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第15話「過去の追憶・神愛聖剣」

「パパ?ママ?なんでぼーっとしてるの?お熱でもあるの?」

「あ、……い、いや。なんでもないんだ、ミナチル」

「え、ええ。そうよ。なんでもないわ」


「…………。」

「…………。」

「おい、おじさん夫婦。そんな変なものを見るような目で見ないで欲しいんだけど!」



 パパもママも、何度もゆにふぃーとヘンテコ虫を交互に見て、不思議そうにしているよ。

 あのヘンテコ虫がどうしたのかな?


 あ!そういえば、レベル80000なんて初めて見た。

 いつも森で見かけるのは、レベル200くらいのタヌキばっかりだし。



「ママ?パパ?あのヘンテコ虫がどうかしたの?」

「あのね、ミナチル。あの虫はね、すぅごおおおおおおおおおおく、怖い虫なのよ?」

「そうさ、ミナチル。あの虫はな、すっごおおおおおおおおおおく、やべぇ虫なんだぞ?」


「…………。」

「…………。」

「…………。」

「だから、やめてくれよ!俺、親父とは違うから!変態じゃないから!!」



 みんなでゆにふぃーを見つめてみると、ゆにふぃーは恥ずかしそうに手を振って誤魔化していた。

 そんなに照れなくてもいいのに。


 恥ずかしいのは、私も同じなんだからね!



「あぁ、まったく、意味が分からねぇ。おいガキ様よ?当たり前に一刀両断なんてしやがったが、あの虫は強いんだろ?」

「んー仮にも”蟲”である訳だし、強いと思うよ?手ごたえからいって、物理攻撃無効、魔法攻撃無効はまず間違いなく持ってるだろうね」


「はぁ!?なおのこと意味分からねえ!攻撃が効かねえじゃねえか!?」

「あー普通の攻撃は効かない。少なくともランク8クラスの魔法が扱えないと、傷一つ付かないよ」


「じゃあ、なんでガキ様はぶった切れたんだ?おかしいだろ?」

「そりゃグラムなら……あ、いや、俺が凄いからだな!」


「よぉし、その剣が凄いのは良く分かった。つーか、それ、ユルドルード様の剣だろ?見た事ある気がするぜ」

「ちぇ。バレてたか……」



 ゆにふぃーはパパ達とお話をして、これからどうするかを決めるらしい。

 ママが走って村の自治会員の人を集めてきて、今の状況の説明もするみたい。


 いつもは大人のお話の時はお外で遊んでなさいって言われるのに、今日はここにいて良いんだって。

 というか、パパが私の手をずっと握ってるの。


 甘えんぼさんになっちゃったのかな?パパ。



「村のみんなも状況が良く分かってねえと思うが、ここは一つ、俺が代表して、このガキ様に質問をする。いいか?」

「「「「「「おう!」」」」」」


「じゃ、始めるか。今回現れた虫は、なんなんだ?どこから来た?」

「この蟲は、普通の昆虫じゃなく、『蟲』と言われるものだよ。どこから来たかといえば、たぶん、どこからも来ていない。もともとこの森にいた虫が変化したものだって親父が言ってた」


「なに!?元々いた虫が変化しただと?そんな事あるのかよ?」

「昆虫は常に進化し続けているんだって。だから何万年後かには、この毒虫が普通になるらしいよ?問題なのは、膨大な時間を掛けてゆっくり進化していくはずだった昆虫を無理やり進化させた奴がいるってこと」


「まさか、そいつが皇種……だってのか?」

「はは、流石に皇種の被害を受けてると物分かりがいいね。……だけど、70点くらいかな。厳密に言うと今回の奴は、皇種じゃないから」


「皇種じゃない?こんな事しでかせるのは、皇種しかいねえだろ」

「まぁ、そこら辺の説明は省くよ。かなり複雑だからね。でも、並みの皇種以上にはやっかいな、敵だ」



 おうしゅ?


 昔、ママが言ってたよね。

 私が生まれる前に伝説の化け物がここにやってきて、村の人を何人も食べちゃったって。

 おじいちゃんもおばあちゃんも食べられちゃって、みんなが凄く悲しい思いをしちゃったみたい。


 今回もそうかもしれないって、実はママが言ってたんだ。

 予想は当たってたんだね。



「だけど、ま、親父が来てるし大丈夫。あっという間にこの森の虫は一匹残らず駆逐される。要は俺達はそれまで生きてればいいってわけ。簡単でしょ?」

「あん?この地域40kmに渡って、蟲が繁殖しているんだろ?いくら英雄様が凄かろうと、一人で駆逐なんて無理ってもんだろ」


「うーん。手段を選ばなくていいなら、一瞬で終わるよ。創世魔法を使えばいいだけだし。そのかわり、幅も深さも40kmくらいの大穴が空くけど」

「蟲どころか人類まで滅亡してるじゃねえか!くっそ!そんなに出鱈目なのかユルドルード様は!………あぁ!全裸をネタにしてごめんなさい!」


「……。とまぁ、そんなことすると本末転倒なので、やらない。でも親父には『神愛聖剣しんあいせいけん』があるから大丈夫!」

「神愛聖剣?」


「神が直接創造した唯一の剣なんだってさ。その効果はもう、凄まじいの一言だね」

「お前様に凄いって言われるってどんだけだよ!」


「いやホント、あの剣はマジでヤバい。なにせ、この繁殖した蟲を一匹残らず絶滅させられるからね。たったの一振りで(・・・・・・・・)

「……。それはあれか?大陸ごと消す的な?」


「いいや、違うよ。神愛聖剣の能力は、『万象断絶』って言って、『神愛聖剣で与えたダメージは、その物体の下位に存在するもの全ての万物に同じ効果を及ぼす』っていうなんともチートな能力でさ。簡単に言うと、神愛聖剣で生き物を殺すと、その下位に位置するもの全てが同時に死ぬ。例えば群れのボスなんかを殺すと、その群れ全員が同時に同じ傷を負って死ぬんだ」

「なんじゃそりぁ!」


「流石は世界を滅ぼす為に作った剣だよね。神はその剣を使って、この地上から一匹残らず生命を消すつもりだったらしいよ?」

「スケールがでか過ぎてついていけねぇが、やべぇって事はよぉく分かった!」


「んで、俺達は親父が蟲の駆除を終えるまで、避難民を集めながら生き残ればいいってわけだ。てなことで、おじさんたちにお願いがあるんだけど?」

「お願いだあ?まぁ、何かする事はやぶさかではないけどよ、俺達に出来ることなんてあんのか?」


「あるある!超ーあるね!おじさん達にはこれから俺と一緒に、蟲をかき分けながら人命救助をして貰いたいんだ」



 パパは少しだけ怪訝そうな顔で、ゆにふぃーに返事をした。

 ゆにふぃーはとっても明るい声で「一緒に森の中に入って、他の困っている人を助けよう」って言ってる。


 そしたらね、パパもママも、他の人もすっごく嫌そうな顔をしちゃった。

 そんな顔しちゃダメだよ。

 困っている人は助けなくっちゃって、いつもパパもママも言ってるのに!



「……おい、ガキ様よ。言いてえことは分かるし、そうした方がいいかも知んねえ事も分かる。だが、俺達にもう一度、死地に飛び込めってのか?」

「あはは、やっぱり嫌かぁ……まーそうだよなー」


「あぁ。俺達は今、九死に一生を得た。正直なところ、俺はここで死のうと思っていたんだよ。最後まで、いや、死んだ後もフワリとミナチルの側にいようってな。だけど、生き残った。生き残れちまったんだ。だからこそ、お前様に貰った命を無駄にしたくはねぇ」

「そうだろ、命は大切だ。その気持ちは十分に分かるよ。だけどさ、おじさんたちに選択肢なんて無いんだよね」


「は?お願いって言っておきながら選択肢がねぇだと?矛盾してるじゃねぇか!」

「ごめん。知らないで協力してくれた方が穏やかかなーなんて。心がね」


「どういうことだよ?もうなに聞いたって驚かねえから、話してくれよ!」

「じゃ、話すけど……」



 そうだよ!みんなで助けに行かなくちゃ!

 でも、パパもママもみんなも、すごく困っているみたい。


 さっきのヘンテコ蟲が怖いのかな?

 ママなんて、台所に出る黒虫をスリッパで叩いちゃうんだから、怖がらなくてもいのにね。



「そもそもおじさん達は、俺抜きじゃ、どうあがいてもバレーリナまで辿りつけない」

「ぐっ!いきなり痛い所突いてきたな。だが、蟲の習性もだんだん分かってきた。あの虫は巣に5m以上近づくと攻撃してくるみてえだ。集団で固まって慎重にゆっくり進めば、どうにかなるんじゃないのか?」


「それは、さっきまでの話でもう出来なくなっちゃったんだよ。統率蟲を殺したからね」

「さっきのやべぇ奴か。そもそも、あいつはなんだ?ランク8の蟲なんて聞いたこともねえぞ?」


「統率蟲って言うのは、長い年月を生きた蟲の事で、昆虫の中間管理者みたいな存在だね。昆虫の群れのボスと言えば分かりやすいかも」

「なるほど。だからあんなにレベルが高ぇのか。もしかして、殺しちゃまずい系の奴だったんじゃねぇの?」


「正解。統率蟲は、統率蟲を殺した者を絶対的脅威とみなす。つまり、おじさん達はさっきの蟲みたいなやつに狙われちゃってるんだよねー」

「あ”あ”!?お前ぇのせいじゃねえかっ!?なんて事をしでかしてやがる!」


「いやーごめん。でも、あのまま放置したら、統率蟲に皆殺しにされてたよ?」

「クソが!!どうしてこうなっちまった!」



 パパ、下品な言葉を使っちゃダメ!

 いつもママに怒られているでしょ!


 ってあれ?ママも「本当にクソね!」って言ってる!

 そんなに悪いの?



「つまり、おじさん達は生き残りたかったら、俺から離れちゃダメなんだ」

「……すまん。状況はよく分かった。そんでよ、助けて貰った上にこんなことを言うのは申し訳ないんだが……。俺達をバレーリナまで送り届けちゃくれないか?わがままを言ってるのは自覚あるが、頼む!」


「それはホントにわがままだから、却下で!」

「な!なんだってぇ!?」


「いや、本当にわがままなんだよ。だってここからバレーリナまで急いでも10分はかかるでしょ?」

「いや待ておかしい。まず、10分じゃ着かないだろ」


「そこは魔法でなんとかするんだよ!」

「そうなのか……?そうなんだろうなぁ……。じゃあ、尚更いいじゃねえか。10分くらい俺達に付き合ってくれても!」


「……1回ならな」

「は?」


「ほら、わがままで自分本位だ。俺はこれから森中を駆け巡りながら人命救出を繰り返していく。そうして何十回も積み重なった”10分”はいつしか数時間となり、その無駄な時間にも、命はこぼれ続けていくんだ」

「つっ!!」


「……おじさん達にここまで詳しく説明したのは、人命救出の最初の一回目だからだよ。これから救う多くの人全てに、同じ説明をするつもりも、時間もない。だから嫌でも付いてきて貰うよ。おじさん達の役目は、俺の”口”になることなんだから!」

「くっ!そ、それでも……」


「……いいよ。私はゆにふぃーについてってあげる!」



 パパもママも、すごく困った顔をしてて。

 きっとみんな、早く安全な所に行きたいんだと思う。


 私もそう思うよ。でも――――



「パパ、ママ。一緒にゆにふぃーのお手伝いをしよう? ゆにふぃーは私達を助けてくれたんだよ?助けて貰ったら、今度はこっちが助けてあげる番なんだから!」

「ミナチル……。あぁ、そうか、そうだよな。パパが間違ってたみたいだ。ごめん」


「もー!謝るのは私にじゃないでしょ!それに『ごめんなさい』じゃないと思うな!」

「それはどういう……?」


「助けて貰ったらね、『ありがとう』だよ!!」



 **********



「―――それからはもう、まさに破竹の勢いでしたね。まず、ヘトヘトだった村の人に、ゆにふぃーはバッファの魔法を掛けました。そしたら、パパ達がいきなり元気になっちゃって……「ふぉおおおおおぉぉぉぉおぉぉ!!たぎる!みなぎる!ほとばしるぅ!!」とか言いながら私とママを担ぎあげて走り出したりと、怪奇現象みたいな事が次々と起こりました」


「それから、周辺の村々を回って人命救出を行っていき、避難民が1万人を超えた頃、突然、蟲が全て消滅しました。ゆにふぃーによると、ユルドルードさんが目標を倒したんだそうです」


「避難生活の間、私は可能な限りゆにふぃーの近くでお手伝いをしました。そして私も、ゆにふぃーみたいに誰かを救えるようになりたいって言ったら、ゆにふぃーは『医者にでもなったらいい』って。それで私はお医者様を目指すようになったんです!」


「それで―――って、あれ?みなさん?カミナ先生?どうして固まっちゃってるんですか?おーい!!」

「…………。」

「…………。」

「…………。」



 ……そりゃあ、固まるだろうよ。

 だって、当事者の俺だって、なんじゃそりゃ!って思うもん。


 ……にわかには信じられねぇ。信じられねぇが、嘘にしちゃあ出来過ぎていると思う。

 今、知られざる俺の過去。

 俺の尊厳がどうなる事かとヒヤヒヤしながら始まった過去話だったが、上方向にブッチギリの限界突破で、爆発四散!って感じだな。


 周りを見てみれば、カミナさんもリリンも、目を見開いて固まっちゃってる。

 だが二人とも、俺とは別方向の動揺を秘めているみたいだ。リリンは頬を色付かせ、反対にカミナさんは顔色が悪い。


 その後も、何と話し出していいか分からず、長い沈黙が続く。

 それを見てミナチルさんがオロオロし始めた頃、ようやく、沈黙は破られた。


 この状況下で始めに口を開いたのは……リリンだ。


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