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第163話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-ユニクルフィンside④」

「人間の超越者よ。私は貴殿に恨みはなく、そして貴殿は運が無かった。この八戒猪皇・テンポうげぉうわーッ!?」



 俺もお前に恨みはねぇし、運が無いのもお前だったな。

 二足歩行な猪のバケモン皇をザクっと処理しつつ、前を走っているラグナの進路を見やる。

 向かっている先には……、高めの破壊値数が5つか。



「うわぁー、テンポウゲンも瞬殺された!?もうだめだ、もうだめだーー!!」

「くっ、化け物め。ヒャクゴウですら数分しか持たないなど、考えたくもない悪夢だ。はっ」



 氷鬼を始めてから、約40分経過。

 倒した皇種っぽい奴は15体ほど。

 権能を使われる前の処理が基本だし、どれがニセ皇種なのか分からないが……、とりあえず、敵の戦力の10%前後は削ったぜ。



「どうしたラグナ、狼の癖に息切れしてるのか?」

「これほどの長時間、走り続けているのだ。平然としているお前の方がおかしいと我は思うが?」



 そりゃ、俺はズルしまくってるからな。

 走っていて疲れるのは、空気抵抗や地面との摩擦、重力などの外的要因を相殺して速度を維持しなければならないからだ。

 だが俺は、そういった外的要因の殆どをグラムで破壊しながら進んでいる。

 当然、消費するエネルギーは微々たるもの、つまり、ただ立っている時と同じ程度のカロリー消費しかしていない。


 そんな訳で、周囲に目を向ける余裕すらある訳だが……、まだ、サチナVS木星竜の激闘は収まっちゃいないし、リリンやワルトから連絡もない。

 レラさん達の指示では俺が紅葉と決着を付けるのは、他の狐の決着が付いてから。

 それが役割だってのは分かってるが、『待つ』ことに疲れちまいそうだぜ。



「ラグナ、いっそのこと、紅葉を下ろしてみたらどうだ。そうすれば光速で戦えるだろ?」

「断る。森に何が潜んでいるか分かったもんではない」



 潜んでいる奴、か。

 お前の進路上にいるのは、トカゲに馬、豚に牛、それと自称ユニくんのおねーさんが一人。



「えっ」

「にゃはははははー!なーにしてるのかな、ユニくん!!」



 殺意剥き出しで俺に駆け寄ってきていた馬の皇種の首に刃を差し込みながら、レラさんが笑った。

 軽快な足取りと口調で剣を返しつつ、そのまま一閃。

 近くにいた豚の皇も屠殺し、残った2匹を俺と分け合う。



「ほいっと!」

「《絶対破壊刃ガルブレイド!》」


「で、何してるん?」

「見ての通りだよ。今の所は言われた通りにしてるが……、」



 なんかモヤモヤするんだよな?

 なんというか、順調すぎて怖いというか、とにかく言葉にしがたい不安がある。


 そんな雑談を交わしつつ、2匹の皇種を処理。

 そのまま一緒にラグナを追う。

 って、レラさんが無事に戻って来たって事は、エデンの対処は終わったのか。



「エデンの方は大丈夫なのか?」

「なかなか面白いことになってたけどねー。ま、ユニくんほどじゃないよ?」


「俺ほどじゃない?」

「いやホント、な~~にしてんのさ?こんな所に一人で」



 ……。

 …………。

 ………………は?


 いや、一人ってそりゃ、相手は狼と狐だからな。

 って、そんなボケは通じないらしい。

 うーん、この英雄おねーさん、目が据わってる。



「一応、レラさんに言われたようにしたつもり……、なんだけど?」

「だーれに、なーにを、言われたのかなー?」


「……。他の狐の決着が付くまで、紅葉を取るのは不味いって、レラさんに」

「にゃは!そのおねーさんとやらは随分と敵の狐寄りな発言をしたもんだねー?」



 ……。

 …………。

 ………………もしかして、俺、またやらかした?



「3対3の狐同士の争い……、って事になってるけどさ、サーティーズはレーヴァテインに封印中。白銀比は音信不通。実質3対1な訳じゃん?」

「…………はい」


「サチナちゃんが負けた時点で、氷鬼は即終了。要するに、おねーさん達は様子見なんて悠長なことをしてる余裕なんてない」

「…………はい」


「一刻も早く狐の数を減らして、2対1に持っていく。それが勝ち筋だってのは分かるかなー?」

「…………はい」


「ちなみにあそこで走ってるラグナガルムと紅葉、偽物ね」


 ……。

 …………。

 ………………くそぉおおおお!!いつの間に変な記憶を植え付けやがった!?

 性悪狐狼どもめぇえええええええええ!!

 一刻も早くぶっ殺してやるうううううう!!



「おい、そこのお前ぇええ!!誰だか知らんが、よくもやってくれやがったなぁー!!」

「やっべ、バレたし」



 ラグナガルムに跨っていた紅葉が振り向いて、苦笑い。

 それと同時に、2匹のシルエットがぐにゃりと混ざって一つになる。



「《触媒の権能・飛躍の蜃気楼(アルミラージュ)!》」



 狼と少年の姿から、ローブを被った少女の姿への変身。

 その過程で一瞬だけ見えた白い毛並み……、もしかしてコイツは、人形兎の皇種か?



「くっそが、何が、ボケ倒してる脳筋から逃げるだけの簡単なお仕事だ、あんちくしょうめ。こちとらお前より先に皇になった先輩だぞ!?敬えー!!」

「兎だけあって脚力は高いみたいだな。よぉし、覚悟は良いか?」


「よくないよくない!!ほら見ろこの顔、ウチはリリンサと友達なんだ!!」



 えっっ。

 なるほど、リリンの顔を真似出来るくらいには面識があると。

 あー、そういえば、兎の皇種と仲良くなったって言ってたっけ?

 ……いや、それホントか?

 ちくしょう、何度も騙されてるせいで、自分の記憶に自信が持てねぇ!!



「ぶっ殺されたくなかったら、その出来の悪いモノマネを止めろ」

「はひぃ!これでどうだ?」


「知らねぇ幼女に変身すんな。うさ耳バニーガールを喜ぶ趣味はねぇ」



 俺の心の許容量は、タヌキと狐とクマとゲロ鳥でいっぱいだ。

 これ以上の動物枠はいらない。切実に。



「で、お前は130の頭、金鳳花側って事で良いんだよな?あ”ぁ”?」

「怒るなってぇ……。ウチだって苦渋の選択だったんだかんな。ラグナガルムと争って勝てる訳ねぇし」


「リリンと顔見知りって事は、ベアトリクスもそうだよな?」

「アルティの前の前の前から知ってるっての。お前の親父に殺された話もナー」



 ってことは、ベアトリクスと親しい?

 そういえば、色んなことを教わった皇種がいるって聞いた気も……?



「レラさん、どう思う?」

「触媒の権能+時の権能+光の権能の三重認識阻害。おねーさんの目じゃなきゃ見逃がしちゃうね」


「厄介過ぎるだろ。俺の気分的にはグラムのサビにしてやりてぇ所だが……、最善はレーヴァテインに封印か?」



 俺が殺してもクリスタル化するだけで、一切の足取りが掴めていない金鳳花が触れるだけで戦線復帰してしまう。

 その後、別の誰かに化けて攪乱されれば、今度こそ致命傷を負いかねない。

 そんな訳で、レーヴァテインに封印しておくのが確実だと思ったんだが……、あ、レラさんが怯える兎の耳を掴んで持ち上げた。



「にゃはははー。レジィ、兎捕まえたけど、いる?」



 あっ、どうやら大魔王陛下に売り飛ばすようです。

 転移の魔法陣が繋がっている先が、魔王の食卓じゃないことを祈るぜ!!



「アルミラユエト、リリンちゃんの他におじさんが3人いたっしょ?」

「いたけど……」


「そいつらの所に送るから、大人しく一緒に事情聴取を受けてね。あ、言っておくけど、おねーさんは兎料理超得意だからね?」

「分かりましたぁ!」


「という事で、レジィの好きなようにして良いよー」



 そしてレラさんは、兎を魔法陣に投げ捨てた。

 次代の英雄、動物愛護団体からクレーム貰いそうだな。



「そんで、ユ、ニ、く、ん?」

「はい、分かってます、俺はどこに向かって走ればいいんでしょうか!?」


「にゃは!ラグナガルム達がいるのは、木星竜の跡を横切った反対側の森だよ」

「つまり俺は真逆の所に誘導されてたって訳か、マジで許さねぇからな、ラグナワンコー!!」



 ちなみにレラさんは、誰も注目してない場所に隠れている伏兵がいないか捜索していらしい。

 が、俺が誘導されていた事で、ここが死地だと確定してイラっと来たと。

 ふっ、やるじゃねぇか、キツネ。

 レラさんと大魔王陛下を手玉に取るとか、流石に何千年も暗躍しているだけのことはあるようだな。


 ……ちっくしょうめ、ボケ倒してる脳筋の馬鹿力を見せてやるッ!!

 首を洗って待ってろ、狼狐どもーーッ!!!!

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