第151話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-ローレライside⑥」
「え、エルが良いって言ったのですからね!?壊れても良いって!!」
「何の話や。ワイはただ……」
「嘘、なんで回路を壊したのに動けるのですかっ!?」
「エルヴィティスを進化させたかっただけや」
エルドラドが漠然と考えていた……、ライバルを倒す方法。
それは、親しい友であるが故の願い。
エルクレスとう”ぃー太の時代の関係は、ややエルドラドの方が優勢だった。
大雑把なソドムは人化が得意ではなく、魔法の詠唱適性も狭かったが故の差だ。
だが、その力関係は魔導枢機エゼキエルの登場で逆転した。
ホロメタシスの想いを受け継いだソドムが必死こいて頑張った結果、不得意だった生命魔法系の適性を獲得。
そうして、エルドラドの追随を許さない戦闘力を手に入れた。
ソドムとエルドラドが両者ともに帝王枢機に乗って戦った時の戦績は、おおよそ7対3。
だが、那由他が語った異世界の情景では、エルヴィティスの方が新型だ。
それを用いた戦争の趨勢もエルヴィティスを持つ国が優勢。
ならばこそ、その差を覆してしまうソドムの力量の高さに称賛を贈りつつも、僅かな屈辱を感じていた。
「進化って……?機械に成長性があるなんて話、聞いたことがないですよ??」
「だからやねん。エゼキエルもエルヴィティスも、そん時の最新技術を詰め込んで作ったもんなんやから、優劣なんか付かへんわな」
グラム=ギニョルが差し込まれたエルヴィティスの傷口から、鮮血の様なオイルが噴き出す。
想定外に吹きかかる飛沫に塗れたエデン、その表情は100%の驚愕だ。
「これは……、血!?」
「かもしれへんな。刺された腕が熱くてしょうがあらへんわ」
実機を召喚されたエゼキエルと違い、異世界版エルヴィティスの情報は無いに等しい。
那由他が記憶していた外見と、破壊した時に見た内部機構の一部。
そこから先の構造理念はムーによる考察と補完によって生み出された、ほぼオリジナルと言っていい機体だからだ。
そんなエルドラドとエルヴィティスに齎された転機、その名はカミナ・ガンデ。
人体工学に精通している彼女が考えていた人型ロボット、それは奇しくも、異世界版エルヴィティスに近い理論で構成されていた。
エゼキエルから始まったムーの知識には無いアプローチ、さらに、その考察が進む中、メルテッサのチェルブクリーヴ=エインゼールが現れた。
第三の帝王枢機と呼ぶべきそれは、エゼキエルの機械理論に人間を融合させて動かすという、まさしくエルドラドが欲していた知識。
そして異世界版エルヴィティスの構成要素が揃ったことに気が付いたエルドラドは――、秘かな野望を決行する。
「理屈を突き詰めて考えた結果……、機械ちゅー概念をぶっ壊すのが手っとり早くてな。お疲れさん、お陰様でいい感じに仕上がりそうやわ」
「待ちなさい!!話が見えないですし、たぶんそれ、かなり危険ですよっ!?」
「リスクがあるからワクワクするんやろ!ソドムやムーを出し抜くチャンスなんてそうあらへんのや、邪魔すんなら、親だろうが何だろうが、ぶった斬ってまうでぇー!!」
――何かが変だと、エデンは気が付いた。
親に反抗するのは何度もあった、だが、ソドムやムーに迷惑が掛かる行動をする所を見た記憶がない。
「エル。貴方は何を――ッ!!」
無造作に振り抜かれたエルヴィティスの長剣が、目を見開く暇を切り刻む。
切り落とされた前髪、エデンが回避に失敗した証明が風に乗って舞い落ちた。
それは紛れもない神経速の斬撃だった。
それも、エデンや那由他が本気でグラムを振るう時の、悪食=イーターで最適化して発揮する世界最強の動作力だ。
000を装備したエルヴィティスの機械回路・エネルギーの伝達速度は神経速となっている。
だが、肝心のギヤ駆動は機械のままであり、そしてそこには、『非生物は神経速を発揮できない』という神の理が付随する。
魔法などで可能な限り高速化したとしても、生身の肉体であるエデンや那由他とは同じ速度を機械は発揮できない。
その最も簡単な解決方法。
それは、『神の理の破戒』。
エルドラドは分かっていた。
エデンを怒らせれば、グラム=ギニョルで『機械という理』を破戒しに来ることを。
そして、それは実現した。
無色の悪意に煽られた事でリスクや論理感を蔑ろにした――、神にも想定しえない方法で。
「なんや、えらい気分ええな。これが一心同体ってやつか?」
「今すぐ止めなさい!!理の破戒はよく考えて使わないとーーッ!!」
グラム=ギニョルによって理を破戒した場合、他の理の影響力が強まり、別の事象が発生することがある。
それゆえに、エデンが理の破戒をする際には、悪事=イーターで予測を立ててから使用する。
何度か痛い目に遭った経験が、知識として生きているからだ。
だが、機械の理を破戒することで生命体化させ、神経速を発揮させるなどという知識は、悪食=イーター内に保存されていない。
そこにあるデメリットも不明。
ただ一つ確かなのは、エルヴィティスの速度がエデンと同じになったという事実のみ。
「えぇい、まどろっこしいですね。……お説教はッ!!そのおもちゃを!!ぶち壊してからにしますッ!!」
驚いていた分だけ、エデンの反応速度が鈍っていた。
だが、心理的に立て直してしまえば、速度は同等。
神経速で振るわれる2本のグラム=ギニョル、それを向かい打つ、4本のクリフォト・シリーズ。
どちらも神殺し由来の武装、そこから発揮される力はもはや、神にすら筆舌しがたいものだ。
「手が、足りませんねっ!!」
「こっちゃ4本やからなァ!!」
エルヴィティスが上段から振り下ろした2本の長剣はブラフ、本命の攻撃は不視覚化されている金剛杵だとエデンは分かっていた。
だが、剣も無視できる威力ではない。
迎撃は必須、だからこそ彼女が取った方法は――、グラム=ギニョルを投げて使う投擲戦術だった。
長剣へ投げつけられたグラム=ギニョルが、衝突の瞬間に絶対破壊の波動をまき散らす。
無機物に狙いを定めた純粋な破壊エネルギー、誘爆し両者が別々の方向に吹き飛ぶも――。
「引力と斥力、合わせて惑星重力。私のガントレットにはね、こんな効果もあるんですよ!!」
「アホか、ヴァジュラの効果は結束と決別、足す力と引く力そのものやで!!」
金剛杵をガントレットの掌底で叩き伏せたエデンは、拳の中に発生させていた重力渦を起動。
あらかじめ結び付けていたグラム=ギニョルの柄の引力紐を手繰り寄せ、再び手中に収める。
一方、エルヴィティスもヴァジュラの結束を起動。
誘爆した長剣と腕の断片を引き寄せて融合させ、新たな腕と武装を作り出す。
「《神壊法則・絶対神星破壊!!》」
「《破修羅・神首を砕く杵拳!!》」




