第227話「お祭り幸七・後夜祭⑧」
「お前らーぶち上ってるかァァー、デス!!」
「「「イエェーー!!」」」
「もっともっとボルテージを上げやがれェ、DEATHッ!!」
「「「YEHHHーーッ!!」」」
調子に乗りにノッて、現在5曲目。
ぶっつけ本番でテンションブチ揚げソングを優先した結果、クラッシック→ ライトでポップな現代曲→ ロック→ ラップ→ ヘヴィメタルへ超転生。
ヴァイオリン、グランドピアノ、ハープ、フルート、ミニドラム、カスタネット、タヌキの組み合わせで奏でる本格ヘヴィメタル(幼キツネボイス付き)に触発された会場が熱狂の渦と化している。
「それでワルト、色んな意味で茶番なこのステージはいつまで続くんだ?」
「もういい頃合いかな。サチナの記憶改変に加えて、レジェの支配声域、シェキナの認識錯誤、ルインズワイズの予兆。ここまでやれば、温泉郷全体の意識がライブへ向いたと思うし」
いつの間にか4つも洗脳が撒かれているんだが?
というか、リリンの魔王シリーズも含め、精神攻撃のバリエーションが多彩すぎる。
金鳳花も大概に面倒な奴だが、この魔王共も同じくらいヤバい。
「ぜーはーぜーはー!お前らの盛り上がり、しかと受け取った、です!!」
「「「WEYYYYY!!」」」
「だけど、ここで一回休ませろ、サチナは喉がカラカラ、です!!」
「「「HYAHAAAA!!」」」
6曲目を謳い終えたサチナが、休憩という名目で話題を切り替えた。
流石は温泉郷の若女将、ステージ進行を分かって……、んー、りんごジュースを一気飲み。
幼女特有の高音×デスボイス重低音で繰り出すメスガキシャウトによって、観客の心と共にサチナの喉も破壊されたらしい。
「ということで、昨日から開催されていた人狼狐の表彰式を執り行うぞ、です!!」
「そんなのやっていたか、ダゾ?オイラ知らねーゾ」
ドラムを演奏していたベアトリクスがマイクを片手に、サチナの横に立つ。
二人とも汗をかくほどの本気のパフォーマンス後、頬を赤らめた表情が大変にあざとい。
「実は、サチナもよく分からない内にやってたのです」
「そんなことあるのかダゾ!?」
「実はサチナもイベントに参加できるようにって、外部イベンターがこっそり計画しやがったのです!」
このトークショーは、ワルトとレジィが考えた台本による仕込みだ。
トンデモナイ規模で行われた人狼狐だが、名目上は狐が仕掛けた『遊び』。
だからこそ、正規の手順で正しく終了することで、『人狼狐はもう終わった=金鳳花を含めたすべての参加者はこれ以上の干渉できない』という図式が完成。
後はシェキナによる修復を済ますことで、温泉郷に日常が戻る。
「サチナ達、温泉郷の経営陣も参加する大規模企画。だったですが、」
「キツネを捕まえる……、オイラはクマだから関係ねーゾ!!」
「そうなのです。サチナも楽しむどころか、冤罪を吹っ掛けられて酷ぇー目に遭ったです!!」
「災難だったなダゾ!!」
「まったくです。だけど、一度始めたゲームをぶん投げるのはサチナの趣味じゃねーです。だから、ちゃんと表彰式はやってやる、です!!」
頬を赤らめたキツネとクマ幼女がMCをやることで、金鳳花に対する文句もまろやかな仕上がりに。
温まった観客に笑いを誘いつつ、人狼狐に終止符を打つ。
「勝利条件は9匹の狐がそれぞれ持っていたキーホルダーを昼12時まで所持するだった。そして、今回は4名の勝者が誕生したです!!」
「9匹なのに、勝ったのは4人なのかダゾ?」
「一人で複数個を集めた強者がいるのです。ということで、同率第三位!!獲得数1つの~~~~、リリンサ、ユニクルフィン!!」
一斉に沸き起こった拍手を浴びながら、俺とリリンはステージの前に歩み出た。
胸に付けたそれっぽいキーホルダーバッチが月明りに照らされて光る。
「よくぞ見つけたです。特にリリンサが捕まえた狐は一般人の格好をした超難問、流石なのです!!」
表彰式という事で、サチナの呼び方が主様からリリンサになっている。
景品目録を受け取るリリンも平均的な他人行儀、二人とも策謀に慣れている感が半端じゃないぜ!!
「続いて第二位!!獲得数3つの~~~~、メナファス!!」
俺が捕まえたのが紅葉、リリンが捕まえたのがワルト。
メナファスは、セブンジード、ヴェルサラスク、シャトーガンマの狐三銃士を丸ごと捕獲。
3対1の狙撃戦を無傷で圧倒し、銃火器系魔王の貫禄を見せつけた。
「そして第一位!!獲得数4つの~~~~、レジェリクエ!!」
最後に表彰されたのはレジィ。
だが、獲得数4つというのは俺達で決めた捏造だったりする。
レジィが自力で捕まえたのはテトラフィーアと、近くの部屋で発見した眠ったままのメイさん。
残りの二人……、紫蘭は白銀比が確保した功績を譲って貰い、最後の金鳳花はサーティーズさんって事にした。
人狼狐の管理者だったワルトによると、整合性よりも9匹を捕まえてしっかり終わらせる方が重要ならしい。
「バラバラの場所にいた狐を見つけ出し、次々に襲撃した手腕。すげーです!!」
「ありがとぉ。でもぉ、ちょっと余に有利な遊びだったわねぇ」
「そこなのです。ぶっちゃけ、表彰台に身内しか居ねーのはどうかと思うです」
「そうよねぇ。温泉郷の経営に関わっている余達は、ある程度までは狐にアタリを付けられる。情報収集から始める一般人とはスタートラインから違うものぉ」
「サチナも運営ばっかりじゃなくて遊びには参加してーです。だから、企画の意図と心意気は汲んでいるです。それでも……、不公平な勝負は楽しくねーです」
「そうよねぇ、公平なルールあっての遊びだわ」
「ということで、もう二度と『人狼狐』は開催しねーぞ、です!!」
設定された9匹の狐を全て捕獲。
更に、第2回の開催を否定することで、出来上がってしまったゲーム基盤の再利用に先手を打つ。
これがワルトが立案した戦略破綻術だ。
「……ワルトナ、これでお終い?」
「うん。実行犯の僕ですら、もう何にもできない。裏で嗤っているだけの金鳳花なら尚更だ」
「そう、それは良かった!!」
俺の横からリリンとワルトの会話が聞こえた。
二人は指輪を通して意思の疎通ができる。
だからこそ、あえて口に出して宣言することで、俺やレジィ達に意思を伝えたんだろう。
『人狼狐』
俺、リリン、ワルト、他にも多くの人生が複雑に絡まり合った総決算。
取り返しが付かない過去も、これから償う罪もある。
だが……。
「これにて『人狼狐』は終了です!!みんなーー、4名の勝者に盛大な拍手を送りやがれ、ですっっ!!」
万雷の拍手を合図に、ワルトが仕込んでいた花火が打ち上がる。
満点の夜空に咲き誇る魔法陣が、空を見上げる人々の思い出を写し取って、想像。
一気に創造されてゆく街並みは、俺達が知る温泉郷と寸分違わず。
実質的な人命被害――、ゼロ。
命を失ったままの人は誰一人としていない。
最高のハッピーエンドだッ!!