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第191話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-蟲の胎動⑥」

「前代の人間の皇の子は、時の権能を用いる事で新しき肉体に記憶を移植するという。ならば、この腕などいくらでも振るおう。私にできる暴力で奪い取れる未来があるのなら」



 ダンヴィンゲンに根付いた無色の悪意が求めるもの、それは、シンプルにして究極の願い『愛欲』。

 愛する者と寄り添いたい。永遠の時を歩みたい。

 その実現に必要なのは、リリンサという実例と、より上質な時と命の権能を持つサチナの身体。



「!来るですよ、ホロビ――ッ!!」



 ダンヴィンゲンの記憶を探り、思い浮かべているイメージを習得。

 強者が持つ技の熟練度や戦闘感とは、「どれだけイメージと同じ結果を出せるか」だ。

 だからこそサチナは、相手が強者であればあるほど、高い精度の未来予知を得ることが出来る『格上キラー』という性質を持つ。


 炸裂した視界は赤一色。

 砕け裂けた白い毛並みを染め上げてなお、周囲一帯に霧散する血肉。


 サチナを庇ったホロビノの胸の穴から、強者が見えた。

 隆起した筋肉と、蒼白鎧骨格。

 二碗二脚のシルエットはまさしく、数多の戦場を勝ち抜いたの甲冑蟲者。


 纏わりつく血の熱気、背筋を走る寒気。

 そうして次の瞬間に起る未来を、サチナは予見して。



「ぬ!」

「《源竜意識の覚醒(アイデンティー)光輝の四世紀ヴリリアントセンチュリー!》」



希望を戴く天王竜ウィル・ホープ・ウラノス


 種族   白天竜

 年齢   推定5900歳以上

 性別   オス

 称号   惑星竜

 レベル   不明

 危険度  不明


『基礎情報』

 この世界に存在する白天竜は、たった2匹しかいない。

 故に、真の意味で不可思議竜の権能を使いこなせる竜は、この希望を戴く天王竜のみだ。


 絶滅する前の白天竜という種族は、最弱にして最強の竜と謳われていた。

 純血種の白天竜は、他の竜が持つ強大な種族特徴を持っていない、戦闘力の低い存在だ。

 黒土竜の様に鉱物を取り込むことも、炎・森・風ドラゴンのような竜魔法も、ドグマドレイクのような高い肉体性能も無い。


 だが、白天竜はこれらの竜の上に立つことが出来る。

 異種族交配――、他種族の竜との間に授かった次代の混血白天竜は、両親の特徴を持つハイブリット・ドラゴンと化す。

 一代目は無能だった

 二代目はどちらか親の能力の50%しか受け継いでいない、半端者だ。

 だが、三代目となった瞬間、ドラゴンA50% + ドラゴンB25% +白天竜25%となり、二つの能力を持つ独自形態の竜魔法を獲得する。

 それらは白天竜の因子が機能しなくなる3%以下になるまで続き、そして、その途中に純血の白天竜と交配することで、さらなる能力の継承が可能となる。


 そうして作り上げた、あらゆる竜の因子を持つ真の意味の竜王子、それがノワルが知らずに選んだ不可思議竜の正体だ。

 全ての竜種の血を引くからこそ、不可思議竜は全ての竜から生まれ、また、全ての竜を生み出すことが出来る。

 通常の竜の転生は理想の自分に至る力、故に、同じ種族にしか転生できない。

 だが、全ての竜の血を引く不可思議竜と希望を戴く天王竜だけは、あらゆる形態の竜への転生が可能だ。



『戦闘能力』


 希望を戴く天王竜は、備わっている血を呼び起こすことで、他の竜の能力を獲得した姿へ転生することが出来る。

 だが、竜魔法は身体の成長と共に扱いを覚えるもの。

 故に、希望を戴く天王竜が意図的に転生する場合は幼体を選び、『マスタードラゴンになった俺、幼竜に戻って血筋チートで成り上がります!!』を何度も繰り返し、様々な能力を獲得した『自分』を作り上げている。


 その戦闘力は千差万別であり、簡単に語り尽くすことは出来ない。

 唯一つ確かなことは、生命進化論の行き着く先が万能であるのならば、この希望を戴く天王竜こそが『完成系』であることだ。



「防御を捨てた速度重視フォルムか、堅実な一手だな」



 絶命したホロビノは瞬時に解脱転命を発動し、望む姿の自分へ転生した。

 細長い東洋竜のような蒼白の姿。

 エタニティ・風・ドラゴンの因子を主軸に風と光を操る能力を向上させる因子を混ぜ込んだ、ホロビノの最高機動形態だ。



「……ごめんなのです、ホロビノ」

「きゅあん」



 サチナはダンヴィンゲンの思考を読み、次の行動の予測を立てた。

 それは正しく履行され、想像通りの事象となっている。

 だからこそ悔しい、だからこそ怖い。

 空を飛ぶ事が出来ないサチナでは回避や迎撃に一手間が掛かり、そして、その刹那秒を叩き潰すダンヴィンゲンの速度は何よりも耐えがたい、恐怖。

 それは、指一本自由に動かせない様に拘束された状態で、目の前に、拷問官が立つようなものなのだから。



「音速も光速も物理現象の上で発揮されるです。でも、ダンヴィンゲンはそれを破壊する。帝主様やエデンと同じ、いや、それ以上の理を超越した化け物、です」

「きゅあん」


「帝主様たちのそれはグラム、外付けの武器でやる。だから、始点の速度は人間やタヌキの肉体性能準拠。動き出しは、まだ、サチナに分があるです」

「きゅっ!」


「でもっ!!……今のは、ダンヴィンゲンの攻撃は、最初っからMAXスピード、ですっ!!」



 目の前に迫ったダンヴィンゲンの右手を遮るように、ホロビノが尾を差し込んだ。

 様々な感覚器官+驚異的な反射神経速度+空気操作による外部加速、そして、サチナの未来予知。

 それを駆使して得るものは、絶命と引き換えに稼いだ僅かな距離。

 攻撃の反動を利用してワザと吹き飛び、そして、追撃を受けるであろう位置から全速力で脱出することだけ。



「ふむ、力加減が難しい。サチナの身体を得る為には、消し飛ばしては意味がない」

「これで、手加減してやがるのか、です」


「ホープの命の残量は、あと4回といった所だろう。順当に殺し、時と命の権能を確保させてもらうぞ」

「!!」



 ホロビノが速度重視形態を選んだ理由……、苦境に追いやられた理由が自分であるとサチナが気付いた。

 ダンヴィンゲンの記憶に浮かんだ圧倒的な力を持つ白虹色の王竜、互角の戦いを繰り広げる光景。

 それを自分の脳裏に焼き付かせた、サチナが抱く激情は。


 本当のホロビノは、こんな風に、一方的にやられる弱者じゃねーです。

 でも、サチナが居るから。

 サチナが孤立した瞬間、ダンヴィンゲンに奪われて氷鬼の敗北が決定するから、身を犠牲にして逃げの一手をするしかない。


 サチナが弱くなけれな、サチナが強ければ。

 何度も死ぬような目に合わせる事なんて、ねーのにっ、ですっっ!!



「ごふっ……、きゅあ」

「ホロビノ、ごめん、ごめんなのです……」



 更に2回の絶命を繰り返したホロビノの身体は、明らかに小さくなっている。

 時の権能による時間回帰による回復は、生まれ変わった存在に適用できない。

 その姿が傷の無い100%である為だ。



「長期的な生命維持に必要な臓器を捨て、転生効率を上げたようだな?それでも、1回増やすのが限度だろう」

「きゅあら」


「以前に私と戦い命の残量をほぼ使い切り、さらに、木星竜と戦い疲弊している」

「……。」


「無駄死になどしたくはあるまい。サチナを諦めるのならば、お前は放っておこう」



 ダンヴィンゲンの目線では、残り3回分のエネルギーを集約したホロビノの転生は脅威だ。

 タヌキ連合軍と戦い引き分けた時のような、全世界の半分の命を食らい蓄えたエネルギーも、天王竜自身が注いだ命の権能による不死性もない。

 あるのは、木星竜から奪った即死対策のみ。

 数年前の様に、肉体性能が近いホロビノの形態と戦った場合、甚大な傷を負う可能性があるのだ。


 そんな背景がある提案の真意は、『ホロビノの合意の下、サチナを獲得する』というもの。

 ホロビノを出し抜いて時と命の権能を得た所で、ヴィクトリアの所に辿り着けなければ意味が無い。


 この場に居る誰もが理解する思惑、そして、ホロビノの答えは。



「きゅあ」

「!!」



 小さく鳴いて、サチナにのみ意思を伝える。


『平和な日に交わした約束を、今、果たすよ』


 ゆらりとホロビノの姿がボヤケ、純血の白天竜に転生する。

 それは無能の証明、事実上の武装解除。

 だが、強い意思を秘めた瞳を見たダンヴィンゲンは、静かに拳を構えた。



「……来い」

「きゅあ!!」



 残り2回。

 今の姿は最強形態になる為の布石、攻撃後のカウンター狙いか。

 サチナの権能を使い隙を突く、そんな所だろう。


 ダンヴィンゲンの強さは、肉体性能のみではない。

 強者と戦ってきたことによる、圧倒的な戦闘センス。

 戦闘狂であるエデンの一つ下の階級・レベル恒河沙を持つ彼にとって、同じ強者の考えは容易に理解できるのだ。



「きゅ――」

「《世界最強の衝突力(マキシマムインパクト)》」



 竜には転生時に、中心となる核がある。

 通常は心臓、だが、希望を戴く天王竜程の高位竜になれば、外部の空気や別の物質を起点にすることが出来る。

 何処で発生するか分からない命の発露、そこを狙うのは事実上不可能。

 ホープはクソしぶといと言われる由縁は、転生した直後を刈るタヌキの得意戦術リスポーンキルが効かないからである。


 それはダンヴィンゲンも同じことだ。

 だが、この時この場においては関係ない。

 サチナを攻撃に巻き込めない以上、サチナと自分の位置の間で転生するのは明らか。

 そして、ダンヴィンゲンが繰り出した世界最大の衝突力は、一定の範囲を巻き込む全体攻撃だ。


 ここまで条件が揃えば、どの方向から希望を戴く天王竜の攻撃が来るのか想定するのは容易となる。

 そして、世界最強の物理破壊力は、純粋な力勝負で負けることは絶対に無い。



「ホロビノーーッ!?」

「きゅ、あ…… 《源流意識の覚醒(ドラゴアイデンティ)久遠竜威(くおんりゅうい)》」



 サチナを庇うように、ホロビノはダンヴィンゲンの攻撃を真正面から受けた。

 強い肉体を持たない純血の白天竜、だが、2秒もの長い時間が経過しても燃え尽きることが無い。


 ホロビノのこの姿は、表面だけ白天竜に見せかけた防御形態だった。

 ダンヴィンゲンの攻撃を受ける事で、その性能を理解し、理想へ至る――、そんな思惑の上での行動。



「中身は黒土竜、月希光を覆う黒塊竜の物か。だが!!」



 バギリ。と軋んだホロビノの全身に、亀裂が走る。

 命の残数、残り1。

 幼く、使い物にならないサチナは戦略に組み込めなかった。

 だからこそ、賭けに出るしかなかったのだろうが……、終わりだ。



「奪わせて貰うぞ、命を!!」



 肉体が消し飛ばなかったことで、ダンヴィンゲンの拳はホロビノに触れたままだ。

 そして、木星竜の力を奪っているダンヴィンゲンは、触れている者の命の在り方に干渉できる。


 それは、ほんの僅かな時間を稼ぐだけの、微々たるもの。

 されど、0.00001秒以下で十分なのだ。

 最後の命の残量を消し飛ばすだけの時間があれば、ダンヴィンゲンが勝つのだから。



「誕生以来か。完全な命の権能を宿すのは」



 心臓を貫き絶命させたホロビノの亡骸を見つめ、呟く。

 呼吸も、鼓動も、命も、そこにはない。

 サチナが設定した久遠竜鬼の効果が適用されたクリスタルの遺骸、それは紛れもない――、死。



「――返せ、です」



 空に投げ出されたサチナが、口開く。

 ギリリと噛みしめた口から伸びる、鋭い竜歯。

 尖った爪、そして、生え出る角と翼が、戦いのステージを押し上げる。


『ホロビノ、転生の仕方を教えて欲しいのです!』


 それは何かの準備ではない、ただの好奇心。

 竜の血を引くと母から聞いたから、試してみたいと思っただけ。

 そして、その時にはぐらかした約束を、ホロビノは果たしたのだ。



「託したのか。希望を!!」



 虹色に輝く体毛、睨みつける竜の瞳孔を持つ眼差し。

 竜の権能は望む姿へと至る力だ。

 だからこそ、サチナは完成した肉体である18歳前後に成長し、時と竜の権能を100%引き出せる姿となった。

 幼さが抜け、可愛らしさのみが残った美貌、ただし、そこにある感情は――。



「片手では不足だと判断した。さらばだ、ホープよ」



 ホロビノの亡骸を捨て、ダンヴィンゲンは姿勢を正す。

 目の前に居るのは、自分と同格。

 久しく出会っていない、敵。



「ぶっ殺してやる、ですっっ!!」

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