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第6話「悪魔会談・医者的見解」

「……とりあえず、着ただけじゃ爆発しないみたいだな」

「爆発なんてする訳ないじゃない!私をなんだと思っているの?」


「「悪魔デヴィル。」」

「それ言われたの二回目なんですけど!というか、爆発するようなもの着させる訳ないでしょ。私、医者なんだよ?」



 ……俺だって、本当は分かってはいるさ。

 ”医師”、カミナ・ガンデは常識に富んだ真っ当な人間だとは思っているんだ。


 だが、医師ソレと心無き魔人達(コレ)の統括者とは話が別だ。

 如何に医師として卓越した技術があろうと、触れあった患者から尊敬されていようとも、それはそれ。


 今、俺の隣の席にはリリンという可愛らしい顔立ちの大悪魔がいる。

 リリンが居る以上、目の前のカミナさんも、そちら側なのだ。


 現在行われているのは、悪魔会談。

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)と呼ばれた者のみが出席する事が許される、禁忌の宴。


 そして、つい先ほどまで恐るべき話題で盛り上がり、結局トンデモナイ事になってしまっていた。

 これは、2000万エドロという大金をはたいて購入した鎧が、悪ノリによって無残なものへと変貌していった物語。

 俺の目の前にある紙には、乱雑に書き殴られたいくつかの文字。

 その中で、決定という意味を込めて二重丸が付けられたものが以下の内容だ。



『鎧の付与魔法』


 グラム召喚陣

 最軽強化

 速度上昇

 硬度上昇

 キラキラ・ラメ加工

 ほっかほかカイロ機能

 目覚ましアラーム機能

 指から不意打ち主雷撃!

 自爆

 12種アロマの癒しの香り



 ……なんだこれッッ!!?


 上の方はいいんだよ、実にそれっぽいからな。

 だけど、『キラキラ・ラメ加工』はいらないだろッ!?盗賊相手にキラキラを見せてどうするッ!?

 ……目覚まし機能もカイロ機能もまぁ良いだろうよ、戦場でアラームが鳴るのは意外と便利かも知れないからな。

 だけど、なんで戦闘用の鎧にアロマの香りを付けたッ!?

 常に癒し効果があるよって、戦闘中に和んでたら永遠に眠る事になるわッ!!


 そして、自爆。もうノリで付けやがっただろ。

 リリンが言った瞬間、断る間もなく彫りやがったもんな。


 ……コイツら、もうほんとに大悪魔デヴィル

 いや、もしかしたら違うかもな。

 魔王デモンだったとしても驚かないぜ!


 俺は自棄になりながらも、現状を確認するためにカミナさんに問いかけた。



「……一応聞きますけど、この魔法陣って消せたりします?」

「それは無理よ。金属に直接彫り込んだ訳だから質量が減ってるもの、元に戻る訳ないわ」


「ですよねー。……戻せないの分かってて自爆機能付けるとか、もうほんと酷い」

「自爆は使い方次第でそこそこ役に立つわよ?」


「どんなふうに?」

「敵の一団に突っ込んでの自爆。いうなれば人間爆弾ね!」


「嫌だわッ!!そんな死に方は断る!」

「そこはちゃんと死なないようになってるわよ。爆発の瞬間、装備者の肉体に対して自動的に第九守護天使セラフィムが発動するようになってるわ」


「へぇー。それならば安心?なのか?」

「服がはじけ飛んで全裸になるけどね」


「ふざけんな!社会的に死ぬじゃねぇかッ!なおタチが悪いわッ!!」



 もし街中で追い詰められて自爆でもしてみろ。

 すぐに警察と第二ラウンドを繰り広げる事になるんだぞ。

 そして新聞で全裸写真を公開されることになるのだ。


 ……不名誉な事この上ない。

 こと誉れ高き英雄の親父でさえ、世界中でネタにされているという事実。

 それなのに息子の俺がそんな事になれば、きっと比較とかされてしまうんじゃないだろうか。

 ……何が何でも、それだけは阻止しなければ。



「絶対に使う事はないと思いますけど、暴発を防ぐために使い方を聞いときたいんですが?」

「この鎧に付けた全ての魔法は、自分で魔力を注ぐことで効果を発揮するわ。着ていれば魔力が流れていくのが分かるでしょ?」


「……ん?そう言えば身体から熱が奪われていくみたいな感覚があるような?」

「そうそれが、魔力の流れよ。その流れを増やせば効果が強くなるし、減らせば効果が弱くなるわ。しかもその鎧を着ているとそれだけで魔力のコントロールが上手になるはずよ。いい事づくめね!」



 ……いい事づくめ?

 そんなわけねぇだろ。この機能を見て満足する奴なんかこの世界どこを探してもいないと思うんだが。

 ほら、さっきまでハシャギまくってたリリンもあまり会話に参加してこない。

 きっと、悪ノリし過ぎた事を反省しているんじゃないだろうか。



「……カミナ。やっぱりロケットパンチは捨てがたい。どうにか考慮して欲しい」

「射出の魔法陣はそれだけで結構大きいものになるから、鎧としての機能面を削ることになってしまうのよ」


「……むぅ。鎧の効果が減ってしまっては本末転倒、しかし……」



 ……あ、ダメだこれ。未だにロケットパンチとか言ってやがる。

 なにがそこまでリリンを掻き立てるのか。



「リリン。なんでロケットパンチにこだわるんだ?」

「だって、英雄はロケットパンチをたしなむらしい。英雄ホーライもそう本に書いている」



 どういうことだよッ!

 英雄ホーライめ!なんて事を書いてやがるんだ!!

 まったく、熱狂的なファンに振り回されるこっちの身になって欲しい。


 俺はこれ以上変な機能を追加される事を防ぐべく、話題を変えることにする。

 悪いな、リリン。ロケットパンチなんて死んでもいらないんだ。



「俺の装備はこれで満足です。ありがとうございました。それで、カミナさんに聞いてみたい事があるんですが……」

「ん?私に聞きたい事?」


「えぇ、実は俺のレベルについてなんですけど」

「ん?見た所、普通に見えるね?」

「それについては私から説明しよう。ユニクは私と出会った時、たったの100レベルしかなかった」


「は?」



 カミナさんが、「何を馬鹿な事を言ってるの?」っていう顔をしている。

 眉間にうっすらとシワを寄せ、もう一度短く、「は?」っと息を吐いた。



「ちょっとごめん、意味が分かんない。成人男性が100レベルってあり得ないんだけど」

「いや、間違いなく100レベルだったぞ。本人の俺が言うんだから間違いない」

「そう、確かにユニクは100レベルだった。これは間違いようの無い事実」


「大前提として、100レベルと言うのは1歳児前後、完全離乳の時期が大体それに当たるわ」

「……俺、乳幼児だったのか」

「それはそれでかわいい。じゃなくて、そんな事が事実として起こった」


「ちょっと私的には信じられないけれど、医者として、そういう事実があったと仮定して話を聞きましょう。その100レベルがどうかしたの?」

「直接は関係ないけど、リリンが言うには俺のレベルは上昇しにくいらしい。他の新人冒険書と同じ事をしても、確かに半分くらいしか上がらなかったしな」

「流石にアレなので私、直々にレベル上げを行っている。内容はホロビノとのじゃれ合いを含めた模擬戦闘など。ここに来る途中三頭熊との戦闘も経験済み」


「三頭熊、か。確かにアレと戦ってレベル9000代はおかしいわね。少なくとも2万は超えていても不思議じゃないわ」

「2万……。やっぱり俺のレベルは上がりにくいのか?」

「それにユニクはなぜか記憶を無くしている。村に行く前に何があったのか何一つ覚えていないという」


「記憶喪失も?一定期間から前の記憶が欠落しているってことかな?」

「えぇ、村に来る以前の事は何一つとして覚えてきません。親の顔さえも」

「なんとか、ユニクのレベルが上がりにくい原因を突き止めたい。そして、可能ならば記憶も取り戻させてあげたいと思う」



 よし。上手く話題の変更が出来たようだ。

 ロケットパンチな未来は回避された。


 そして、この話題はあらかじめリリンと相談し質問しようと決めていたものだ。


「カミナならば医療的な観点からユニクのレベルに関して何か分かるかもしれない」


 リリンに曰く、何かしらの病気と言う可能性も有るかもしれないとのこと。

 レベルはともかく、記憶の喪失に関してはあまり好ましい事ではないらしい。

 そしてそれはカミナさんも同意なようだ。

 ふざけきっていた雰囲気が一転、きりりとした重厚さが空気を支配した。



「そうね。レベルについては最近の研究結果で面白い論文が発表されたわ」

「「論文?」」


「『人のレベルとはどんな事をしても逆行する事はない』という論文ね。今まではレベルとはすなわち経験、”エピソード記憶”に由来するとされてきたの」

「記憶と関係がない?」


「そう。脳の病気を患って記憶を失っていってもレベルの逆行は起こらなかった。逆に未体験の事を行うことで上昇を示したという内容ね。その観点から記憶とレベルには何ら関係性がないと結論が出たわ」

「そうなんですか……。記憶がないからレベルが低いのかと思っていたんですけど、違うのか」


「レベルと言うのは神が作った機能。それについては未だ不明瞭な事が多々あるの。だけどレベルの逆行と言うのは基本的には起こらないとされているわ、ある一点を除いて」

「……魔法、ですか?」


「察しが良いわね。そう。リリンも使っているけれど、レベルを偽る『過去の栄光』という魔法がある。この魔法は自身のレベルのみを変更できるものだけど、もしかしたら、他者のレベルを無理やり変更する魔法があるのかもしれないわ」

「そんな魔法が……?」

「あるかもしれないけど、その可能性は極めて低いと思う」



 ここでリリンが会話に入って来た。

 リリンの話ではその可能性は極めて低いらしい。



「……何でだ?」

「『過去の栄光』は不安定機構・深淵アビスに封印されていたおそらく高位の魔法。ランクの明記さえなく、体感でもその難易度はランク9並み(最高難易度)だった。この魔法の上位版があるとは考えずらい」

「そうね。レベルを自由に変更できるなんて、レベルシステムを根本から否定するようなものだもの。簡単であるはずがないし、そういった関係の魔法は例外なく難しい。過去に似たような現象はなかったかしら……《サモンウエポン=魔法典範》」



 カミナさんは一冊の本を召喚し、机の上に開いて置いた。

 どうやら、この本を使って何かを調べるらしい。


 そして、カミナさんが「検索条件、レベル認識・変更」と呪文を唱えた。

 すると、突然ページがひとりでにめくられ出す。


 ぺらぺらとめくられていく不思議な光景に目を奪われていると、だんだんと動きが遅くなっていき、そしてとあるページで完全に止まった。

 そこには、一つの呪文が載っていた。



『虚無魔法(古代喪失魔法)・知らぬ傲満世界(プライド・ハート)



「なんだこの魔法?リリン分かるか?」

「いや、初めて目にする。詳しい説明を読もう」



『虚無魔法(古代喪失魔法)・知らぬ傲満世界(プライド・ハート)


 他者の認識を捻じ曲げ、視界に映るレベルを100分の1にしてしまう魔法。

 この魔法は非常に難解かつ魔力の消費が大きい為、現在では再現が不可能。

 歴史上扱う事が出来たと確認出来ているのは、『魔導王、ホロボサ・タレヌキ』と『伝説の英雄ホーライ』のみである。



 ……は?

 なんかこの魔法、身に覚えがあるんですが。

 これはどう考えても、俺に掛けられていた『見識に差が出る』魔法だ。


 現代では再現不可能らしいが、英雄ホーライなら使えるとも書いてあるな。

 どういう事だ?

 目的の魔法とは少しずれているものの、まったくの無関係とは言えなさそう。



「なぁ、この魔法、たぶん受けた事があるんだが」

「え?」


「俺は村から出る前まで、レベルは100単位なんだと思っていた。たぶんこの魔法のせいだ」



 不思議そうに首をかしげる二人。

 そんな目で俺を見られても困るんだが。


 俺は可能な限り故郷ナユタ村での記憶を思い出す。

 そうだ、何度かじじぃに訪ねた事があったはずだ。


 確か―――


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