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第17話「悪魔たちの饗宴・ゆにクラブ会員証」

「12枚!?そんな……。ミナチルの他に、あと10人もライバルがいるなんて……」

「これは忌々しき事態だわ。まさか、リリンの他にも、神託に選ばれた人がいたなんて……」



 ミナチルさんの過去話から一転、よく分からん会の存在が明らかになった。

 素性も目的もまったくの不明。

 会員証を持つリリンでさえ、同じ会員の存在を知らなかったらしく、今も、ほんの少しだけ口を開けたまま、ぼんやりとミナチルさんを眺めている。


 事態を呑み込めていないのは、当然、俺も、カミナさんも同じ。

 ここにいる4人の中で状況を把握しているのはミナチルさんのみで、幸い詳しい事情を知っていそうな雰囲気だ。


 ミナチルさんは、少し考え込んだ後、カミナさんがなにげなく呟いた言葉に答えてきた。



「神託?私はそんな大層なものに選ばれていませんよ?」

「え?で、でも!そのカードは神託といっしょに授けられるもの!ユニクの居場所を示す大切な手がかりだと……」


「いえ、ですから、私のとこに神託は来ていないんですって。このカードもある日突然、不安定機構から送られてきましたよ。……普通郵便で、なおかつ着払いでした。何度か受け取り拒否したんですけど、あまりにもしつこいんで、ママがお金を払っちゃったんですよねー」



 ……なぁ。不安定機構よ。

 カードの扱いが雑すぎるんじゃないだろうか。

 なんだよ、普通郵便って。なんだよ、着払いって。



「それで、中を恐る恐る開けてみたら、このカードと取り扱い説明書が入っていたってわけです。すごく驚きましたね。ゆにふぃーはもう死んでいるって思っていましたから」

「いや、勝手に殺すなよ!!」


「だって、全然姿を見せてくれなかったじゃないですか。ゆにふぃーは別れ際に「暇になったら遊びに来るからな!」って約束したのに。パパにも、「彼の事は死んだと思いなさい」って言われていたし、毎日欠かさず祭壇にお線香を立てていたんですから。ちゃんと生きてて、今こうしてお話できてるのが不思議ですね」



 ……死亡扱いどころか、線香まで!?

 ちくしょう!ミナチルさん一家、俺の扱い酷くない?


 心の中で溜息を吐きつつも、頭の中では示された情報を整理する。

 今知るべきなのは、カードの枚数よりも、カードそのものについてだな。



「ミナチルさん。カードには説明書が付いていたんですよね?その説明書って持ってます?」

「あー無くしちゃったんですよね。でも、書かれていた内容は覚えているので分かります」

「是非その内容を教えて欲しい!これは世界を揺るがす大きな問題!」


「世界を揺るがす?あぁ、リリンさんは神託に関係しているんでしたね。そんな大層な事、説明書には書いてなかったですけど……」



 そう言ってミナチルさんは、ゆにクラブ会員証についての説明を始めた。

 一字一句聞き洩らさないようにと、カミナさんがメモを取っていく。


 そして以下のようなメモ書きが出来あがった。



 ゆにクラブ会員証について


 このカードは不安定機構から普通郵便で送られてきたもの。

 中には説明文と一枚のカードのみが同封されており、それ以外は何も入っていなかった。

 説明文の内容は、以下の通り。


 ・このカードは英雄の実子『ユニクルフィン』に深く関わりを持った、12人に送付されています。

 ・カードには階級があり、上から順に、『ブラック』『ゴールド』『レッド』となり、よりユニクルフィンと結びつきが大きい者ほど高位の情報が示されたカードとなります。

 ・現在のカードの所持者数、ならびにユニクルフィンの情報についてはカードの裏へ記載され、最新の情報へと自動的に更新されます。



「カードの裏に記載?」

「そんなもの、私のブラックのカードには載っていない」

「あぁ、それはこうやって、カードの四隅に指を当てて、魔力を注ぐと一定時間表示されます」



 はい。これで表示されました。

 そう言ってミナチルさんは自分のカードを再び机に滑らせるようにして投げ渡してきた。

 ……今度は裏面を表になるようにして。

 つまり、俺の写真が載っている方は机に盛大に擦りつけられた訳だな。


 込み上げてきた溜め息が口から漏れ出るのと同時に、机を滑走していたカードが消えた。

 吹いてきた風の方向に目を向ければ、そこにはカードを手に取り、わなわなと震えるリリンの姿。

 どうやら、バッファ全開でカードを搔っ攫ったらしい。


 どいつもこいつも、遠慮と言うものを知らないんだな。

 あ、そう言えばこいつら、大悪魔だったっけ。



「なん……なんという事……。このカードにはユニクの現在地までもが載っている……!」

「はぁ!?なんじゃそりゃ」



 おいちょっと待て。俺の現在地が載っている?

 どういう原理か知らねえが、現在位置がバレてるとか、何それ怖い。


 俺はリリンの手の中にあるカードに視線を落とした。

 つらつらと並べられている情報。

 そこには俺の知られざる真実がまじまじと書かれていたのだ。



 ユニクルフィン個人データ。


 性別・男

 年齢・16歳

 誕生日・1の月・10の日

 血液型・A

 好きなもの タヌキ全般

 嫌いなもの タヌキ(カイゼル)


 称  号 英雄見習い

      タヌキスレイヤー

 現在位置 聖セント・オファニム博愛大医院

 ゆに階級 ブラック3

      ゴールド4

      レッド 5 計12枚



「な・ん・だ・こ・れ?……ツッコミを入れて欲しいのか?そうなんだな?……誰だよ!こんな事書いた奴!!情報のほとんどがタヌキじゃねえかッ!」

「あはは。そうなんですよねー。私のカードじゃこれが限界みたいです」



 ……誰だよ、こんな誤情報を流した奴!

 俺はタヌキの事なんか、ひとかけらも好きじゃないぞ?

 だから嫌いなものの所に、タヌキ全般と書くべきだ。


 つーか、嫌いなものの所に書かれた、タヌキ(カイゼル)とは、なんだろう?

 カイゼル……。カイゼルとはつまり、"帝王"の事だろ?

 なるほど、将軍の上か。絶対にヤバい生物であることに間違いねぇ。

 つーか、お前の事じゃねぇのか?星タヌキよ。


 タヌキの事は置いておくとして、俺の誕生日は1月10日なのか。

 うん。知ったところで、特に感慨深くもない上に目新しい情報がこれしかない。

 ……タヌキスレイヤー?

 逆にタヌキにスレイヤーされそうになりましたけど、それが何か?


 この情報の少なさにはリリンもガッカリしているんじゃ………?

 そんな事を考えながら、俺はリリンに視線を向けた。

 だが、俺の目には予想外のものが映る。

 リリンの目尻には、涙が溜まっていたのだ。



「え?ちょ!リリン、どうした!?」

「だって、だって、こんなのひどい………。ずっと探していたのに、頑張って探していたのに、こんなに簡単に、現在位置が分かるなんて………」

「よしよし、リリン泣かないの。このカードが悪いんだもんね。リリンは悪くないからね」



 リリンは「うん……」と頷き、涙をこらえている。


 あぁ、そりゃそうだよな。

 リリンは俺を探すのに5年の月日を掛けているという。

 その期間の中には師匠との修業期間や心無き魔人達の統括者時代も含まれてはいるが、俺を探していたことに変わりはない。

 そして、リリンは少ない手がかりを道しるべに、少しでも可能性がありそうな場所には必ず赴いたというその苦労は、想像を絶するものだろう。


 にもかかわらず、確定的な情報は常に手元にあったという訳だ。

 なにせ、ナユタ村から俺は一歩も外に出ていないんだし、村に来たなら必ず会える。


 これは流石に可哀想だな。

 というか、神託を寄越した不安定機構はどうしてこの『ゆにクラブ』カードの使い方をリリンに教えなかったんだ?


 ……なにか、陰謀めいたものを感じるな。



「ぐす……。」

「リリン?何してるんだ?」


「私のカードの保護を取っている。こうなってくるとこのカードには何が記載されているか気になってしょうがないから……」

「確かに、カードの階級が上がると開示されている情報が多くなるんだったよな?」



 確か、階級ではリリンの持つブラックが一番上だったはず。

 だったらもう少し有益な情報が載っているかもしれない。

 俺はほんの少しだけ期待を込めながら、リリンがカードの裏に表示された情報を読み終わるのを待った。



「………………。くす。」

「ん?今、何で笑ったんだ?」


「このカードによると、ユニクは」

「俺は?」


「……童貞」

「はぁぁぁぁぁッ!!??」



 はぁ!?なんだって!?

 俺は驚きのあまり、リリンの手に握られていたカードに顔を近づけ、まじまじと凝視してしまった。

 そこには、ミナチルさんのカードの内容に加え、信じられない事が書かれていた。



 ユニク裏・情報

 ・女性経験は無いに等しく、間違う事無き、童貞。

 ・村長ホウライとの勝負の戦績。813戦0勝800負13分。脅威の勝率0%。

 ・趣味は読書。ジャンルは色々。戸棚の奥に隠してあった本などが特に好き。



 おい!出てこい!このカードを作った責任者、出て来いって言ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!

 俺の知られたくない情報を簡単に流失させてんじゃねえよ!!

 つーか、最後!何でそれ知ってんだよ!?

 ちゃんとバレないように元に戻しといただろッ!?



「なぁ、リリン。こんなカード捨てようぜ?今すぐへし折ろうぜ?」

「ダメ。この情報があれば、ユニクが不貞を働いたかどうかすぐに分かる。これからは有効に使いたいと思う」



 くっ!一緒に旅をする女の子に俺の内情を常に把握されるって、恥ずかしいってレベルじゃねえ!

 なんだこの、羞恥プレイ。

 ……あ。

 というか、よく考えたらこの事知ってるのリリン以外に少なくとも後二人は居るってことだろッ!?


 なんだこの周知プレイ!

 これ仕組んでるの不安定機構アンバランスだよな?

 俺の心が不安定アンバランスになりそうだよ!まったく!!



「これはまずいわね……こんなものがあったんじゃ、情報がだだ漏れじゃない」

「あぁ、ちくしょう。恥ずかしいったらありゃしないぜ!」


「ユニクルフィンくん、問題はそこじゃないわ。あなた達、忘れてない?自分たちが命を狙われているって事」

「「あ。」」


「気が付いた?もしこのカードが敵の手にでも渡ったりしたら、状況は圧倒的に不利になるわ」



 ……マジか。

 こんな赤っ恥カードのせいで命の危険が増すなんて、冗談じゃない。

 だが、実際に2枚のカードには俺の居場所が『聖セント・オファニム博愛大医院』だと載ってしまっている。

 このカードが敵側に奪われれば、奇襲をかけ放題になるだろうな。


 ほんとにもう、作った奴出てこいよ!

 ブン殴ってやるからさ!



「リリン。このカードは見つけ次第、回収した方が良さそうね」

「うん。もちろんそうする。全てのライバルを打ち倒し、ユニクを手にするのはこの私!」



 またもよく分からない事を言いだしたリリンを他所に、俺は現実的な事を考えていた。


 リリンに神託を授けたのは、不安定機構。

 ミナチルさんにもカードを送付したのも不安定機構。

 確か、リリンがナユタ村に来ることになったのも、不安定機構の中で不手際があったからだとか。

 そして現在、俺達の敵とされる人物は、暗劇部員。もちろん、不安定機構の組織だ。


 少し、話が出来過ぎじゃないか?気のせいか?


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