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第187話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-蟲の胎動②」

「きゅあ……」

「……何があったか話せ。チッ、泣きべそ搔きやがって」



 神敗途絶・エクスカリバーを横薙ぎに振るいながら、う”ぃー太が肩をすくめる。

 金髪の美青年に人化している――、万が一の敗北に備えた戦闘形態を取っているのは、蟲の軍勢の処理中だからだ。


 ルクシィアが持つ神域浸食・ルインズワイズの予兆結界により、この場の三タヌキが極上の餌に見える認識改変が散布されている。

 現在は蟲の大量発生を駆逐しつつも、玉蟲王・カイダンキンが罠に掛かるのを待っているという余裕ある状況。

 そもそも、天王竜の話は手を止めてでも聞く価値がある。

 根本的な認識のズレ、それは知識者タヌキにとって致命傷でしかないと、う”ぃー太は知っている。



「――きゅあん、きゅありお」

「チッ、そういうことかよ」

「不味ったなぁ。蟲量大数様と同じになりたいとか、仰天な業を背負ってからに」

「問題はそこじゃない。実質的に、滅亡の大罪期が終わらなくなってる。このままじゃ、ルクシィアのご飯が残らない。とても大変、死ぬしかない」



 天王竜が話した滅亡の大罪期の正体、それは、無限に続く蟲の進化だ。


 蟲量大数はこの世界で唯一、変質していない神の力を持つ存在だ。

 望む力を一つ授けると言われた蟲量大数は、神奪の権能を生み出し、唯一神から『力』を奪い取った。

 それは全能――、この世界で観測したあらゆる力の最大値を発揮できるという、実質的な無限という意味を持つ。


 だからこそ、『この世界』の原生生物では、絶対に蟲量大数に追いつけない。

 仮に、現在の蟲量大数を超える力を獲得しようとも、その時点で、蟲量大数もそれを得ている。

 そして、同じ力を持つ者同士の戦いならば、総合パラメーターが高い方が絶対に勝つ。



「そう意味じゃ、那由他様は天敵な訳だが……、逆に言えば、蟲量大数様から離れる訳にはいかねぇ。こっちは俺らでやるしかない訳だ」

「どうやるんや?」


「一つ仮説を立てた。エルクレス、お前、那由他様に喧嘩を売ろうと思うか?」

「馬鹿いえ、死んでしまうわ」


「じゃあ、エデン」

「殴りたいとは思うとる」


「それだよそれ、圧倒的過ぎる格上を目指す、そんなもん、知識者タヌキにすら出来やしねぇ。なら、蟲だって同じだろ」

「そういや変な話やな。蟲量大数はずっと昔からおるが、滅亡の大罪期は突発的に起こるもんや。頂点を目指すのが目的なら、常に起ってないとおかしいもんな」



 滅亡の大罪期のせいで、王蟲兵が発生したのではない。

 王蟲兵が発生したからこそ、配下の軍勢が出来上がったのだとしたら?


『王蟲兵が発生したのか、へぇ、面白い!』

 それは、他ならぬ唯一神の言葉。

 その呼称は今まで、蟲量大数を除く最強の一体を指す言葉だと思っていた。

 だが、王蟲+兵という意味だったとしたら……、これが何度目の神の説明不足による世界滅亡かと考えたう”ぃー太達は、心を一つにしてイラっとした。



「理屈はシンプルだぜ。蟲共が目指す目標を全滅させればいい

「手頃な目標が生まれたせいで、蟲の進化が始まった。だが、目標自身も進化しおる。結果、食物連鎖ヒエラルキーのような三角構図が出来上がった訳やな?」


「あぁ、蟲っつっても進化のスピードは様々だ。だからこそ、最初はそれなりに実力がある強固体のみが滅亡の大罪期に参加する。統率蟲共だ」



 滅亡の大罪期では、王蟲兵が蟲の軍勢を率いて大陸を蹂躙するのではない。

 統率蟲と呼ばれるボス個体が蟲の軍勢を管理し、その個体を潰すと規律が乱れ、別の軍勢に吸収される。

 その理由までは解明されていなかったが、自分よりも進化した個体を近くで観察していると考えれば、納得がいく。



「滅亡の大罪期が長く続くと、ただの虫が進化をし始める。結果、今まで反応しなかった虫までもが進化を目指し、統率蟲となり、統率蟲は……って具合に、中間目標が大量に出来ちまう」

「統率蟲程度の蟲は平時にも居る。それ以上を全滅させるのは無理」

「一体何匹おんねんって話だわな。さっきの惑星竜を食いやがった集団は高確率で基準を超えてるはずやで」



 会話を続けながら切り捨てた蟲の中にも、該当しそうな個体は何匹もいる。

 その判断基準は、人語を理解しているか。

 王蟲兵が漏れなく二足歩行の人型になるのは、蟲量大数がひとを模した姿と知能を持っているからだ。



「たぶんだが、クラス分けされてるぜ」

「クラスってなんや?」


「俺らタヌキみてぇに、真帝王、帝王、将軍、したっぱって感じにだよ。大まかに、蟲量大数、王蟲兵、正蟲兵、副蟲兵、統率蟲、働き蟲って感じだと見た」

「目標にするのは一個上か?」


「いや、二個上だ。だから、統率蟲から一個進化しただけじゃ蟲量大数は目標にはならず、統率蟲も一個上の副蟲兵は目標にしない」

「なるほどな、自発的な進化を二段階せえへんと滅亡の大罪期にはならん訳や、納得やで」



 統率蟲は必ず、群れの中心にいる。

 それは、タヌキが何度も検証し確認した揺るがぬ事実だ。


 だが、統率蟲が2匹以上群れに居る場合がある。

 その時は太陽とその他の惑星の様に、小さい群れが大きな群れを中心として回るような構図となる。



「正蟲兵・副蟲兵を全部ぶっ殺せば、ひとまず、統率蟲以下の進化は止まる。ここまでなら数が少ないから、何とかなりそうだがよ……」

「統率蟲を全滅は無理や。群れを率いないハズレ個体なんちゅうのもおる。そいつらが一個進化しただけで、またスタートや」


「結局、王蟲兵をぶっ殺すしかない訳だが、奴らの強さは尋常じゃねぇ。能力を奪い合ってのし上がった連中、しかも、失敗すれば強化されちまう。竜を食って飛行能力を手に入れたみてぇにな」



 ほんの僅かな希望としては、副蟲兵以上は必ず群れを率いている――、目立つという点だ。

 ゴモラの索敵能力があれば探し出すこと自体は可能、正蟲兵までなら勝つことも容易だろう。


 だが、王蟲兵は蟲量大数が持つ力の中から一つを選び、獲得している。

 それは神奪の権能の下位互換。

 一つのパラメーターにのみ適用される、『世界最強の力(マキシマム)』。



「チッ、そもそも、王蟲兵に辿り着く前に、周囲をウロチョロしてる正蟲兵・副蟲兵をぶっ潰す必要がある。クソだぜ」

「一匹で下位のタヌキ帝王並のもいる。戦力の一点集中が最も安全」


「エデンやトウゲンキョウ、バビロンも呼んで、全軍で一匹ずつぶち殺すしかねぇ。ルクシィア、タヌキ将軍以上を片っ端から集めろ」

「馬鹿じゃないの?負けたら敵が強化されるのに選別しないのは馬鹿の極み。そして、エデンがポカミスで食われでもしたら洒落にならない」


「少数精鋭で突撃だ?その間に正蟲兵と副蟲兵が増えたら積みだろうが!!」

「じゃあ何?負けそうになった仲間を食われる前に殺すってこと?」


「そうじゃねぇ、だが……、」



 正蟲兵と副蟲兵を王蟲兵に進化させちまえば、一時的に事態は収まる。

 その為に必要な犠牲――、あぁ、だからこそ神は王蟲兵をヴィクティム(ぎせい)()ソルジャー(ぐんぜい)なんて呼びやがるのか。クソだぜ。


 王蟲兵を安全に倒すには、タヌキ帝王の力を集中させるしかない。

 だが、中堅の蟲の放置は生態系の崩壊につながる、そういった意味では、王蟲兵を後回しにする方が効率はいい。

 そして、その間に、王蟲兵は進化し、タヌキ帝王では手の届かない存在と化してしまうだろう。


 現時点では、まだ、解決の理論は残っている。

 だがそれは机上の空論、実現しえない知識に価値などありはしない。



「……きゅあ、らん」



 その希望ホープが、口を開くまでは。


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