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第145話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-タヌキside③」

「流石に隠れている場合じゃないと気が付いたようですね。ここから先は私だけで戦います。総員、切り身の回収を行ってください」



 編隊を汲んで集中砲火を浴びせていたエゼキエル軍が一斉に引いた。

 彼らにとって、カナンの言葉は絶対。

 彼女が一人で戦うと言った以上、これ以上の継戦は邪魔にしかならないと分かっているのだ。



「でもカナン様、万が一の時はいつでもお声をおかけください!盾でも何でもしますので!!」

「その時はみんなで逃げますよ。死傷者なんて出したら、エルドラド様にご迷惑が掛かります」



 フィリピナはカナンの事を実の姉のように慕っている。

 3歳年上で憧れの先輩だったカナンを目標に軍学校を首席で卒業したフィルピナの進路希望は、もちろん第一騎士団。

 エリート中のエリートしか在籍が許されない魔導枢機霊王国軍の最大戦力、そこで見てしまったカナンの生活力の無さ――、刀のような美しさという評判が、『置物と同じように放っとけ』という野次だったことを知り、『ダメ属性の姉』と認定。

 それ以来、ことあるごとにカナンの世話を焼き……、見事に副官の席をゲットした。



「さてと……、やりますか」

『わざわざ言わなくても分かってると思うが、本気出したコズモムートはクソめんどい。自信がねぇなら替わってやるが?』


「引っ込んでなさいクソタヌキ。貴方の手を借りなくても問題なく処理できます」

『あっそ。余裕ぶっこきすぎて食われなきゃいいけどなー?』



 コクピット内に響いた通信へ唾を吐きつつ、索敵レーダーの波長を調整。

 視覚に加えて、超音波調査、熱源計測、魔力観測を並列起動。

 空気に擬態していたコズモムートの姿を液晶パネル状に表示し、正確な全長を表示させる。



「32252m。端から削いでいく方が手っ取り早いでしょうか」



 step4、自爆される前に殺し切れ!!

 群れる皇種は大体そうだが、配下が居なくなると発狂する。

 コイツはその中でも厄介な周囲に影響を与えるタイプ、こういう奴は配下に流していた魔力が行き詰まって膨張、はじけたら何が起こるか分からねぇって言う、とんでもねぇ時限爆弾と化す。

 ついでに言うと、高威力の魔法攻撃は吸収され、火に油を注ぐ結果になるぜ!!


 結論、コズモムートを安全に倒すには、今から5分以内にバッラバラに解体した上で本体の心臓を突き破って破壊。

 吹き出る魔力を悪食=イーターで回収し、周囲への影響を遮断する。



「ラボラトリームーへ伝令、航空戦用空冷星型兵装(ハーキュリーズ)の使用許諾を求めます」

「りょ。流石に大きすぎるしねー、魔力充填マシ、ブーストシリンダもマシ、機体重量は軽めでお届け~」



 エルヴィティスの設計理念は、武装と合体して別機体となるエゼキエルとは異なるものだ。

 剣、盾、飛行ユニット、それらはあくまでも武器であり、用途によって組み合わせを変えて装備する。

 それは、人間が装備を持ち替えるのと同じ……、だけではない。

 例えば、剣を構成する細かなパーツの組み合わせから変えることで、状況に合わせてカスタマイズされた特攻ブレードを装備して戦うのだ。


 そして、カナンが求めたのは、エルヴィティスを異形の航空機へ換装させる特殊装備一式。

 重力、大気圧、空気抵抗、風向き、光子力などをコントロールすることで、熱を用いない加速を行う巨大ブースターを両足に装備。

 背中から腰には機体のバランスを補正する脊椎尾ロケットブースターを装着。

 両手に持っていた『彼女の翼(エルクレスウィング)』も二の腕に固定……、白いイルカのようになったエルヴィティス=クラウンが、渦巻いて姿を変えていくコズモムートへ向かい――、裂空する。



「最後に選んだのは矢津波トゥナアロでしたか。空気を読んだ素晴らしいチョイスです」



 コズモムートは複数の害敵への対策として、全方向無差別破壊攻撃ができる矢津波を選んだ。

 有り余る魔力を使った文字通りの波状攻撃で、一気に形成を逆転する算段を付けたのだ。


 空気への擬態を解除し、『海を背負っている自分』への擬態を、『巨大な矢津波』へ変更。

 瞬く間にマグロへ変化していく雲海、そこからは既に完成した頭が突き出し――、衝撃波を追従させているエルヴィティスの斬撃によって、断頭される。



「初撃、カマトト落とし」



 タヌキに支配されている魔導枢機霊王国では、食に関するエンターティメントが豊富だ。

 その中でも特に人気なマグロの解体ショー、それは、海の中という完全アウェーな場所に生息する他種族への侵攻を成功させる第一騎士団の名物料理。


 殺意剥き出しで口を開いたコズモムート、だが、その動きは遅すぎた。

 ぐるり。と回転する視界、それは、巨大な質量を持つ胴と繋がっている前提で頭を動かしたことによる弊害。

 エルヴィティスによって落とされた首は制御不能となり、そして、本体(コズモムート)を失った胴へ、『彼女の翼』をV字に構えたエルヴィティスが追撃する。



「二撃・上部背、三撃・テール、四撃・下部腹切り落とし」



 マグロの背中側、中トロの部分を四角く切り落とし、そのまま急旋回。

 今度は尾を切り落として急降下。

 腹部側、大トロの部分も四角く切り出す。



「五撃・中落ち剥ぎ」



 上下に『彼女の翼』を展開したまま、一閃。

 背骨から反対側の身を削ぎ落し、今度は水平に一閃。



「六撃・反転背腹切り落とし」



 頭。

 右側の大トロ、中トロ。

 中落ち。

 左側の大トロ中トロ。

 テール。


 七分割されたコズモムート、そして、その下ではエゼキエル軍団が氷の受け皿を用意して待ち構えている。



「奥義・九千枚刺身卸」



『彼女の翼』をそれぞれ3枚に分割し、足と背中に装備。

 全てのブースターを最大出力で吹き鳴らし、空に漂う切り身を俵サイズに切り分ける。



「ひゅー、やるじゃねぇか。カナン」

「……あ”」


「おいしい所を残してある事も含め、良いお膳立てだったぜ!!」



 コズモムートの頭を串刺しにしたエゼキエルリリーズが、遥か高みからカナンを誉めた。

 これは、部下がコツコツ積み上げて来た仕事を最後の最後に手伝って実績を掠め取る、世界で一番ムカつく上司ムーブ。

 ソドムが『歴史に名だたるクソタヌキ』と呼ばれる理由の一つである。

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