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第173話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-キツネside⑧」

「流石ロゥ姉様ねぇ、余の想定の上を行く、見事な模範解答だわぁ」



 天窮空母の指令室のモニターを眺めていたレジェリクエが感嘆の息を吐いた。

 そこに映し出されていたのは、ローレライVSキツネ・英雄・タヌキの顛末。

 白銀比どころか、英雄とタヌキが徒党を組んだカツテナイ連合軍をほぼ一人で壊滅させたその手腕に、心の底から打ち震えている。



「にゃはは、おねーさんにも意地があるからね。でも、エデンをほぼ無傷で逃がしたのは痛手かも」

「天窮空母は空を飛んでいるとはいえ……、ポイ捨てされたくらいじゃ、どうにもならないだろうしねぇ?」

「どうやら、たんこぶは出来たようでありんす」



 たんこぶかぁ……、高度1000mで頭から落ちたのに、その程度で済むのねぇ。さすがタヌキィ。


 もはや意味不明過ぎてどうでもいい存在と化したエデンを思考の外に追い出しつつ、目の前の問題へ取り掛かる。

 白銀比の懐柔。

 世界で6番目の気高き皇を仲間に引き入れて信頼する――、そんな無謀な作戦の下準備は終えている。



「白銀比様、余達は腹の中身を全て曝け出した。じっくりと記憶を読む時間もあったでしょう。その上で聞くわ」

「なんなんし?」


「余達は許された。そういう事で良いのかしら?」



 人狼狐において、レジェリクエに与えられた役割は『占い師』。

 確定確率確立を持つ彼女こそが、唯一、単独で人狼の正体を見破れる能力を持つ。


 だがそれは、抵抗されることのないゲームでの話。

 つい先ほどの記憶消去のように、確定確率を使った後で消されてはどうしようもないのだ。



「余達は敗北し、記憶を消された。そして命を巻き戻され、こうして言葉を交わしている」

「そうなんしな」


「白銀比様が金鳳花とグルならば、生き返らすなんて回りくどい事をする意味はないものぉ」



 レジェリクエが立てた白銀比懐柔計画。

 それは、「腹と頭の中身を全てぶちまけて晒すことで信用を勝ち取る」という、感情任せの作戦だった。


 レジェリクエ達が最も恐れる事態は、白銀比と金鳳花が共謀して、今回の出来事を引き起こしている事態だ。

 その可能性を検討するために記憶を思い出した結果、白銀比の言葉と行動には怪しい点が幾つも存在している。


 ブルファム王国及び、指導聖母が持つ最大戦力、『シルバーフォックス社』。

 銀キツネなんてあからさまな名前の組織の存在を知っていて、白銀比に探りを入れないはずがない。

 だが、レジェリクエ達は実際にシルバーフォックス社と相対するまで、キツネの関与を微塵も疑うことは無かった。


 その状況こそが、明らかな記憶改竄の証拠。

 他にも、大聖母ノウィンがあの子を白銀比に見せた時にも情報を隠しているなど、疑えば切りが無い。


 だからこそ、レジェリクエ達は命を賭けた。

 もしも白銀比が敵だったのなら、それでお終い。

 後に起るであろうリリンサがらみの問題も、死するレジェリクエ達は関係ない。

 やけっぱちとも言えるノーガード戦法、その結果がくすりと笑う。



「お前さん達の腹積もりは、よぉく分かったでありんす。わっちの威を借りたいというのも、道理でありんしょう」

「えぇ、恐れを除外して申し上げるのならば、この遊びは余やリリンサに向けられたもの。そういう意味では、貴女は部外者でしかない」


「ほぉ?言うなんしな」

「だからこそ、遊びに誘う形で強引に関係性を持たせたの。数千年も続いている『かくれんぼ』を終わらせるために」



『別れてから数千年、てんで姿を見せんなんし。が、わっちを誑かせる実力が有る以上は……、どこかで生きているでありんしょうな』

『少し規模が大きすぎるけれど、その子は、案外、隠れん坊でもしているつもりなのかもしれないわ』


 これは、神と狐と母と王の四名でブルファム王国の出自について話し合った時に、白銀比とレジェリクエから出た言葉だ。

 その時は現在の事態を予想していた訳ではない、ただ、なんとなくそう思ったレジェリクエが呟いただけ。

 そしてその会話があったからこそ、白銀比は愛しい息子との再会を果たせた。



「なんと世渡りの上手い奴でありんしょう。一笑に伏した仮定が正しいとは、まさしく現実は小説よりも奇なりなーんし」



 やるせなさそうに肩をすくめた白銀比、だが、表情は僅かに微笑んでいて。

 愛しい子らが殺し合いをしている現状。

 その一端を担ったレジェリクエと言葉を交わし続けている理由、それは、ゲームの賭け札に自分の命を賭ける度胸に敬意を抱いたからだ。



「これも、神に悠久の遊びを願ったキツネの性でありんしょう。お前の案に乗ってやるなんしな」

「じゃあ、言質代わりの問いをしても良いかしら?」


「ローレライの誠意に免じて、何でも一つだけ答えてやるなーんし」



 レジェリクエがローレライの孤軍奮闘を誉めたのは、愛する姉が恰好良かったからだけではない。


 彼女がそうしたように、レーヴェティンに封印されている生物は飛び道具のように扱うことが出来る。

 そして、世界第4位のエデンが攻撃態勢に入っている状況で封印されている、これは、白銀比にとって脅威以外の何者でもない。


 そしてローレライは、それを白銀比の前でわざと使った。

 不意打ちに使えば高確率でダメージを与えられる手段を消費することで、白銀比と敵対する意思はないと示したのだ。



「そうねぇ……、じゃあ、『貴女は七源の皇種、極色万変・白銀比であり、不可思議竜との子でもあるサチナを御旗にしたレジェリクエが在籍する白竜狐軍に属し、金鳳花を御旗にした黒狼狐軍と完全に敵対している』 これに答えてくれるかしら?」

「すべて、 はい でありんす」


「《確定確率確立、今の答えに含まれている嘘の割合は?」



 《-33.3%-》

 空中に示された答えに、レジェリクエが息を飲む。


 レジェリクエの問いかけの真意は、目の前の人物が白銀比であるかと、味方になりうるかどうか。

 その為に3つの節に区切り質問を飛ばし、示される確率で真意を探ろうとしたのだ。


 示された答えは33%、三つの節の内一つは嘘、 『はい』 ではない。

 ① 目の前の存在が白銀比ではない場合は、白竜狐軍のリストに名がある者であり、金鳳花と敵対している。

 結果、正体を隠していようとも、手元に置いて問題はない。

 ② 白竜狐軍に属していない場合、リストに名前がある白銀比ではなくなる為、割合は66%以上になる。

 ③ 白銀比である場合はリストに名前が載っているため、金鳳花と完全に敵対しているという部分が嘘になる。



「……そう、安心したわ」

「何がなんしな?」


「貴女の子に対する愛情の深さによ。こんな仕打ちを何度もされて、それでもなお憎みきれない。その心に最上の敬服を贈ります」



 自軍に名があるだけの、中立。

 自分たちの味方に引き込みつつ、これからの戦いには関与させない。

 これは、レジェリクエが求めていた最上の答え。


 残る大きな戦いはサチナVS木星竜、そして、リリンサVSワルトナ。

 2名の頂上決戦、そして――、

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