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第157話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-真・タヌキside⑤」

「待たせたな」

「……にゃは、11秒の遅刻だよ、タヌキくん?」



 ソドムがエルドラドの救出を最優先事項に設定しているのにも関わらず、11秒も空で待機していた理由、それは、ローレライを使って情報収集をしていたからだ。


 全てのラボラトリータヌキが『最高傑作』と評価したエゼキエルリリーズの索敵範囲は、半径50kmにも及ぶ。

 ソドムは事態を把握した直後に物理現象弱体化ジェネレーターを全開で稼働させ、移動開始時点で既にエルヴィティスの解析を開始。

 だからこそ、雑な乱入を躊躇した。

 帝王枢機としてのあらゆる前提が崩壊している現在のエルヴィティス、その挙動から得られる情報をソドムは欲し――、ローレライが行っていた一連の動作テストから、莫大な情報アドバンテージを得ることに成功した。



「ちっ、しゃーねーな。あとでバナナを奢ってやる!」

「そりゃどうも。あ、多めにちょうだい、ケーキ作るからさ」



 おねーさんの出番はここまでだと、ローレライは二匹のタヌキに背を向けた。

 次の役目は温泉郷内のフォロー、リリンサとワルトナの勝負の行方によっては、再びレーヴァテインを抜く必要があると覚悟を改める。



「ついでに一つ、頼まれてくれねぇか?」

「にゃは?内容による」


「いまだに姿を現さねぇ、残り3種の皇を探してくれ」

「……3種ってなにさ?」



 現存する皇種の数130種、そして、蟲と蛇の2種はいまだにソドムの索敵に引っかかっていない。

 それぞれ怪しい個体はいくつか見つけてはいるものの、皇の資格を持つ確証を得ていないのだ。

 そして、この世界には生まれたばかりの……、8番目の始原の皇種が存在する。



「ユルドルードだよ。あれは130には含まれてねぇ。ついこないだ正式に皇種になったばかりだからな」

「……ユルドさんが敵に回ってる可能性があるってこと?」


「アプリコット達が魂に根付いた種子弾丸に気が付かなかったのも、無色の悪意に汚染されていたからだろ。普通に考えて、ユルドルードが無事とは思えねぇな」



 自発的な争いを禁じている、蟲量大数、那由他、不可思議竜を戦わせる最も手っ取り早い方法。

 それは、無色の悪意で作った『敵』をコントロールする事だ。



「だが、ユルドルードが出張って来るのは次の章……、って可能性も十分ある。それと、金鳳花はどっかに居るぞ。白銀比を閉じ込めてるのは、かくれんぼが得意な紫蘭だろうしな」

「随分と情報をくれるじゃん。不干渉なんじゃなかったっけ?」


「そりゃ、リンサベル家にちょっかいを掛けている場合の話な。直接的に俺らタヌキに喧嘩を売りやがったんだ。ぶっ殺すに決まってるだろ」



 ソドムはキレている。

 そりゃぁもう、カツテナイほどにブチギレ散らかしている。

 シアンと約束した『リンサベル家には過度な干渉をしない』という盟約も忘れていない……、だが、真正面から売られた喧嘩をスルーする程、大人しい性格をしていない。



「にゃは、じゃ、ついでに教えてよ。君が考えた最悪のシナリオをさ」

「ダンヴィンゲンの参戦。奴は今だに、無色の悪意を発露した形跡がねぇ。ヴィクトリアが作った王蟲兵じゃねぇから、制御不能に陥る可能性がある」


「蛇の方は?」

「アマタノに無色の悪意を植え付けてもしょうがねぇ、意地でも蓋麗山ゆたんぽを死守するだけだし。だから、俺が狐なら眷皇種を操って殺させ、配下の敵討ちって名目で参戦させるぜ」


「ありがと。このお礼はバナナケーキにして返すよん」



 ローレライはソドムとの会話をレジェリクエに流し、いくつかの言葉を交わす。

 そして、追加された3種の皇の捜索は絶対視束を持つ自分がやるのが効率いいと、新しいプランに移行した。



「で、おいそこのお前。随分とお行儀よく待っててくれるじゃねぇか」



 この場を去ったローレライから視線を外し、ソドムは濃紫の機体を睨みつける。

 直立不動な姿は、まさしく阿修羅像の様に禍々しい。



「……さてなァ。人の会話を遮ってまうのは、マナーに反するんちゃうか?」



 そして、ローレライとソドムのやり取りを傍観していたエルヴィティスが、その問いに答えた。

 声質も言葉のチョイスもエルドラドに瓜二つ、だが、それが彼の物ではないとソドムは見抜いている。



「言語も習得済みか。ってことはマジでやべぇな、悪食=イーターだけじゃなくエル本体との『結束』も始まってるくせぇ」



 悪食=イーターに保存されているのは知識のみであり、純粋な人格は意図的にしない限り保管されることはない。

 人格や魂の操作は不可思議竜の領分であり、仮に、悪食=イーターに人格を保存する場合は魂ごと捕食しなければならないと那由他が定めている為だ。


 だからこそ、エルヴィティスがエルドラドの口調を得る為には、直接的に干渉するしかない。

 そして、肉体と精神が結びついた状態で雑に引き剥がせば、魂に致命的な損傷が発生する可能性がある。

 それこそ、那由他ですら再生できない事態となると、ソドムは鋭い犬歯を噛みしめる。



「ムー。解析は終わったか?」

『まだ』


「じゃあしょうがねぇな。俺の独断でやっちまうぞ」


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