第196話「希望の竜神楽④」
「《解脱転命・狐龍皇姿》」
狐と竜の皇種。
それは、どの世界線も存在しない132番目の新たなる皇の誕生。
「……。」
眩い光に翳されながら、純白の竜王が降臨す。
全長50m、三対六枚の大翼が広がってゆく姿は、後の大聖母によって天使の顕現と評されるもの。
その内から現れた竜の体躯、それが例え、異形の姿であろうとも評価が覆ることは無い。
『狐龍輝皇・希望を叶える創星竜』
種族 狐龍
年齢 0歳
性別 オス
称号 狐龍輝皇
レベル 9999恒河沙
危険度 世界再生の奇跡
『基礎情報』
6本の腕、6本の大翼、そして9本の尾を持つ、竜としては異形の姿。
それは、転生前の希望を戴く天王竜が知る限りの竜の特性を十全に発揮できるように、多翼・多碗に進化したからに他ならない。
命の支配者である希望を戴く天王竜にとって、過去の自分の姿を得ることなど造作も無い些事だ。
相手の能力に合わせて最適化するのも当然の行い。
そして、求めた身体を過不足なく得ることによって、肉体性能の100%を引き出して戦うことを可能としていた。
だが、現在の進化は、安定性を重視する従来の転生とは全く異なるものだ。
右側の腕に持つのは、炎水、風土、光虚無の効果を片側ずつ持つ両刃大剣。
相反する属性を内包させ混沌を呼び起こすことにより、通常では防がれる属性攻撃に貫通性能が付与されている。
左側に持つのは、防御、強化、創生の効果を持つ片刃大剣。
接触した物質の改変能力に特化したこれらの剣が空気中に触れている限り、世界は希望を叶える創星竜の意のままに改変される。
9つの尾の先端に揺らめくは、命の灯。
その光は、輪廻に帰らんとする魂を引き寄せ、迎え入れる。
そして、創生竜の力となりながら、新たな生を得る機会を待つ事となるのだ。
「ヲヲヲヲ、ヲヲ……!」
最大超過成体へ至ったことにより、ダンヴィンゲンは言語能力を失った。
言語とは、同族への意思表示。
故に、並び立つ者のいない最大超過成体には、言葉など必要のないものだ。
それでも、感情が消える訳ではない。
最強へと至った自分と、目の前に生まれた新たなる天王竜。
未知の自分と未知の敵。
ここから始まる戦いに、ダンヴィンゲンは心を躍らせる。
「ヲヲヲ……!!」
巨大すぎる体躯に吹き付ける風が雄叫びの様に鳴き、創星竜へ戦いの意志を伝えた。
初手から最大最強。
体内で圧縮した外骨格鎧を砲弾と化し、無限に撃ち続けるというシンプルにして究極の物量破壊攻撃。
空を埋め尽くす黒い飛沫、それが、創星竜が座す天空を飲み込まんと――。
「《懺悔の熾天》」
最先端を飛ぶ外骨格鎧砲弾の中央を切り裂き、創星竜が振るった火水の両刃剣が通り抜ける。
水とは、調和させるもの。
火とは、変化させるもの。
故に、炎水の両刃剣はあらゆるものの強度を無視して融合し、そして、物質の原子構成を書き換える。
水溶液と過熱――、そんな科学の基礎の効果により、世界最強の硬度という前提が崩れ去った。
そして、その未来へ進化する。
創星竜は引き起こした事象を、一億を超える外骨格鎧砲弾へ適用。
寸分違わずに両断されるのは、現在の砲弾のみではない。
これから先、ダンヴィンゲンが何処でこの攻撃を行おうとも、同じ進化を遂げる――、それが確定された未来に嘆く、懺悔の熾天。
「――ッ!!」
一つ目の砲弾の炸裂した刹那、残りも全く同じ挙動で炸裂。
爆風というランダム性すら完全に同一の光景に照らされ、ダンヴィンゲンの複眼が煌めく。
「ヲォヲヲオヲオオ……!!」
全長1000mを超える球形建造物の中央に亀裂が走り、そこから、無数の節足が剝き出しとなる。
ダンゴムシが活動を開始するように蠢いた節足が蹴り抜くは、次元の壁。
世界超越の物理力は世界の理を容易に破壊、そして、瞬きの間に創星竜へと爪を立て。
「……ば、馬鹿なっ!?」
次の瞬間には、ダンヴィンゲンは人を模した姿へと戻されていた。
それは、今までの命の権能では不完全にしか行えなかった、退化。
過去の姿へ進化させるのではなく、過去の姿へ戻す。
その違いは、進化したという記憶が消去されているかどうかだ。
時命の権能を得た創星竜は、世界に記憶されていく事象を堰き止める事が可能となった。
それは、事象が発生したという事実ごと消し去る、究極のアンチバッファ。
故に、もう一度、最大超過成体へと至るには同等のエネルギーや条件に加え、望む進化に至る経験値を新たに得る必要がある。
「これが貴様の力か、ホーープッ!!」
五体満足に戻されたダンヴィンゲンが、全エネルギーを集中させた拳を振るう。
一瞬の加速で神経速に達したその拳も、やはり、この世界で観測された最も高い物理破壊力。
だがそれは、先ほどの最大超過成体が発揮したエネルギーではない。
再現できないのなら、新たに作り出せばいい。
蟲量大数と同じには成れないと知ったダンヴィンゲンが目指したのも、そういう進化だったのだから。
「消し飛べーーッ!!」
限界を超え、自身の肉体にも尋常ならざるダメージが入っている。
だが、この拳が着弾すれば、私の勝利は揺るぎない事実となる。
そう思っているダンヴィンゲンの拳が進まない。
それはまるで、世界から拒絶されているかのような、時間経過拒否による硬直。
「……ここまでか」
気が付いた時には、6本の剣に刺し貫かれていた。
完全な認識外からの攻撃には、物理破壊力など無意味。
敗北を悟ったダンヴィンゲンは静かに瞑想を始め、愛する姫と共に過ごした時を追憶する。
「《超新星輪界》」
身体を貫く幾条もの光。
その熱に溶け逝く感覚、これこそが死なのか。
存外、悪くない。
ヴィクトリア様と再び出会うまで、この暖かな死後の世界を――。
そうして、鎧王蟲・ダンヴィンゲンは生涯を終えた。
数千年の時を経て、滅亡の大罪期・怒火に沈む四界の決着が付いたのだ。




