第164話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-ユニクルフィンside⑤」
「ぶっつけ本番だが……、余裕がねぇってんなら、出し惜しみしてる場合じゃねぇよなぁ!!」
走ってきた道を引き返し、木星竜が飛び立った跡地を横断。
再び森林に突入しつつ、俺が取るべき戦略を組み立てる。
『神壊戦刃・グラム』
神の器を破壊を目的とした、第6の神殺し。
現在の俺の主武装……というか、グラム一本で戦っているような状況だ。
そして、これから先の戦いを勝ち抜くには力不足であることも理解している。
村長……、いや、英雄ホーライがしていた、世絶の神の因子と神殺しの融合使用。
暗香不動で肉体と神殺しを融合させた悪鬼羅刹と呼ぶべき姿は、神殺しの能力を最大限に引き出していた。
数々の皇種を諸共に倒し、蟲量大数の外皮に傷を付けた――、俺もその領域に達しなければならない。
「《神壊因子》、発動」
わんぱく触れ合いコーナーで少しだけ練習したこの力は、世界を構成するあらゆる要素『神の因子』を一方的に停止する。
それは、生物が持つ能力に限らず……、大地や空の物理法則、物質の化学変化、生命に課せられた生存条件など、この世のあらゆる『決まりごと』を壊し、機能不全に陥らせる。
なんなら、グラムの絶対破壊は神壊因子を参考に作られた気がするほど相性が良い能力だ。
神の因子には、能力を十分に使いこなす為の補助効果がある。
それは、神の因子によって得られる膨大な情報処理に耐えられるだけの思考能力と身体能力の強化。
テトラフィーアを例にすると、同時に100以上の音を聞き分け、それを理解して覚え、それぞれに対する最適解を導き出す――、世絶の神の因子を持っている者が英雄になりやすいと言われているのは、自分の能力を完全に理解しているからだ。
だからこそ、俺は神壊因子の使用を躊躇していた。
破壊できる神の因子に制限はない――、裏を返せば、この能力は世界のあらゆる物を触れるだけで破壊できてしまう。
それを行う為の最適解も補助効果によって理解できる、だが、使い方が分かるからと言って安全だとは限らない。
わんぱく触れ合いコーナーでも失敗している様に、神壊因子での破壊は取り返しが付かない。
物質の再生や、時間逆行による復元だって、神の因子によって定められた法則だからだ。
タダでさえ扱いが難しいグラムにそんな力を乗せれば、敵どころか、自分の未来すら壊しかねない諸刃の剣となる。
……それを理解しているからこそ、ここは逃げられない。
諸刃の剣だろうが何だろうが、使いこなせなきゃ、キツネが目論んだ碌でもねぇ未来をぶっ壊せねぇ!!
「覚醒せよ、《神階層刃・オルガノグラム=ゴッデス》」
グラムが破壊できる神の理は、基本的に一度の攻撃で一つ。
例えば、空気抵抗と重力の二つを破壊したかったら、2回、剣を振るわなくちゃいけない。
俺がグラムに願ったのは、そんな致命的な欠陥を解消する、シンプルな解決方法だ。
モチーフはリリンの魔王の右腕、5枚の刃が並ぶカツテナイ斬撃。
それぞれの刃に別の魔法を宿し、効果を増幅させる仕組みを応用するグラムの形状は、薄い5枚の刃を張り合わせた全長2mの両刃大剣。
一度に5個までの理を破壊できるようになったことで、俺の手数は実質的に5倍になる。
さらに、副武装のガントレットにも手を加えた。
バビロンがしていたように、腕のみのガントレットを伸ばして全身鎧へ。
着ている服や鎧、肉体との境界を破壊して一体化、こうすることによって、俺が発揮する『神壊因子』を直接、鎧に付与できるようにした。
グラムの『惑星重力制御』と同時に使用することで、今までは自・他の両方に効果を及ぼしていた効果範囲が任意で選択できる。
相手を引き寄せつつ、俺は地面を反発させて加速。
互いの間にある空間の様々な抵抗は破壊――、そうして発揮される初速は最初から超光速。
光の概念を壊して進む刃の先端は、瞬間的に神経速に達している。
「《破諧調》」
グラムには、物質の強度を調べる『破壊値数計測』という機能がある。
人間の五感に頼らない第6の感覚であるそれを通常の生物は持っておらず、故に、認識阻害によって偽れない。
破壊値数は同じ物質であっても異なる指紋のようなものであり、魔法によって姿を変えたり、変な認識を植え付けようとも、破壊値数を比べる事で識別できる。
だが、アルミラユエトの様に肉体強度を限りなく近づけられると誤認するという弱点が、どうやらキツネにバレていたらしい。
「よぉ、ラグナ」
「ッ!!」
パワーアップさせた破諧調の仕組みは、テトラフィーアの世絶の神の因子を参考にした。
俺を中心に薄く伸ばした複数の破壊のエネルギーを音響探知の様に放出。
物質に触れるとほんの僅かに破壊値数を削る波動――、その減少値は物質によって異なる。
有機物・無機物
植物・動物
人間・獣
筋肉・骨
階層化されて識別される解析結果により、半径30kmほどの状況を理解。
浮き彫りになった生命の動きから、それらしい奴を探せば簡単に見つけ出せる。
「まんまと騙されたぜ。流石、悪辣で名高いワルトのペットだ」
奇襲をせずに声を掛けたのは、これが神を楽しませる物語であるから。
パワーアップした英雄の初舞台が、一瞬で終わって良いはずがねぇ!!
「……全力を出せ。ここから一気にクライマックスだぜ」
「戯れるな、小僧」




