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第8話「夜中の検査室」

「おじゃましまーす……」



 俺はミナちーさんが寝ているという部屋に入った。

 中は薄暗く、暖色系の明かりがぼんやりとついている方向を目指し俺は歩いて行く。


 途中、立ち入り禁止の看板を再度見た気がするが、気にしない。

 冒険には危険はつきもの。

 警告の看板なんていちいち気にしていられないのだ。


 ……そんな風に思っていた時期が俺にも有りました。



「すぅ……。すぅ……。」



 ……。

 いやさ、ほら、寝ているって聞いていた訳だし、ある程度は想像していたけどね。

 小悪魔風なミナちーさんといえば、割と健康そうで活発な、ぶっちゃけて言えば毒舌な、お姉さん気質っぽい美人さんなわけだよ。

 それがまぁ、無防備で寝ている訳だから、ちょっと背徳的だなーとは思っていたさ。


 ……でもまさか、ホットパンツ一枚で、胸当てすらしていないとは思わないだろ。普通。



「すぅ……。すぅ……。」



 いやいや!待て待て!落ち着け、俺!

 これじゃまるで寝込みを襲いに来た変態みたいじゃないかッ!!


 だが、幸いにして敵は未だこちらに気が付いていない。休眠状態だ。

 しかも、胸の上には腕があって大事な部分は見えていない。

 ギリギリセーフ!そう、これは断じてギリギリセーフなのだッ!!


 だから、ここは一時撤退し、リリンに救援を……。

 しようものなら、トンデモナイ事が起こりそうな気がするな。


 特に確証はない。ないんだが、一緒に旅をする俺が女性の裸を見てたじろいでいるなんて知ったらどう思うだろうか。



「……そんなに興味があるのなら、どうぞ上の階で添い寝でもしてくると良い《我が終の魔陣にて―――》」

「ダメよリリン!貴重なサンプルなんだから!ここは普通に、絞めよう?」



 …………ぐえ。

 だめだ。ロクな事になる気がしない!


 前進すれば、変態扱い間違いなし。

 後退すれば、死体検体間違いなし。

 上手く回避しなければ破滅の運命が待ち構えている。


 くっ!流石は心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の根城だ。

 狡猾な罠が仕掛けられていやがるぜ!



「すぅ……。すぅ……。」



 はぁ、冗談めいた事を考えていてもしょうがないか。


 要はこの状況になる事を回避すればいい訳だ。

 つまり、俺がここに入ってミナちーさんの姿を見る前に、自発的に起きてくれればいいのだ。


 幸いにして入口には目隠しのつい立があった。

 一度そこまで後退し、その後ろから声をかけよう。

 そうすればミナちーさんも目が覚めて何かしらのリアクションをするはず。

 普通に考えれば入ってこないように指示するだろう。


 うん。そうしよう。

 よし、方向性は決まったし、後は実行に移すだけだ。

 だがまぁ、少しだけ名残惜しいので、もうちょっと、ほんの一瞬だけ見―――



「……。」

「……。あ。」


「……なんで居るんですか?」

「ははは、これは事故なんだ」


「そんな意見で納得するとでも?」

「思ってないです……すみませんでした」


「あはは、去勢してあげましょうか?」

「本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!!」



 うわぁぁぁ!!

 これは色んな意味でヤバい!

 親父!息子の息子が危険に晒されているよ!助けてくれ!!


 心の中で助けを求めてみたものの、英雄の親父は現れてくれなかった。

 まぁ、この状況で現れたらもっと状況がカオスになるので現れてくれなくて良かったとも思う。


 なにせ親父は、全世界全裸公開だからな。親子で変態確定である。



「……はぁ、まったく。変わっていませんね」

「え?」


「いや、「え?」じゃなくて。とりあえず出てって欲しいんですけど?ワザとやってるの?」

「すみませんでしたぁぁぁ!!」



 **********



「カミナ。あっちが騒がしいんだけど」

「……あっ!」


「どうしたの?」

「あ、えへへへ。なんでもないの。ただ、ごめん。ミナちー」



 **********



「健康診断に来たんでしょう?カミナ先生から伺っていますよ」

「……あぁ。そうなんだけど、本当に悪かったと思ってる」


「まぁ、以前からカミナ先生にも注意されていた訳ですし、私にも非がありますので。お互い、そんな事実はなかったって事にしましょう」

「そうしてくれるとありがたいな……」



 こうして俺は無事に生還を果たした。

 今、俺はつい立ての裏側まで後退し、ミナちーさんが着替え終わるのを待っている。


 一時はどうなるかと思ったが、小悪魔なミナちーさんは特に取り乱すこともなく平然としていた。

 ……その態度に助けられた俺が言うのもなんだが、それでいいのか?と心配になってしまう。


 もしかして、彼女もまた、心無き魔人に近づいているのかもしれない。



「で、ユニクルフィンさん、でしたっけ。人間ドックは受けた事ありますか?」

「いや、無いな。俺は村暮らしだったからさ、こういう大きな病院に来るのも初めてだよ」


「初めて……?」


 つい立ての向こうから看護服を着たミナちーさんが現れ、ほんの少しだけ困惑しているような表情を見せている。

 そう言えばさっき「変わっていない」って言っていたような気がするな。


 ……一体、何の事だ?



「あの、さっき――」

「初診と言う事ですか。本来ならば十分な説明をしたのち検査に入るのですが、カミナ先生からは「2時間くらいでパッパとやっちゃって!」と指示が出ています。なので割愛しますね」


「え?説明なしッ!?それはちょっと……」

「さぁ、いきますよ。ほら、ほら。健康なのに鈍いですね」



 くっ!!

 ミナちーさん、実は怒ってるんじゃねぇの!?

 悪魔の検査から回避したと思ったのに、どんどん状況が悪くなっていく気がするんだが。


 ここはこれ以上怒らせないように指示に従うしかない。

 俺は促されるまま小部屋を出て、そのまま昇降機へ向かわされた。


 どうやら検査は別の階層でやるらしい。

 ミナちーさんも昇降機に乗り、階層のボタンを何度か押した。

 すると、表示盤にトンデモナイ言葉が表示されてしまったのだ。



「あの、『カミナ実験室』ってどういうことですか?」

「これから向かうのは、カミナ先生専用の実験室です。そこのデータ収集用の検査器具を使用して、非公式の人間ドックを行います」


「え、今、非公式とか言わなかった!?」

「えぇ。なにせ普通の人間ドックは2日から3日かかります。ですが、カミナ実験室ならば待ち時間ゼロでいろんな検査をする事が出来ます。料金も発生しませんし、完全に非公式ですね」



 えッ!?非公式とか嫌なんですけど!!

 どうせならちゃんとした奴、受けたいんですけど!!!!


 つーか、これじゃまったく信用できないじゃねぇか!

 第一、検査って何するんだよ?ホントに検査なんだろうな?



「なぁ、ちょっと聞いていいか。色々な検査って何をするんだ?」

「先ほど私は言いましたよ。時間がないので説明は割愛すると」


「……。」



 ……まさかの説明拒否、だとッ!?

 返す言葉もなく絶句していると、キンコーン!といい音を鳴らし扉が開いた。

 あえて言うなら、地獄の門が開いたという訳だな。


 そして、俺の目に飛び込んできたのは、どうみても普通の病院の廊下。

 やけに扉の数が多い気がするが、あちこちから人の気配がする。


 すくなくとも、小悪魔なミナちーさんと二人きりという事にはならなそうだ。



「あ、検査はミナちーさん一人でするんじゃないんですね」

「あたりまえですよ。私にだって操作できない機械も有りますし、なにより収拾した検体を調べる人だって必要です。全部一人で出来るカミナ先生とは違いますよ」



 どうやら、カミナさんは一人で全部やるらしい。

 ……つまりカミナさんが俺の検査をしたならば全部一人で行う、裏を返せば、やりたい放題だったってわけだ。


 そんな事にならなくて本当に良かったと思う。



「さぁ、最初は採血からです。目標は2時間なのでテキパキ行きますよ」

「あぁ、宜しくお願いします」



 あぁ。ついに始まってしまうのか。心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)監修のスペシャルな人体実……人間ドックが。

 俺は、村に出てから幾度となく味わってきた焦燥感に身をよじりながら、一番手前の採血室の扉をくぐった。




 **********



「もう行った?」

「行ったわね。今は地下5階の実験室にいるわ」


「うん。じゃ、私達も内緒話しを始めよう」

「そうね。一応扉にロックかけとくわ。《セキュリティ・オン》」



 ユニクルフィンと看護師ミナチルが部屋を後にした後、残されたのは二人の怪しげな女性。

 無尽灰塵リンサベルと再生輪廻カミナ・ガンデ。


 二人は机で向かい合ったままお互いの顔を見て微笑み合い、これから彼、ユニクルフィンには聞かせられない本当の悪魔会談、通称『魔女子会デヴィル・サバト』が始まろうとしていた。



「それじゃ、ゆっくり聞かせてもらおうかな。彼、ユニクルフィンの事をね」

「うん。私も語りたい!彼と出会ってから一ヵ月、本当に色々な事があったから」



 無邪気に微笑むリリンサと、それを愛しむような微笑みで返すカミナ。

 そこには対等でかつ、仲間以外の誰にも割って入れないような強い信頼関係がある事が容易に見て取れた。



「そうねぇ……彼を見つけたと連絡を受けた時には本当に驚いたわ。どこで見つけたのかな?」

「見つけたのは偶然。そう、どうでもいい任務で近づいた村にユニクはいた―――」



 二人は語り出す。

 カミナが質問し、それに丁寧にリリンサが答えた。

 ユニクルフィンとの出会いを、感動を、誰に言う事もなくただ日記に書いていただけの彼女の感情は止まる事はない。


 いつもはどちらかと言えば言葉数の少ないリリンも、心を置けるカミナの前では語る言葉も自然と多くなる。

 ましてや、自分の好きな人との出会いともなれば、話しがひと段落した時に「一生分のお喋りをしたかもしれない」とリリン自身が思うほどだった。



「ふふ。本当に嬉しかったのね」

「嬉しいに決まっている。だってユニクは私の”旦那さま”になる人だから」


「あら?恋人じゃなくて”旦那さま”なのね。昔は恋人って言ってたのに。これは、もしかしてー!?」

「そのとおり。私達はもう、ただならぬ関係!」


「……えっ!?本当に!?!嘘でしょ!??」

「さぁ、驚くと良い。カミナが思っている以上に事態は進んでいるのだから!」



 ユニクルフィンとの出会い話は終わり、本題へと進みつつあった。

 リリンサの目的を達成するための相談の時間。

 そこに突入する前に事前情報の交換が行われようとしているのだ。


 そして、カミナは狼狽していた。

 目の前のリリンサは自分よりも3歳ほど歳下の女の子。

 その顔立ちは年相応よりも幼く見え、また言動も大人ぶってはいるものの、未だ子供の思考が抜けきっていないと思っている。


 しかし、リリンサは事態は進んでいると宣言をした。

 彼、ユニクルフィンと出会ってからたったの一ヵ月とちょっと。

 片思いの時間がずいぶんあったとはいえ、男女間の関係が発展するにはもう少しかかるだろうなとカミナは値踏みをしていたのだ。


 そして、カミナは知らない。

 今から話されるのは、殆どがリリンサの主観であり、とてもじゃないが、客観的な目線ではないという事を。



 ついに、本当の会談が始まろうとしている。

 そしてこの会談は、だんだんと息詰まりつつあったリリンサの”作戦”に大きな転機を与えるものとなる。



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