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第181話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-滅びの輪廻竜③」

「《解脱転命げだつてんみょう画竜点睛がりょうてんせい》」



 巨大な木製卵に亀裂が走り、球の頂点から光が吹き上がる。

 それは、種子の発芽に似た美しい光景。


 竜が持つ命の権能は、望む姿へ転生する力だ。

 それは究極の自分本位、己の見識を元に作り出した理想の姿へ至る力。

 だからこそ、そこから生まれいずる命の強さは、見識と経験(レベル)に比例する。


 ダルダロシア大冥林という名の生態系を背に宿し続けた木星竜は、命の営みを知り尽くしている。

 生まれ、育ち、力を付け、如何にして皇になったか。

 数千数万の同族の頂点に立った勝者と、影に消えた敗者、その違いは何なのか。


 断片的な情報しか持っていないタヌキでは比べ物にならない、生命活動の一連の流れ。

 強き者へ至る為に必要な要素、それを完全に理解し――、今ここに、生誕す。



「それが木星竜兄さまの本気の姿……、めちゃくちゃ、カッケーです」



 卵からの変化は一瞬、眩い光の奔流が収まった時には既に、その竜騎士は君臨していた。

 全長500m、直立しているシルエットなのは、唯一神を模したから。

 エンシェント・森・ドラゴンのシンボルたる土碗翼を八分割し、複雑に絡み合う樹木の様に、鋭く強靭な姿へ。

 そして、あらゆる生命種にとって天敵である人間、その中でも、最も危険性の高い剣士を模した全身鎧を身に纏い、身の丈以上の大剣を両腕に装備したその姿は、かつて英雄と呼ばれた者共の記憶。



「敵の姿を見て賛辞とは、教育方針を間違えたのではないか?ホープ」

「きゅあら」


「ふっ、笑止。貴様がそこにいるのが何よりの証拠だ。父の力を色濃く受け継ぎながらも竜の掟から逃げ、あまつさえ、他種族に与する愚行」

「きゅぐろぉ」


「いい加減、目に余るのだ。怠惰な生を繰り返すしか能がないというのなら、我が輪廻の一部となるがいい」



 ホロビノはこの瞬間に至るまで、どちらの陣営に付くか迷っていた。

 慕ってくれるサチナは紛れもなく可愛い妹、だが、所詮は狐であり、他種族であるという一線は確実に存在する。

 大陸各地でやらかしまくっている不可思議竜が竜以外と子供を作った事例は過去にもあり、その時には過度な肩入れをしないように心掛けていた。


 そして、木星竜は紛れもない竜であり、自身の兄であると誇りを持って紹介できる存在だ。

 ホロビノが転生した際には助力を受ける事も多く、最も親しい竜といっても過言ではない。

 そんな兄に牙を剥いてまで、サチナやリリンサを助ける価値があるのかと考えてしまったのだ。



「きゅあ……」

「ホロビノ?」


「……きゅあらん」



 決心を付けさせたのは、兄の願いと妹の願いが矛盾しないと気が付いたから。

 木星竜は心の底からホロビノとサチナの排除を望んでいる、ならばこそ、その前提である戦いこそが願いであると理解した。


 サチナも同じだ。

 久遠竜鬼こおりおにで勝つ。

 その前提も戦いであるのだから。



「……《源竜意識の覚醒(アイデンティー)栄華の三世紀グロリアスセンチュリー》」



 木星竜が生態系を丸ごと力に変えるのと違い、ホロビノが願うのは磨き続けた個の力。

 それは、美しい白き毛並みを持つ白天竜の正統なる成長形態。

 獣と同じ四足疾駆、姿を覆い隠す天使のごとき白き翼、全身を包んだふかふかの体毛は日光を吸収し、きらきらと虹色のプリズムを発揮させる。


 一回り大きくなった体躯は全長7m。

 種族が違えば幼竜として侮られてしまう程に小さい身体、だが、傍観しているタヌキをニヤリとさせる程に高いエネルギーを有している。



「ホロビノ、本気を出すですか?」

「きゅあ!」


「ありがとなのです、これなら、もっともっと、負けねーぞですっ!!」



 急旋回しながら加速するホロビノ、そして、その背に乗るサチナが攻撃態勢に入った。

 先ほどのような単独での強襲はできない。

 命の権能を持つ者同士の戦いにおいて、単騎突撃は勝負を成立させることすら出来ない悪手だからだ。


 サチナとホロビノは波長の違う即死対策を互いに掛け合いながら、空を蹴る。

 瞬く間に加速した景色は直ぐに臨界を超え、光速の世界へと突入。

 一条の光と化した二名が牙と爪を尖らせ――、振り抜かれていた木星竜の刃と衝突する。



「《樹殻剣=セフィルクリファ》」



 木星竜が振るう2本の超大剣、『樹殻剣=セフィルクリファ』。

 あらゆる美徳と悪徳が詰め込まれた、森羅万象を司る異能の剣。


 ダルダロシア大冥林の上で振るわれた数億回にも及ぶ剣での攻撃、それらを受け継いだ真っ当な剣閃であるそれは、小さな竜狐を叩き落とすには十分すぎる威力を持っている。

 だがそれは、並の弟妹であればの話。



「《御神楽幸七みかぐらさちな・遊び歌!!》」



 サチナの宣言に従い、戦いの舞台が遊びのステージへと変化。

 樹殻剣の表面に浮かび上がった光のレーンと魔法陣、それに完璧なタイミングで殴打を入れ――、渋い顔をしたサチナがギリリと奥歯を噛み鳴らす。



「剣の内部で魂を入れ替えて、プレイヤーを書き換えられた、ですっ!!」



 御神楽幸七は自分と相手に遊びのルールを強制付与することで、それ以外の自由を奪う技だ。

 現れた魔法陣を叩けば、その部位が消滅する。

 そんなルールの対象者はサチナと樹殻剣、そして、3回目の殴打の時には既に、サチナと名も無き命へと対象が変更されていた。


 樹殻剣の表層に生えた花がサチナの殴打によって消し飛び、対象が消滅したことで遊び歌が終了。

 剣の表面に出来た三つの焦げ目、しかしそれも、1秒も経たずに再生する。



「流石の再生能力なので……!?」



 ぴりりとした刺激を拳に感じ、視線を落とす。

 苔むし朽ちた枯れ枝の様になっているそれは、しなやかで美しいはずのサチナの指。



「ひっ……!?」

「《解脱転命・助長抜苗じょうちょうばつびょう》」

《竜精界の夢(ドラゴ・ティターニア)!》」



 サチナの命を吸い尽くそうとする草菌類の増殖、その小さな命の在り方をホロビノが書き換えた。

 周囲10kmの範囲に居る全ての命の生殺与奪を握り、サチナと自分に付着した有害な命を僅かな咆哮のみで崩壊させる。



「ありがとなのです!」

「きゅあ」


「そして、あの剣の攻略を次の遊びに設定するぞ、ですっ!!」

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