第192話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-傍観者side」
「これは……、面白いことになったじゃの!」
「お前や蟲量大数とベクトルが同じ化け物爆誕とか。あっちの次元は流石にオワタ(笑)」
第8空間次元層の特別鑑賞室にて、久遠竜鬼を鑑賞している者たちがいる。
偉大なる始原の皇種、那由他、金枝玉葉、恒河沙蛇。
それぞれが右側に酒、左側につまみを持っている晩酌スタイル。
鬼の形相で父を探す白銀比の動向と並行する2つの鬼ごっこを肴に、宴会を続けているのだ。
「てか、大体ぎょくよーのせい?いくら孫とはいえ、ここまで肩入れするの珍しくない?」
「いえ、速かれ遅かれ、サチナはあの領域に上り詰めますよ。そうでしょう?那由他」
この第8空間次元層の時間の流れはめちゃくちゃ……、否、時間経過の概念が無いと言った方が正しい。
小説の主人公が体感する時間は本一冊ごとに違う、そして、それらの本を同時に読み進める事が可能であるように、観測者と出演者の時間は異なるものである。
「うむ、ユルドには100年もすれば儂に届くと評したがの。それだけの時間があれば命を脅かす危機の一つも経験するじゃろうという読みな訳じゃ」
「じゃあ、潜在能力的には直ぐにでもって思ってた?」
「そこのネグレイト狐と違い、儂は箱入り狐を真っ当に教育したからのー」
「教育?人体実験の間違いだろワロタ」
那由他は、金枝玉葉が強力な精神支配系の能力を持つと分かった上で戦いを挑み、思惑の上で認識改変を受けた。
そして、白銀比の面倒を見つつ時の権能を研究し、解除方法を解明。
その時に理解した、時の権能の利便性――、それは、自分が持つ能力を他者に譲渡できるという、後の悪食=イーターに搭載された能力下賜システムの基礎となった能力だ。
「白銀比は己の子に時の権能の100%を受け継がせておる。だが、紅葉、紫蘭、金鳳花とそれ以外では、記憶封印の有無という差があるじゃの」
「無色の悪意を金鳳花が持っちゃったせいで、警戒するようになったんだっけ?」
「言ったじゃの、儂は真っ当に教育をしたと。狐が遊びを捨てる程に追い詰められた姿を見て何も思わぬ薄情は、流石にどうかと思うがの?」
「記憶の封印、お前のアドバイスかよ」
「知らぬが仏と言うじゃろ。事実、白銀比の子は時世に関与せずに己の生を全うする。苦楽も本人の自由じゃ」
「そういえば、変?金鳳花が弟妹に手を出したのって初めてな気がする?」
「箱入り狐に感づかれるの嫌ったか、あるいは……。じゃが、サチナは看過できないじゃろう。なにせ、神にとって、不可思議竜よりも優れた命の権能を持つ者など厄介極まりない。ある意味で、儂や蟲量大数よりもじゃの」
「流石にそれは無くない?この害獣タヌキを上回るとかさ」
恒河沙蛇は、自分がのびのび暮らす為に作った第8空間次元層を移動に便利な乗換駅のように扱う那由他を嫌っている。
蟲量大数の簒奪では扱えない様に超複雑化させた法則を適用しているにも関わらず、平気な顔して使い倒しているからだ。
「弱腰ドラゴンは、良くも悪くも選民主義にどっぷり漬かっておる。白天竜の血の濃さ=能力のハイブリットじゃから、間違いではないがのー」
「ハイブリットは3代目から?でも、6代目以降は白天竜の血が薄くなりすぎて、親の竜種になる?」
「神が弱腰ドラゴンに与えた罰は、不可思議竜側の白天竜の因子が劣遇されるというもの。つまり、相手も白天竜なら100%の確率で、純血の白天竜になるじゃの」
「なーるほど。たまに出てくるご当地ヘンテコドラゴンは、弱腰ドラゴンの子や孫と作った子か」
「劣遇されたとは言え、白天竜の血は濃い。能力のハイブリット自体はうまくいっているじゃの」
「だから、弱腰ドラゴンは白天竜のメスを切望している訳ね。で、なんで白銀比と子を作った?竜にはならねーだろ、常識的に考えて」
「いや、かなり可能性は高かったじゃの。実際、サチナは不可思議竜の能力のほぼ全てを受け継いでおる」
那由他が視線を向けた先に映し出されているのは、牙を剥き出しにしたサチナの咆哮。
一息で大気を揺らすその姿は、まさしく竜の風格だ。
「子が腹に宿り、成長する過程で遺伝子の取捨選択が行われるじゃの。じゃが、子は女の腹に宿るもの。不可思議竜が操作できるのは母体の命であり、能力を使えば使う程、母体の生命力が強くなり優劣に影響を及ぼす」
「流石、神クソ仕様」
「そこで、箱入り狐の時の権能が役に立つ。遺伝子とは肉体に刻まれた記憶とされるように、その操作は時の権能の領分なのじゃ」
「あー、ぎょくよーが人化得意なのもそれ?ハナがやるとめちゃ疲れる」
「サチナの肉体の質は、ほぼ白天竜のもの。じゃが、白銀比の方が上手じゃったな。生まれた子が竜の因子を持っていないと認識を改変し、不可思議竜の興味を失せさせた」
「さっすが、害獣タヌキ直伝の親子愛」
「命の権能は望む姿に至る権能じゃの、という事で、乳児の頃から自分は狐だと認識していれば、狐に育つ。これがサチナのからくりじゃの」
「で、希望は何をしたん?」
「自分の命をサチナに与え、竜の記憶を譲渡した。あらゆる竜の特性を自分の身体で試した記憶をの」
「結論、どーなる?」
「肉体が成長したのは、竜の力を扱える強度に至ったから。ほら見るじゃの、木星竜の樹核剣を作り出してダンヴィンゲンをぶん殴った、じゃの!」
「後であの剣貰いにいこー。ハナもお前を殴りたい」