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第10話「魔女子会・夜の秘め事」

「……この指輪を付けないのは、まだ時期少々だと判断しての事。きたるべき時、お互いの指にはめる事が内定している」



 リリンサは少しの逡巡の後、指輪が二つ揃ってここにある理由を述べた。

 できるだけ事実を隠し、かといって嘘ではないギリギリの内容になる事を狙う。


 指輪はユニクルフィンからプレゼントされたもの。

 カミナの視点ではリリンサの証言は二人で話し合っての事のように聞こえ、事実、カミナは意外と進んでいるのねと内心で驚いている。


 その実、この証言はリリンサの主観でしかないというのは、カミナには分かり様の無い事だった。



「へぇ、結構頑張っているじゃない。もっと進みが遅いと思っていたわ」

「私は、ユニクを攻略する事には本気で取り組んでいる。その結果として、事態は急速に進んだ」



 リリンサはカミナの反応に好感を得て、さらなる満足感を得ようと話を続ける。

 いつも驚かされてばかりだったカミナとの関係性が逆転したようでついつい面白くなってしまっていたのだ。


 そして、調子に乗り過ぎてしまった。



「えっと、私が思っているよりもユニクルフィンくんとは親密だっていうのかな?リリン」

「そう、なにせ私達は毎夜、同じベットで寝ている!」


「はぁ!?ちょっとそれ、ホントに言ってるの!?」

「もちろん本当。一切の偽りなく、事実」


「あ、分かったわ!ベットの大きさが30mくらいあるんでしょう?」

「そんなアホみたいなベットはレジェの所にしかない。まだ行ってないし」


「じゃあユニくルフィンくんは一晩ずっと簀巻きにされているのね?医師的にもやめた方がいいと進言するわ!」

「そんなことはしていない。普通に薄着で寝ている。夏だし」



 リリンサは自分有利に話を進めるために、可能な限り情報を絞ってカミナに伝えた。

 カミナを驚かせたいというリリンの思惑も相まって放たれた攻撃は、見事カミナの平常心を破壊する事に成功。

 そしてリリンサ有利のまま、話は進んでいく。



「ちょっと、リリンの事を甘く見てたわ。まだ出会って1ヵ月だというのに、もうそこまで進展しているなんて……」

「ふふふ、一緒に寝るようになったのはユニクと出会って4日目の事だった」


「……4日!?ちょっと早過ぎないかなっ!?」



 なおのこと続く、リリンサの苛烈な攻撃。

 くすり。と声をほんの少しだけ漏らしながら微笑むリリンサと、まだまだお子様だと思っていたリリンサの予想外の進化に困惑するばかりのカミナ。


 だが、ここでふと、カミナは違和感を感じた。

 先程までリリンとユニクルフィンと自分の三人で話をしていた時には、そんな雰囲気はみじんも感じられなかったはずだし、むしろ……。

 その時に見た情景を再度、思い浮かべ、とある可能性に行きつく。


 もしかしたら、リリンは何らかの情報統制をしているのではないのか、と。



「ねぇ、リリン。ちょっと聞いてもいいかしら?」

「何でも聞くと良い。私とユニクの関係はもう、心無き魔人達の統括者(みんな)と同レベルに達している!」


「じゃ、遠慮なくいくわね。性交渉はしたのかな?」

「………………。」



 突然放たれた超ド級の戦略級攻撃。

 たったの一言でリリンサの思考は崩壊し、有利に立っていたはずの立ち位置が脆くも崩れていく。



「……どうなの?リリン!」

「……誠に遺憾ながら、というか、凄く残念なことに、まだそういうのはしていない」


「はぁっ!?」



 リリンサは、仲間のカミナに対して嘘をつきたくないと思っている。

 それゆえに情報を意図的に削除するという方法でしかリリンサの情報統制は出来ず、簡単にカミナに見破られてしまったのだ。


 カミナに具体的な事を聞かれ、仕方がなく本当の事を白状するしかなかったリリンサの表情は、簡単に見破られたことに対する恥ずかしさと、頑張ってアピールしているのに全然察してくれないユニクルフィンへの憤りもあって、赤く色付いている。

 それに引き換え、カミナの顔色はあまり血色がよくなかった。


 カミナは新たな疑問に困惑していたのだ。

 こんなに可愛いいリリンが横で寝てて手を出さないとか、何かがおかしい、と。



「えっと、リリンはユニクルフィンくんと同じベットで寝ているのよね?」

「うん。そう」


「なのにどうして至らないのかな?おかしくない?」

「それが私には分からない。というか、これからどうすればいいか良く分かっていないので相談したかった」



 もう取り繕うのは無理だと早急に判断を付け、リリンサはカミナに真実を打ち明けた。

 それはリリンサ目線で彼との関係を言葉に表したもの。


 ・いきなり何の準備もなしに出会ってしまって困ってしまったこと。

 ・心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)時代に練った計画のひとつ、神託をダシに使う方法でユニクルフィンと旅を始めた事。

 ・好感度は順調に育っているうような気がしているけど、明確な言葉なども貰っていないという事。


 そして、リリンサもまた素直になれず、つい言ってしまった”好き”という言葉さえ、誤魔化してしまった事も。



「……そんなわけで、私はユニクとは冒険者として順調に親交を深めている。だけど、恋人にはなれていない……」

「なんていうか、問題だらけだと言う事は十分に分かったわ……進行性の細胞変異の完治よりも難しそうね」



 あぁやっぱりリリンはリリンのままだったか。そう心の中で呟いて、ほっと胸を撫でおろすカミナ。

 未だ幼い風貌のリリンサが背伸びして大人ぶってもロクな事にはならないと、医師的にも友人的にも心配していたのだ。



「それでカミナ。どうか力を貸してほしい。ユニクに私を好きになって貰うには、私一人では力不足を感じている」

「それは応援するし、もちろん力を貸すけれど……その前にちょっと聞いときたい事があるんだけど」


「なに?」

「なんか、さっき彼とお話しして感じたんだけど、彼、私達の事、怖がってない?」



 そう、カミナはユニクルフィンの言葉やしぐさを観察し、とある懸念を抱いていた。

 それは、酷いトラウマを背負った人と面談する時に感じる、恐怖の感情。


 カウンセラーとしての資格も有するカミナは、患者が怖々としている事態にも多く立ちあっている。

 そして、ユニクルフィンの動向は、大怪我をした後、一命をかろうじて取り留めた冒険者の動向と酷似していると思っていたのだ。



「……。そんなことはない、と思う……。彼に訓練を施す際も、万が一の事がないように第九守護天使セラフィムなども掛けている」

第九守護天使セラフィム?……まさか、怪我しない事をいいことに、魔法をぶつけたり、勝ち目のない戦いを強制させたりして無いでしょうね?」


「……。」

「もしかして、やったの?」


「…………。ちょっとだけ、やった……。だってレベルが凄く低かったから」

「レベルが低い人にそんなことしちゃダメだから!よくショック死しなかったわね……。可哀そうに」


「で、でも!本当に怖がるような事はしていない!魔王デモンシリーズも使用していない!!」

「その判断は正しいわ。そんな状態であんなものを訓練で使おうものなら、自我崩壊待ったなしだから」



 カミナの態度に自分の教育方針は間違っていたとリリンサは気がついた。

 思えば、このスパルタな訓練方法は、リリンサ自身がその身で受けてきた事だった。


 リリンサは苦々しい記憶を辿る。

 幼き自分にそれを押しつけてきた師匠の事は超絶大嫌いであり、その訓練では枯れてしまうんじゃないかと思う程、涙を流した。

 もっとも、涙したのは訓練自体の辛さと言うよりも、その訓練の合間に行われた数々の屈辱が大きな原因で、そこを除けばまともな訓練だったとリリンサは誤解していたのだ。


 そして、リリンサは思いの他、事態が深刻だったと理解する。

 これでは、愛する恋人になるどころか、だんだんと二人の関係性は劣悪になり、ひいては自分と師匠のような間柄になってしまう。


 出会いがしらに、本気の殺意を込めて魔法をぶっ放すような関係性になってしまうと、リリンサは身を震わせた。



「ど、どうしよう、カミナ……もしかして、私はもう、ユニクに嫌われている?」



 自分の状況を整理しようとして、思ったことを口に出したリリンサ。

 だが、その言葉には予想以上の破壊力があり、結果的に、リリンサ自身の目尻に涙が溜まっていく事となった。

 その光景を見てカミナも焦りを感じ、それゆえになにごとも無いかのような声色で語りだした。



「それはどうかしら?彼の表情に嫌悪感を感じなかったわ。どちらかと言うと困っているという感じが強いわね」

「困っている?それはどういう……」


「リリンとの関係性についてね。おそらくリリンに対して恐怖の感情を抱いているのも事実。これは実力差からいってもしょうがない事だわ」

「うん……ユニクには雷人王の掌(ゼウス・ケラノス)も見せている。怖がっても不思議じゃない」


「……。でも、困っているという事は迷っているという事よ。リリンを怖がる負の感情に釣り合うだけの、好意的な正の感情が絶対にあるわ」

「!!ということは、私はまだ嫌われていない?」


「ええ。彼の感情は今、揺れ動いているわ。心理的に不安定になっているこういう時こそ、好機でもあるの。ここで一気に攻勢に出て攻め落としちゃおう!」



 あぁ、よかった。とリリンサは見た目に分かるほど安堵の表情を見せた。

 自分のやって来た事は間違っていたかもしれない。

 けれど、まだ終わった訳じゃない。カミナも好機だと言っている、と自身を励まし、再び奮い立った。


 その光景を見て、やり過ぎないようにしないとね……。と咎めつつ、カミナは思案する。


 ……何か他にも違和感を感じる。

 彼こと、ユニクルフィンの雰囲気はどちらかと言えばトラウマから立ち直った冒険者に多いものなのだとカミナの経験は語っていたのだ。

 無くしてしまった記憶の中に、重大な事実が隠されているかもしれない。


 記憶を思い出す事は、良い意味でも悪い意味でも多くの影響をユニクルフィンに与え、もしかしたらそれは、間接的にリリンにも害を及ぼすかもしれない。

 カミナはこの結論を経て、慎重に事に当たらなければと思い改めた。




 **********



「次の検査は内視鏡スコープですね。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?あはは」

「ふぐうッ!もぐふッ!!」


「もーそんなに興奮しないでくださいってば。半ケツぐらいで取り乱さないでくださいよ」

「もふぐッ!!もぐぅ!!」


「……にはもっと凄い事したくせに……」

「もぐふぉ!?」



 ちくしょう!油断した!!

 あれから激動の時間を終えた俺は、ミナちーに急かされながらCT検査を行った。

 そこにはレントゲン技師という専属のスタッフがいて、その人から大型の機械を使って内臓やら骨やらの写真を取ると説明を受けた後、何事もなく無事に検査が終わったのだ。

 特に苦しくもなく、ただ寝ているだけという簡単なものだったため、こんなもんかと油断したのだ。


 その結果、俺はベットに横向きで拘束され、口には閉じないように筒をくわえさせられて、ズボンも降ろされ半ケツ状態。


 ……なにこれ?

 これじゃどう見ても実験前のモルモットだ。

 そして傍らには細長いチューブを持ったミナちーさん。それで一体何をするつもりなのか。


 考えたくはないが、実はもう察している。

 ほんともうやだ。お家に帰りたい。



「はぁい。お尻の方からやっちゃいますねー、それ!」

「ふぐう!」


「ほらずんずん進んでいきますよー中々綺麗なものですねぇ。これは良い状態のサンプルになりそうです。写真とっとこ」



 ……この小悪魔、やりたい放題じゃねぇか。

 俺は抗議の声を出したい気持ちになったが、今はロクに声も出せやしない。

 せいぜいうめくのが精いっぱいだ。


 ……小悪魔ナースに尻を責められて、うめき声を漏らす。

 あぁ、どう見ても変態です。……さよなら、俺の自尊心。

 いや、よく考えたら残ってなったわ、自尊心。リリンの訓練で殆ど消費しちまったしな。

 そうと分かれば堂々としてればいいや。


 そういえば、さっきミナちーさんは何の事を言ったんだろう?

 もっと凄い事をしたってなん事だ?


 別の事を考えて気を紛らわそうとした俺。

 だが、小悪魔ミナちーさんはそれを許してはくれなかった。



「あ、しまった!」

「ふぐぉ!?」


「先に胃の方をやっちゃえばよかったですね。……ちゃんと消毒するので許して下さい!」

「ふぶぅッ!?ふっぐぐろッ!!ふぐぐんふぁ!」



 そう言いながらチューブを引き抜くミナちーさん。

 その感覚に身をよじりながらも、事態はそれどころじゃない!

 誰か助けてくれぇ!!



「アルコールしゅっしゅ。そして、ひと拭き。できました!……はい、あーん!!」

「ふぐふぐ!ふ、ふぐぉぉぉぉぉぉ!!」



 うわぁぁぁぁぁ!!やめろぉぉぉぉぉ!!


 ミナちーさんは優しい頬笑みを浮かべ、ご丁寧な事にスコープに左手を添えて俺の口元に近づいてくる。

 こんな世界一嬉しくない『あーん』聞いたこともないぞッッ!!?


 これは俺の認識が間違っていたようだ。

 ミナちーさんは小悪魔なんかじゃない。リリンやカミナさんと同じ階級の大悪魔だッ!!


 おのれ、謀ったな……。

 ここは心無き魔人(アンハートデヴィル)の巣食う病院。しかもこの人は再生輪廻さんの使役する使い魔なのだ。

 俺は自身の迂闊さを嘆きつつ、その時が来てしまうのを、目をつむり身構えた。


 だが、一向に検査は始まらない。



「ふぐろ?」

「あはは、さすがに冗談ですって。そんなことしたらカミナ先生に物凄く怒られますし、するわけないじゃないですかー」



 コイツ……!俺で遊んでやがったのか。

 ミナちーさんはそれだけ言うと俺の視界の外へ出て何やら準備をしている。

 助かったという安堵感と、込み上げてくる情けなさ。


 もう早く終わってくれと、切に願うばかりだ。



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