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第211話「愛情の戦略破綻⑩」

「理屈では分かっていても、まだ、この手に抱くあの子には温もりがある。生きている。私は納得できなかったのです、そして、それ以外を蔑ろにする道を選んだ」

「それが、ユニとおじさんと……、あの子の旅」



 大聖母の暗い笑みを覗き、ワルトナが息を飲む。

 目に映ったのは、後悔で身を焦がす人の微笑。

 正解がない答えを選ぶしかなかった、苦悩だ。



「途方に暮れた私は、本来ならばあり得ない失態を犯しました。唯一神様に助言を求めたのです」

「神様に?でも、それってみんなしてる事じゃ」


「いいえ、唯一神様は空想ではなく、実在する一個人です。そして、唯一神様は願いを叶える時、それが『面白い』かどうかを重要視します。何らかの物語、悲劇が生まれるのです。そういう意味では悪魔の囁きと言っても過言ではありませんね」



 聖女見習いを名乗っているピュアなワルトナにとって、唯一神は信仰の対象だ。

 そんな心の拠り所が悪魔扱いされた衝撃は計り知れない。



「『存在を喪失させる毒を、打ち消す方法を知りませんか?』それが問うた私の言葉。それに対し、唯一神様は『どんな毒でも、世界最強の毒を持つ蟲量大数なら無効化できる』とお応えになられました。どれだけ調べようとも見いだせなかった希望、それに縋るしか、私に出来る事はありませんでした」



 今となっては、それが不正解の一つでしかなかったことを、ノウィンは理解している。

 蟲量大数は世界最強の毒を作る事も、それを無効にすることもできる。

 だが、解毒薬を作れるというのは、ノウィンが勘違いしただけだからだ。



「唯一神様の助言に従い調査を進め、蟲量大数と共にいる混蟲姫・ヴィクトリアならば状況を打破できる。そう結論付けた時、私の心は歓喜で満たされました。あの子を救える、その為ならなんだって犠牲にしてもよい。そして、そういった醜い心を見透かしつつも、白銀比様はご協力してくださいました」

「その方はどんな力を持っているんですか?」


「時と記憶の操作の権能を使い、失ってしまった記憶をあの子に移植しました。思い出を共有しているリリンサの記憶を、です」

「共有ってことは……!!」


「そして、人の皇の記憶。継承を前提としているこの記憶ならば、人格への影響は少ない。そんな理由から、アプリコットの記憶も得たあの子は一命を取り留めたのです」



 皇種の知識がどういう物であるのかを、リリンサは知らない。

 伝え聞いた『書室を引き継ぐような物』という話から、悪食=イーターの書庫を想像する。



「ですが、それは一時的な延命に過ぎません。人格が破壊されるよりも早く、体内に根付いた天命根樹の毒を取り除かなければ、11万人の被害者と同じ末路を辿る。ワルトナに出会ったのは、ヴィクトリアを探す旅の最中です」

「それについては知っています。ユニに聞いたから」


「ヴィクトリアは世界を救った英雄でありながらも、人との関わりを避けています。主として仰ぐ蟲量大数を見つける方が何倍も早く、その安易な考えは想像しえない事態を引き起こしました」

「……ヴィクティム・ゲーム」


「蟲量大数はアプリコット、ユルドルード、ユニクルフィン、あの子に戦いを望み、勝者に望むものを与えると仰いました。過去に似たようなことをした事があるとも」



 その結果がどうなったのかを、ワルトは知っている。

 ひとり、静かな部屋で待ち続けていたから。



「ユニ達が負けたのは知ってる。だけど、その後何が起こったのかは知らない。教えてください、大聖母ノウィン様」

「ふふ、ワルトナは本当に賢いですね。勝者である蟲量大数は私たちの望みを叶えることはありませんでした。ですが、命も奪わなかった。5年後の再戦を担保に見逃してくださったのです」


「!!」

「ですが、あの子とアプリコットに時間は残されてはいませんでした。その時点で皇の記憶は破壊尽くされ、個人の記憶に影響が出ている。長くて1か月。それが限界でした」


「そんな……」

「そして家族で話し合い、私の我儘を選びました。二人ともが肉体を捨て、あの子はリリンサに、アプリコットは白銀比様に魂を預けることにしたのです」


「魂を、あず、ける……?」

「それが出来る手段があったのです。そして、あの子だけは生きる道が残されていました」


「どう、やって……?」

「リリンサの肉体成長を分割し、あの子の身体を別次元で作成する。成長スピードは2分の1となり、回復力や免疫力も下がってしまうかもしれません。ですが、リリンサはそれでも良いと。そうじゃなきゃ嫌だと、言ってくださいました」



 肉体の成長スピード2分の1。

 その意味をしっかりと理解できていたとは思えないと、リリンサは自分の胸を見下ろしながら頬を膨らませる。

 なお、リリンサはここ5年の間、病気も怪我もしていない。



「そして、あの子は眠りにつきました。魂を完全に隔離した為、人々の記憶からも存在が消滅。別の人物の行動として補完されたり、記憶そのものが消えたり。ワルトナもその影響を受けています」

「僕がユニに向ける感情の何割かは、その子の」


「この魔法は、あの子の存在が世界に認識された瞬間に、解除されるようになっています。その時に肉体が完成していれば、あの子は新たな生を得るでしょう。ですが」

「不完全な肉体に宿っても、すぐに死んでしまう。そうしたら、僕は、あの子に二度と会えない」


「ワルトナ。貴女には貴女の人生があります。あの子に対する情も忘れてしまっているでしょう。ですが――!!」

「いいえ、大聖母・ノウィン様。それは僕の望みではありません」


「では」

「リリンサと一緒に旅に出ます。あの子の存在を思い出さない様に隠せばいいんですよね?僕、得意ですよそういうの」


「任せても……良いのですか?」

「はい!!だって、ユニとあの子なら、そう言うと思うから!!」

こんばんわ!青色の鮫です!!


実は、全く新しい別の作品を本日、投稿しています!!


『新卒女神を騙して転生!? ~チートなスキルを付けまくり~ 』


駄女神のボケ×ブラック営業主人公のツッコミで送る、異世界転生コメディです!!

僕の作風が好きな方は楽しんで貰えるかと思いますので、どうぞよろしくお願いします!!


本日中に全16話を全て投稿し、完結します!!

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