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第178話「極楽遊妓・とおりゃんせ⑤」

「それで、紫蘭くんを捕まえるのに何年かかったのかしら?」



 白銀比が6個目の街の話を始めた辺りで、レジェリクエが止めに入った。

 抗えぬ絶対君臨者として畏れていた白銀比が、タヌキとキツネに馬鹿にされまくっているという抱腹絶倒な笑い話も、命を賭けた戦争の渦中にしていい事ではない。



「耳と尾を出し、身分を名乗ったら割とすぐ見つかったなんし」

「それはそうよねぇ?ぎょくよーちゃんの娘って、要するに世界を作った神様の娘な訳だしぃ?」


「わっちが封印していた二人は、夢の中であっちの世界を訪れておったんでありんしょう。学園の生徒会長なんぞをしておったなんし」



 ……生徒会長?

 なるほどぉ、余も経験あるわぁ。

 病欠しまくってたら解任されたけどぉ。


 レジェダリア国の軍学校の様相を思い出しつつ、キツネと蛇の世界に学園文化があることを疑問視。

 子供は生まれず、年も取らない世界に必要だと思えないそれに首をかしげる。



「進級も卒業もない学校って、学校って呼んでいいのかしら?」

「授業ではなく、季節ごとのイベントを楽しむ場所であったなんし。それが、その村の役割なんしな」


「あぁ、そういう。それでどうだったのかしら?入学したんでしょぉ?」

「修学旅行は最高の催しでありんした」



 そりゃぁ、色めき立ったでしょうねぇ。

 美人でビッチな若奥様が転入したらねぇ。

 紫蘭くんは絶望したでしょうけどぉ。



「重要な確認なんだけどぉ。紫蘭くんの今の状態はどうなっているのかしら。こっちに影響はありそう?」

「捕まえて、学校生活を送らせているなんしな。氷鬼で負けた者は、助けが来るまでそこから動けない。……が、近くにいる動けぬ者同士で会話するのも、楽しみの一つでありんしょう」


「つまり、あっちの世界から自発的に出てくることは無いのね?金鳳花が助けに行かない限りは」

「それも問題ありんせん。おそらく、あっちでは無色の悪意は発動せん。世界自体に強力な意識改変が掛かってありんした」



 白銀比が紫蘭のいる学園に辿り着くまで、おおよそ5か月の時間を有している。

 村や町、計12個を捜索。

 それでも、第8空間次元層内で時の権能の使い方を編み出した彼女が本気を出せば、1月は掛からない些事となる。


 ではなぜ、5倍もの時間が必要になったのか。

 それは単純に、白銀比が遊び倒していたからだ。



「酒も料理も一級品。常に若さが保たれ、怪我も病気も一日で治る。リスクが無い世界というものは、かくも恐ろしいものでありんした」

「どう恐ろしかったのかしら?」


「肉体は元に戻るが、感情はリセットされず。故に、脳内の快楽物質もすぐに生成されて元通り」

「あぁ、体力が回復するから永遠にイッけちゃうのねぇ」


「精に溺れるとはまさにあのこと。さしものわっちも百人から求められては、尻尾を巻いて逃げだすしか無かったでありんす」



 それって絶対、自業自得でしょぉ。

 神様の娘の方からオープンじゃなきゃ、ナンパして抱こうってなんて恐れ多すぎて思えないわよ。



「レジィちゃん、目標ポイントに到着したであります!」

「あらそぉ。エアリフェード様ぁ、お願いしできるかしら?」



 国王であるレジェリクエは、エアリフェード、シーライン、アストロズとリリンサ抜きの交流をしている。

 それぞれが国などの代表であり、世界会合の席で顔を合わせる事も多いからだ。

 そして当然、ロリで、女王で、運動神経抜群なドストライク外見を持つレジェリクエを、三人が見逃すはずがない。



「それではサクッといたしましょう。行きなさい、《五十一音秘匿エアリワン》」



 天窮空母の窓から飛び立った未確認飛行円盤が、森の中を索敵。

 取り付けられたカメラの映像を頼りにローレライが指示を出し、紅葉とラグナガルムのクリスタルを発見する。



「ロゥ姉様。罠はあるかしら?」

「ずっと監視してたけど、接近者は無し。おねーさんが見てることは金鳳花にバレてるだろうね」



 ローレライが紅葉を回収しに行かなかった理由、それは、森に放置することで金鳳花をおびき出す餌にしていたからだ。

 彼女の絶対視束は24時間以内の視点をいつでも習得できる。

 クリスタルを解除できるのがキツネに限定されている以上、紅葉を解除された場合、その人物は金鳳花か紫蘭のどちらかで確定だ。



「回収してもよろしいでしょうか?」

「えぇ、丁重にね」



 強固なクリスタルに捕らわれているとはいえ、可愛い我が子を乱雑に扱われていい気分になる親はいない。

 首を飛ばされるなんて経験は一回で良いと、レジェリクエは笑顔で取り繕う。



「ご苦労でありんす。エアリフェード。何か褒美はいるかえ?」

「いえいえ……。あぁ、それでしたら一つ。ことが無事に済んだら、お酒を奢って頂けますか?アプリコットさんにも報告が必要でしょうから」


「ノウィンに注がせるなんし。さぞかし、良い酒を出してくれるでありんしょう」



 ノウィンの付き人をするエアリフェードは、白銀比と酒を酌み交わしたことがある。

 だがそれは、温泉郷外での話。

 リリンサとワルトナが主導で作っている温泉郷への関与を自重していたノウィンは、エアリフェード達にも情報を伏せていたのだ。



「紅葉や、みーつけた」



 司令官室で取り出されたクリスタルに手を触れ、優しく声を掛ける。

 そんな母の顔をした白銀比は砕けたクリスタルの中に手を伸ばし、驚き顔の紅葉を抱き上げた。



「あっ……」

「母の勝ちなんしな?」


「ちぇー。次は負けないからね!」



 グラムを持つユニクルフィンと戦闘をしている上に、サチナの時と命の権能の影響もある。

 無色の悪意がどんな状態なのか分からない以上、こっちの世界に置いておくのはリスクが高い。



「紫蘭も捕まえて、あっちの世界の学校にいるなんし。紅葉もそっちで大人しくしておれ」

「紫蘭も?じゃあ、俺の方が後に見つかったんだ。よし!」


「ところで、父上は元気かえ?」

「元気なんじゃない?学園都市には住んでないから分かんないや」


「どこに居るなんしな?」

「えー、分かんないよ!でも、C/M エンパイア に居ることが多いと思う。DJしてるし」



 Cサイバー  /  Mメタル  エンパイア。

 直訳で、電脳機械帝国。


 それは、親を亡くし眠れない日々を過ごしていた幼い白銀比を寝かしつける為に那由他が語った、夢物語に登場する悪の帝国。

 一匹の女盗賊によって幾度となく強襲され、最終的には軍事力の95%を壊滅させられた……、異世界の軍事帝国の名だ。



「……へぇ、面白そうなんしな?」

「凄いゲームがいっぱいあるよ!母様は格ゲーが気に入ると思う!!」



 紅葉の記憶を探り、画面に映し出された絵を自分で操作する光景を見て、驚嘆。

 明らかな未来技術……、どう考えても那由他が何かしてるとしか思えない街をぶっ潰す、そんな遊びを想像しながら、白銀比は目の前に鳥居を出現させる。



「紅葉や、氷鬼は終わっておらんなんし。助けが来るまでは学園から出てはならんなんし」

「しょうがないなぁ。いつ終わるの?」


「母が会いに行くまで。そう掛からんから心配はいらんなんし」



 しっかりと頭を撫でてから肩に手を添え、紅葉を鳥居の中へ送り出す。

 嬉しそうに笑っている我が子の、なんと愛おしい事か。


 様々な思いがあった。ありすぎた。

 永遠を過ごす冷たい氷の中で、一人寂しい思いをさせていると思っていた。

 こんな瞬間はもう二度と訪れることは無いと、諦めていた。



「……喉が渇いたなんしな」

「お水で良いかしら?目が覚めた後に飲むコップ一杯のお水ほど、美味しいものは無いわよ」


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