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第186話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-蟲の胎動①」


「不可思議なこともあるまいよ。他者に寄生する植物など、それこそ、有り触れているのだから」



 希望を戴く天王竜は理解している。

 目の前の光景が、希望を冠する自分でさえ絶望する、最悪の想定シナリオであると。



「ホロビノ、何が起こったか分かるか……、です」



 例え、魂が1000載個あろうとも、限りはある。

 霧に接触した物質の時間を進ませることで、そこに存在する命を全て同時に死へと進ませる……、そんなサチナの多次元即死攻撃は、神愛聖剣・黒煌くろめきと同じ原理のドラゴンキラーと呼ぶべき代物だ。


 成長し、力を付けた竜は命の残機を蓄え、この世界で最もしぶとい生物となる。

 だがそれは、『=死ににくい』 ではない。

 望む姿に転生する竜は、死ぬことによって本領を発揮する種族であり、命の残機をたった一回で全て消費させる神楽舞いの前に成すすべなく朽ち果てる……、そうなると、サチナとホロビノは思っていた。



「戦闘前に見た時よりも、ずっとずっと、やべー奴、です」

「きゅあ……」



 短く鳴いたホロビノは、事の顛末を理解している。

 だからこそ、脳裏に情景を映し出すことで、サチナに情報を与えることが出来た。


 それは、木星竜がいかにして鎧王蟲・ダンヴィンゲンになったのか……、ではない。

 この世界に生まれた、いや、生み出してしまった、最低最悪最大の化物。

 鎧王蟲・ダンヴィンゲンが何故、生まれたのか。


 3体の王蟲兵が誕生し、戦い、奪い合う――、神が関与していない唯一の終生。

 それを終わらせた者こそ、この、他ならぬ希望を戴く天王竜なのだから。



 **********



「ルクシィア、エルクレス。那由他様は蟲量大数の関与やらかしを疑ってる。で、そっちの対応をするってよ」

「馬鹿兄が自爆特攻覚悟でコロニーを2個ぶっ潰してくれば良し。あとはエルがやって」

「流石に荷が重いんちゃう。ワイらチームで1個、トウゲンキョウチームで1個、あとはオカンがやるやろ」



 巨万の蟲が襲来し生態系を破壊しつくす、甚大なる大災害『滅亡の大罪期』。

 それを過去に2度食い止めたタヌキ達は、目の前の手に余る状況に苦言を呈している。


 何かやべー強さの蟲が生まれたから、ぶっ殺しておこうぜ!


 そんなう”ぃー太(ソドム)の思い付きによって、過去の滅亡の大罪期は収束し、実質的に世界を二度も救った功績を得たリンサベル家は世界の頂点に立つことになった。

 帝王枢機がまだ存在しない時代の彼らの主武装は、神殺し。

 神敗途絶・エクスカリバー、神域浸食・ルインズワイズ、神縛不動・ヴァジュラの性能を知り尽くす彼らは苦戦しつつも、その手で勝利を掴んで来たのだ。



「あいつ……、玉蟲王・カイダンキンっつったか?最悪だぜ、地下で繁殖してやがったとはな」

「せやな、閉鎖的な空間で食物連鎖を繰り返しとったから、数的にはそこまででもないが」

「それも過去の話。生存本能のせいで飛行能力を手に入れやがったカメムシと、水棲能力を手に入れやがったゲンゴロウのせいで、陸海空の全部で滅亡の大罪期が発生してる」



 この時点のタヌキ達は、滅亡の大罪期が起こったせいで強力な個体が発生したという、現在とは真逆の認識を持っていた。

 だからこそ、一番強い個体を潰すより数を減らす方が有効と考え、掃討戦から始めるのが定石となっている。


 そして、現代の認識である『真っ先に王蟲兵トップを潰せ』という認識を持つに至った事件こそ、この、滅亡の大罪期『怒火に沈む四界(サタン・ロアー)』。

 王蟲兵が何を目指し、何を行うのか、それを知らなかったが故の大失態だ。



「どっちみち、俺らだけじゃ火力が足りねー。だから竜に援軍を頼んどいたぜ!」

「馬鹿兄にしては根回しよすぎ?何を企んでる?」


「ちっとヤな予感がすんだよな。まぁ、カイダンキンが統率できてるにせよ、コントロールを失ってるにせよ、ぶっ殺ししまえば話は速ぇ。発生源は俺らでやるぞ」



 ソドムの真理究明が導き出した、推論。

 それは、第三大陸において昆虫以外の生物が絶滅するという甚大なる被害が、通過点である可能性だった。

 玉蟲王・カイダンキン

 飛蟲王・ヴィントウクワ

 舷蟲王・センゲンケラ


 3匹の頂点は地、空、海にコロニーを形成し、それぞれの力を誇示するかのように兵力を増やしていった。

 やがてそれらの縄張りは重なり合い、昆虫同士で食らい合う蟲毒状態へと至る。

 勝手に減るとか楽でいいと軽口をこぼすルクシィアを横目に、う”ぃー太だけは蟲毒の先について考え始めていた。



 *



「このままじゃ不味かろう。ここで食い止めねば世界は終わるぞ」



 名を馳せた王竜の一匹が言った。

 滅亡の大罪期の真意が自分たち竜の権能と同じ、望む姿への進化であることを見抜いて。



「蟲量大数は不可思議竜様を食らい、命の権能を所持していた過去がある。その影響か?」

「であろうよ。だが、神やタヌキが何かをした可能性も捨てるべきでないと思うぞ」

「タヌキからは連合軍の申し入れがあったようだが……、天王竜ホープよ。お前はどう見る?」



 希望を戴く天王竜(ウィルホープウラヌス)と名付けられたその小竜は、ちょっかいを掛けてくるクソタヌキの伝言をそのまま上位者へ伝えた。

 それは直ぐに共有され、惑星竜会合へと発展。

 そして天王竜は自分の見識に照らして考察し、世界最強の個体・蟲量大数に引っ張られた生態系の異常繁殖であることを話した。



「最終的には、蟲量大数様に匹敵する個体が生まれれば止まると?」

「きゅあ」


「奴らの蟲の根底にある権能は『簒奪』、そして、奪う価値のある才能は、進化すればするほど少なくなっていく。故に分母を増やし確率を上げる訳だ」

「きゅあらららん!」


「あぁ、タヌキに躍らせられるのは業腹だが、我らは舷蟲王・センゲンケラを討つぞ」



 フナムシ、ゲンゴロウ、オケラ類昆虫の進化の果てであるセンゲンケラのコロニーは海中に形成された、陸上生物不可侵の絶対要塞と化している。

 器用に泳ぐタヌキといえど、1時間以上の潜水はキツイ。

 必死こいて頑張れば出来なくもないが、ぶっちゃけやりたくねぇ。毛皮ゴワゴワになるし。

 そんなう”ぃー太の素晴らしいアイデアによって、センゲンケラの処理は竜に委託されたのだ。



 *



「馬鹿な、エラ呼吸に適応進化し海竜となった我らが、蟲ごとにきに……!!」

「そう、馬鹿なのだろう。朕たちが泳ぐことで生じる波は、意志ある水流と化している。巨大さで負けた竜など、優れた餌場にしか見えぬわ」



 鮮血に染まった海に、無数の赤潮が食らいつく。

 視認できないほど小さく進化した微細昆虫は、接触した生物を侵食する有毒群生体と化している。

 センゲンケラはそれを押し固めて作った槍を竜に向けて振るう事、数度。

 鱗の下の筋肉をボロボロにされた惑星竜たちは、一匹残らず、海の藻屑と化した。



「きゅあ……!」



 幼いが故に伝令役に抜擢されていた、天王竜を残して。



 *



「うわっ!!竜共の野郎、しくじった、ちょう最悪!!」



 地上コロニーの主・カイダンキンの攻略に乗り出したタヌキ達は、天・海から押し寄せる軍勢を睨みつけた。

 数時間前、突如盛り上がった海が弾け、大量の飛沫が空へ飛散。

 入道雲めいた霧に嫌な予感がしたう”ぃー太の指示によりルクシィアの分身が潜入、そこで見たのは竜を食らった事で竜蝨りゅうしつとなったセンゲンケラだ。



「なんだと!?」

「やばい。竜を食って飛行能力を獲得したっぽい。外大陸へ向かって飛び立ってる!!」


「食い止めろ、ルクシィア!」

「無理、一瞬で殺された!!」



 この世界は三重の円のような構造だ。

 内大陸、外大陸、周回諸島、海の四つで構成されており、大陸ではそれぞれ、人間、動物、昆虫の生活圏が広がっている。


 現在の主戦場である周回諸島の殆どは、蟲によって食い尽くされた昆虫魔境だ。

 う”ぃー太達が戦っているのも、内大陸への浸食を防ぐ為。

 そして、そのタイムリミットが尽きたその時、天王竜がソドムの前に降り立った。

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