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第158話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-真・タヌキside⑥」

「じゃあしょうがねぇな。俺の独断でやっちまうぞ」



 エゼキエルリリーズのコクピット内で、ソドムが目を細めた。

 彼が乗っているのは、バランスボールの様な形状の操作ユニット。

 リリンサが座っていた人間用の操縦席から換装されたそれは、ソドムの操作技術を十二分に引き出す特別製ユニットだ。



「物理現象弱体化ジェネレーターに真理究明の悪食=イーターを連結。『摩訶鉢特摩まかはどま』、起動」



 エゼキエルリリーズに新たに搭載された、対光速アンチバッファシステム、『摩訶鉢特摩まかはどま』。

 両肩の巨大なジェネレーターユニットから吹き出す粒子は、相手の脆弱性を見抜き、そこに直撃する第八寒地獄の風を生む。

 それを全力で吹き荒らした場合、神製金属並みの肉体強度を持つ者以外は即座に行動不能に陥り、数十秒後には風化する――、第八寒地獄と化す。



「ブチ転がしてやるよ、エルァ!!」

「食ろうてやるわ、クソタヌキィ!!」



 ソドムは球状の操作ユニットの表面を高速で連打し、今から10秒間の展開を予測入力。

 まずは、亜光速での突進、尻尾の残像魔法陣ストロボサークレットから放つ風と光魔法を推進力にして、右腕の5枚の刃を煌めかせる。



「《天撃つ硫黄の火(メギドフレイム)絶炎皇爪ウォークロウッ!!》」



 爆発的な移動速度を発揮するエゼキエルリリーズ、それを認識したエルヴィティスは……、跳ねた。

 空に突き刺している肩から出ている根を巻き取り、垂直に移動。

 1秒もの余裕を残して回避される絶炎皇爪ウォークロウ、だが、ソドムの本命の攻撃はここからだ。



「んな分かりやっすい弱点にぶら下がりやがってよ」

「がっ!!」


「ぶっ壊してくれってアピールされてるみてぇだぜ?」



 神殺しのエネルギーを纏わせた斬撃は、囮。

 ソドムの真の狙いは、先端に悪食=イーターを出現させた尻尾による捕食破壊。

 モーニングスターの様に叩きつけた尻尾がエルヴィティスの右肩に直撃、そして、正体不明物質で出来た木の根を木っ端微塵に噛み砕いてのみ込んでゆく。


 ――知らねぇ金属だな?

 ムーのライブラリにすらねぇとこを見ると、あっちの世界の物質か。


 ソドムは見ていた。

 エルヴィティスから伸びた根が世界を突き破る瞬間を。

 そして、割れた世界から全く同じ物質が伸び、根同士が癒着する光景を。



「ムー、解析結果を寄越せ」

『含有成分は、鉄、ウラン、胴、ニッケル、アダマンタイト、マテリアルタイト……、なるほどねぇ、極めて魔力伝導率が高い結晶構造。要するに、魔力だけを吸い取るスポンジみたいな?』


「だからか。俺の魔力がゴリっと減ったのは」

「問題なのは、その結晶は神経扱い。そのままの意味で神経速でエネルギーと情報をやり取りしてる。摩訶鉢特摩も大して効いてない!」



 ソドム達は、エルヴィティスが生み出された世界があると知っている。

 そしてそこには知らない物理法則で動いており、未知の現象の方が多いことも理解している。

 いかに物理現象弱体化ジェネレーターが最新型であろうとも、未知の理には影響を及ぼせない。


 だからこそ、エルヴィティスは根を空に伸ばした。

 世界を隔てる壁を壊し、生まれ故郷の理にアクセス。

 知識の中に保存されていたエゼキエルとソドムの戦いに勝利する方法として、堅実な手段を行使する。



「バレてもうたか。が、お前が足引っ張るのが得意なんはワイも承知しとるんやで」

「くっくっく、いいぜ。見せてやるよ、生まれ変わったエゼキエルリリーズの力をなぁ!!《落ち逝く世界こそ美食ガストロノミー・オブ・ナユタ》」



 ぐるりと尾を一回転させ、空気中に魔法陣を転写。

 水平にバラまかれた25万発の魔法陣で作った結界、それは、那由他の悪食=イーターの第二形態、星噛=イロードを模したもの。

 世界を容易に破壊する王蟲兵を駆除する際に、ソドム、ゴモラ、エルドラド、ムーの四匹掛かりで発動する、大規模タヌキ決戦フィールドだ。



「一機で……!」

「おう。オリジナル程じゃねぇけどな、お前をぶっ潰すにゃ十分だぜ!!」



 それは本来、ソドムが持つエクスカリバー、ゴモラが持つルインズワイズ、エルドラドが持つヴァジュラ、ムーが持つシェキナ=ヴァニティの四つの相乗効果を掛け合わせて作るものだ。

 王蟲兵退治が大変だとされているのも、蟲の攻勢を裁きながらこの魔法を発動させて閉じ込めるという、曲芸じみた戦略が必要になるせい。

 王蟲兵が蟲の軍勢から進化して生まれる以上、トップだけを潰せばいいという話ではないからだ。



「つーことで解説は必要か?エルの知識があるならいらねぇだろ?えぇ?」

「煽りおる。ホンマクソタヌキの所業やで」



 四つの神殺しを掛け合わせた効果、それは、自分に『勝利』と『不敗』を、相手に『自滅』の『予兆』を付与し、それを成す為の前提を『想像』し『想像』。

 整えた環境を自分たちに『結束』させ、想定外から『決別』させるという、神を殺す手段の一部分だ。


 具体的に言うならば……、エゼキエルリリーズの攻撃は常時確定クリティカルを発揮。

 それ以外の存在の行動は常時確定ミステイク、動けば動くほど思考に雑念が混じり、自ら性能を大きく減退させる。

 さらに、そこに偶然を装った環境が牙をむく。

 整えられた環境内での戦闘は常にエゼキエルリリーズにのみ有利な物理現象を起こし、攻防のついでに周囲の敵も破壊。

 王蟲兵と戦うだけで雑魚敵も一掃できる一騎当千――、ソドムがカナンに邪魔だといった理由も、確実に戦闘に巻き込んで撃墜させてしまうからである。



「神経速?それがどうした?んなもん、クソ蟲どもと同じだろうが」

「そう思うんは勝手や。が、足元掬われんといいけどな?」

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