第19話「悪魔たちの饗宴・情報の総括」
「まだ謎を増やすのかよ!?もうお腹いっぱいなんだがッ!?」
「うーん、ううん?あれおっかしいなあ……。全然思い出せない……」
この期に及んで大悪魔なミナチルさんが謎を投下してきやがった。
詳しく話を聞いてみたが全然思い出せないらしく、恋心を阻害した何かがあった気がするんですけど……と言葉を詰まらせている。
「確かに、ゆにふぃーを諦めざるをえない理由があったような気がするんですけど………すみません。全然思い出せなくて………」
「………ユニクに新しい女の影?これはいけない。見つけ次第、闇に葬ろう」
「リリンが怖いこと言ってる!」
「簀巻きにして、レジェンダリア行き」
「闇ってレジェンダリアの事かよ!」
リリンはいつもの平均的な表情で恐ろしい事を言っている。
最近、表情のバリエーションが増えてきているリリンだが、この『平均的な表情』の時に悪だくみを言い出すのが一番怖いんじゃないかと思うようになった。
なにせ、そういう時はリリンの目が笑っていない。……ガチということだ。
そして、カミナさんは「うーん。ややこしい事になってるわねー」とか言いながらも、自分のカップに紅茶を注ぎ、完全に休憩モードに入っている。
……恐らく面倒になってきたんだろうな。
手術をいっぱいしてきたらしいし、疲れているということにしておこう。
「で、また謎が増えたたわけだが時間もないし、俺とリリンで気になる事を思いつく限り言っていこうと思う。カミナさん、記録とかできます?」
「オッケー!そういうのはまかせて」
クッキーを片手に軽い返事をしてくるカミナさん。
まぁ、カミナさんは休憩時間な訳だしいいと思う。
だが、うちの無尽灰塵さんが口いっぱいにクッキーを詰め込んでいるのはいただけないんだが。
俺は優しく「リリン?」と声を掛けたら、「もふっふる!」とか言いながら慌ててココアを口に流し込んでいた。
「……。じゃあまずはミナチルさんの話で明らかになった事からいくぜ!」
「もふ……準備は整った。いつでもいける」
リリンの準備も整った。
俺達二人ががりでつらつらと気になる所を並べられていき、カミナさんが凄まじい勢いでカルテを書いていく。
そして出来上がったのが、以下の内容だった。
・ミナチルさんは『ユニクルフィン』と出会っている。
・その『ユニクルフィン』は
・英雄ユルドルードと行動を共にし、
・レベル2万以上で、ランク8の蟲を一撃で殺し、
・致命傷の毒を負った人を容易く完治させ、
・たった一人で1万人を救出し、
・親しい間柄の女の子がいる。
・可能性としては、高確率で俺と同一人物だが、確証も無い。
「……自分で言うのもなんだが、コイツ、凄すぎない?」
「流石は英雄との息子と言うべき超性能。この時点で、私達、心無き魔人達の統括者全員が揃った時と同等の戦力があることが推測される」
「それは……トンデモなく凄い事なんだろうな。想像がつかないけど」
「今となっては難しいけれど、もし全員が集まったのなら、一泊二日でフィートフィルシア領を落とせると思う」
「……聞いたか?ロイ。お前んとこの領地なんか、旅行感覚で滅ぼせるってよ」
俺の想いは届かないんだろうけど、一応声出して言ってみる。
ここは親友として助けに行ってやりたいが、俺は心無き魔人達の統括者だから攻める側なんだ。すまんな。
だから、頑張ってくれ、ロイ。
もし負けたら、Sサイズのワンピースを着ることになるので、絶対に負けない方が良いぞ。
「次は、『ゆにクラブ』カードについてだな」
「本当にこのカードには思う所があるので、この煮えたぎる思いは他の会員にぶつけたいと思う!」
さりげなくリリンが恐ろしい事を言っているが、ここは華麗にスル―して情報をまとめる。
・この『ゆにクラブ』カードは『ユニクルフィン』に関わりを持った12人に送付されている。
・カードには俺に関する情報と、位置情報を含む個人的なデータが載っている。
・カードには3段階の階級があるが、何を判断基準にしているか不明。
・そもそも、このカード自体が何を意味するのかも不明。
「このカードに関しちゃ分からない事だらけだな」
「確かにそう。そして、今後はこのカードの収集も視野に入れていかなければならない」
「そういえば、こっちの赤いカードはミナチルさんのだけど、俺達が預かってもいいのか?」
「……。それ持ってると、命を狙われる可能性が有るんですよね?そんなもの、いると思います?」
「俺だったら……いらないかな」
「ですよねー。だけど、タダであげるのも勿体無いので、1個だけ、お願いを聞いて貰えます?」
「お願い?……命の危険が無ければ、いいぜ」
「あ、そうですか。ふふ、何にしようかな―」
「決めてないのかよッ!?危険な奴はダメだからな!金がかかるのも無理だからな!!」
くっ!騙されたッ!!
昔の俺が何かやらかしてる可能性がチラついて、つい、判断が遅れちまう!
「じゃ次は俺のレベルについてだ」
「これには不可解な点がいっぱいある。まずは―――」
俺、最大の謎。レベルについて。
通常ではありえない現象が起こり、その理由も定かではない事が非常に多い。
・俺は村に来た時「レベル0」だった。(6年前)
・この時に英雄ホーライによってレベル誤認の魔法を掛けられていた。
・村に慣れるのに1年使い、その後、5年の歳月を掛けてレベル100になった(16歳、現在)
・ウナギに斧を投げつけたらレベル200になった。
・黒土竜とリリンとホロビノなどと訓練をしてレベル2900になった。
・連鎖猪と三頭熊との戦闘。レベルが9000になった。
・順調にレベルは上昇しているが、リリンの経験上、レベルの上りが遅い(通常の半分程度)
・俺の戦闘能力はレベルに見合っておらず、レベル1万に満たない今の状態でも、冒険者・レベル3万と同じくらいは戦闘力がありそう。
・俺は記憶を無くしている。
・記憶を無くした理由については不明だが、健康上は問題が見当たらない。
こんな所だろうか。
我ながら、リリンと出会ってからホント凄い人生を歩んでいると思う。色んな意味で。
「そして、俺達を狙う闇の組織」
「ミナチルの話により予想外の事が判明した今、こんなのに構っている暇は無くなった。裏技でも非人道的手段でもとっとと使って、ぷちっと潰してしまおう」
「ノリが軽すぎる!相手はリリン並みかもしれないんだろッ!?」
まったく。何て事を言い出すんだろうか。
いつも思うけど、リリンって可愛い顔して、意外と脳筋だよなぁ……。
この影響を与えたのは誰だろうか。
さて、その闇の組織だが、
・闇の組織の狙いは『俺』もしくは『俺とリリン』。目的は不明。
・構成人数は最低でも2人組の女。
・少なくとも1人は星魔法が使え、盗賊30人を捕獲できるほどの戦闘力を持つ。
・認識阻害の魔法が使える事から『暗劇部員』である可能性が高く、そうであるならば指揮官クラスになる。
・仮に暗劇部員の指揮官だった場合、戦闘力はリリン並み。
・高価な魔導具を使い捨てにしている為、財力もあると推測できる。
いざ文書にして書き出してみると、その危険性がよく分かった。
ホントに一体、何のために俺を狙っているんだろうか。
……いや、待てよ。もしかして繋がっているんじゃないのか?
「リリン、この暗劇部員ってさ。もしかして『ゆにクラブ』カード持ってるんじゃないか?」
「え?」
「これは単に憶測なんだが、俺を狙う理由が『ゆにクラブ』カードを所持している、つまり、過去の俺と関わっているからだとしたら?」
「……これは盲点だった。確かに、そう仮定すると色々な事に説明がつく」
「説明がつく?」
「そう。そもそも、今この瞬間にユニクを狙い始めた理由が不明だった。だけど、もし、敵が『ゆにクラブ』カードを所持しているのなら話が早い」
「というと?」
「敵は私同様、かなり前からユニクを探していたかもしれないという事。だけど、当のユニクルフィンはナユタ村という地図にも載っていない小さな村に籠っていて見つける事が出来なかった。けれど先日、比較的大きな街『アルテロ』にユニクが姿を現し、カードを通じて居場所が察知されたのかもしれない」
「なるほど。カード持っているなら居場所がバレちゃうもんな。そして念入りに準備をして、接触をしてきたということか」
お?この可能性、かなり濃いんじゃね?
敵は若い女の二人組だって言うし、ミナチルさんみたいな過去が他にもあったのかも。
で、現在、命を狙われていると。
……。
過去の俺、何したんだよッ!!命を狙いに来るって大概だぞッ!?
「……過去の俺って、変態だったんだろ?そのせいで命を狙われるとかさぁ……」
「まぁ、決めつけは良くない。可能性が高いだけでまったくの別の事が原因かもしれないし。でも……」
「でも?」
「もし、敵が『ゆにクラブ』カードを持っていたら、それこそ、慈悲など与えない。ユニクに助けて貰った分際で命を狙うなど、蛮死に値する!」
「……ちなみに、どんな事をするんだ?……殺しちゃったりしないよな?」
「まずは、『魔王シリーズ』完全解禁で魂に恐怖を刻みこむ。当然、戦闘は容赦しない。バッファ形態のホロビノを従え、ランク9の魔法陣を起動させての全力魔法で叩き潰す!そして、捕らえた後はごうも……尋問に掛け、洗いざらいの事を吐きだして貰らおう!さらに、身ぐるみを剥がし財産を差し押さえて経済的にも追い詰める。当たり前だけど、泣いてもやめない。そうして精神的にも肉体的にも追い詰めた後、最後にはレジェンダリアで奴隷として超格安で売り飛ば―――」
「怖ぇぇぇぇぇ!!聞いてる俺がぞっとするわッ!!」
聞いた俺も悪かったと思うが、流石に聞くに堪えない!
次第に興奮してきたリリンをなだめながら、その時がきたらうまく立ち回らなければと心に決めた。
一応、女の子だって言うし、そこまでするのは可哀そうだし。
……これは決して、俺に好意を抱いている可能性のある人を雑に扱いたくないとか、上手く事を運べば人生初のガールフレンドが出来るかも!と期待しての事なんかじゃない。
「まぁ、謎っていうとこのくらいか?……大きく分けて4つもある時点で頭が痛い事この上ないが」
「カミナ。ユニクが頭痛を訴えている。薬が欲しい」
「タヌキパジャマでハグでもしてあげれば、治まるんじゃないかしら?」
「ユニク!遠慮はいらない!!ぎゅっとしてもいい!!!」
「……遠慮しておきます」
あぁ、そんな事をしようものなら、寝込んじまうだろうな。
そして、夢の中でタヌキに襲われると。
つーか、最近、物凄い頻度で夢にタヌキが出てくるんだが、絶対そのパジャマのせいだと思う。
穏やかな夢を見ていたとしても、突然タヌキの鳴き声が聞こえてきて地獄と化すのが黄金パターンだ。
あぁ!目の前にタヌキがチラつく!!
ここはタヌキと関係ない話でもして、頭の中から追い出してしまおう。
「じゃ、後は雑談でもするか―――」
ピピピピピピピピピピ!!ピピピピピピピピピピ!!
「ん?なんだ?」
「緊急ナースコールね」
「はい、こちらカミナ研究室・看護師のミナチルです。……緊急搬送ですか?はい。はい。はい……」
「カミナ、もしかして患者が来た?」
「そうみたいね。ほら、この病院は森も近いし、冒険者が運ばれてくる事が多いのよ。この時間だと、寝込みを野生動物に襲われたパターンとかかもね」
緊急の連絡を受けてもまったく動じようとしないカミナさん。
一応、カップに残っていた紅茶を飲み干していつでも席を立てるようにしているものの、未だ、休憩中の域を出ていない。
……慣れているのか、心が無いのか。あぁ、両方か。
俺が一人で納得している間に、ミナチルさんが受話器を置いた。
そしてカミナさんが、『緊急の患者様だよね?症状は?』と話を促す。
「はい。患者様の症状は、吐き気、動悸、腹部の痛み、下痢など、一般的な食当たりに多く見られる症状ですね」
「うん。続けて」
「ですが、この患者さんは13歳の女性冒険者であり、『ポイゾネ森林』から帰って来たばかりだと証言しているそうです」
「森から……。大事を取って私が診た方が良さそうね。あの症状の可能性もあるし」
カミナさんは「それにしても、13歳かぁ。ずいぶん幼い子が冒険者をしてるのね」なんて呟きながら、椅子に掛けていた白衣を羽織った。
これは事実上の悪魔会談の終了宣言と取っていいだろう。
……俺、無事に生き残ったんだな。