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第12話「魔女子会・パジャマの考察」

「リリン?ちょっとそのタヌキパジャマ着てみてくれない?」

「え?良いけど……」



 カミナは長い思考の末、タヌキパジャマを着てみて欲しいと提案した。

 リリンサから話を聞いた限りまず間違いなく児童用のパジャマなのだが、一応念のため確認する事にしたのだ。


 カミナは、いそいそと着替え始めたリリンサを眺めながら、先ほど判明した情報を頭の中で整理する。


 彼、ユニクルフィンの性癖はかなり特殊なもの。

 同性愛者の可能性があり、

 小児性愛の可能性も含み、

 ケモノ愛の可能性も秘めている。


 ふたたび頭を抱えそうになりながらもどうにか堪え、前向きに検討を始めるカミナ。

 もしかしたら勘違いの可能性もあるし、たとえ異常性癖であったとしても軽度と言う事も有る。


 そんな考えは、リリンサが着替え終わった事により、脆くも崩れ去った。



「できた。どう?カミナ」

「…………。」


「おーい、カミナ?」

「……なんでそんなに似合うのよっ!!」


「なんでって言われても?」

「上目使いで首をかしげるの禁止!これはもう可愛すぎて、ケモナーとか、ケモナーじゃないとかそういう次元の話じゃないわ!」



 カミナは狼狽している。

 確かに、目の前のリリンサの風貌は幼い少女のものだ。

 だが着ているパジャマは色気とは程遠い児童用で、16歳という年齢を考えれば、あまり好まれるものでは無いだろう。


 しかし、似合っている。とても似合ってしまっているのだ。

 そのパジャマは全身を覆うタイプのもので素肌を晒している部分は手足の先と顔しかない。

 だが、それゆえに優しげな表情が際立って見え、もともと可愛いらしい顔だったのがさらに引き立って見えるのだ。


 もしかして、ユニクルフィンくんはリリンにタヌキパジャマが似合う事を見抜いていた?

 そんなバカな!と思いながらも、その可能性を捨てきれず、カミナはリリンサに問いかけた。



「ねぇ、リリン。このパジャマは反則よ、可愛すぎるもの。というか、このパジャマで誘惑してダメだったとか、ユニクルフィンくんってホントに男?」

「見て確認した訳じゃないけど、たぶん男」


「ですよねー。まったく、これは難儀ね……」



 カミナは悩んでしまった。

 ここ最近の診察歴を思い出してみても、ここまで悩んだ記憶がないほどに。


 そもそも、カミナ自身、誰かから何かを相談されて思い悩む事が少ない。

 医師という無限の選択肢が広がる世界においても、彼女にかかれば治せない病気は無く、その手腕から患者や同僚、果ては医師会の重鎮に至るまで『カミさま』などと呼ばれているほどなのだ。


 暫くの沈黙の末、ふと、カミナの中に小さな疑問が湧いた。

 よくよく考えてみれば、ユニクルフィンくんはリリンに対して少なからず恐怖を抱いているはず。

 それなのに、児童用のタヌキパジャマなんて勧めるだろうか。

 普通の感性なら児童用のパジャマなんてもの勧められたら反感を買うし、そんなリスクを背負う事はしないだろう。

 では、なぜ今リリンはタヌキパジャマを着ているのか。


 恐らく何か理由がある。

 そう結論を出したカミナは、リリンサにありのままを話した。



「リリン、彼の意図が読めないわ。何か考えがあっての事だと思うんだけど……」

「カミナでも分からないとは……。流石は英雄の息子、一筋縄ではいかない」



 うんうん。と頷くリリンサに、いや、彼のフェチズムが強すぎるだけだから!と内心でツッコミを入れるカミナ。

 あまりの事態のめんどくささに、いっそのこと押し倒しちゃえばいいのに。とレジェリクエ寄りの思考すらチラついている。



「はぁ、彼に決定的な弱点があれば、分かりやすくていいのにね」

「あ、それなら、一つ心当たりがある」


「え?ほんと?タヌキ以外にでしょ?」

「もちろんタヌキ以外。……ユニクは女性の大きな胸に視線を送っている時が度々見受けられる。恐らく好きなんだと思う」


「……ロリ巨乳とか。さらにフェチを盛ってくるのね」

「カミナ。私も胸を大きくしたい。そうすればユニクの視線はいつも私にくぎ付けにできる!」


「……胸ねぇ。一応リリンのサイズは平均値内に収まっているわよ?無理しなくてもいいと思うけど」

「胸の大きいカミナには、平均値ギリギリというこの悲しみは分らないと思う。前にユニクになじられた時なんか、恥ずかしさのあまり雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)を撃ちこみそうになった」


「そういう話は普通にしてるのね。というか、彼、リリンの胸をなじったんだ……。勇敢なのか、馬鹿なのか……」



 もはや、常識では彼の事は測れないと、思考停止に陥ってしまったカミナ。

 リリンサに豊胸になる為のマッサージの仕方などを伝授しつつ、とある決心をつけた。


 これはもう、直接、性癖について聞きだすしかないわね。と



 **********



「ゆにふぃー、って?」

「やだなぁ、キミの事ですよ、ゆにふぃー。昔はそういう風に呼んでたじゃないですか」


「……あ、いや、実は俺」

「忘れたなんて言わせませんよ。私にあんな事しておいて」


「あんな事?すまん、まったく分からん!」

「……ハァ?ちょっとそれ、ホントに言ってます?ホントだったら、ぶち殺しますよ?」


「ぶち殺すッ!?看護師がそんなこと言っちゃいけないだろッ!」

「いいえ。許されると思います。なにせアナタは私を裸に剥いたあげく、太ももに吸いついたんですよ?」


「俺、そんなことしたのッ!??なんかよく分からんが、ごめん!本当にごめん!!」

「その様子じゃ、本当に覚えていないんですか……。なんだか少しがっかりしました」



 ミナちーさんはそう言って視線を床に落とし、指をくるくると回し始めた。

 前髪が顔に掛ってしまっている為に表情は良く見えないが、あれだけうるさかった彼女が沈黙を保っている。


 ミナちーさんは記憶をなくす前の俺を知っていて、もう一度会いたいと思っていたらしい。

 まさか、こんな所で俺の過去を知ることになるなんて思っても見なかった。


 だが、せっかくのチャンスなのだし、話を聞いておきたい。

 まずは、忘れているという誤解を解こう。



「ミナちーさん、なんていうか、覚えていないのは事実なんですけど、一応理由がありまして……」

「理由?どうせ、世界中の女子を裸に剥いていたから見飽きているとかでしょ?」


「そんなわけあるかッ!?記憶喪失!俺は記憶喪失なんだよッ!!」

「ハァ?またベターな。そんな使い古された言い訳、通用しないですよ」


「本当なんだよッ!?めんどくせぇなチクショウッ!」



 その後も必死になって説明するも、なかなか信じてくれないミナちーさん。

 早く本題に移りたいというのに、本当にめんどくせぇ!


 10分後、ようやく半信半疑といった状態にまで持ち込み、やっと本題に入る事が出来た。



「それじゃホントに記憶喪失ですか?そういうのは早く言って下さいよ!脳波とCTの項目がやけに多いとは思っていましたが……」

「信じて貰えたみたいだな。でさ、俺は、今から6年間より前の記憶がないんだけど、それより昔の俺について知っている事があったら教えてくれないか?」


「あ、それは……。いえ、いいですよ。お話ししましょう。ですが今ではありません。カミナ先生の所に戻ってからにしましょう」

「ん?どうしてだ?」


「カミナ先生ならば、記憶復元の補助が出来るはずです。私が一方的に話すだけよりいいと思います」



 ミナちーさんは力強く頷くと、俺の手を取り、一緒に頑張りましょうねと声を掛けてきた。

 これはどう見ても、病人に対する応援のメッセージ。

 ここだけ切り取ってみると、彼女も白衣の天使の様に思えてくる。


 だが実際は、大悪魔なのだが。

 そんな毒を内心で吐いていると、それを肯定するように彼女の表情が一変した。



「そうです。これは医療行為。なので加減は出来ず、オブラートに包んだ表現なんてもってのほかです。ですから……」

「ですから?」


「恥ずかしいですが、全てお話しします。私を裸に剥いたことも、傷口をちゅーちゅーしたことも、どさくさに紛れてベットに潜り込んできたことも!!ぜぇんぶ、全て!!!!」

「……おい、待て。ちょっと待て。なんだその変態ちっくな数々の行為は。本当に俺がやったのか?」


「はい。間違いなく、誤解なく、偽りなく、全て、事実です」

「うっそだろぉ!!何やってんだよ、俺ぇぇぇぇぇ!!」



 マジか!なんて事をしでかしているんだ!幼き俺ッ!!

 いくら子供だったからって、やっていい事とダメな事があるだろうがッ!!


 俺の一番古い記憶はナユタ村で暮らし始めた後のものだ。

 と言う事は、最高でも10歳だったということだな。


 うん。ビミョ―。

 子供のいたずらとして処理されるかは、すこぶるビミョ―な所である。



「ふふふ、いいですねぇ。昔もそんな風に叫んでいましたよね。懐かしいです」

「昔からこんななのか、俺。自分で言うのもなんだが、苦労してたんだなぁ……」


「まぁ、詳しくは戻ってから、みんなの前でお話ししましょ」

「……みんな?」


「はい?カミナ先生と、連れの彼女さんの前でですよ。あの子は、キミにこんな過去があると知ったらどんな顔をするんでしょうね」

「…………。」



 あれ?それ、ヤバくね?

 ある程度は友好的な関係を気付いているはずの俺達の関係にヒビが入りそうなんだが。


 傍若無人に振舞っているリリンだが、一応は女の子。

 旅の連れが、トンデモナイ変態だと知ったらどう思うだろうか。

 普通ならパーティー解散だろう。

 俺達の旅はここで終わり、それぞれ別の道を歩む事になる。


 だが、それは出来ない。

 なぜなら俺達は神から遣わされた神託によって、世界を旅する事が決められているからだ。

 神の神託に逆らうなど、どんな新罰が下るか分かったもんじゃない。


 ならばどうなるのか。

 そんなの決まっている。……心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)と呼ばれている集団によって、闇に葬られるのだ。



「ミナちーさん。ちょっと打ち合わせをしません?」

「えー。いやです。実際に起こった事なんですから、仕方がないですよね。恥ずかしがる私に「これはしょうがない事なのよぉ。我慢よ、我慢!」と言って取り合ってくれませんでしたし」


「あ、え、そ、そこをなんとか!」

「ダーメ。あ、検査結果出たみたいですね!取りに行ってきます」


「あ、ちょ、待っ―――」



 ちくしょう!

 どうして、こんなことになった!?

 俺、絶体絶命の危機!!


 前方に無尽灰塵、後方に暗劇部員。

 側面からは再生輪廻とその使い魔。


 まさに四面楚歌!……逃げ場がねぇんだけど!?


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