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第202話「愛情の戦略破綻①」

「ワルトナ、決着を付けよう。あなたの思い通りにはさせない」

「おっと、威勢がいいのは良いことだが……。君は一昼夜戦い続けた満身創痍、一方、僕の体調は万全だ。なにせ、ついさっきまでユニとホテルで休憩していたんだからね!!」


「む”ぅ”ぅ”ぅぅん!?!?」

「そもそも、英雄見習いにもなってないぶんざ……あ。ついさっきなったばかりの分際で、英雄教育を受けてきた僕に勝てるとでも?」


「やって、見なければ、分からないっ!!」



 エゼキエルリリーズの最大出力砲撃を駆使して結界を破壊し、温泉郷内部に侵入したリリンサは、混沌渦巻く感情のままに激怒している。

 友達だと思っていた。

 真実を伏せ、自分とセフィナを騙して育てていたことは言葉に表しがたい屈辱だ。

 だが、それでも、敵じゃないって信じたかった。



「《魔神の大焦熱(デモン・シクス)ッ!!》」

「おーおー、初手から最大火力とは。ブチ切れてるねぇ、無様だねぇ。《開闢の矢(ハローレイン)》」



 それは、六重の魔法陣をあらかじめ魔神の脊椎尾内部に構築していた、リリンサの超速攻。

 彼女は知っているのだ。

 ワルトナに先手を譲ったら、勝てないと。


 両者のちょうど中間の位置で、熱を伴う眩い閃光が炸裂した。

 誘爆の衝撃で爆風が広がる――、そんなあからさまな目隠しは、二人にとっての常套手段テンプレート



「あらら、感の良さは鈍ってないようだ」

「雑な狙撃など当たる訳がない。だってワルトナは運が悪い!!」



 東・西・北の三方向から飛来した無数の魔法矢を、リリンサは最短動作で全弾回避。

 平均より細めた目で、東に居るワルトナを睨みつける。

 そういう雑な連射はワルトナが遊んでいる時の行動、戦いを有利に進める為の挑発だという事を、リリンサは良く知っているからだ。


 他のワルトナが偽物であることなど、リリンサは百も承知。

 そもそも、ワルトナは後衛特化の魔導師。

 使う武器が杖から弓に変わろうとも、いや、扱う武器が神栄虚空・シェキナであるからこそ、その本質は変わらない。



『赤白の弓?あぁ、それはおそらく神栄虚空・シェキナですね』

『シェキナ……?確かにそんな感じの名前だった気がする』


『第七の神殺しであるシェキナは、想像と創造の弓と呼ばれています。魔法と魔導の杖である第九のメルクリウスが魔法世界そのものと評されるように、シェキナは物質世界、リリンサ達の世界を創造する能力に長けています』

『むぅ、何でも作れるってこと?』


『情景を思い描けるものならば。シェキナは使用者の理解に依存する武器です。魔法が得意なものが扱えば魔法弓となり、狩りが得意なものが扱えば物理弓となる。え?弓も魔法も使えない剣士が使ったら?ははっ、剣が飛んでいきますよ』


『む”ぅぅ、なにそれ、ずるい。セフィナもパパの杖を持っていた。こっちにはユニクのグラムしかない、凄くずるい』

『はっはっは、星刻杖・ルーンムーンも負けてはいませんよ。なにせその杖はリンサベル家に代々受け継がれてきたママの杖です』


『むぅ!?』

『それに、リリンサは――』



 アプリコットとの訓練は、白い敵……、赤白の弓を持つラルラーヴァーとの決戦を見越したものだ。

 故に、リリンサはラルラーヴァーの情報を全て開示し、父と共に本気の対策を練っていた。



「本物のワルトナは、東のあなた」

「おや?バレるもんだねぇ。今使ってる分身はシェキナの能力で作った渾身の力作だって言うのに」


「神殺しの特性は理解している。神への対抗手段、つまり、神の力によって生み出された神の因子、魔法、始原の皇種の権能に対する特攻であることも」

「そうだね、人間としての才能、魔法、そして悪食=イーター、あれあれぇ?それって君が持つ武器その物じゃないか!」


「むぅ」

「前にも言ったけどね、君と僕じゃ強さの格が違う。神殺しを持たないキミじゃ、戦いのステージにすら上がれやしない」



 シェキナによって発揮される認識阻害の看破は、ローレライの絶対視束アルゴリュートにも不可能だ。

 同様に、悪食=イーターによる解析や、時の権能の記憶読みにも高い耐性を持つ。

 金鳳花が操る使徒を発見するのが困難だとされるのは、神殺しを持つ者――、疑わしい者が10人も存在するからだ。


 だからこそ、リリンサが本物のワルトナを見破ったのは、何らかの能力によるものではない。


 ワルトナは、いつも、私の左側に立つ。


 そんな経験則からの判断は正解だと、東側に居るワルトナがニヤリと笑う。

 仮面を付けていない素顔、されど、それは道化師じみていて。

 ふらりと優雅に一礼し、その場から忽然と消える。

 それが敵をおびき出す際の芝居だと知っているからこそ、リリンサは思惑に乗ることにした。



「《五十重奏魔法連クィンクァゲテットマジック雷光槍サンダースピア!》」



 12万5000の雷光を降らせ、大規模面制圧を狙う。

 雑な攻撃には雑な攻撃を。

 長期戦を考慮し魔力の節約をしつつ、異常があった場所に向かい突進する。



「……ソドム、ゴモラ、相談がある」

『おう、なんだ?』

『セフィナの事なら心配いらない。今はサンドイッチを食べてふ』



 威力をケチった雷光槍では、建物に甚大な被害は出ない。

 だが、人間を痛がらせるには十分。

 不自然に被害が出なかった場所を目指し、至る所で冒険者が悶絶する街中をリリンサが駆け抜ける。



「魔神シリーズを強化したい。今のままじゃワルトナに勝てない」

『分かってるじゃねぇか。エゼキエルとその武装は神が異世界から召喚したもんだが……、それは100%純粋な人の技術によって作られたもんだ。神殺しの特攻対象外だぜ!』


「悪食=イーターのエゼキエル説明書に、11番目の神殺しって書いてあった。そこには、神殺し殺しとも」

「唯一クソ神が神殺しを真似て作った神愛聖剣・黒煌ってのがあってよ」


「なるほど。有利とまではいかなくとも、五分ぐらいには持っていきたい。できる?」

「そりゃ、魔神シリーズの魔法陣ソフト外装ハード両方だよな?」



 悪食=イーターを展開しているリリンサの脳裏に、強化案が次々と浮かび上がる。

 それをざっと斜め読みして考えるのを止めたリリンサは、間違いないであろう答えを宣言した。



「どっちも!」

「だよな!まずは魔法陣の最適化からやるか。リリンサ、お前が最も使いやすいバッファ魔法の構成はなんだ?発動難易度より、利便性で選べ」



 そもそも魔王シリーズとは、機械のエゼキエルと合体する為の武装だった。

 ではなぜ、人間が使用できるような機構が備わっているのか?

 それは当然、人間形態のタヌキが使うためである。


 そして現在、魔神シリーズはカミナの手によって、リリンサに最適化されている。

 だがそれは、カミナが知る過去のリリンサに合わせたものだ。



飛行脚フライトステップ瞬界加速スピーディーだけど……、もう一つ、私には適性の無い魔法が欲しい」

「なんだ?」


原初に統べし雷人王(オムニバス・ゼウス)、ワルトナに対抗するには、原初のバッファ魔法が必須」

「ゼウスか……、いいぜ。確かに、生物同士の戦いならそれが一番だしな」

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