第142話「御神楽幸七・久遠竜鬼-こおりおに-レジェリクエside⑦」
『こちらメルテッサとキングフェニクス、暗黒鳥・ケライノーのクリスタル化を確認。これにて討伐完了。繰り返す、ケライノー討伐完了』
「ごくろうさまぁ。エゼキエル軍と合流したのち、残りの脅威排除に努めてくれるかしら?」
『所で、ぼくにはご褒美ってないの?』
「余が腕によりをかけて作った渾身のスィーツを御馳走してあげるわぁ」
『なら……、あの白い部屋で食べたケーキと紅茶も添えるって条件で手を打とう』
「くすくすくす。盛大にやりましょうねぇ、祝勝パーティー」
天窮空母内の管制室に届いた吉報に、その場にいる乗り組み員たちが沸き上がっている。
まともに近づく手段がなく、そして、負わせた傷が瞬時に回復する化け物を討伐したという報告は、重くなっていた空気を一変させるには十分な情報だ。
「もちろん、ホロメタシスの分もあるから心配しないでねぇ?」
「あ、いえ……、それは嬉しい限りなのですが……」
「あらぁ、違うのぉ?じゃあどうして憂いの表情が晴れないのかしら?」
くすくすと笑うレジェリクエには、なぜ、ホロメタシスが強張った顔で硬直しているかが分かっている。
だからこそ、あえて自分の口で語らせることで、気持ちの整理を付けさせようとしているのだ。
「レジェリクエ陛下は、帝王枢機を所持していらっしゃらないと……、そう仰っていたではないですか」
「えぇ、余、および、レジェンダリア名義で所有している機体は一機もないわよ」
「それなのになぜ……、私達よりも上手く扱えるのですか!?我が国の帝王枢機に関する練度は、たった数日で塗り替えられてしまうほど、程度が低いものだったでしょうか!?」
レジェリクエが天窮空母に来た時にホロメタシスが抱いた感情は、安堵、愛情、そして……、評定だった。
ホロメタシスは、恋慕と国益を切り離して考えることができる賢王だ。
彼女から大陸統一戦争の話を聞かされているものの、それが真実であるかどうかを見定めなければならないと冷静に判断していたのだ。
だからこそ、帝王騎士団を呼び寄せ、いくつかの皇種を斃しておくことで恩を売りつつ、レジェリクエが所有する戦力と比べるつもりでいた。
だが結果は、一匹も斃せていない……、それどころか、レジェリクエが行使した手段は、ホロメタシスの手駒を使っての圧勝。
それは純粋な差し手……、指導者の技量の差。
同じ王として劣っていることはホロメタシスも理解している、だが、ここまで歴然とした差があるとは思ってもいなかった。
「ホロメタシス、その問題の答えはあなたでも出せるわ」
「私でも……?」
レジェリクエは言外に『レジェリクエ及び、レジェンダリアに関係ない所が原因』と告げた。
そして、ホロメタシスが知らないレジェリクエの実力以外……、ラボラトリームーに行き着く。
「帝王騎士団がケライノーを攻めあぐねていたのは、練度に至る前の……、根本的な知識不足でしょうか」
「正解。エゼキエルを作っているのはムーを始めとするタヌキで、真の機体性能は秘匿されていた。一方、余はそれを知っていた。その差が計り知れないものよ」
レジェリクエの説明は詭弁だ。
エゼキエルに関する知識を手に入れたのは偶然ではなく、彼女自らが動いた結果。
ラボラトリームーに赴いて責任者のムーに賄賂を贈るとこから始まり、カミナ、メルテッサ、そしてタヌキと友好を気付いたのは紛れもなく彼女の実力だからだ。
そして、ホロメタシスはそれを理解できる。
だからこそ、知識不足と認め、それを補うチャンスを与えられた以上、レジェリクエへの恭順を選んだ。
「さてとぉ、考察はできたかしら?カミナ」
「大体は。キングフェニクスの参戦で130名の参加資格の立証も済んだ。私やレジェが戦っても問題ないでしょうね」
ユニクルフィンたちと行動していたキングフェニクスは違和感に気づき、早々にレジェリクエ側に寝返っていた。
白銀比がサーティーズを預けて来たのは偶然だとしても、ヴァジュラコックの死から始まった昨今の激動は異常だと感じていたからだ。
だが、関連メンバーの中で、誰が金鳳花の影響を受けているか分からなかった。
だからこそ、キングフェニクスは情勢が決定するまで情報発信を控えていたのだ。
「予定通り、死した者はクリスタルに捕らわれ、あらゆる外的要因を受けない状態になった。落下したクリスタルにも変化はないわ」
「権能を使った拘束だから神殺しで破壊できる可能性はある、のよね?」
「純粋な相性って意味ではそうね。だけど、あのクリスタルは時と命の権能を持つサチナの謹製。有機物無機物、そして魂すらも復元する完全再生能力を上回る破壊力を出すのは簡単じゃないわ」
「だからこそ、グラムの複製を持つエデンの対処にロゥ姉様が向かったのよ。ユニクルフィンの暴走の方がよっぽど怖いわ」
ローレライがエデンを狙ったのは、雪辱の為だけではない。
そのままの意味でのバランスブレイカー、絶対破壊を発揮できるエデンを野放しにすれば、サチナのルールごとひっくり返されない。
「あちらの魚はどうなっているかしら?タヌキに漁って出来るのぉ?」
「海背皇魚・コズモムート、普通に考えれば苦戦するんでしょうけど、全く問題なさそうよ?」
ケライノー討伐と同時進行で、空を飛ぶ魚の討伐が決行されている。
第一大隊長カナン率いる、人間・タヌキの混成騎士団。
魔導枢機霊王国軍人の上澄みの上澄み……、特に、人間だと偽っているタヌキの実力はルドワールを10倍しても足りないものだ。
「レジェンダリアにも伝わっている、海洋上を移動する島伝説。木星竜の海バージョンって認識で良いのよね?」
「始原の千載水魚の権能、自然支配。何らかの方法でその知識を得ているとしたら、空を飛んでも不思議じゃないわね」
集められた皇種の中には、海洋生物も含まれている。
それらは、自身の権能に加え、金鳳花の入れ知恵によって陸上で活動できるようになっているものの……、海に面していないダルダロシア大冥林に赴くにはかなりの苦労を要する。
それを解決したのが、全長40kmにも及ぶ巨体魚。
木星竜と同じく権能で作り出した海を背負い、その中で島を含めた生態系を運用する……、海の支配者だ。
「雨雲に擬態させた海に乗せて運んできたのね。で、内容物を吐き出して様子見してたらタヌキに襲撃されて激おこと」
「最初は雨粒で作った魚を戦わせていたわ。けど、そんな小細工、タヌキに通用しないわよ」
レジェリクエとカミナが視線を向けた液晶モニターに映し出されているのは、純白の帝王枢機。
国王機・エルヴィティス=クラウン、その美しさと力強さは帝王騎士団の象徴と言っても過言ではない。
そんな国のシンボルが、2本の超巨大な斬馬刀ブレードを振りまわし、雲と一体化している巨大な魚をなます斬り。
控えている他のエゼキエルが降り注ぐ切り身を華麗にキャッチ、急速冷凍したのち、地面の上に並べていく。
「……。」
「……。」
「巨大マグロの解体ショーかしらぁ?」
「お寿司が食べたくなるわね」




