第199話「慶弔の神楽舞い②」
「お帰りなさぁい、サチナ、ホロビノ。これだけの成果を上げたんだものぉ、今回のMVPはあなた達で決定よぉ!!」
「サチナとホロビノは、とってもとっても、とーっても頑張ったです!!」
「きゅあ!」
サチナ達と合流し、ホロビノの背に乗る事、約5分。
天窮空母の甲板に着陸した俺達は、大魔王陛下御一行様から盛大な出迎えを受けた。
それにしても、今回のMVPがサチナとホロビノという話は……、うん、納得しかねぇな!
ラグナと紅葉に化かされた俺は論外。
で、その他の戦いはって話になるんだが――、全部の戦いにタヌキが参戦してやがるッ!?
なんて酷い戦いなんだ、もはや、人狼狐狸って呼んだ方が良いレベルッ!!
「あ、ユニクルフィンもいたのねぇ。お疲れ様」
くっ、オマケ扱いされても文句は言えねぇ。
紅葉たちを倒した後は、大した実績を上げてないからな。
一応、妙に愛嬌のある喋り方の蛇を張り倒してはいるものの、木星竜+ダンヴィンゲンが強すぎてインパクトに欠ける。
「ねぇ、カミナ。ホロビノ……。すごくもっふもふねぇ」
「白天竜はもともと毛深かったけど、この生え方は寒冷地法に住む獣の方が近いかしら?」
「北極ぐるげぇ?」
「羽毛っぽい触り心地だけど違うわよ。強度が桁違いだもの」
……。
…………。
………………魔王共が、ホロビノに群がってる。
あ、ホロビノが恐怖のあまり腰を抜かした。
滅茶苦茶パワーアップしても、カミナさんが植え付けたトラウマには勝てないらしい。
「それでレジィ、これからどうするんだ?戦いは一段落しただろ?」
現在の状況を鑑みると、人狼狐は俺達の勝利と言っていいと思う。
発生した戦いは全て、サチナの陣営が勝利。
相手の130の頭は壊滅し、こちらがほぼ無傷である以上、この状況を覆すことは難しいはずだ。
「こんな所で話すのも無粋だしぃ、ご飯でも食べながら意見交換しましょう。とその前に、ホロビノ。縮んでくれるかしら?」
「きゅぐろ!?」
既に縮んでるだろ。精神的に。
大きさ的には変わってないが、さっきよりも二回りくらい小さく見える。
翼を畳んだホロビノの大きさは約50m、尻尾と首をいい感じに曲げても、20mは下回らない。
このサイズじゃ天窮空母内に入れるのは厳しい……、後部の貨物スペースも帝王枢機が群れてるしな。
あれだけ功績を上げたのに外で待機っても可哀そうだし、なんとか、ん?サチナ?
「ホロビノ、疲れているならサチナがしてやるです!」
「きゅあっ!?!?」
「いっくぞ、《御神楽幸七・子守歌!!》」
ホロビノが転生を出し渋っていると、サチナが元気いっぱいに名乗り出た。
そして、目を白黒させているホロビノに向かい見事な神楽舞いを披露。
抵抗する間もなく転生の光に包まれ、全長4m、もっふもふでふっわふわな毛皮に包まれた、ぬいぐ……、幼ドラゴンが爆誕。
なんと当社比にて、驚異の威厳25%OFFッ!!
5m→4mに縮んだ上に、最強のオプションまで付いていやがるッ!!
「ホロビノ。良く似合ってるぜ、そのキツネ耳とキツネ尻尾」
「きゅぐろ!?」
「サチナとお揃いなのです!!」
「……。きゅぐぁー!?」
これはアレだな?
1/1ぬいぐるみアヴァロンと一緒に、射的コーナーに並ぶ日も近いな?
手羽先姫様が大喜びしそう。
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「それでは、久遠竜鬼の勝利を祝ってぇ、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
天窮空母の管制室に集まっているのは、今回の戦いの主要メンバー全員。
俺、サチナ、ホロビノ、レラさん、レジィ、カミナさん、メルテッサ、ナインアリアさん、セフィナ。
ギンに、リリンの師匠っぽい人たち、ホロメタシス、あとタヌキとクマとバニーガールもいるぜ!
「各自、好きなだけ飲み食いして良いわよぉ。あ、お酒には注意してねぇ」
「分かってるです!死んでも飲まねーです!!」
暇そうにしていたメルテッサに聞いた話によると、テトラフィーアはサチナを酔わせて寝込みを襲ったらしい?
そういうのは普通、姫様がやられる側だと思うんだが……、魔王大臣って事を考えると納得せざるをえない。
「あらぁ、浮かない顔をしているわねぇ、ユニクルフィン」
「そりゃな。切羽詰まった状況だっただけに戦いに集中するしかなかった訳だが、冷静に考えると……、この戦い、俺のせいだよな?」
俺がメルテッサに声を掛けたのは、リリンにもワルトにも肩入れしていない第三者の視点で見ていると思ったから。
どうやらそれは正解だったようで、語られた人狼狐の全容は、もはや、茶化せないレベルの修羅場と化していた。
・人狼狐の主犯はワルト。共犯はテトラフィーア。
・二人の目的はリリンの排除と、ユニクルフィンの確保。ただし、テトラフィーアは俺を共有しようとしていたのに対し、ワルトは独占を狙っていた。
・つまりワルトは、俺、リリン、テトラフィーア、大魔王一派の全てを一人で騙し、巧みにコントロールをしていた事になる。
・そして現在、リリンとワルトは大魔王決戦を繰り広げている。
「とりあえず、巻き添えを食らった森や温泉郷で、確定的な死者は出てないって事で良いんだよな?」
「はいなのです。時と命の権能に目覚めたサチナ達なら、世界の記憶から物質を再生することもできる、です!」
続いて語られた解説によると、ホロビノとサチナは、今日の午前11時30分の世界記憶を習得し、全ての命の状態をその時点へ戻したらしい。
世界に与えた戦いの影響を記憶ごと取り除くことで、130の頭に登録されている両陣営のメンバー以外は、戦闘が起こった事すら気が付いていない。
一見して完璧な事後対応と平和な幕引きって感じだが、どうやら、懸念を感じているのは俺だけじゃないらしい。
「率直に言うぞ、レジィ。俺はリリンやワルトのことが気になっている。今すぐ駆け出したいくらいにな」
「それはダメよぉ。リリンにとっても、ワルトナにとっても、最悪のケースになりうるものぉ」
……だよな。
俺も何となくは分かっちまってるんだ。
後はもう、リリンとワルトが二人で幕を引くしかないんだって。
「それに、まだこっちの戦いが完全に終わった訳じゃないのよ」
「そうなのか?」
「金鳳花、あと、蛇の皇が出てきていないわ」




