?カミナさんがどうしたって?」


「この依頼主自体は『聖・オファニム博愛大医院』だけど、指揮を取っているのは間違いなくカミナ。ユニク、この注意事項を見て欲しい。この紙どおりに行動すれば基本的に死ぬようなことにはならない」

「へぇ、そりゃすごい……。どれどれ……」



 ポイゾネ大森林深部に侵入する際の注意事項。

 ・必ず5人以上のパーティーであること。

 ――――――――――――

 ――――――――――――

 ――――――――――――



「なぁ、リリン。一番最初の行に5人以上必須って書いてあるんだが?」

「それは一般的な冒険者の話。私達ならば大丈夫!」


「……。じゃあ次の行は?っと」



 ポイゾネ大森林深部に侵入する際の注意事項。

 ・必ず5人以上のパーティーであること。

 ・必ず医療知識のある人員を確保すること。

 ――――――――――――



「なぁ、リリン。医療知識なんて持っているのか?」

「擦りキズには絆創膏。腹痛には飲み薬。1日3回までOK!!」


「……。他にはなんて書いてあるのかな?」



 ポイゾネ大森林深部に侵入する際の注意事項。

 ・必ず5人以上のパーティーであること。

 ・必ず医療知識のある人員を確保すること。

 ・必ずランク8の野生動物に対抗できる手段を用意すること



「なぁ、リリン。ランク8に出会ったらどうする?」

「魔法で丸焼き!!!」


「……。不安しかねぇんだけどッ!本当に大丈夫なのかよッ!?」

「大丈夫。もしもの時の為にホロビノも待機させようと思う」



 そのホロビノがすでに不安要素なんだけど。

 ……しかし、この依頼しか真っ当なものが無いのも事実。

 明らかにヤバそうな森ドラゴンに会いに行く何てのは嫌だしな。


 しょうがない、腹をくくるか。



「まぁ、なんとかなるだろ。受けようぜ?リリン」

「私もそうしたい」

「はい、ではこちらの書類にサインをして頂けますか?」



 **********



「……んで、依頼内容によると、『冒険者が謎の症状を訴えているからその原因の調査をしてくれ』ってか。ずいぶんとおおまかな内容なんだな」

「うん。カミナも攻めあぐねているのかも。詳しい内容を記した紙によると、森の中心に近づくにつれ症状を訴え出した冒険者の数が多くなっていくみたい。しかし、時間や日によってバラツキがあり、何も起こらない日は森の奥深くに入っても特に異常は見つからないらしい」


「原因は移動しているのか?よくわからんな」

「とにかく、森の奥深くに行かなければ話にならなそう。とりあえず向かおう」



 俺達は不安定機構で受付を済ました後、さっそく森に来ている。

 道中、依頼内容を記した紙を熟読しながら具体的な目標を立てるための話し合いをした。


 そもそも依頼を受けたのは、俺の強化訓練をしたいからだ。

 あくまでも、この依頼はついでに行う程度のものなのだ。



「じゃ、森の奥深くを目指しつつ、俺の訓練を行っていくという事でいいのか?」

「そうしたいんだけど、こうも人が多いんじゃやりづらい、もっと奥に行ってからにしよう」



 リリンはうんざりしたような顔で、辺りを見渡している。

 あぁ、そうだよな。俺もそう思うよ。


 さっきから嫌でも耳に入ってくる汚い鳴き声。

 我らが頭目、無尽灰塵さんと引き分けた偉大なる力を持つゲロ鳥様を呼ぶ声があちらこちらから聞こえてくるのだ。



「ぐぅるぐぅるげっげー!!くそ!出で来いよ」

「ぐろぐろげげー!!どこにいるんだ?おーい!」

「ぐぐるるげっげー!!ぐぐるるげっげー!!ダメだ。いねぇ」

「ぐるぐるいぇいいぇい!出てきませんねぇ……」



 ……何このゲロ鳥祭り。

 良い歳した大人が揃いも揃って何やってんの?

 しかも、どいつもこいつもヘタクソすぎる。

 いくら知能の低い鳥といえど、こんなテキト―な鳴き声じゃ寄ってくるはずもない。


 つーか、ゲロ鳥を探している冒険者多すぎだろッ!?

 どんだけ逃げてるんだよ!



「なぁ、リリン。こんだけの人数で探して見つからないんなら、ゲロ鳥いないよな?」

「……居るかどうかはともかく、肝心の鳴き真似がヘタすぎる。これじゃ近づいてこない」


「やっぱそうだよなぁ。俺もヘタクソだな―とは思ってた」

「……ユニク。ここは凄腕鳴きマネ師としてお手本を見せてあげるといい。さぁ、高らかに鳴いて!」


「え?ちょ、そんな急に……。何だその期待に満ちた目は!くッ、やればいいんだろッ!?」



 リリンが期待たっぷりの目で見つめてくる。

 そのじっとりとした視線の前では俺に逃げ場など無く、ただ高らかに鳴くしかない。

 しょうがねぇなぁ。

 俺は胸いっぱいに空気を吸い込むと、熱き思いを乗せて高らかに、鳴いた。



「ぐるぐるげっげーーーーーーーーーッ!!!!」


「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」


「おい、聞いたか今の!」

「あぁ、間違いねぇ本物だ」

「北の方から聞こえた!行くぞ!」

「50万エドロは私のものよ!」

「早く行こう。逃げられる」

「お前は右から回れ!俺は左から行く!!」

「あぁわかった!いくぞ」

「いい?見つけ次第バッファ全開で行くわ」

「ぐへへ、捕まえりゃあうまい酒と飯。楽しみだぁー」

「この命に代えても、必ず!!」



「さすがユニク。周囲の冒険者が全員勘違いをしてしまうくらい完璧な鳴き真似だった。これなら鳶色鳥捕獲名人を名乗れると思う!」

「名人とか、なりたくもねぇんだけど!」



 俺はリリンのボケに突っ込みを入れつつ、周囲の状況を観察した。

 そして、俺の視線の先で慌ただしく動き出した冒険者たち。


 我先に獲物を捕まえようと迅速に行動を開始した冒険者たちは、そのたぐいまれなる聴覚を存分に生かし、鳴き声の発生源たる俺に向かってきた。

 そして、何人かの冒険者たちが俺達の前を通り過ぎ、反対方向へと抜けていく。


 …………。

 なんか、ごめん。特に悪気は無かったんだ。すまん。



「リリン。心の底から罪悪感が湧き出てくるんだけど?」

「そう?でも、これで冒険者はここら辺に留まるはずで、これで心おきなく森の奥で訓練ができる。全て狙いどおり!!」



 ……作戦だったのかよッ!!

 リリン曰く、冒険者の足止めをしておきたかったとのこと。

 森の奥深くにはランク3以上の冒険者しか入れないとはいえ、まったく人がいない訳ではないらしい。


 中には奥に入る時だけランク3の冒険者と一緒に行動し、入った後は別行動を取ると言った違法スレスレの事をする冒険者も居るらしい。

 そういうのはだいたい面倒事を起こすので、浅い森におびき出しておくのがお互いの為だとか。



「じゃ、ユニク。定期的に鳴き声をお願い」

「……しょうがねぇなぁ。あ、それ!ぐるぐるげっげーーーーーー!!」


「いたぞ!今度はあっちだ!」

「急げ!」



 ……。なぁ。俺の鳴き真似、そんなに似ているのか?


 俺としては、こんな才能いらないんだけど?

 もっとこう……魔法の才能とか、剣の才能とかが欲しいんだが?


 変な所で目覚めた俺の才能。

 俺の声に合わせてどよめく森の光景を見聞きするたびに、虚しさが込み上げてきた。



こんにちわ。ご愛読ありがとうございます!


もはや、『何回やるんだよ!』って感じではございますが、小説の改定を行いたいと思います。

今回は結構、1章を改定するつもりです。

もちろん、大幅な設定の追加などはしませんが、ユニクのツッコミは増やします!!

詳しくは活動報告に書いておきますので、興味のある方はどうぞご覧ください!

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