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第16話「悪魔たちの饗宴・疑惑の否定」

「……すごい。……すごい、すごい!すごい!!!やっぱりユニクは凄い!たった一人で1万人も救ってしまうなんて、本当に凄い!!」



 リリンさんがときめいている。

 沈黙から一転、はしゃぎまくって「すごい!」を連発しながら机をバンバンと叩き、カミナさんに「落ち着いて!リリン!」となだめられている始末。


 ……あぁ、うん。

 すごいよな、この英雄の息子の「ユニクルフィン」って奴は。

 なにせランク8、レベル84102のヘンテコ蟲を剣で一刀両断したらしい。

 それも、物理攻撃無効と魔法攻撃無効の上から、つまり、第九守護天使セラフィムが掛っているのと同じ状態の蟲をだ。


 ……もうよく分からないほどに超強いってことなんだろう。

 それに、神壊戦刃グラムとかいう、伝説っぽい剣も凄いのかもしれない。

 きっと、重力制御とか付いていて、重さを自由に変えられる感じの剣だな。


 ははは……。ははは……。ははは……。

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!???


 おいちょっと待て!誰だよユニクルフィンって!?俺の知ってるユニクルフィンとずいぶん違うんだがッ!?

 俺こと”ユニクルフィン”はそんな事出来ないんだがッ!?


 なんだよ、誰だよ!?どうしちゃったんだよ、記憶をなくす前の俺!

 どうやったらそんな事が出来るんだよ!?

 教えてくれよ!誰でもいいから教えてくれよ!!


 そしたら、出来るじゃん!そんだけ強いなら、タヌキ狩猟できるじゃんッ!?

 将軍でも、星タヌキでも、ダース単位で狩猟出来るじゃん!!


 あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!

 なんで弱体化してるんだよ!、俺ぇぇぇぇぇぇ!!


 心の中の、魂の叫び。

 過去話で疑問解決どころか謎が増え過ぎて、どこから突っ込みを入れるべきなのか分からねぇ!



「あの、ミナチルさん。色々突っ込みどころがあり過ぎるんだが……それ、ホントに俺か?」

「はい、間違いなくキミの事ですよ。ユニクルフィンなんて言いにくい名前、そうそういませんって」


「あ、いや、なんていうか、今の俺とずいぶんかけ離れているんで、信じられないんだが?」

「そうなんです?あ、記憶をなくしているから、戦い方も忘れちゃったんですか?」


「……。不甲斐無いが、まったくその通りだよ」

「そう。今のユニクのライバルは、ランク8の蟲なんかではなく、タヌキ。彼はタヌキに勝つべく、日々辛い修行に励んでいる!」

「あはは……うそですよね?」


「「「本当。」」」

「えっ?そんなカミナ先生まで……。それじゃぁ、今のゆにふぃーはタヌキに勝てないんですか?……え?ホントに?」



 我ながら不甲斐無いので黙っていると、リリンが俺の現状をミナチルさんに説明しだした。

 手短に要点だけをまとめた簡素なものだったが、その話は俺の内心をがりがりと削ってくる。


 あぁ、自分の不甲斐無さを客観的に聞くのって想像以上に心に来るんだな。


 そうなんだよな。俺、タヌキに勝てないんだよ。

 なんだかんだ、黒土竜や連鎖猪に三頭熊、それに盗賊とそこそこ良い勝負をしてきている俺だが、なぜかタヌキにはまったく勝てる気がしない。

 なんか、因果めいた物すら感じてくるな。



「はぁ、なるほど。今のゆにふぃーが雑魚だという事は十分に分かりました。でもまぁそれはそれ。昔の彼は凄くて格好良くて、ちょっぴり変態でしたけど、それでも尊敬に値する人だったのは間違いありません」

「……もしかして、ミナちー。これはいけないわね。タイム!ちょっと作戦会議をするわ!リリン、耳を貸して!」

「どうしたの?カミナ?」



 突然何かを察して、慌てだしたカミナさん。

 ひそひそと小声でリリンと打ち合わせをしているが、一体何の話をしているんだ?


 きっと、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)なことだろう。

 俺が人間ドックに言っている間に何かの計画を練っていたに違いない。

 そして、予想外に過去の俺が強かったから、軌道修正が必要だと。


 うむ。ロクな事になる気がしない。


 リリンとカミナさんの密談は思いの他、盛り上がりを見せているので俺は暇だ。

 せっかくだし、ミナチルさんに質問でもしてみるか。



「ミナチルさん。当時の俺って、蟲と戦闘してました?」

「えぇ、そりゃもちろん!バッタバッタとヘンテコな蟲を切り捨ててました」


「うーん。そうなるとやっぱりおかしいよなぁ。ちなみにその時の俺のレベルって覚えてます?」

「レベルですか?その時はあんまり気にしてなかったからなぁ……でも、たぶんパパよりも高かったような気がします。ですのでレベル20000は超えていたかと」


「だよな。じゃ、やっぱりおかしい」

「え、何がおかし……いですね。うん。なんで今のゆにふぃーのレベルが9000代?どうしちゃったんです?」


「いや、まったくわからん!」



 ミナチルさんの話では、俺のレベルは2万を超えていたらしい。

 あくまで2万を超えていたかもと言うだけで、実際はどのくらいだったのかは分からないが、レベル80000の蟲を一撃で殺せるのだから相応には高かったはず。


 ……ミナチルさんの話の俺と、今の俺を結び付けるのはどう考えても無理がある。

 正直、俺に似た誰かと言う線の方が濃い気がするのだ。


 今さら一人で考えても仕方がないか。

 ここは素直にリリンに意見を求めよう。



「なぁリリン。ミナチルさんの話はどう考えても無理が―――」

「―――そんな、だめ!ユニクは私の!!今さら他の女が出てきてもゆずる気はない!!!!」

「あ、ちょ、落ち着いてリリン!声が大きいって!」



 なんだ?一体何の話をしているんだ?

「ユニクは私の!!」って前にも聞いた気がするけど、ロクな意味じゃなかったはずだ。

 結構シリアスな雰囲気がぶち壊しだな。



「おい、リリン!今結構大事な話をしているから、聞いて貰ってもいいか?」

「私も大事な話をしている!ユニクはだれにも渡さない!」


「……カミナさん?リリンに何を言ったんですか?」

「ごめん、ユニクルフィンくん。話がこじれちゃった!」



 えぇー、ホント何してるんだよ、この心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)達は!


 しかも、リリンが結構、興奮しちゃってる?

 いつもの平均的な表情が崩れかかっており、獲物を前にした時に見せるぎらついた視線がミナチルさんに注がれているし。


 ホントもう、これ以上カオスな状況を作らないで欲しい。

 とりあえず、リリンを落ち着かせるか。



「待て、リリン。ちょっと落ち着けって!」

「ユニク、私達の絆は神から与えられた神託によって堅く、それはもう、とてつもなく堅く結ばれている。最早、運命共同体といってもいい!」


「……いや、何を言ってるのかさっぱりわからんが、とにかく、一緒に冒険するってことだよな?」

「そう!ぽっとでのくせに幼馴染補正とか、胸やけがしてくる!!」



 なに!?

 あの強靭な消化器系を持つリリンが胸やけだとッ!?

 リリンにとってさっきの話は、鋼鉄の胃袋を傷つけるほどの衝撃だったのってのか!?



「リリンがそこまで真剣に考えてくれているのは嬉しいんだけど、とりあえず俺の話を聞いてくれ。さっきミナチルさんの話を聞いて思ったんだが、その、『ユニクルフィン』とやらは、本当に俺なのかな?」

「……どういうこと?」


「いくら英雄ホーライによってレベルが下げられているとはいえ、今の俺とミナチルさんの知る俺とじゃ相当の開きがあるように感じたんだよ」

「確かに、その話の『ユニクルフィン』の使った魔法、生命樹の技法(セフィロト・アーツ)とやらは、効果どころか、名前すら聞いた事がない。高位の魔法であることに間違いは無さそう」


「だろ?だったら、俺とは別人で俺の名前を語っていたとする方がしっくりくるんじゃないか?」

「……!!なるほど、そうかもしれない。というか、そうだと考えるのが自然!ミナチルの記憶はまったくの人違い!」


「あはは……いやぁ人違いなんてありえないですよ。彼がゆにふぃーだって、ちゃんと証拠も有りますし」

「「「えっ!???証拠があるの!?」」」



 あんのかよ!証拠!!

 8年も前の昔に少しの間だけ一緒に過ごした人を証明するなんて、難しいと思うんだが。


 そんな事を内心で感じながら、ミナチルさんの行動を窺う。

 ミナチルさんは自前の鞄の中をまさぐって、何かを探しているようだ。



「えーと確か、この名刺入れに……」

「名刺入れ?」


「そうなんです、堅くて丈夫だし、下敷きにちょうどいいかなって……あ、湿気で名刺とくっ付いちゃってますね……剥がれるかな……」



 ……おい。

 何を探していたかは知らないが、扱いが雑すぎるだろ?

 一応俺って命の恩人的なポジションの筈だよね?そこんとこ分かってる?


 俺のボヤキを知る由もないミナチルさんは、名刺入れから”赤いカード”を取り出し机に置いた。

 そして、慎重に名刺とそのカードを剥がしていく。

 間もなく露わになった物は、どこか見覚えのある高級感あふれるカード。


 なんだったっけ、これ?

 そんな疑問の答えを考える暇もなく、リリンの張りつめた声が室内に響いた。



「なんで!なんであなたがこのカードを持っている!?このカードは、私が神から授けられたユニクへの唯一の手掛かりだったカードで、私だけしか持っていないはず……」

「あ、なるほど。リリンさんもこの『ゆにクラブ』の会員証持っているんですね」


「「え?会員証?」」

「はい?そうでしょ?説明書にもちゃんと書いてあったじゃないですか?」


「「は?説明書?」」

「あれ?ご存じない?」



 いや待て、待ってくれ。

 この『ゆにクラブ』カードって何かの会員証なの!?

 俺の知らない所でそんな会があるとか、怖すぎるんですけど!?


 いくらなんでも、放っておけそうもない。

 ここはもう1枚のカードの所持者でもあるリリンにも、詳しく話を聞こうじゃないか。


 そう思いながら俺は視線をリリンに送る。

 しかし、俺の目に映ったのは、驚きで固まっているリリンの姿だった。



「……リリン?」

「ミナチル。確かに私はそのカードと酷似したものを持っている。しかし、詳しく見比べてみないと、同一のものであると断言できない。ちょっと貸して欲しい」

「いいですよ。ほい!」



 軽い返事の後、机の上を滑らせるようにしてカードを投げ渡してくるミナチルさん。

 ……あのさ。そのカード一応、俺の写真が描かれているのだし、雑に扱わないで欲しいんだが。


 リリンの手元に届いたカードをよく見てみると、細かい無数の擦れた跡。

 どうやらこの、『ゆにクラブ』会員証は名刺入れの台座としての役目をしっかりと果たしていたらしい。


 なんだろう。この、切ない気持ち。



「《サモンウエポン=ゆにクラブ》!……確かに、このカードと私の持っていたカードは瓜二つ。違うのは色だけ」

「あ!リリンさんの会員証は”ブラック”なんですね!すごいじゃないですか」


「……ブラック?色に何か意味があるの?」

「ありますよ!ブラックのカードは、この『ゆにクラブ会員証』全12枚の中でたったの3枚だけです!レアですよね」


「は?全12枚?……こんなもんがあと10枚もあるってのか?」



 ……次から次へと、よく分からんもんが飛び出してくる日だな。

 なんか今日は、すっごく濃い1日を過ごしている気がするし、どうやらリリンも俺と同じ考えみたいだ。

 あ、カミナさんも同じっぽいな。リリンに睨まれた三頭熊みたいな表情してるし。


 ふと、俺の中に「無事、明日の朝を迎えられるだろうか」と不安がよぎる。

 時計に目をやれば、時間はもう正午を回っていた。


 カミナさんの空き時間(悪魔会談)が終わるまで、後、3時間。


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