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第150話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-ローレライside⑤」

「こんなものですか?少々味気ないですよ、エル」



 だから嫌なんだと、エルドラドは思った。

 蹴り倒され、隙も晒した。

 そうしてなお飛んでこない追撃――、エデンの圧倒的な余裕に苛立ちが募ってゆく。


 エルドラドにとっての血縁関係を抜きにしたエデンの評価は、眉を顰めるような言動が多いトラブルメーカー。

 特に深く考えていない感情に任せた発言は、圧倒的な戦闘センスを持つが故の自信。

 大抵のことをゴリ押しで解決できてしまうからこそ、『大抵の埒外』に存在する圧倒的な強者には手も足も出せずに敗北する。


 エルドラドは知っている。

 このエデンが引き起こす問題ごとは、それこそ、世界を傾けるに足るものであると。

 ソドムやゴモラと一緒に目撃した、『全知全能』へ簒奪進化した無限。

 もしも、その矛先が神殺しではなく世界崩壊だったのなら、那由他にすら止められない可能性がある正真正銘の滅亡と化すことを。



「知らぬが仏とは言うけどな……」

「何の話でしょうか?」


「いやなに、エゼキエルリリーズほどじゃないにしても、ワイのエルヴィティスもバージョンアップしてんねん。そう簡単に壊せるとは思わんほうがええちゅー話や」



 胸の動力ユニットに光を灯し、エルヴィティスが立ち上がる。

 全身が土にまみれているものの、駆動系統には傷一つ付いていない。



「どうせ碌なこと考えとらんだろうがな……、タヌキが狐に化かされてどないすんねん。タダでさえ忙しいっちゅーんに面倒ごと増やしおってからに」

「まだ何もしてませんが?リンサベルの子の戦いだって見ていただけですよ」


「いるだけで迷惑やねん」

「んなっ!」



 エデンに恨みを持つ生物が多いのもそうだが、真に警戒するべきは、エデンが持つ力を狙う存在がいる事にある。

 知識、戦闘技術、神殺しの複製……、それらエデンの能力が他者の手に渡った瞬間、一気に対処が難しい強敵と化す。

 だが、それが奪われた記憶など、エデンは持っていない。

 そんな事態になれば世界終焉となり、その後、那由他の手で復元された世界で、死亡していたエデンも復活する。

 それゆえにエデンは、自分の死後の世界がどう変化するかという記憶を持っていないのだ。



「どっかの森に巣穴でも作って引き籠ってくれへんかな。1000年くらい大人しくしとったら反抗期を止めてもええで」

「その間、あなた達は楽しく暮らしているのに?少し横暴じゃないですか、それ」


「じゃ、ワイらの前に顔だすなや。もういいっちゅーねん、そのクソババァムーブ」

「ばっ……!!」



 今はホンマに嫌な予感がすんねん。

 心がざわつくっつーか、致命的な何かが進んどるような……。


 そんなエルドラドの心の声が口に出ることはない。

 違和感の正体に辿り着けない、それもまた、無色の悪意に備わっている効果の一つなのだから。

 そして、もう一つ。

 無色の悪意には、欲求を増幅する効果が存在していて。



「まぁ、互いに言うても聞けへんやろ。こうなったら、ド突き合いで言うこと聞かせるしかないやろな!!」

「そうですね。躾けが必要なのは理解しました《神壊法則・空気圧》」



 パキ。っと小枝を踏みしめたエルヴィティスの胴体に、エデンの踵がめり込む。

 空気抵抗を破戒した亜光速の回し蹴り、だが、それに合わせて振り下ろしていた剣が彼女の首筋に迫る。



「《神壊法則・魔力伝達》」



 エルヴィティスは機械だ。

 動力は機械工学に基づいたものであり、ルールの破戒はエデンが最も得意とする戦術。

 だからこそ、帝王枢機を使った戦闘ではエデンに勝つことが出来ない。

 エデンが機械の魔力回路を破壊したことにより、エルヴィティスの腕は機能停止。

 その位置へ狙いを定めて振り抜いたグラム=ギニョルで腕を木っ端微塵に破壊する……、はずだった。



「えっ……?」



 僅かに動きが鈍くなったものの、エルヴィティスの剣戟は止まらなかった。

 一方、エデンの剣は両方とも振りかぶっている、それも、最高速度で振り抜いて丁度良くなるように、遥か上にあるはずの腕に狙いを定めていて。


 迎撃も回避も不能。

 ならば――、ワザと姿勢を後ろに崩して剣の着弾を遅らせ、開いた口を噛み閉じる。



「なんちゅう出鱈目な……!仮にも神殺しの力を流してんねんで!?」

「はのけんこうは、ガリッ!!ゆたかな生の、ゴリッ!!第一歩ですよ」



 神聖金属を噛み砕く、そんな無茶苦茶な暴挙を平然と行う理不尽さにエルドラドが苦笑う。

 エデンの口の形に刃こぼれした巨大ブレード『物理主義マテリアリズム』、この事態が引き起こす急展開はここからだ。


 タヌキに齧られる。

 それはすなわち、知識集積媒体である悪食=イーターに情報を記憶されるということ。

 その時点の武器の性能、いや、エデンは剣とエルヴィティスの境界を破戒することで、機体そのものの情報も取得。

 先ほど動きを止めきれなかった理由に当たりを付けながら、軽いステップで離脱する。



「魔力の伝達方式が過去のものと違いますね?へぇ、これを人間が考えたんですか」

「ちぃ……、」


「ですが、仕掛けが分かれば対処は可能。もう調整しましたので二度目はないですよ」



 エデンが破壊できる理には条件がある。

 それは、その理を彼女が理解していること……、つまり、悪食=イーター内に知識が保存されているかどうかだ。

 そして、ムーによって公開されているエルヴィティスの改造情報を取得したことにより、これから先のエデンは新型の帝王枢機を一撃で破壊できるようになる。



「手足を捥ぎるだけにしておきますよ。その方が改造もしやすいでしょう?」



 クルクルとグラム=ギニョルを手慰みにから回ししながら、エデンが奔る。

 愛しい我が子の玩具を壊すのは忍びない、が、そうでもしないと言う事を聞かないのも分かっている。


 バギィンと甲高い音を響かせ、エルヴィティスの右腕にグラム=ギニョルが突き刺さった。

 そこから流れ込むのは、機械回路の破戒。

 生命体の神経に相当する機構を焼き尽くしてしまえば動きようがない、そんな安直な答えは――。



「ホンマ、アホで助かったわ」

「なにを言っているのですか?もしかして、ムーさんが怒るって話……?」



 エデンにとって、タヌキ帝王ムーはちょっと特別な存在だ。

 親しい友達の子ソドムがいつの間にか連れて歩くようになった、ガールフレンド・タヌキ。

 そんな微笑ましい子タヌキは、あっという間にタヌキ帝王となり、強かに他のタヌキをまとめ上げてしまった。


 那由他はタヌキを統治する気が無く、エデンには不向きで、トウゲンキョウは逃げ出した。

 そんな理由から集団生活が出来なかったタヌキ帝王は、帝王枢機という兵器の名の下に結束。

 機械操縦が苦手なエデンが何となく疎外感を抱いている間に、タヌキ軍の支配権はムーが持つことになったのだ。


 エデンはムーのことが嫌いではない、が、嫌われている節はある。

 タダでさえ子供と友人に一線引かれているのに、これ以上の溝が出来るのは嫌。

 そんな理由から、エデンはムーに対してかなり気を使って接しているのだ。



「え、エルが良いって言ったのですからね!?壊れても良いって!!」

「何の話や。ワイはただ……」


「嘘、なんで回路を壊したのに動けるのですかっ!?」

「エルヴィティスを進化させたかっただけや」


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