第5話「悪魔会談・鎧の魔改造」
「あの……カミナさん、聞いてもいいでしょうか?」
「ん?どうしたのユニクルフィンくん?そんなに改まって」
不思議な事でもあったかのような表情でカミナさんはキョトンとしている。
いや、その表情は俺がしたいんですが。
だってカミナさんは医者のはずだ。現在進行形で白衣を着ているし、昼間だって手術があると言っていた。
第一、ここは病院の地下だし。
なのになぜか技術屋みたいな事をしだしている。
今も、さっき考察に使った魔道具を元の形に組み直している途中。もの凄いスピードで組み上がって―――あ、オワタ。
俺の中で葛藤が続く。
一体彼女は何者なのだろうか。いやまぁ、心無き魔人達の統括者だけどそれ以外でだ。
一人で探っていても答えは出てこない。
迷ったら素直に聞くに限るか。
「カミナさんって、医者ですよね?なんでそんな機械いじりが出来るんですか?」
「それはねぇ……」
「それはねぇ?」
「趣味、だから?」
「……。趣味ッ!?」
「そうねぇ。なんて言ったらいいのかしら」
「カミナが機械をいじるのが得意なのは、彼女の半分が機械で、でふぃてぇいふらふぁ!」
「……。リリン?」
「リリン。誤情報を流すのはやめなさい。おしおき追加するわよ?」
「じょふふぁん!じょふあんらから!」
俺の問いかけに、何て答えるか迷いを見せたカミナさん。
その隙を、うちの無尽灰塵さんは見逃さなかった。ここぞとばかりに誤情報を仕掛けに走り、そしてあっけなく捕獲されている。
一瞬で間合いを詰めたカミナさんにほっぺを引っ張られ、リスみたいになっていた。
まぁ、ここはリリンが悪いし放っておこう。普段からほっぺを膨らませているし多少伸びても問題ないはずだ。
俺はカミナさんの肩を持つ。
だってリリンを捕獲した今の動き、マジ、ヤバかったし、一瞬だけ残像が見えた。
「それで、得意な理由ですけど……」
「んーまぁ、実家のせいってのも有るけどね、一番は趣味かな」
「実家のせいで趣味?」
「お!そうそう、その表現がしっくりくるわね!私の実家は結構有名な魔道具の研究家なのよ。それで小さい頃から触れてたら出来るようになってたの」
「へぇ、凄いですね」
「ユニク、カミナの機械技術の腕は本当に凄い。というか、そっちの業界でもカミナは”神童”扱いされているくらい。私の魔道具も、ほとんどがカミナの魔改造を受けている」
「もー!リリン、今さら褒めても遅いわよ! それに、私のはあくまで趣味の領域。ちょっと凝り性なだけ!」
カミナさんは謙遜しつつも、テキパキと道具箱からペンチやドライバー、ニッパーやら銅線やらを取り出し綺麗に机に並べている。
非常に手際が良く、絶対に慣れている。
これはもしや当たり何じゃないだろうか。
医者が機械いじりなんて専門外の事をしてもしょうがないと思ったが、そう言えば彼女は悪魔だった。
この再生輪廻さんは人間の他にも様々なものを解体し、直す事が出来るようだ。
さすが、心無き魔人達の統括者。規格外だぜ。
「ちなみに、どんな事が出来るんですか?」
「ユニクは驚く。絶対に驚く」
「ふふふ、実はねぇ……」
え?何この雰囲気。
あからさまに不敵にニヤケるリリンと、ちょっと得意げなカミナさん。
あ、これ、ヤバそうな奴だな。身構えとこ。
俺は心の準備を着々と準備していく。
そして、完了とほぼ同時にカミナさんから衝撃の事実がもたらされた。
「この病院の設計から製造、運用、保全は私が責任者やらせてもらってます!」
「いきなりトンデモねぇスケールの話になったッ!!」
「ほら、驚いた。カミナは凄い、病院を建てることなんて朝飯前」
え?こういうのっって普通、本職の方がやるもんじゃないのか?
いくら興味があるからってホイホイ病院なんか建てられても反応に困るんだが。
「えぇっと……カミナさんって医者だよね?」
「そうね。おおよそ名医と呼ばれていると思うわ」
「じゃあおかしいだろ!?なんで病院の設計してるんだよッ!?」
「だって、自分でやりたかったし、みんないいって言ったし」
「……。いや、話がそれつつあるな。何でそんな事が出来る?それはもう、趣味の領域を超えてるだろ?」
「え?趣味について勉強するのって普通の事じゃない?」
「ユニク、カミナに勉強の事を言っても何一つとして納得できないから無駄。ホーライ伝説を一冊15分で読み切るような人には常識が通用しない」
……は?ホーライ伝説って一冊400ページくらいあるんだが。
それが何をどうしたら15分で読めるんだ?
つーか、非常識極まりないリリンにすら、常識が通用しないとか言われてるってヤバすぎだろ!
「つまり、カミナさんは凄い速さで読書とかして勉強し、趣味の機械いじりを極めてしまったと?」
「そうね。どんな魔法陣も大体書けるし、殆どの魔導具を再現できるわ」
「……すっげぇ。マジで意味分からん!」
カミナさん、凄すぎるだろ……。
さすがは、再生輪廻なんて大層な肩書きを名乗っちゃうだけの事はある。
だが、今からお世話になる俺としてみれば心強い事、間違いなし。
せっかくだ、カッコイイ鎧をさらにカッコ良くしてもらおう!
「で、私は何を改造すればいいの?」
「まずはユニクの鎧に魔法紋を刻んで欲しい」
カミナさんは意外と乗り気で何をすればいいか聞いてきた。
俺も具体的にはさっぱり何も分からないが、そこはリリンがちゃんと案を用意していたらしい。
リリンの案では俺の鎧にグラムを召喚する為の陣を刻み、いつでもグラムを手に取れる様にしたいとの事。
後はグラム同様、重量変化の魔法陣やら速度や防御力の上昇などの機能も付与したいとか。
「よっし、じゃ、ぱぱっと済ませますか。ユニクルフィンくん、脱いで」
「えっ!?」
「脱がないと作業できないでしょ!ほら、早く、早く!!」
「え、ちょ、そんな、急に……」
「えぇい!!まどろっこしいわね!リリン、剝ぎ取るわよ」
「らじゃー!」
「ちょ、う、嘘だろ?え、あ、ら、らめぇぇぇぇぇ!!」
うおぉぉぉ!俺は今、悪魔の襲撃を受けているッ!!
二人がかりで俺を押さえつけ、鎧をむしり取っていく。
さらに背の小さい方の悪魔が調子に乗って普通の服まで剝ぎ取って行こうとするので必死に抵抗し、なんとか難を逃れた。
……なにこの羞恥プレイ。
可愛らしい顔立ちの女の子二人組に追いハギされたんだが。
つーか、こいつらやけに手慣れてやがったな、手際が良すぎるぞ!
さては、日常的やってやがるな。追いハギ。
「じゃ、ちょちょいっとやっちゃいますかね。ふんふーんちょちょい!!ほい出来た!」
「ちょっと待てッ!!いくらなんでも早すぎるだろッ!?真面目にやってくれ!!」
「やったよ?ほら、綺麗に書けてるでしょ?」
……なん、だと?
そんなバカなと慌てての鎧を覗きこんだ俺の視界には、カミナさんが見やすいように傾けてくれたせいもあって鎧の内側がはっきりと映った。
マジか。すっげぇ精密な魔法陣が鎧の内側にはっきりと刻んである。
そして、表面の左胸にも三つの円が重なり合ったような複雑な魔法陣が刻んであった。
どう見ても仕上がっています。本当にありがとうございました!!
あまりの速さに冗談めいた事が頭の中にかすめるが、現実としてそこには魔法陣があるのだ。疑いようがない。
「あの一瞬でどうやったんですか?まるで意味が分からんのですが……」
「えー!?ここでも解説しなくちゃいけないの?面倒だなぁ……いい?一回しか言わないからね?」
そう言いつつも、カミナさんは一応の解説をしてくれた。
俺の鎧の金属は 剛性流動金属という特殊なもので、慣れてしまえば非常に加工がしやすいらしい。
通常鎧に魔法陣を描く場合は、一度別の金属に魔法陣描き、それを転写するか金属そのものをくっつけるというやり方をするのみたいだが、この金属ならば直接作画用の魔道具で描けるのだそうで。
結局何をしたかと言えば、この複雑な模様を2か所、フリーハンドで鎧に彫り込んだという。
下書き無しで、模様を決めながら、一発書き。
まったく意味が分からない。描かれた魔法陣をもう一度見てみる。
どう見ても正円。当然歪みや擦れもない。
リリンが言うようにカミナさんって本当は機械か何かなんじゃねぇの?
そんな事をつい口に出したら、カミナさんに割と本気めに怒られた。
カミナさん曰く、私は人間です!だそうだ。
とてもじゃないが信じられないな。心無き魔人達の統括者だし。
※※※※※※※※※※
「まだまだ魔法陣の追加が出来るよ?他には何を付ける?」
カミナさんが追加の打診をしてくれている。
俺としちゃ他にも脚力強化や防御力上昇、体温調節機能とかそういうのが欲しい。
いつも身につけているものだからな、服としての機能を充実させておきたい。
だが、どうやらリリンは違うようだ。
「私も提案したい!そう、まずはロケットパンチとか欲しい。あと電球つけてキラキラさせよう!」
「おっけー。ロケットパンチに電球ね」
「ちょぉぉぉ!そんなもんいらねぇよッ!」
「後は、必殺技とか?」
「必殺技っと」
「鎧なのにッ!!?」
それからも、リリンの暴走は続く。
俺はご機嫌を損ねないように細心の注意を払いつつ、変な機能を根こそぎ切り落としていった。
そして、会議開始から1時間後、俺の鎧が完成した。
見た目はさほど変わっていない。だが、盛り込まれてしまった機能が恐ろしい。
俺は慎重に鎧を持ち上げ、ふと、とある事を思いつき一度机の上に戻した。
「……《第九守護天使》。」
よし、俺自身に防御の魔法は掛けた。
これで安心して試着が出来るな。
身を守る鎧を着る前に防御魔法を掛けなくちゃなんないなんて、本末転倒だよなぁと思いながら鎧に体を通していく。
ふむ、着けただけで爆発はしないようだ。