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第7話「悪魔会談・記憶喪失」

「じじぃ!なんで俺は村の外に出ちゃダメなんだ?」

「ほほほ、なんじゃユニク、またその話か。こりないのう」



 幼き日の記憶。

 俺は悪魔会談で示された『知らぬ傲慢世界(プライド・ハート)』について何かしらの情報を思い出す為、記憶を探る。


 そして浮かんできた情景は、穏やかに過ごしていた懐かしき日々だった。



「じじぃはいっつも誤魔化すじゃんか!今日こそは答えてもらうからな!」

「ふむ、いつまでも隠し通せはせんということか。いいじゃろう、少しだけ話してやるとしようかの」


「やた!今日はずいぶん物分かりがいいな、じじぃ!」

「ほほほ、ま、順調(・・)なようだしの。どんな質問にも二つ、答えてやるとするか」


「二つか、絶妙にケチくさいな。もっと増やし―――」

「ふむ、では一つにするか。そのほうが希少価値が高まって良いかもしれん」


「待って!今のなしだよ!文句ないからぁ!!」

「そうか? では質問するがよい」



 くっ!じじぃはいつもこうだったな。

 ほんの少しでも状況を好転させようと画策すると、取りつく暇もなく反撃される。

 その一撃が致命傷なほど重い為、俺はいっつも諦めざるをえなかったのだ。


 今なら少しだけやりあえると思うが、それでも負けることが多い。

 幼少期時代の俺じゃとても太刀打ちできなかった苦い思い出が呼び起こされる。



「質問そのいち!どうして俺は村の外に出ちゃいけないの?もう60レベルでそこそこ強いはずなのに……」

「そうじゃな。お前さんのレベルはこの村の平均値よりも随分高い。だが、外の世界にはお前さんじゃまだ勝てない強き者がうじゃうじゃおるのだ。なにせ見識に差があるからのう」


「そうなの?」

「そうなのじゃ。それになんの訓練もしていない今のお前さんじゃ、タヌキにすら勝てまいよ」


「うっそだー!俺、生きてるタヌキ見たこと有るんだぞ?村の外を眺めているとたま―に見かけるんだ。大体レベル2から5くらいだぜ?」

「ほほほ、野生動物をナメテおるのか。そんなんじゃから、守れなかったのじゃ」


「え?」

「ほれ、二つ目の質問をするがよいぞ。それとも、もういいのか?」


「そうだなーどうしよっかな。こんなチャンスめったにないしな……」



 見識の差、か。

 確かリリンと出会った時にじじぃは意図して、俺の見識、つまり目に見えていたレベルを魔法で捻じ曲げていたと言っていた。

 だが、知らぬ傲慢世界(プライド・ハート)はホーライしか扱えないという。


 なるほど、ここで話がつながってくる。

 この村の愛すべき憎たらしさの村長ホウライは、かの英雄ホーライの名を語る影武者なのかもしれない。

 事実として魔法が俺に掛っていた訳だから、英雄ホーライの存在は確定、ならば親父がらみで接触があったとしても不思議じゃないしな。


 この前ローレライさんと会った時に作った仮定。

 それが思い出され、やはり諸悪の根源はじじぃなのかとため息が出そうになる。

 いや、我慢は体によくないか。

 ……はぁ。


 この事はリリンには黙っておこう。

 リリンの英雄ホーライに対する憧れは半端じゃないからな。今ここでそんな話をすればどんな暴走をし出すか分からないし。

 そんな結論を出しつつも、もう少しだけ俺は記憶を探る。


 確かこの後、ビックリする事があったんだよな……。



「質問そのに!俺ってさ、何者なんだ?なんでこんなショボイ村に何のためにいるんだろう?」

「ふむ、多感な時期なのじゃな。思春期か」


「難しい言葉で誤魔化すなよ!なんでも答えてくれるって言ったじゃんか」

「そうだったな。ふむ、何のためにか……」


「そう。あ、薪割りの為とかそういうの無しで!」

「ちっ」


「おい!」

「冗談じゃよ。お前さんの存在意義か。ふむ、そうさのう。お前さんには”途方もないワクワク”が待っているじゃろうな」


「途方もないワクワク?なにそれ」

「お前さんが好んで読む小説なんかがいい例じゃ。あんな物語じみた事がお前さんを中心として起こるのかもしれんと言う話じゃ」


「へぇ!そういうのいいな!!」

「そうじゃ、冒険はいいものじゃぞ。そうしたら、まずはヒロインを手に入れなくてな」


「年が近いのってレラさんしかいないじゃん。俺のヒロイン、レラさんなの?」

「それは断じて違うな。アレは確かに姫と言えなくもないが、血なまぐさすぎる。ほれ見てみぃ。あんなヒロインがいるか?」



 あぁ、そんな話したっけな。

 というか、物語じみたワクワクが待っているって、今の俺の状況の事を言っていたのか?

 この状況になる事をじじぃは知っていた?ははは、まさかな。


 俺は一瞬だけ浮かんだ疑惑をすぐに捨てた。

 良く考えてれば、俺はワクワクとかしていない、事もないっちゃないが、それ以上にドキドキの方が強い。

 誰がこんな未来を予想できるのか。


 ドラゴン攻め、連鎖猪イノシシ攻めに、三頭熊ベアトリス攻め。地獄のフルコースだぞ?

 それもこれもみんなリリンに出会った事によるもので、じじぃの示唆したヒロインなんて存在しないし。


 ん?リリンがヒロイン?いやいや、ないない。

 俺の中でヒロインというものは主人公に守られる存在のハズだ。

 決して、主人公に暴行を加えて鍛えようとするような存在じゃない。


 そして、その枠にレラさんも当てはまらないな。

 なぜなら彼女もまた、結構な武闘派だった。



「村長ー!熊がいたから獲って来た!今日はクマカレーだよ!」

「のう、ユニク。凶暴な熊をカレーの具として煮込むようなレラがヒロインとでも言いたいのか?笑わせるでないわ」

「でもレラさんすっげ―!そのでかいクマ、倒したの!?」


「そうだよー!お姉さんにかかれば、ちょちょいのちょいだからね!でもユニくんはまだ危ないから村の外に出ちゃダメだからね?」

「わかってるよ!そんな事よりどうやって倒したか教えて!」


「なははははー、このクマ『真頭熊ベアトリーチェ』は凄くすばしっこいんだ。だからね―――」



 ……あれ?

 俺の記憶を探っていたら、トンデモナイ事を思い出しちゃった気がする。

 なにせ、記憶の中の熊は、三頭熊そっくりだ。

 だが違う点が二つ。

 一つはこのクマには頭が一つしかない。三頭熊は小脇に副頭が付いているから違う種類だと思う。

 そして、もう一つの違いは大きさだ。


 この真頭熊大きさは恐らく三頭熊よりもでかい。

 俺はこの後、クマの口をこじ開け中に入り、「食われたー!」といって無邪気に遊ぶのだ。

 すぐに服を汚した事がバレて、レラさんに1時間ほど説教をされたから良く覚えている。


 当時10歳を超えていた俺。

 身長だって140センチはあったはず。それなのに口の中にすっぽり入って少し余裕すらあった気がする。

 それから換算するに身体の大きさは三頭熊の三倍はありそうだ。


 どう考えてもレベル7000代のレラさんの手に負える相手じゃない。

 ……どういう事だ?



 **********



「ユニク?また考え事?」

「ん?あぁ、いや大丈夫だ。それで、知らぬ傲慢世界(プライド・ハート) だっけ?それを受けていたのは間違いないと思う。恐らく親父がらみで掛けられたんだろうな」


「……ユニクは記憶をなくす前に英雄ホーライに出会っている?確かに英雄ホーライならば崇高な魔法を扱えても何ら不思議ではない。だけど、ユニクの村の村長はまるで自分がやったかのように言っていた。それは少し変だと思う」



 あ、やべ!リリンがじじぃの事を疑っている!

 つーか、隠すのって無理があるだろッ!

 そもそも、ホーライの弟子の親父が絡んでいる事が確定的な上に、名前がまんま『ホウライ』なんだぞ?

 誰だって怪しむわッ!


 どうすっかな。、一応、隠す方向で頑張ってみるか。



「確かに変だけど、俺の村のじじぃは結構な高齢だぜ?半分ボケていたとしても不思議じゃない歳だ」

「そう?結構しっかりした物腰だったと思うけど?そういうもの?カミナ」

「んー診察しないと何とも言えないけれど、結構なお歳だというのなら記憶違いとか起こしていても不思議じゃないわ」


「じじぃは昔っから言う事が大げさだからな。山よりでかい化け物を倒したとか、亡国の姫君を助けてそのままの勢いで世界の覇権を握らせたとか、冗談のスケールがでかすぎる」

「それはまるで英雄ホーライのよう……いけない。名前が英雄ホーライに似ているからといって、まるで自分の功績みたいに話すのはいだだけないと思う。同じファンとしてお説教が必要!」

「だめよ、リリン。お年寄りはそういう他人の功績とかを自分のものと勘違いしてしまう事も多いのよ。そういう時は『へぇ、すごいですね!』とか適当に相槌を打ってあげるのが優しさってものよ」



 あれ?なんか上手くいったぽいんだけど。

 でも……ごめん、じじぃ。

 俺達の中で、ボケ老人みたいな扱いになっちゃった。

 なんというかすまんな。

 そんなつもりは、ほんのちょっとしかなかったんだ。こんなにうまく話が進むとは思わなかったんだよ。


 俺は心の中で1秒だけ後悔すると、まぁいいや、じじぃの事だしと思考を切り替えた。

 結局、俺の見識が歪められていたのは、英雄ホーライの仕業という事で落ち着き、話題は記憶喪失となった。



「ふむ、ユニクルフィンくんの記憶喪失については何とも言えないわね。英雄ホーライが関わっている以上、魔法的な要因で記憶を失っているという可能性の方が強い。けれど、病気または強い衝撃を与えられた事による脳破壊の可能性も考えなくちゃいけないもの」

「もしかして、昔にすっごい皇種とかと戦って記憶を無くしてしまったのかもしれない!実はユニクはとてつもなく強いとか……!?」

「はっ!それはねぇな。だって俺、タヌキに勝てないし!」


「タヌキに勝てない?何よそれ?」

「ユニクはなぜかタヌキに勝てない。ライバルと言ってもいい!」

「……客観的にライバルとか言われると結構ヘコむな。ちくしょうめ」


「そうね、よく分からないけどタヌキと浅はかならぬ因縁がある事だけは想像できたわ。ま、タヌキは置いておいて、ちゃんと検査はしておきましょう」

「……そうだね。今すぐやろう、そうしよう」

「え”?」



 ……え、検査?

 なんで記憶喪失の話をしていてそうなるんだ?



「いや、記憶消失で検査っていらなくないですか?」

「あら?そんなことないわよ。もし病的なものだった場合、再度、記憶を失う可能性だってあるわ。村にこもりきりだったとリリンから事前に連絡を受けているから検査の準備は整えておいたわ。ふふふ」


「ちょっと待て!いま何で笑ったッ!?」

「なんでって、そりゃ、英雄の息子の検体サンプルよ?欲しいに決まっているじゃない」


「ちくしょう!本性を表しやがったな!?く、やっぱり悪魔デヴィルだったか!」

「あぁそうね、もう悪魔でいいわ。よくよく考えたら私、それなりの事しちゃってるもの」


「うわッ!開き直りやがったッ!!」

「大丈夫よー。痛くしないわー。採血も600までにするわー。骨髄液も少しだけにするわー。CTやレントゲンは多めに取るけど」



 どこら辺が大丈夫なんだよ!?すっげぇ棒読みだぞ!?

 しかも良く分からんけど、色々取られるってことじゃないのか!?

 え、何、骨髄液って何!?すっごく怖いんですけど!


 ……この流れはいけない。絶対回避するべきだと本気で思う。

 検査とか言われて、気が付いた時には何かの実験台にされてましたとか笑えない。

 俺の目の前に座る人は、世間から心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)と呼ばれており、優しげな表情を絶やさないが、名乗っている肩書きは『再生輪廻さいせいりんね』というらしい。


 生命を、”再生”させ別の生き物へと”輪廻”させるとでもいうのか。

 ……やばい!捕まったらキメラとかにされそうだぞッ!?


 どうにか頑張って逃げるんだ、俺!



「あの、検査とか大丈夫なんで。俺、健康なんで!」

「だめよ!身体の異常に気が付いた時には病状が進行しているケースなんて山ほどあるんだから!言う事聞かないと強制収容するわよ?」


「きょ、強制収容!?いよいよ何をする気だよッ!?怖いんだけど!」

「大丈夫だよ、ユニク。カミナには解剖などしないように言い聞かせている」

「そうね、解剖なんてしなくても身体の隅々まで調べられるからね。あ、でも、カメラは入れるわ。上も、下も」


「上も下も!?どういう事ッ!?」

「まぁまぁ、これからもリリンと一緒に冒険するんでしょ?人間ドックは一度受けておくべきだわ」

「そう、健康に気を付けるのは冒険者として基礎ともいえる。くす。諦めて検査受けよう?ユニク」


「リリンも他人事だと思って笑ってないで助けてくれ!」

「あら?他人事じゃないわよ。リリンの分も準備しているんだから」

「……え?………。やだ、したくない……。」


「だめよ。リリンのおしおきは『たっぷり人間ドック』に決定しました。二人とも、いい大人なんだから観念しなさい!」



 お?リリンもやるのか。

 ちらっと視線を向けてリリンの表情を確認すると、すっげぇ嫌そうな顔している。

 だが、苦虫を噛み潰したような顔だけど、ずいぶんと大人しいな。

 なんでだ?


 俺はこっそり小声でリリンに耳打ちをした。



「リリン。ここは協力して脱出しようぜ?」

「……無理。カミナが私達の目の前にいる以上、逃亡は許されない」


「え?いや二人掛かりならなんとかなるだろ?」

「無理。この研究室、というかこの病院内の全てはカミナの支配領域。その気になれば一瞬で捕獲される」


「……マジかよ」

「ここで抵抗するのは良策ではない。受け入れよう……」



 勝気なリリンがすんなり諦めただとッ!?

 再生輪廻さんってもしかして、俺が思っている以上にヤバい人なのか……?


 逃亡は絶望的。

 後は、無事に生き残る運命が残されている事を祈るしかないらしい。

 だがリリンと一緒ならなんとかなるかもしれない。


 大変に怖いが、しょうがねぇ、受けて立つ!



「……検査受ければいいんだな。分かったよ」

「うんうん。素直が一番だね。じゃどっちが先かな?」


「え?」

「性別が違うんだから一緒には受けられないわよ。さっきの相談はその為にしたんでしょ?」


「あ、え、違……」

「どっちが先かな?」

「ユニク!」


「あ、おい!リリン、裏切ったな!!」



 ちっくしょう!嵌められたッ!!

 あんなにしおらしかったリリンは、先に俺の順番だと主張した後、いつもの飄々とした雰囲気に戻っていた。


 ……もしかして、演技だったのか?

 流石は心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の総帥。

 完全に騙されたし、これってもしかして、生贄にされたんじゃないだろうか。


 ……もういいや。

 俺だって男だ。一度やると決めたんだから、もう曲げないぜ。

 きっとリリンだって骨を拾ってくれるさ。……はぁ。



「それじゃ、ユニクルフィンくんからね。悪いんだけど、奥のリラクゼーション室でミナちーが寝てるから起こして来てくれないかな?後はミナちーの指示に従ってれば検査は直ぐ終わるから」

「え?カミナさんがするんじゃないんですか?」


「ごめんねー。そうしたいのは山々なんだけど、リリンと話もしたくてね。ほら、私、中々時間が取れないから」

「あぁ、なるほど。それはよかった」


「ん?」



 あぁ、よかった。

 どうやら、カミナさんが検査をするんじゃないらしい。


 これなら生存率がぐっと上がりそうだな。

 ミナちーさんとやらは態度こそアレだったが、腕の立つ医者だっていうし、普通の検査ならなんも問題あるまい。



「分かった。あの部屋だな?」

「うんそうだね。照明落としていると思うから足元気をつけてね?」



 俺はカミナさんが指差した部屋に視線を向けた。

 おう、バッチリ『立ち入り禁止』の看板が立っているな。


 これもある意味、冒険といえなくもない、かな?

 俺は看板に向かい歩きだした。


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