第200話「慶弔の神楽舞い③」
「金鳳花、あと、蛇の皇が出てきていないわ」
……蛇の皇?
それって、鬼灯色の目のバカでかい白蛇だったりする?
「七源の階級、蟲、竜、タヌキ、鳥、蛇、キツネ、魚の中で、皇種、もしくはNO.2が出てきていないのは蛇とキツネだけ。ましてや、蛇は尻尾の先端すら出していない。はっきり言って不気味ねぇ」
レジィの表情を見た感じ、金鳳花よりも警戒してそう。
蛇の権能は次元移動とかいう強襲に長けた能力だし、警戒するに越したことは無い。
俺が張っ倒した愛嬌たっぷりなアレが皇種じゃないならの話だが。
「蛇か。尻尾つーか、頭なら出したぞ」
「……ちょっとそこ、くわしく語ってくれるかしら?ゆにくぅるふぃん」
声のトーンがリリンやキングフェニクスを呼ぶ時と同じなんだが?
もしかして俺も、手に負えないアホの子枠だと思われてる?
「紅葉達を倒した後、サチナや他の戦いを気に掛けつつ、隠れている伏兵がいないか探したんだ。その時点じゃダンヴィンゲンも出て来てなかったしな」
「そうねぇ、物語を面白くするって視点で考えると、蟲と因縁のある貴方も対戦相手候補に入っていたでしょうしぃ」
「だろ?で、そん時に突然声が聞こえた訳だ。『おーい、そこのヒョロ人間。ロチの眷属を見なかったデスか?』ってな」
「ロチ?ろち……、あ、ヤマタノオロチぃ」
ヤマタノオロチといえば、昔話に登場する蛇の大妖怪だ。
その姿は八つの頭を持つ巨大な蛇、ヒュドラやスキュラと似たような感じ。
確か逸話では、そのあまりの強さに手が出せず、酒でデロデロに酔わせた所をぶん殴って倒したとかだった気がする。
ここで重要なのが、蛇を殴ったのが誰かって話だ。
蛇=アマタノ
殴った奴=ホーライ
だった場合、あの村長が搦手を使わざるを得なかった強者って事になる。
「ほぅ?面白そうな話をしておるなんしな?」
「ギンか。丁度いいや、俺の記憶を読んで、その蛇がアマタノかどうか確かめてくれ」
「これは……、良い酒の当てになるなんし。みんなで見るでありーんす」
ギンが何もない空間を一瞥した瞬間、そこにミニサイズの立体映像が浮かび上がった。
写っているのは、森の中でキョロキョロしている俺。
うん、なんていうか、他人視点で見る自分って、すっげぇ間抜けに見えるな。
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「おーい、そこのヒョロ人間。ロチの眷属を見なかったデスか?」
森を高速で駆け抜けながら、周囲に視線を配る。
さっきの虎の皇種みたいなヤバそうなのが潜んでいるかもしれないし、出来る限りの処理をしておきたい。
そんな訳で、キョロキョロしまくっていたら、唐突に声を掛けられた。
驚くべきことに姿が見えない。
グラムを覚醒させて、身体能力を向上させているのにも関わらず、だ。
「……誰だ?」
「ロチのことはいいから、質問に答えろデス。太々しい黒締嵐蛇とか、ギスギスしてる液凍無とか、やさぐれてる不離苦空とか見なかったデス?」
戦闘力の高い種類の蛇、トップ3か。
130の頭に選ばれててもおかしくない面子だが……。
「黒締嵐蛇には心当たりがあるな。……それってハナちゃんって名乗ってたりする?」
「するデス。どこで見かけたデス?」
「温泉郷。あー、白銀比の娘のサチナが管理してる町って言った方が分かりやすいか?」
「なんでそんな場所にいるデス!?ロチは絶対に近づくなって言ったデスよ!?!?」
ふむふむ、言う事を聞かない部下に振り回されてる中間管理者感が半端じゃないな。
まるで、アホの子姉妹に戦争を無尽灰塵された女王様みたいな慌て方だぜ!!
「関わると碌なことにならないって警告したデス……。というか、あんのド淫乱狐め、ま~~た新しい子供を作りやがったデスか。マジ迷惑デス」
「どう迷惑なんだ?」
「ロチの所に来る冒険者の中に混じってやがる場合があるデス。尻尾の擬態を見破るわ、パーティーがしぶとくなるわ、ほんと、ろくでもない奴デス」
なるほど、育児放棄されたキツネっ子が冒険者になり、蛇峰戦役に参加している訳だ。
時の権能を少しでも使えるなら高ランクの冒険者になるのは難しくないだろうし、なにより、金払いが良いって話だからな。
金鳳花、サーティーズ、サチナの共通点、それは金にがめつ……、マネーゲームを嗜んでいる点だ。
「ちなみに、キツネのねぐらで何してやがったデス?なんか料理とか酒とか送られてきたデスが??」
「わんぱく触れ合いコーナーで愛嬌を振りまいて、食いもんを奢って貰ってたぞ。うまー、この肉うまー、めっちゃ喉ごしいい、じゅぅぅしぃい~~って言ってた」
「マジで何やってるデス!?!?あんのお馬鹿ーーッ!!」
これだけ会話して発見できないのなら、コイツは、この場には居ない。
なら、次元移動の能力で声だけ届けているはず……、そこか。
「どっこいしょ」
「ほぎゃー!?」
木の葉で巧妙に隠されていたのは、直径5cmの空間の穴。
さっと光速で近づいて、ガントレットを無理やりねじ込む。
そして、指先に触れたにゅるっとした物体を思いっきり引っ張り込んだ。
「した!!舌はやめろデスっ!!」
「じゃあ顔だせや。おらっ!!」
メリメリメリっという悲しい音と共に、空間に亀裂が走っていく。
んー、思ってたよりも大物……、口を閉じている状態で、太さ20mくらいあるな?
冥王竜なら余裕で丸呑みだ!!
「チロチロチロ……、お前、噛み潰されてーデスね?」
空間を叩き割って出現した巨大な白蛇、そのレベルは『999999』。
だが、普通の999999じゃねぇな。
纏う風格はさっきの虎以上、クソタヌキと同等の化物と見た。
「《破諧調》」
薄く伸ばした破壊の波動を撒き散らし、周囲一帯を戦闘フィールドへ。
このランクの化物に手加減をしている余裕はない、最初っから全力で行――!!
「……。やっぱマズそうだから見逃してやるデス。しゅるしゅる……」
「誰が逃がすか!!戦えやオラァ!!」
「ほぎゃー!?!?」
ぬるぅーとした動きで後退し始めた蛇の鼻先を思いっきり殴りつけ、次元の穴から引っこ抜く。
んー、ざっと100mくらいは出たか?
これだけ出せば、簡単には逃げられねぇだろ。
「待つデス!!こうさん!!降参するデス!!」
「あ?悪いが氷鬼に降参は無い。諦めろ」
「氷鬼?ほら、狐に関わると碌なことにならねーじゃねーかデス!!」
ちょっと涙目になってるコイツに恨みはない。
それどころか、自分の配下が行方不明になったのを心配して様子見に来たいい奴っぽいが……、氷鬼の勝敗に関係ありそうなので、とりあえず狩っておこうと思う。
コイツ自体は狐に洗脳とかされてなさそうだが、配下の敵を排除するくらいのモチベーションはある。
そして何より、グラムを知っている。
もしもこいつが幾億蛇峰・アマタノなのだとしたら……、蛇峰戦役で蓄えた経験値は決して侮って良いものじゃない。
「いくぞ。《単位系破壊・物質量》」
「チロチロチロ……、《振屠雷》」
ジリジリジリと擦り切れるような音共に、蛇鱗に白電が纏わりつく。
鱗の色と合わさって非常に見にくい、ここら辺も戦い慣れてる証明だろうな。
湿った草を踏みしめ、前へ。
狙うは首筋の一刀両断。
計測した破壊値数的には行けるが、問題は、当てられるかだ。
「ハナちゃんはその技を攻撃に使っていたんだがな」
「しゃぱああ!!」
グラムは神製金属で出来ている。
だからこそ、磁力の影響をモロに受ける訳だが……、俺の方が上手だぜ。
このオルガノグラムは同時に5つの理を破壊できるんだからな。
グラムに与えられた磁力の影響を破壊し、さらに、空気抵抗、摩擦係数、物質量を破壊する波動を刃に乗せる。
遠心力を乗せて振り抜いた切っ先は超光速。
それがほんの僅かにでも触れれば、あとは、純粋な破壊のエネルギーを流し込んでやればいい。
「――んッ!?」
刃は確かに届いた。
白い鱗に突き刺さり、破壊エネルギーを送り込むことも成功。
……だが、本体に広がらなかった。
伝播したエネルギーは鱗の表層を流れ、そして。
「バーカ、バーカ!!グラム持ってるアホをまともに相手する訳ねーデス。バーカ!!」
特大の攻撃を残し、逃亡しやがった。
脱ぎ捨てられた蛇の皮がグラムに絡みついている。
刀身が蛇鱗に届いた瞬間、アイツはボロボロになった皮を脱ぎ、俺に投げつけてきやがった。
どうやら、最初っから脱皮した皮を被っている二重構造になっていて、肉体と皮の間に、次元の隔たりを作っていたっぽい。
攻撃を通すには次元破壊を組み込む必要があったのと、計測していた破壊値数はあくまでも皮の強度で、本体は未知数だった。
そしてなにより、皮に纏わせていた次元移動不能能力を使い、俺とグラムの動きを硬直させられた。
なるほど、ハナちゃんがグラムの攻撃を受けて余裕で生き残ったのも、この技を使ったからか。
ふっ、勉強になったぜ。
次は絶対にブチ転がしてやるから覚悟しとけよ、泣きべそ蛇ーーッ!!




