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第184話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-滅びの輪廻竜⑥」

申し訳ございません!!

次回の更新は 5/17(土曜)になります!!

「きゅあ!」

「んっ、美味しい、ですっっ!!」



 サチナとホロビノの口に含まれた、死者すら癒す果実・エルダーベリー。

 一粒のブドウのようなそれは、食糧庫にあった全ての食品のエネルギーを凝縮させた完全栄養食だ。



「次から次へと、ジュースが溢れてくる、ですっ!!」

「きゃあ~~」


「凄いのです、ホロビノ!!温泉郷の特産になるっ、ですっっ!!」



 このエルダーベリーは、絶対に特産物に出来ない代物だ。

 命の権能によって生み出されたその果実は、ある意味で、違法薬物と同じカテゴリー。

 常人が摂取すれば栄養過多により臓器に多大な負担が掛かる劇物そのものであり、戦闘中で命の権能を活性化させているサチナとホロビノであるからこそ、栄養補給程度に済んでいる。



「力が漲ってくる、です。これなら、一気に勝負を付けられそう、ですっ!!」



 初めての全力戦闘による高揚 + 酩酊弾を受けた後遺症 + 栄養過多によるハイテンション。

 もはや、タヌキよりも交戦的になっているサチナは、普段は自制している手加減リミッターを全解除。

 ざわざわと波打つ尾をゆらりとブレさせ、8つの陽炎を腰に灯す。



「《御神楽幸七みかぐらさちな神座奉遷かむくらほうせん》!!」



神座奉遷かむくらほうせん』とは、唯一神が思わず座り込んで見物してしまう程の、目新しい事象を指す言葉だ。

 これより行われるのは、新しいサチナによる、未知なる演舞。

 白銀比を経て受け継がれた始原の皇種・金枝玉葉の時の権能。

 天王竜と木星竜から学び得た始原の皇種・不可思議竜の命の権能。

 それらを全開で解き放つサチナの一手、それは、世界の記憶を利用した光速空間転移。



「どこまでも才能便りの一辺倒。あぁ、白ける光景だ」



 木星竜の顔面に叩き込まれたサチナの蹴り、それは、彼女が日常的に使う空間転移によって行われた暴挙だった。


 虚無魔法に属する空間転移は、転移先の位置情報を正確に認識する必要がある。

 故に、基本的には目視できる範囲で使う短距離転移が主流であり、それ以外の場合は、完全に密閉されて環境の変化が起こらない個室型の魔道具の中に限定されるか、正確な情報を習得できる手段を持っている等の厳しい制約が課せられる。


 だが、時の権能を持つサチナはローレライ同様、リアルタイムで離れた位置の情報を習得できる。

 木星竜を取り囲む、数万にも及ぶ魔法陣の羅列。

 そこに混ぜられているのは、命の権能によるフェイク。

 今まさにそこから飛び出そうとしているかのような威圧感、そして、目を向ければ確かにそこには、サチナが立っている。



「神楽か。どこぞの村もやっていたな、酒や料理を浴び食う児戯。どれ、一つ乗ってやろう」



 漂い始めた甘い香り、それは、木星竜の体表から沸き立つ花と果実の蜜を発酵させた酒の匂い。

 命の権能によって熟れる果実と微生物を活性化させて作り出されるそれは、超高濃度の最高級蒸留酒・『焼竜白酒しょうろんぱいちゅう』。

 アルコール度数96%を誇る、文字通りの意味で火が付く酒。

 もはや、原液で飲むなど唯一神にすらできない世界一濃い酒がバラまかれているのは、超乾燥空間。



「酒に溺れ、呑めや狂えや」



 完全毒耐性を持つ高位生物にも効く状態異常、酩酊。

 だが、酒に沈められた古竜が討伐される――、そんなありふれた逸話は現実とはかけ離れている。


 酩酊状態は、血中のアルコール濃度によって判断され、おおよそ、0.4%以上で死に至るとされている。

 故に、身体の大きさ=アルコールへの耐性であり、小さき身体しか持たないサチナやホロビノは圧倒的に不利。

 そして、超乾燥空間に身を置いている現在は、肌から吸収する水分の100%が焼竜白酒へと置き換えられている。



「きゅあらぁああ~~ん?」



 命の権能による中和を促進してなお、泥酔状態が残った。

 このままいけば権能の行使が追い付かず、意識途絶が起こるのも時間の問題だ。



「同じ手に二度も引っかかるほど、サチナは馬鹿じゃねーですっ!!」



 現在のサチナが世界一嫌いな物、それは酒。

 身体能力が圧倒的に劣るテトラフィーアに付け込まれてしまう程の劇薬、それを身に染みる程に警戒していたサチナは万全の対策を講じている。



「《湯立神楽ゆたてかぐら笹七舞ささなまい》!!」



 数万にも及ぶ魔法陣の上に立っているサチナ達が一斉に、揺らぎ立つ湯煙の中で舞い踊る。

 魔法陣を通して送られてくる温泉郷の湯畑の蒸気を使った演舞は、身や場を清め、邪気を払う伝統的な神事あそび


 一気に湿度で満たされた空に入道雲が満ち、暴風荒れ狂う雷鳴が轟く。

 煌びやかで幻想的な神楽囃子かぐらばやしを背景に、サチナが権能で作った笹の葉が踊り奉る。



「……《無錫焼龍包しょうろんぱお》」



 その光景を細めた目で眺め、木星竜が喉を鳴らした。

 極めて発火しやすい焼竜白酒が染みこんだ超乾燥空間に向かい、竜炎を放つ。

 そして、燃え盛る世界に突き刺すは、両腕に持った巨大なまき

 理想的な燃焼を維持する枝、それは、無限に延焼し続ける大災害に他ならない。


 人知では食い止める事が叶わない、自然の暴威。

 それに対抗できるのは、氷雷雨を呼び起こすサチナの神楽舞いだけだ。

申し訳ございません!!

次回の更新は 5/17(土曜)になります!!

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