第179話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-滅びの輪廻竜①」
「きゅあ!?きゅあら!?!?きゅあららららーー!?!?」
天を戴く白き王竜――、ホロビノは今、驚天動地の真っただ中にいる。
空高く打ち上げられた引きこもりの兄と、縦横無尽に叩きのめす妹のアグレッシブすぎる動きに、引きつった笑みが収まることは無い。
事の発端は先日、兄である木星竜に会いに行った時にまで遡る。
冥王竜のやらかしにより那由他の逆鱗に晒された天竜嶽は壊滅、4匹の惑星竜が幼竜になるまで叩きのめされた。
鎧王蟲ダンヴィンゲンとの一騎打ちを経て弱体化しているホロビノも含めれば、9分の5が戦闘不能に陥っているという緊急事態だ。
残っているのは木星竜と土星竜と冥王竜、そして、不可思議竜の仮初の姿である海王竜のみ。
死んだ目の土星竜がホロビノを使い、のびのび暮らしている木星竜に小言を言いたくなるのも無理のない話だ。
「今はマジで忙しいから、絶対に問題を起こすな。あと、できれば天竜嶽に戻って来て仕事を手伝って欲しい」
そんな土星竜の切実な願いに返されたのは、否。
大人しくするどころか、木星竜は月塊竜とホロビノにサチナ討伐を誘い、一緒に暴れようと持ち掛けた。
「もしもし竜よ、竜さんよ~~♪」
「ボ、ボグッッ!!ボグルグガーァッ!!」
「世界の内でお前ほど、身体のでかいものは無い~~♪」
「ボ、ボボボボ、ボギャー!!」
「どうしてそんなにデカいのか~~♪ですっっ!!」
「ボギャーーーン!!」
そして現在、本気を出した妹の暴虐に晒され、すんごいことになっている。
これだけ暴れてなお軽やかな足取りで戻って来たサチナを背に乗せたホロビノは、心の底から、木星竜の誘いに乗らなくて良かったと安堵した。
「木星竜兄さまがストックしていた生物は、これでほぼ全滅、です!!」
「きゅーあ~~」
「1匹残ってるのは分かってるです、でも大丈夫です。あれは強すぎて、木星竜兄さまが栄養に出来る類じゃねーです」
大地から蹴り上げられた木星竜は、リズムゲームを駆使するサチナの猛攻によって、天空に縫い付けられた。
対象を地面に落とさせない遊び『蹴鞠歌』、そのルールを木星竜に付与することで、下から衝撃を受け続ける限り、地面に落下できないという法則が発動。
そして、その条件を維持する為に時の権能を発動し、世界記憶を操作。
永遠と自動で巻き戻されて繰り返す連撃は、命尽きるまで終わらない――、無限ループと呼ばれるものだ。
「戦況がだいぶ動いてるです。大きな魚とケライノーは倒され、他の皇種もほぼクリスタル化。圧倒的にサチナ達が優勢です!」
「きゅあらん」
「紅葉兄さまとラグナガルムも帝主様が取ったです。強いのは知ってたですが、想像以上です」
「きゅーららりおん!」
「天窮空母の中に母様が乗り込んでいくのが見えたです。あの感じだと、じぃじの庭がバレてるっぽいです?」
「きゅぐろ?」
「色んな世界から文化を取り入れている、じぃじの遊び場です。TVゲームとか、面白いのがいっぱいあるです!」
テトラフィーアに負けたサチナは、悲しみに沈む夢の中で思った。
こんな辛いものではなく、”みんなが笑顔になれる遊びがしたい”。
そんな願いに世界は答え、金枝玉葉と恒河沙蛇が巣食う世界へと誘われたのだ。
「ホロビノは木星竜兄さまとどっちが強い、です?」
「きゅあ~~」
「今回は厳しい?やっぱりアレは、全盛期のホロビノなのです」
エンシェント・森・ドラゴンは、背中に生態系を宿させることで、様々な恩恵を得る種族だ。
そして、王たる輪廻を宿す木星竜はその仕組みを強化させ、数千年続く生態系を樹木に変換。
全長100kmもの長大な体躯と化した命の残滓、それこそが、先ほどまで背中に宿っていた生命では比べ物にならない、木星竜の真なる力の資源。
「可能な限り魂は奪い取ったですが……、大きな3つの塊は直接叩かないと無理です」
「きゅぐら、ぐおー、きゅあっす」
「木星竜兄さま本体と戦闘用外装、そして、疑似魂で作った護衛。こっちもサチナとホロビノ、2対2なら負けねーぞ、です!!」
不可思議竜から権能を与えられている竜は、望む姿に転生する力を有する。
その姿を現存する惑星竜にすることは、高位の王竜なら扱える奥義として語り継がれている。
そして、木星竜が惑星竜最強と呼ばれる理由、それは、過去の惑星竜を全て従えているからだ。
不可思議竜は全ての竜であり、全ての竜は不可思議竜である。
この法則を転用した、肉体の同期システムの構築に成功した木星竜は、蓄えた資源が尽きるまで惑星竜を生み出すことが可能となっている。
「ダルダロシア大冥林の崩壊が始まったです。出てくるですよ、ホロビノ!!」
「きゅあ!!」
サチナが全力で暴れていた理由、それは、同数以上の希望を戴く天王竜を生み出されてしまえば、成すすべなく敗北すると分かっているから。
そうして、最低ラインの目標値である複数体の生成を阻止、されど、目の前に出来た樹木塊は余りにも大きく。
「想定よりも、デカい、です!!」
「きゅあー、きゅぐろん」
「混ぜた、です!?」
木星竜は傲りを捨てている。
一方的に殴られながら、強かにサチナの実力を検分。
長き時の中で蓄えた経験を使い、確実に勝てる肉体へ転生する。
「《解脱転命・危機廻懐》」
100kmの肉体が変化した二つの木製卵が融合、そして、生まれいずるは――。




