第222話「お祭り幸七・後夜祭③」
「ちょ……、みんな何を言」
「それはさて置き、これからの身の振り方を聞かせて欲しいわねぇ、ワルトナぁ?」
……さて置かれたくないんだが?
元々は俺が贈った訳だけど、村長の店で買ってきた謎の指輪だぞ?
他の品々を鑑みるに、絶対にカツテナイ効果があるが……、大魔王陛下の圧が強すぎて聞くに聞けねぇ!!
「身の振り方とは何のことだい?」
「そのままの意味よぉ。流石の無色の悪意も、超越者5名に囲まれて勝てると思うほど自惚れていないでしょぉ」
5名?
俺、リリン、レジィ、レラさん……、よう、ニセタヌキ。
めちゃくちゃ豪華な紙袋だな?
中身は『王宮御用達の洋菓子~賄賂と共に~』か?
「懸念はごもっとも。確かに僕はリリンに殺されちゃいない。無色の悪意もそのままさ」
「あら、それは困ったわねぇ。せっかくシャワーを浴びたのにぃ」
「僕としても、これ以上、友達に手を汚させるのは御免被るよ。という事で、弁明をしてもいいかい?」
結果として、ワルトがリリンの管理下に入ったというのは分かる。
だが、ワルトなら傀儡政治くらい余裕でやれる。
リリンを御旗にした不安定機構の上層部と冒険者を使って、レジェンダリアを滅ぼしに行く……、なんてなったら、今度はレジィとレラさんと戦わなくちゃならない。
とりあえず、ワルトの考えを聞いておくのは賛成だ。
「無色の悪意について、君達はどこまで知っているのかな?」
「確か、願いを叶える為に、手段や方法を選ばなくなる……、んだったか?」
「そう。要するに、リスクを考慮しない最短効率を優先させる。レジェなら分かるんじゃないかい?この意味が」
例えば、無色の悪意を持った腹ぺこ大魔王が肉巻きおにぎりを食べたくなった場合、魔王の脊椎尾で建造物をブチ転がして最短距離で店に向かうんだろ?
魔王の所業以外の何者でもないんだが??
「とりあえずやる。起業家に多い考え方ねぇ?」
「そうそう。無色の悪意を持つ者が問題を起こすのは、思慮が足りないから。レジェは後に問題が起こると分かっている未来を最良だと判断するかい?」
「最善ではないわね。だが、人は時として妥協を最良と判断するものよ」
「だからこそ、妥協した未来をあらかじめ用意することで、無色の悪意はそこそこコントロールできるんだ」
「自己啓発、セルフマインドコントロールねぇ?」
なるほど、自己啓発ってのは聞いたことがある。
村長の本棚に何冊か参考書があったのも、無色の悪意対策だったってことか?
「無色の悪意による失敗は、本来は時間を掛けてやる長期目標を達成させようとするほど、リスクが高くなるんだ」
「なるほどねぇ」
「だから……、ユニ。僕の頭を撫でてくれるかい?優しく、気持ちよくなるように」
急にどうした上目遣い!?
そんでもって、愉快そうに眺める魔王の嘲笑目と、ご機嫌ナナメ魔王の平均的なジト目が俺に突き刺さるッ!!
「約束したでしょ。ユニ。全部終わったら僕の頭を撫でてくれるって」
「し、た……な」
「む”ぅ!!」
「でしょ。ね?」
「お、おぅ……、これでいいか?」
とりあえず、言わるがままに頭を撫でてみる。
ゴシゴシと手で擦るたびに、ワルトの幸せそうな声と、ご機嫌ナナメな魔王の鳴き声と、俺の尻が悲鳴を上げた。
「と、こんな感じに、目の前の幸せに飛びついていれば、意外とどうにかなるもんなんだよ」
「その内エスカレートするでしょ。人は幸せにも慣れてしまうのよぉ」
「だ、か、ら、僕を飽きさせると世界の危機だからね、ユニ!」
なるほど、世界と俺の尻が天秤に掛かっている訳だ。
つーかリリン、いつもの尻尾はどうした?
星杖―ルナで殴られると防御魔法が無効化されるんだが?
「ここまで惚気られると文句を言う気すら起きないわぁ。ねぇゴモラ、とても甘いと思うのだけれど食べてくれないかしら?」
「ヴィーーギルハハ~~ン」
「タヌキすら胃もたれするってぇ。そろそろ真面目に答えてくれるかしら?ワルトナ」
「割と真面目に答えてるんだけどね」
簡単な目標を常に達成し続けることで、無色の悪意を押さえることができる。
そういった意味じゃ、毎日幸せそうに飯を食うリリンは無色の悪意と相性が良い。
だが、ワルトがリリン並に喜ぶ事ってなんだ……?
「難しい話じゃないよ。僕は好きな人と何かを一緒にすることで幸福感を得る。ユニやリリンはもちろん、レジェやカミナ、メナファス、セフィナだってそうさ」
「それはつまりぃ、余にこき使われると悦びを感じると?」
「ものによるけどね。ま、僕の理念は知ってるでしょ」
「人の死なない犯罪ならOKだったかしら」
「精神的に追い詰めすぎると死んじゃう場合があるからね。そういうのも無しにしてね」
「へぇ、なら誠心誠意、働いて貰おうかしらぁ」
「少なくとも、今回の損失が利益になるまでは頑張るよ。そこから先は応相談で」
……そうか、ワルトもちゃんと罪悪感を感じているんだな。
思い返してみれば、昨日の夜からワルトの態度はおかしかった気がする。
サチナが行方不明になった後に辛そうな顔で諦めろと言ってきたり、メルテッサを露骨に敵視していたり。
それに、喫茶店でパスタを食べさせろと言った時や、ホテルでお喋りしようと誘ってきた時に思いつめた表情をしていたのは、俺やリリンと決別する覚悟をしたから?
もしかしたらワルトは、全部投げ出そうとしていたのかもしれない。
「それじゃぁ早速ぅ。テトラフィーアの面倒もみなさぁい」
「うっ」
……うっ。
決して忘れていた訳じゃないが、今はまだ、先延ばしにしたい。
これ以上尻を叩かれると、椅子に座れなくなる未来が来る。
「余だって新婚なのよぉ、目の前に振られた女がいたら、うざったいにも程があるじゃなぁい」
「3番目は譲らない。これで良いなら」
「良いわよぉ。負け犬の根性を叩き直す必要もあるしぃ、序列が低いくらいでちょうど良いわ」
「キミに鍛えられた女が下剋上を狙いに来る。だが、僕は叩き潰す訳にも切り捨てる訳にもいかないと?」
「罰だものぉ。余裕の無いテトラは厄介よぉ。無色の悪意がなくても手段を選ばないものぉ」
……想像したくないんだが?
いや、覚悟を決めたんだろ、俺。
毎日グラムを覚醒させておけば大丈夫だ、きっと。たぶん。
「じゃあ、テトラにも指輪を渡そう。これで安心!!」
「だね。制御しやすいし」
「必須よねぇ」
「おねーさん的にも最善だと思うな」
だからなんで指輪ッ!?
というか、制御する対象に俺も入ってる気がしてならないんだがッ!!




