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第215話「羨望の無尽灰塵③」

「全部を見せると約束したからね。さぁ、楽しみたまえよ。これがこの僕、英雄ワルトナ・バレンシアの全力だ」

「!!」



 ワルトナによる攻撃宣言が何を意味するかを、リリンサは良く知っている。

 だからこそ、魔神の下肢骨格に全力で魔力を注ぎ込み、身体を弾き飛ばす勢いで跳躍。

 そうして行った全力回避の背後には、埋め尽くすような矢の山が聳え立っている。



「いき、なり……過ぎると思う!!」

「言っているだろ。本気だすって」



 ワルトナの攻撃宣言は大抵が戯れ――、圧倒的有利な状況から見下す優越感から来るものだ。

 リリンサの後を追っている大地を穿つ土砂降りの矢も、こういう攻撃をしようとあらかじめ準備していたもの。

 弓兵の真価は、じっくり練った戦術で相手の想定外から射貫き殺す先手必勝にある。



「……ん、理解した。ワルトナのずるい手!!」



 だからこそ、リリンサの初手は全力の逃げだった。

 腰に接続されている魔神の脊椎尾の感覚センサーを最大稼働させ、様々な要素から立体的観測を実施。

 ワルトナが引いた弓と弦の動き、発生した音、世界の変化、地面に突き刺さる矢。

 それらの情報を真理究明の悪食=イーターで解析し、一つの仮説をくみ上げる。



「矢を撃つ四ステップすべてが攻撃。魔法→魔法→魔法→矢の順!!」



 ワルトナが持つ神栄虚空・シェキナの主武装、『開創造のライアー』は、2つの弓をX字に交差させたような形状だ。

 彼女が握っている弓の中心の持ち手には、小型ハープのような8本の弦がある。

 それに掛けた指が弦を弾くたびにワルトナの身体に絡んでいる弦も緩急し、人体には不可能な挙動を可能とする。

 だが、それはあくまでも、魔法を発生させた副次効果に過ぎない。


 弓は先手を取り続けなくてはならない武器である以上、対面した状態の一騎打ちには向いていない。

 ワルトナが得意とする三位一体連携のような援護こそが基本であり、至高。

 近接戦闘職と対峙した時点で、相当な実力差が無い限り、勝負にならないだろう。


 ワルトナは、そんな当たり前が嫌だった。

 見据える最終目標は蟲量大数。

 神栄虚空・シェキナは、0.00001秒の世界で活動する彼の皇種の前に、ユニクルフィンと共に並び立つ為に手に入れた力だ。



「これくらい出来なきゃ、お話にならない。僕はアンジュに魂を売ったんだ。唯一神ヤジリに失笑されるなんてプライドが許さないさ」



 弓兵の攻撃プロセスは、矢を持つ → 矢を弦に番えて引く → 矢を飛ばす → 矢が着弾する の四工程。

 熟練した神殺しの使用者であるワルトナも同様、だが、それぞれが独立した攻撃手段と化している。


『矢を持つ』

 シェキナで使用する矢は、使用者が想像するだけで手の中に直接創造できる。

 だが、ワルトナは持ち手の小型ハープに指を這わせて音を奏でる事で、魔法次元を開く力そのものを矢に付与。

 身体の操作・矢の創造と同時に、通常は声で行う詠唱魔法の発動を行っている。


『矢を弦に番えて引く』

 弦に矢を添えて引き絞る動作は、ヴァイオリンの演奏に似ている。

 甲高い音色も同様に魔法次元の扉を開き、撃ち出した矢を後付けで強化する魔法陣を形成する。


『矢を飛ばす』

 鏑矢かぶらやという、矢の種類がある。

 矢の先端に付けられた笛のような筒に空気が通ることで、音を発生させるものだ。

 その仕組みを応用した飛翔音詠唱により異空間ゲートが発生。

 事前に準備していた矢の召喚、及び、放った矢の収納を同時に行っている。


『矢が着弾する』

 矢そのものにも、凶悪な特殊効果が付与されている。

 大規模殲滅魔法が標準で囮、本命は複数のランク0を織り交ぜた、回復手段と防御を貫通する神殺しの征矢そや


 総じて、ワルトナは一連の攻撃動作で、

 矢の生成と攻撃魔法詠唱

 ↓

 矢と魔法の強化

 ↓

 矢の召喚と収納によるタイミングずらし

 ↓

 矢と魔法の同時連鎖着弾


 の同時多発攻撃を実現。

 飛ばした矢で直接狙うのではなく、未来に使用する矢を飛ばし、過去に準備した矢を呼び出して攻撃する。

 そうすることで、常に万全の『先手必勝』を押し付け続ける。

 これが英雄、ワルトナ・バレンシアの本気の戦い。



「強い。流石だね、ワルトナ!!」



 2つの悪食=イーターと自律制御の魔神シリーズをフル稼働させて、ようやく同速での回避が可能。

 相手は世界最強の神殺しとはいえ、操作を一人で行っているワルトナに、リリンサは心の中で素直な称賛を贈った。



 ワルトナは得意な多対一の戦術を封印している。

 舐めプ……。という訳ではない。


 もし仮に、今の攻撃を3人組でやられた場合、単純な物量は3倍になる。

 だけど、私に知り尽くされている戦術を使えば、悪食=イーターに看破されることを理解している。

 総合的には、不慣れな戦術を使う方が戦局をコントロールしやすいと判断したんだと思う。


 実際、温泉郷の外で得た皇種との戦闘経験と、エゼキエルリリーズの武装概念が無ければ成す術がなかった。

 これが英雄あこがれに辿り着いたワルトナの本気。


 ……こんな形で見たくなかった。

 こんなにも凄い力を持った貴女が、何もかも諦めて投げ出した姿なんて、見たくなかったよ。



「《魔神の脊椎尾ッ!!》」



 回避に一辺倒だったリリンサが振り返り、迫る土砂降りの矢へ尻尾を叩きつける。

 それは様々な魔法が織り交ぜられた決死の雨奏。

 タヌキの英知が詰め込まれているとはいえ、機械の装備では成すすべなく競り負ける――、そんな想像が覆された。



「なんだって……?」

「新しい戦術を隠しているのはワルトナだけではない。私だって成長している!!」



 未来を覗き見るワルトナの片眼鏡モノクル越しに、瞳が見開く。

 行われたのは、完全な魔法の打ち消し。

 魔神の脊椎尾に接触した、矢、魔法、魔法次元の出入口、それらが一方的に崩壊。

 それに心当たりがあったワルトナは、本当に嫌そうに正解を言い当てた。



「星杖―ルナ。いや、星刻杖・ルーンムーンか。最近出番が無かったからね、忘れていたよ」

「お母さんから貰ったこの杖は、全ての神殺しの原型。シェキナにだって負けない!」


「そうだねぇ。想像を絶する世界の至宝だねぇ。そんなもんをタヌキの尻尾と合体させるな、こんのアホの子が!!」


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